霊能探偵笠沙技、今日もインチキ呼ばわりされながら事件を解決する。   作:ソナラ

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霊能探偵、鼓子実事件に始末をつける。(前)

「――なぁ、ねね」

 

 笠沙技霊能探偵事務所で、ハナビとねねがゲームをしながら話をしていた。といっても、ねねはハナビのやっているゲームを見てドン引きしているだけだが。

 

『な、なに? ハナビちゃん様』

「いやなぜ距離を取るのだ。というかそんな笠沙技を視るような目でいるのだ」

『だ、だってハナビちゃん様がゲームプレイしてると、画面がおかしくなるし……』

 

 幼いねねにとって、ハナビのプレイはもはや異様としか言いようのないものだった。今のネットが発達した時代、ねねだっていわゆるスーパープレイというやつはネットを通してみることができるが、それはネットの向こう側のプレイだ。

 身近にそんなプレイができる人はいないし、いたらねねは引いている。

 

 というか今まさにハナビを畏れて距離をとっていた。

 

「ハナビ、ゲームの腕前で畏れられて信仰を得る時が来るとは思わなかったのだ」

 

 ぽつりとこぼしつつ、ねねの畏れが信仰となったことを確認する祟り神。祟り神にとっては崇められるよりも畏れられることのほうが力になるとは言え、これはいささか心外である。

 ねねが心の底からハナビを畏れているということでもあるのだから。

 

「まぁ落ち着け、少し話をしたいのだ」

『話? なぁに?』

「お前さんのことだ。お前さん――いつまでこちらに居着くつもりだ?」

『いつまで……って』

 

 ――ゲーム画面で目まぐるしく動くプレイヤーキャラと裏腹に、ハナビとねねの動きは少ない。二人はどこかアンニュイに、静かな時間を過ごしている。

 話し声と、ゲームの音声。アンバランスな二つが、共存しあってそこにはあった。

 

「……お前さんは生前霊質を持たなかった。そんな存在が、外から霊質の供給を受けずに存在できる時間は短い。いくら睡眠で消費を抑えても……持ってあと数日というところではないのか?」

『それは……うん、そうなんだけど』

 

 ねねがここにやってきて一ヶ月。彼女が事故で亡くなってからは半年ほどが経つという。それだけの時間、存在を維持するのはもう限界だろう。

 

「その先に待っているのは存在の消失だ。そうなれば、お前は成仏も輪廻もできない。それはお前さんの母が望んだことか?」

『違うよ。ねねだって解ってる。これって悪いことなんだって、ねねいい子になりたいもん。よくないって、思う』

「だとしたら……」

『でも、お母さんのことを放っておけないよ』

 

 ――そうか、とハナビは息をつきながらうなずく。

 ねねはいい子だ。本人がそうなりたいと願うように――そして、周りから見てもそうであるように。

 

『お母さんが、ねねはいい子になりなさい、って言ってくれたの。ねねがいい子になれるように、いっぱい準備しなきゃって頑張ってくれたの』

「……ふむ、一人でいる時間は多かったのか?」

『多かったけど……でも、ネネネ子もいてくれたから、寂しくはなかったよ。それに、一人で待ってたらお母さんはいい子にしてたねって褒めてくれるから、頑張れるの』

 

 ネネネ子。ねねが飼っていた猫だそうだ。

 ――ねねと一緒に、事故でなくなってしまったそうだが。

 

「なぜだ? なぜそうも、いい子になろうと頑張れる? きっかけがあるのだろう」

『……うん。憧れてる人がいるの』

 

 ねねには、目標があった。

 いい子になりたい。それは母が教えてくれたある人のことを想ってのこと。

 そうなりたかった、そうなれるように頑張りたかった。

 

『ねねは、お父さんみたいになりたかったんだ。お母さんが教えてくれたの、お父さんはすごいいい人で、皆を守る刑事さんだったんだ、って』

 

 ねねは一度も、顔を見たことはない。

 それでも憧れた、鼓子実ねねの原点。

 

 ――鼓子実京一郎。ねねの父の名である。

 

