小屋から出て、とりあえず周囲の様子を確認する。どこを向いても木、木、木。
随分深い森の中のようだ。この分だと、村や街までは相当距離があるだろうなぁ…。
幸いこの小屋の周囲、4mほどには木は殆ど生えていない。約50平米ってところかな?こんな森の中であることを考えれば、かなり贅沢にスペースが取れていると思って良さそうだ。
放棄されているようだし、当分はこのログハウスを拠点にさせてもらおう。…引きこもる訳じゃないぞ。多分。
改めて森に目を向ける。パッと見ただけでは獣道らしきものすら殆ど見当たらず、結構な密度で木が生えているな。
生えているのは多分落葉広葉樹の類だけど、その圧倒的な密度からは『密林』って言葉がしっくり来そうな印象を受ける。
…少し森の中に入り、土の様子を見てみよう。
かなりジメッとしてるな。土も心なしか黒っぽい。いかにもキノコとかがよく生えそうなイメージだが、こんな状況で野生のキノコなんか食べたら自殺行為も良いとこだろう…。
ハァ…そう考えると鑑定スキルって便利だわ。異世界転生の必須スキルと言われる訳だよ。
「なんてこのまま無い物ねだりしてる訳にもいかねぇか。とりあえず食糧を確保しないと話にならないな…。」
そう判断し、俺はもう少しだけ深く森に入ってみた。念のため、ログハウスが辛うじて見えるくらいの位置で食べられそうな物を探す。
「キノコは怖いし…山菜とかを狙うのも厳しいかな。木の実あたりが有れば有り難いけど…。」
そんなことを呟いていたら…見つけた!
南天を一回り大きくしたかのような赤い実だ。幸運なことに、ある程度纏まった数がある。これ幸いと早速口にしようとした…その時。
後方から、ギャアギャアと何かの鳴き声(?)が聞こえた。
声に気付いて振り返る。そこに居たのは…。
俗に言う『ゴブリン』だった。
…。
……。
勘弁してくれ。
こんなに早くモンスター?とエンカウントするのか…。
ゴブリンの背丈は恐らく俺の腰あたりまでで、基本的な体のバランスは人間と大差ない。特徴的なのは緑色っぽい皮膚に突き出た耳と鼻、それから直立すれば膝まで届くであろう長い腕だろうか。
それが、2体。片方は小型の石斧を、もう片方は木製の棍棒をそれぞれ手に持っていて、どちらも毛皮の腰巻きを身に付けている。
石斧を持った方のゴブリンは、尚もこちらに向かってギャアギャアと何かを叫んでいる。
だが…何だ?不思議なことに敵意の類は感じ取れない。寧むしろ一歩下がった位置に居る棍棒を持ったゴブリンは、こちらを心配そうに見ているような気さえする。
と、ここでやっと自称「賢者」から与えられた能力について思い出した俺は、目の前の2体のゴブリンとの意思の疎通を試みた。
…次の瞬間、鳴き声のようにしか聞こえなかったゴブリンの言葉が、確かに意味を持つ。