霊能探偵笠沙技、今日もインチキ呼ばわりされながら事件を解決する。   作:ソナラ

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霊能探偵、山狩りをする。(前)

『――探偵さんってさ』

 

 鼓子実ねね、幼い少女は髪を梳かれていた。

 笠沙技霊能探偵事務所。そこに居候している身であるねねは、どういうわけか髪を弄くられているのである。はたから見れば、櫛とハサミが宙に浮いているように視えるだろう。

 実際、部屋の外では倉石はかりがこの光景を目撃し、幸せそうな顔で気絶していた。

 

『皆、探偵さんのことを変なすごい人みたいに言うけど、一体探偵さんが何をしたの?』

 

 ねねの髪を手入れする存在は、それに優しく微笑むだけだ。ねねは不満そうに続ける。

 

『確かに探偵さんはその、小さい女の子が大好きな変態さんで、ねねのことを助けてくれたすごい人だけど、ねねにとって探偵さんはそこまでおかしなことをする人には視えないよ?』

 

 ――霊能探偵笠沙技。

 一見して胡散臭い肩書を名乗る彼は、実際とても胡散臭い。なんというか存在自体が信用できない雰囲気で満ちている。目が悪いのだろう、死んだ霊魂のような目が。

 ねねが初めて彼と出会った時も、彼は胡散臭くて変なおじさんだった。いまもその印象はあまり変わっていない。

 

『胡散臭くて変な人が、すごいことをしたからへんなすごい人って言われてるの? そうなんだ』

 

 髪を手入れする存在が、何事かをねねに告げる。

 笠沙技のおかしな点は実績なのだと言うのだ。――誰もが、笠沙技の能力が三流であることを疑ってはいない。霊魂や呪いを視認する能力がずば抜けていて、戦闘では役に立たないが支援という側面では優秀ではあるものの、この世界の除霊は基本的に力技。笠沙技だって本気で除霊しようと思ったら、ハナビの社へ連れ込むか、トンネルで霊魂を送り出すかの二択になる。

 つまりこの世界の主流の霊能者ではない。道を外れた特殊な霊能者であることは、誰だって認めている。

 

 その上で、彼は甲級霊質の持ち主が神化することを防いだという実績がある。この実績は世界の誰にも成し遂げられなかったことで、それと同時に、この行為にはある意味がある。

 

『そもそも、これってどのくらい大変なことなの? いままで誰にもできなかったすごいことなのは、私も解るんだけど』

 

 ――ねねは聡明だ。ふわり、と彼女の頭を何かが撫でる。

 母性、といえばいいのだろうか、ねねは無性に母親のことが懐かしくなった。

 

『……えへへ、ねね、いい子? ありがと。ねね、もっといい子になるね』

 

 話を戻す。

 笠沙技のしたことは、本来であれば絶対にありえないことだ。何があっても起こってはならないこと。たとえそれが誰から見ても正しいことだとしても――

 

『――世界の理を変える? それって、そんなにダメなことなの?』

 

 そう、笠沙技は世界の理を変えたのだ。

 それは、この世界における最大の禁忌。理とは、すなわち揺らいではならない不文律なのだから。

 

 ――そう。

 笠沙技たちに“ママ”と呼ばれるその神霊も、想像だにしなかった、霊能探偵笠沙技と、祟神ハナビの大仕掛け。かつて彼らが成し遂げた、偉業としか言えない事態を、神霊はねねとの語らいで思い出していた。

 

 

 ===

 

 

「よく集まってくれたな」

「おー、です」

 

 ――霊能探偵笠沙技だ。

 俺たちはいま、ハナビの社がある森へやってきている。ここにいるメンバーは、俺、ハナビ、保土棘姉妹の四人だ。

 それぞれ保土棘姉妹は完全武装、俺とハナビもある程度の支度をして、これから戦闘になっても問題なくついていけるだろう状態にある。

 

 これから何をするのか――簡単だ。

 

「……なぁ、笠沙技」

「……ねぇ、インチキ」

 

 いま、視線を合わせてバチバチ言わせているハナビとあかりが教えてくれるだろう。

 

「なぜハナビの森を探索するのに、この姉妹を動員するのだ! ここはハナビの庭、こやつらの助けなどいらぬのだ!」

「山狩りって言ったから、こうして準備してきたのに、どうして素人のハナビがいるのよ! 山狩りなら私達だけで十分だっての!」

 

 そう、山狩り。

 お互いに一気にまくしたてると、うなりながらにらみ合うハナビとあかりを宥めるのはくらいに任せて、俺は話を続ける。

 

「現在、鼓子実事件の首謀者とされる神霊がこの森に潜伏しているとの情報があった。そこで、俺は知り合いに声をかけて山狩りを実行することになったわけだ」

「ぎゃおお!」

「ぐるるる!」

 

 全然聞いていないが、かまわず続ける。くらいは申し訳ないが、二人のことはそんなに気にしないでくれ。

 

