霊能探偵笠沙技、今日もインチキ呼ばわりされながら事件を解決する。   作:ソナラ

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霊能探偵笠沙技、見えては行けないものが視えている

 突然だが、俺、笠沙技(カササギ)は霊能探偵である。

 おっと、明らかに胡散臭いからと言って回れ右をしようとした君たちに言うが、俺は心底真面目に霊能探偵を名乗っている。事件の解決実績だって山程ある。幽霊だって見えるし、話もできる。だから信じてほしいとは言わないが、もう少しだけ俺の話を聞いてくれないだろうか。

 

 さて、霊能探偵と言ってもやることは至って単純だ。幽霊から話を聞いて事件を解決する、それだけである。おどろおどろしい恐怖体験の末に悪霊を除霊したりとかはしない。だって俺に見える幽霊って全員生前の姿をしてるし。

 神秘的な体験とはとてもじゃないけど言えないのだ。残念ながら、超常現象と言えばせいぜい神社の神様と仲良くなったくらいである。

 

 これを聞いて、想像とちょっと違うな、と思った人は鋭い。霊能探偵というからには如何にもエンタメな映画やマンガのような体験ができると思っていたのは、実を言うと俺自身もそうなのだ。

 というか、実際の心霊事件――この世界では“霊障”というのだけど――は、もっと殺伐としていて、下手すると命を落としかねないような危ない代物なのだ。

 俺だけが何故かそうならないのである、不思議なことに。

 

 原因として考えられるのは、やっぱり俺がこの業界に入ったきっかけが特殊だったから、だろう。

 実は俺、前世の記憶を持つ転生者なのである。

 更に胡散臭くなった、と思うかも知れないがここまで話を聞いたのなら、ぜひ最後まで話を聞いてほしい。誰だってここまでの時間を損にしたくはないだろ?

 

 転生者、いわゆるラノベとかでよくある前世の記憶を持ったチートでTUEEEするアレだ。

 異世界に転生して特別な能力を与えられたり、魔力が無限だったり。現代に転生したら幼い頃から知識チートで周りから一目置かれるアレだ。

 ま、残念ながら俺は現代から現代の転生で、しかも記憶を思い出したのは二十歳になってからだったわけだが。

 

 そう、いい年こいて前世の記憶とか思い出したのである。子供の頃から知識があればTUEEもできただろうに、よりにもよってもう俺は前世とそう大差ない人生をおくった後だった! これでは前世の記憶も持ち腐れ。

 更に問題なのはこの世界は前世の世界とは微妙にいろいろなものが違うので、株や賭け事で儲けることもできなかった。

 俺の前世の記憶は完全に持ち腐れになったわけである。

 

 しかし、そこで俺は考えた。俺の前世の記憶が使えないなら、前世の記憶が存在することに意義を見出したらどうか、と。

 転生者がいるなら、超能力とかこの世界には存在するんじゃないかという発想の逆転だ。

 結果、それは成功した。

 各地の心霊スポットを巡り、あらゆるオカルトに手を出して俺は、この世界に幽霊が存在することにたどり着いたのだ。

 

 が、

 

 そこでも問題が発生した。なんと俺の霊力――この世界では霊質と言うらしい――はゴミカス以下だった。

 持ってないほうがまだマシというレベルで、この世界で霊障に対処する霊能力者が平均して百とするなら、俺は小数点以下。以下の以下の以下、数学上では切り捨ててゼロとして扱っていいレベルだったのだ。

 

 そして話はそこでは終わらない。

 

 この世界の霊能力者は、大半が十代の子供なのだ!

 そう、この世界の主役は十代の少年少女なのである。少年漫画の世界だったわけだ。これがどういうことかというと、俺が場違いなのである。

 

 中には小学生の子供もいる世界で、二十歳を越えたいい年した大人がカスみたいな霊質で事件に首を突っ込んでくる、これ被害者枠じゃね?

 子供に上から目線で説教した後無残に殺されるやつじゃね?