 

 ===

 

 

 鼓子実京一郎。

 実直な刑事で、内外でも評判だったそうだ。

 霊障事件に関わる警察は、一部の限られた警察であり、それには相応の信頼が求められる。そういう面で京一郎氏は非常に優秀だった。

 

「初めて霊障って存在を聞いた時、それを知らなかったやつの反応は二つに一つ。話した側を疑うか、端から笑い飛ばすか、だ」

 

 そして、霊障事件に関われる人間は、前者である。疑いながらも話を聞く姿勢を見せて、最終的に実例を見せれば納得し、それを危険だと思う相手。

 それが普通の、誠実で責任感のある人間というものだ。すくなくとも、警察という立場において。

 

「だが、京一郎のやつは違った。あいつは最初から話を聞く姿勢を見せた。俺のことを信じてるから、だとよ。バカみてぇに実直なんだよ、あいつは」

「……なるほど、そういう人がいてくれると、私達としても助かるんですけどね」

 

 実際、霊障事件に関わる警察も、最初から疑ってかかる人間は霊障と一歩線を引いていることが多い。真摯に付き合うか、異物と認識して遠ざけながら扱うか。どちらが正解かと言えば、どちらも正解としか言えないし、どちらかと言えば後者のほうが警察としては正しい反応だ。

 ただ、できれば一人くらいは霊安本部の話を積極的に聞いてくれる人がいると話がスムーズに進む。なので、しるべもそういう反応をするわけだ。

 

「だけど、それが結果的に災いしてしまった……ってことですよね」

「……そうだな。あいつは見て見ぬ振りができなかったんだ。もともと、それで署内でもハズレ部署扱いの霊障担当になったくらいだからな」

「彼は――」

 

 本題に入る。聞きにくいことだが、これを聞かなければ話は進まない。

 

「――霊障事件で、犠牲になってしまったんですよね」

 

 俺の言葉に、しるべが目を丸くする。

 

「……えっ、霊障事件で?」

「そうだな。八年前の事件だ」

「……そう、ですか」

 

 八年前。まだ俺が“神化の理”を捻じ曲げる前の話だ。

 端的に言うと、神化の理を変える以前と以後では、霊障事件における死傷率は大幅に異なる。この世界において多くの霊障事件を引き起こしていた黒幕とも言える霊障神霊の消滅で、霊障たちは大幅に弱体化。現在に至るまで、力を取り戻すことはかなっていない。

 その関係で、今の霊能業界は非常に安全かつ平和と言えた。

 

 ――京一郎氏の殉職は、それ以前の話ということだ。

 

 しるべが驚いたのは、その関係。

 神化の理以後で死者が出ていれば、当然霊安本部でも問題になるはずなので、驚くのもおかしなことではない。

 

「すいません、続きをお願いします」

「ああ、あれは……報告書では霊障神霊の仕業だったと聞いている」

「それって……大きな猫の被り物をした?」

「いや? 体よりも大きいただれた顔の怪物だったと聞いてるが」

 

 猫の被り物は後付だったらしい。

 まぁ、当たり前といえば当たり前なのだけど、しるべは何故かホッとしてしまった。俺は少し気になることがあったので、確かめておく。

 

「その霊障神霊は何をしたのですか?」

「輸送中だった呪具を奪ったと聞いている。それを守ろうとして、京一郎がそいつに“喰われた”とも」

 

 ――霊障は人を“食べてしまう”ことがある。そしてその人間の霊質を取り込むのだ。つまり、霊質を持たない人間――京一郎氏のような人を食べても霊障には一切の足しにならない。だが、そもそも食べるという行為そのものに意味を見出すものもいる。

 この霊障は、その類だったということか。……であれば猫の被り物で顔が覆われていると、どうなる?