「と言っても、この森を探索する以上、何かあった場合、ハナビの社に逃げ込むことになる。そうなった時、何も知らないやつが入り込むとハナビの呪いが暴発する可能性があるから、メンバーはこれで固定だ」

「だ、か、ら! ハナビはいなくてもいいでしょ! 社でどっしり構えてなさいよ!」

「むしろハナビ一人いれば十分なのだ! 相手は木っ端な霊障神霊、ハナビが遅れをとるはずがない!」

「ふ、二人共ぉー」

 

 涙目のくらいがこちらを見てくる。

 いや本当にごめん、後で美味しいもの奢るから、お願いだからここは気にせずいてほしい。

 

「あ、あの二人共……後で霊能探偵様が美味しいものをおごってくださるって……」

「インチキと食事!?」

「笠沙技とデート!?」

「曲解に曲解を重ねるんじゃねぇ!」

 

 まずあかりが曲解し、それを更にハナビが曲解する。

 息のあった曲解であった。

 ――見ての通り、この二人仲は悪いが相性はとてもいい。できればこの二人が組んでくれると話がスムーズなのだが――まぁ当然、二人は嫌がるので、ここはくじ引きに任せることとする。

 

「んじゃ、くじを用意したからこれで二組に分かれて出発するぞ、文句は言うなよ」

 

 こうやって四人で行動することはこれまでも何度かあった。そういうときに手分けをして二手に別れることがよくあるのだが、三人からは俺と組みたいという意見が出てくるのである。

 俺みたいな足手まといを連れ歩くことを優先するのはどうかと思うのだが、まぁそれで色々と揉めたので、いつの間にかくじ引きが定番になった。

 

 このくじ、とても便利でその時の縁を元に、誰が誰と組むべきか決めてくれる。今回選ばれたのは――

 

「……っしゃあなのだ!」

「くっ……」

「あう……」

 

 ――ハナビだった。

 なんか四人で行動するとこの時が一番緊張するな。

 

 というわけで、俺たちは霊障神霊を探すべく、山狩りを開始するのだった。

 

 

 ===

 

 

 ――禁忌。

 この世界には触れてはいけないタブーというものが存在する。ハナビのようなトンデモレベルの祟り神。ママのような力の強すぎる神霊。そして――世界の理だ。

 特に、世界の理の種類は多岐にわたり、わかりやすいところで言えば死後の世界でのルール。霊障が発生する原理、そして――人が神になる現象などがある。

 これらはこの世界が始まった時から存在するルールであり、たとえそれが人々にとってどれだけ理不尽であろうと、変えることは許されないのである。

 

 言うまでもないことだ。人の死が覆せるものではないように、この世界のルールとは存在することに意味がある。人の神化もその一つ。

 神は神を生むことはできない。現代、神を新たに生み出すには、人を神にするしかないのである。この理を捻じ曲げてしまえば、神は二度と世界に生まれない。

 実際、笠沙技とハナビが理を捻じ曲げたことで、この世界に神が生まれることはなくなり、今いる神が全て消滅すれば、この世界に神はいなくなるのだ。

 

 もちろん、神はかなりの数存在するので、一年や二年、百年そこらでいなくなることはないし、神は年を取らないのだから、永遠にいなくなることはないかもしれないが。

 それでも事実としてこれから先、神は減っていくだけだ。

 

『……それって、すごいとんでもないことしてない?』

 

 ねねの言う通り、笠沙技とハナビのしたことは、本来ならば絶対に許されることではない。すくなくとも、ああして二人で恋愛にうつつを抜かしたり、ゲームをして遊んだりは許されないはずだ。

 

 本来、それくらいの罪人であるはずの二人が、いまも変わらずのうのうと生きている。おかしな話といえばおかしな話。

 

 “ママ”はねねに問う。

 一体二人は、どうしたのだと思う――?

 

『うーんうーん……事実として二人は本当に理を変えちゃったんだよね? でも、二人はもう許されてて、誰からも文句を言われることはない』

 

 その通り。

 実際、当時のことを苦々しく思っている神霊もいる。理を変えたことそのものを糾弾する声は、何年たったいまも消えてない。

 でも誰も彼らを咎めることはできない。

 

 二人は何も悪いことはしてないんだから。

 

『悪いこと……してない……?』

 

 さらにさっぱりだと大きくねねは首をかしげる。それに合わせて神も右に傾いて、“ママ”も合わせて傾いた。

 傾きっぱなしのねねに“ママ”は伝える。考え方を傾けてみよう、と。

 つまり、発想を転換するのだ。

 

『理を変えるっていう悪いことを、悪いことじゃなくすればいい?』

 

 正解。

 神霊はねねの頭を撫でながら解説する。つまり、理由を作ればいいのだ。世界の理を変える理由を。

 笠沙技とハナビが持ち出した理由は、とてもとても単純なものだった。

 

 

 見つけ出したのである。

 

 