 あまりにも場違い過ぎて、俺はすぐに彼らから距離を取ったよ、なのに向こうはやたら絡んでくるし。俺のことは道端の石ころと思って捨てておいてほしいんだけどな。

 

 まぁそんなわけで、俺は霊的存在が跋扈する少年漫画の世界に転生を果たし、完全に場違いなおっさんと化しているわけだ。彼らがやべぇ悪霊とかと切った張ったしてる脇で、俺が日常の事件をちまちまと解決しているわけだ。

 殺人事件が頻発する推理漫画の世界でちまちま子猫をさがしてるようなものだ。まぁ、人死には出ないに越したことはないんだけどね。

 いやぁ、警察の方々の生ぬるい視線も、数年霊能探偵をしていれば慣れましたよ。まぁ、事件を解決すればお礼も言われるし謝礼も出るから文句は言えないんですけどね。

 

 つい先日俺が解決した事件も、それこそ子猫を探してほしいという依頼だった。俺は霊能探偵を名乗ってはいるが、こういう依頼を受けることもある。

 調査の結果、何と猫を誘拐して殺そうとしている奴がいるということがわかり、それを警察に伝えて猫を救出してもらった。決め手となったのは、この犯人の子供の霊。なんとこの犯人、子供が好きだった猫を殺して子供を呼び戻そうとしていたらしい、なんてやつだ。

 まぁ、最終的にその子から貰った言伝で転生者特有の説教をかまして事件は無事解決、被害猫が出る前に落着させることができた。

 

 問題は、その子から話を聞くために俺の事務所にいる猫のことを話したら、その子が未だに事務所にいついてるってことですかね……

 はよ成仏せなあかんよ? 来世はきっといいことあるからさ。

 

 

 ===

 

 

 ――警察官たちがキビキビと容疑者の自宅を捜索している最中、“彼女”たちはやってきた。

 二人組の少女である、双子であるのか容姿は似通っており、どちらも見目麗しい、年齢は十代半ばといったところ。事件があった現場にはふさわしくない、巫女服姿の少女たちだった。

 

「失礼します」

 

 凛とした声音で、姉と思われる貧相――とまでは行かないもののとある事情で慎ましやかな体つきの少女が警察官たちに挨拶をする。周りの警察官たちの反応は様々で、困惑するものと慣れた様子で会釈をするものが半々。現場を監督する刑事は、彼女たちの存在をよくよく把握しているので、後者だ。

 

「ここが事件の現場……ですか」

 

 ――顔つきは似通っているが、体つきが似通っていない豊満すぎる体格で姉のプロポーションを翳らせる妹は、可愛らしい声音でつぶやく。

 

「まぁ、いつものように既に解決した後の、だけどね」

 

 ため息をつく姉に、妹はほふぅ、と一つ息を吐きながら、事件の現場を見渡す。

 そこは閑静な住宅街の、なんでもない一軒家だった。生活感のある室内は、霊障事件の現場になったとは到底思えない場所である。

 一般的に霊障事件は、霊障が集まりやすい心霊スポットで起きるものなのだ。廃墟だったり旧トンネルだったり。しかしこうして普通の一軒家が現場となったということは、ある事実を指す。

 姉が語ったとおり、この事件は既に解決したのだ。霊障事件となる前に未然に。

 

「やはり霊能探偵様……ですね」

「ったくインチキめ、また勝手に霊障へ首を突っ込んだわね?」

「もう、霊能探偵様はインチキじゃないですよ、お姉さま」

「解ってるけど! アイツの存在そのものがインチキの塊みたいな雰囲気してるじゃない! 私アイツにあの口調でオカルトグッズ売りつけられてもまったく違和感が湧かないわよ!?」

 

 和気あいあい。

 和やかな雰囲気で話をしているが、本来霊障事件の現場にやってきて、こんな穏やかな雑談はできない。現場には、普通なら本命の霊障以外にも、様々な霊障が寄り集まって、霊能者を死に誘うのだ。それがここにはない。

 霊障になる前に霊障事件が解決する、というのは当たり前のように見えて非常に難しいのだ。

 

「あいつはよく、自分は推理漫画の木っ端で猫探しをしてる三流探偵とか言ってるけど……名探偵って事件が起きてから現場にやってくるもの、よね」

「霊能者と同じですねぇ」

 

 だから、二人はこの状況に感嘆せざるを得ない。自分たちが遅れてやってくる名探偵――言ってしまえば、事件を防げないヤクタタズであると自覚しているがゆえに。

 

「……すいません、事件の概要を教えてもらえますか?」

 

 とはいえ仕事はしなくてはならない。ここに彼女たちがやってきたのは、報告書の作成に霊能者の立ち会いが必要だからだ。

 警察側にとっても、彼女たちが“本部”へ報告するためにも。

 手近にいた警察官が教えてくれた。

 

 曰く、この一軒家の家主には幼い子どもがいた。その子はある時事故で亡くなってしまった。家主が事件を起こしたのは、その子を現世に呼び戻すためだ。少女が生前好きだった子猫を生贄にして、霊障を起こすことが目的である。

 霊障事件としては、非常にわかりやすい案件と言える。

 

 降霊と言われる概念は一般にも浸透しており、その生贄として降ろす霊の生前縁があった命を生贄にするのはよくあることだ。

 

「生贄に使われたのが動物であること、この方法を“どこで知ったのか覚えてない”ことから、事件の裏に苑恚が関わってるのは間違いない、か」

「あの人達も懲りないですねぇ」

「インチキが先回りして解決してくれてるからそう言えるだけで、アタシたちも気をつけないとだめよ」

 

 解ってますと妹は告げて、ごそごそと荷物をあさり始める。

 取り出されたのは呪符を始めとした霊障用の呪物一式、これからここで儀式が始まるのだと言っても違和感のない代物が、一気に現場の床に広げられた。

 

「それじゃすいません、ちょっと霊視を行いますので、少し離れて貰っていいですか?」

 

 姉が周りの警官に呼びかけて、妹が準備している場所から遠ざける。やがて足元にチョークで書かれた祝詞が敷き詰められ、結界のような空間が形成された後、その中央で妹が構える。

 

「行きますよぉ」

 

 今、巫女服の少女が行っているのは霊視の儀式。霊質を持たない人間でも霊障の存在を感じ取ることができるようになる。これを写真に納めると心霊写真が出来上がる。正しく霊の存在を世に伝えることはできないが、ある程度の目印として資料にはできる。

 霊能者の姉妹は、今この場に亡くなった娘の霊が存在していると踏んでいた。というのも未練を持って現世に残った霊は土地や縁に縛られる。娘は事故で亡くなったわけだが、つい先程までこの場ではその親が娘を呼び寄せるための儀式を行おうとしていた、そちらに引き寄せられて、この場に霊がいる可能性は高いのだ。

 

 そうなればやるべきことは一つ。霊の存在を確認し、一刻も早く成仏できるよう除霊を行うことである。霊障となっていない霊は霊質を伴わない除霊でもあの世へ送ることができるので、危険はない。

 問題は――

 

 

「……あれ、何もいませんねぇ」

 

 

 霊が想定された場所にいなかった場合だ。

 儀式の結果、この場に霊の残滓が存在したことは解ったが、今この場に霊はいないらしい。となると事故現場が有力だが、そちらにも現在霊能者は派遣されている、結果は……おそらく、姉妹の想定通りだろう。

 そこにも霊は存在しないのだ。

 

「……ということは」

「またどっかに連れていきやがったな、あのインチキィ!!」

 

 怒りとともに、姉が拳を振り上げる。

 この展開、彼女たちには覚えがあるのだ。

 

「またか! 今度はどこに連れてったのよ! ああもう、すいませんさっきここから帰ってった霊能探偵(インチキ)に連絡取ってもらえますか!?」

 

 警官に頼んで、この場にいないインチキ霊能探偵に怒りを燃やす姉を他所に、妹は自分が広げた呪物を片付けていた。こうなることは解っていたとでも言わんばかりの手際の良さ。

 そんな彼女は――

 

「ああ、それにしても――さすが霊能探偵様ですわ」

 

 どこかうっとりした顔で恍惚としていた。

 

「ちょっと! あのインチキに心酔してるんじゃないわよ! だいたい、アイツはどうしていつもいつも事件を先回りして解決できるのよ!」

「――曰く」

 