 ――人の神化を止めなければ、何れこの世界は滅びる。

 全人類神化計画。かつてそう呼ばれた計画を笠沙技とハナビは見つけ出し、解決したのだ。

 

 世界の理を捻じ曲げて、人が神化できなくするという方法で。

 

『それは確かに……変なすごいこと、だね』

 

 ねねが納得してうなずく。

 そう、笠沙技は変な人でも、すごい人でもない。変なすごい人なのだ。

 

 だからこそ、世界の理を変えられないなら、変えなくちゃいけない状況を用意すればいい。そんな方法にたどり着いたのだと言える――

 

 

 ===

 

 

「……見つからねぇなぁ」

「見つからないのだ」

 

 俺とハナビは、現在山狩りが順調に滞っていた。あかりとくらいとも連絡は密に取り合っているが、お互い状況は芳しく無く、時間だけが刻一刻と過ぎていく。

 別に時間制限があるわけではないが、できれば今日一日で見つけたい。山狩りはつかれるからな。

 

 といっても、おかしな話なのだ。ハナビは本人が言う通りこの森のことを熟知している。いくらなんでも彼女が探して見つからないということはありえない。

 ただ、そもそもこの森に身を隠す時点で、ハナビの存在を解った上でなにか策があると考えるべきだから、この状況もおかしくはないのかもしれないが、それはそれとして状況は一向に改善しない。

 

「とりあえず、向こうが何を考えて、どこに隠れているのかを考え直す必要があるな」

「むぅ、一旦姉妹と合流するのだな? せっかく二人きりになれたと思ったのに、何もなかったのだ。あのくじ引き詐欺なのだー!」

「いや、その前に――」

 

 ふと、俺は立ち止まる。

 森の中をくまなく探し回ったが、一応もう一箇所だけ探していない場所がある。すなわち――

 

「……ここを探しとかないとな」

 

 冥界へと続くトンネル。黄泉への入り口だ。

 

「いやぁ――ここは無いんじゃないのだ? こんなところ、たどり着けるのは笠沙技だけなのだ」

 

 ありえないだろう、と首を振るハナビ。

 それはまぁ尤もなのだが、一応全てを探しきったと言い切る前にあかりたちとは合流できない。

 

「まぁまぁ、もしかしたら神霊が成仏したくてここまで歩いて来たかもしれないだろ」

 

 一応、ここには俺の他にも、成仏の意志がある霊魂がたどり着くことが極稀にある。

 とはいえそれは狙ってできるものではなく、狙ってやろうとするやつはそもそも死のうとしてないので、ここにはたどり着けないのだが。

 

「とりあえずこういうところを潰せば、探偵ぽいっちゃ探偵ぽいだろ」

「なんて言い草なのだ……」

 

 ため息をつくハナビを無視して、あちこちを虱潰しに探す。

 自慢じゃないが俺は、普通の探偵っぽい捜査はほとんどできないので、できることといったら適当にあちこちを捜査っぽく歩き回るだけだ。

 

 それでも、霊魂が視界に入れば見逃さないので、これで当たり外れはだいたい半々くらいだ。今回は――

 

「――お?」

 

 珍しく、俺は物理的に気になるものを見つけた。地面に落ちている、見慣れないペンダントだ。ロケット、というやつだろう。

 中には写真が入っていると思われる。

 

 何気なしにそれを手に取ると、俺は少しだけ驚いた。とはいえなんてことはない、ありふれた写真だ。ただ、一つだけ問題があった。

 こいつは――

 

「おおい笠沙技、ケータイが鳴ってるぞ」

「……ん、すまんすまん。あかりからだな」

 

 名前を確認してすぐ電話に出る。きっと神霊に関することだろう。何かしら情報があるといいのだが。そう思いつつ何が来るかと若干の期待を持ちながら耳を傾けると――

 

 

『――――ちょっと聞いてもいい?』

 

 

 ――あっ。

 俺は察した。

 これはあれだ、いつものやつだ。諦めと呆れと少量の怒りを含んだあかりの声。

 

「…………なんだ?」

『……そっちに、ペンダントが落ちてない? 中に写真が入るえーっと』

「ロケットペンダント?」

『そうそれ。……あるわね』

「…………」

 

 俺は沈黙した。

 

『今ね、見つけたのよ。例の神霊。びっくりするところにいたんだけど、更にびっくりすることに、追い詰められても反撃できる切り札を持ってたんだって』

「おいおいそいつは大丈夫なのか?」

『どっかに落としてきたらしいけど』

 

 ――うん。

 俺が見つけたらしいペンダントは、どうやらその神霊の切り札だったらしい。

 

「……お前さん、そろそろ何かお祓いでも受けたほうがいいんじゃないのだ?」

「いや、この業界でそれを言うなよ……」

 

 ――俺は自分の奇運に若干の戦慄を覚えながら、がっくりと肩を落とすのだった。




今回の事件三度目の笠沙技案件であった――――
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