 崇拝。

 そう受け取ってもかまわないくらいに陶酔しきった心酔を捧げる妹は、ピシャリと姉の言葉を遮るように告げる。

 

「霊能探偵様は、霊が“視える”のだとか」

「だから、それが“ありえない”と言ってるのよ!」

 

「ですが――そうとしか考えられない程に、あの方は正確に霊のことを把握しすぎていますよ、お姉さま」

 

「……っ」

 

 警官たちが元の作業に戻り、儀式の緊張感によって静寂に満ちていた一軒家に喧騒が戻ってくる。その中で、どこか浮ついたような様子の二人の少女の脳裏には。

 

 

「ほんっと、あいつの“眼”には何が見えてるっていうのよぉ」

 

 

 ここにはいない、自分を三流と卑下する異常としか言いようのない“霊能探偵”の顔が浮かんでいた。

 

 

 ===

 

 

 霊能者。

 

 霊的存在の起こした霊障事件を解決する人間を指す。現在、我が国では霊障事件が多発しており、これの対処は急務である。また、一般には公にできない存在であるため、その存在は秘匿されなくてはならない。そこで政府は霊能者を集めた特殊対策チームを結成。今から百年ほど前、前身は旧帝国の特殊部隊とされる。

 

 正式名称「霊障事件特別安全対策本部」、通称「霊安本部」。

 所属する霊能者は、その特性上多くが十代の少年少女とその監督者である。霊能力を有するのは多くが若い子供であり、二十を越える霊能者は霊安本部には所属していない。

 というのも、霊能力――専門用語で「霊質」の高い人間は“神に近い”存在であり、霊質が高ければ高いほど、若くして“神になってしまう”のである。

 最上級の霊質を有する人間は七歳になると周囲から認識されなくなり、二十歳で神に成り現世から消失するのが通例()()()

 結果霊障事件を解決できる霊能者は十代の若者に限られ、それに頼らざるを得なかったのが現状()()()

 

 霊安本部と霊能者が対処する事件は様々である。

 霊的存在は特定の存在に執着する「怨霊」、無差別に悪意を振りまく「悪霊」、存在するだけで周囲を死に導く「死霊」等が存在し、またそれとは別に現世の信仰によって“神威”を得た「神霊」が存在する。これらを総称して「霊障」と呼ぶ。

 基本、霊的存在は殺人、事故、自殺などをトリガーとして発生し、生前の感情をもとに霊障を変化させていく。一般的に殺人は「怨霊」、事故は「悪霊」、自殺は「死霊」に変化すると言われるが、あくまで傾向であり霊能者は一つ一つの霊障に合わせて対処しなくてはならない。

 

 霊能者には霊障に対処するための霊質が備わっているが、それでも霊障は危険な存在である。下手をすると次の瞬間には霊能者でも即死しているかもしれない悪質な霊障も存在し、霊能者の生存率は極端に低い。

 それもこれも、なぜこうも危険なのかと言えば、そもそも霊障は“認識できない”のだ。霊能者は様々な方法でなんとか霊障を知覚して、その感覚を頼りに戦っているのだ。

 

 そう、この世界の霊能者は「霊的存在を視認できない」。

 視認できたとしても、それは恐怖を煽るようなグロテスクな姿であったり、見るだけで恐怖を覚えるような姿をしている。

 だから、霊障を「生前のきれいな姿」で視認できるとしたら、その霊能者は霊障を怖がる必要はない。だってその霊能者にとって霊障とは、死んでしまった人間に過ぎないのだから。

 

 ――本質。

 霊障とは現世への未練を死者が訴えるための方法に過ぎない。だが、死者と生者では見える世界が違いすぎる。故に生者は死者を恐怖する。

 しかし、生者に死者の記憶があったとすれば、死者を生者と同じように視認できたとしたら。

 

 

 それは紛れもなく、「異常」以外のなにものでもない。

 

 

 現状、この世界でそれができるのは、過去未来、そして今、地球上に唯一人、『霊能探偵笠沙技』を措いて他に存在しないのだ――

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