 

 ――話を戻す。

 

「しかし……ほんと、ままならねぇ話だよな。あいつには後少しで子供が生まれるはずだった。なのにあんな事になって、その子も……」

「……ご愁傷さまです」

「いや、俺じゃなくてつむぎさんに言ってやってくれ。あの人は今も苦しんでるんだ」

「それは……そうなんですけど」

 

 鼓子実つむぎさん。

 ねねの母親は、今も精神を病んでおり、しるべは何度も彼女の元へ通っているという。俺は……そもそも、彼女の妄執を祓ってしまったのは、事件を未然に防いだのは俺だ。

 少しだけ、顔が合わせにくく、向こうもそれを望んでいるわけではないそうなので、距離をとっている。

 

「……つむぎさんは言っていました。京一郎さんも、ねねちゃんも自分が殺したようなものだ、と」

「それは?」

「二人の死につむぎさんは直接関係はありません。ですが、二人の直前の行動には、つむぎさんの言葉が影響しているのではないか、と本人が考えているのです」

 

 ねねも京一郎氏も、決してつむぎさんとわだかまりがあったわけではない。むしろ二人共つむぎさんとの仲は睦まじく、ねねもよくつむぎさんのことを好きだと言っていた。

 しかし、だからこそお互いに与える言葉の影響は計り知れない。

 それはときに、呪いにすらなってしまうくらい。

 

「……ままならねぇよな。どうしてあんないい人が、いいヤツが、いい子が――こんなことにならなくちゃいけねぇんだ」

「そう、ですね」

「なぁ、霊能探偵さんよ」

 

 大きく、大きくため息を付いてから、刑事さんは俺の方を見てきた。その顔は、沈痛そうで眉間にはシワが寄っている。

 今から自分の言うことが、言うべきではないことであると本人が一番理解しているかのように。

 

「お前さん、幽霊が見えるんだよな? 当然、ねねちゃんのことも」

「……はい、彼女にはいつもお世話になってますよ」

「その言葉を、どうにかして直接つむぎさんに伝えることはできねぇのか? あの人の起こした事件を解決した時、つむぎさんにねねちゃんの言葉を伝えたんだろう」

「それは……俺が伝言をしただけです。直接霊魂の言葉を生きている人に伝える方法は……ない」

 

 俺の答えに、より一層刑事さんはつらそうな顔をした。

 無理を言ってしまったこと、今の自分がなにか有効な手立てを思いつけないこと、いろいろなことが彼の中に渦巻いているのだろう。

 誰もがそうだ。しるべも気まずそうにうつむいているし、俺だって決して愉快な顔はしていないはずだ。

 

「けどよ……あんまりじゃねぇか。あの子も、京一郎も、何も悪くねぇのに。死んだからって、それだけの理由で残された人に言葉をかけることもできねぇのか? ねねちゃんは亡くなってからずっと、幽霊を続けてたんだろう。なのに、一言も!」

「……お気持ちはわかります。でも、これだけは絶対なんです。この世界にはいくつも理が存在していて、それを変えることは禁忌とされている。だけど、その中で唯一、禁忌とされていない理がある」

「それは……?」

「“生物の死”、です。なぜならこれは――」

 

 しるべは、それでも正面から刑事さんを見た。

 

 

「禁忌にする必要もなく、変えることができないからです」

 

 

 理を変えることが禁忌とされるのは、理は変えることができるからだ。万が一にも変わることのないよう禁忌とする必要があるだけで、その必要がないのなら、その理の変化は禁忌とする必要がない。

 

 死とは絶対、そして平等だ。だれもがいつかは死ぬ。

 

「……っ」

 

 禁忌ですらないという言葉は、刑事さんにも効いたのだろう。歯噛みをして下を向いてしまった。どれだけ理不尽だろうと、死とは絶対。

 それに対し、俺達ができることは――

 

 

「――それで、一つ。確認したいことがあるんです」

 

 

 ――本題に入ることくらいだ。

 

「……笠沙技くん?」

 

 ふと、しるべがこちらに怪訝な顔をしてくる。なぜだろう、この視線は俺が事件を未然に解決したり、結果として霊障の策を台無しにしてしまったときに向けてくる顔だ。

 心外である。いくらなんでも、俺だって鼓子実一家のことに、そんな台無しなことはしない。

 

 ただ、

 

「これを、見てもらえませんか?」

 

 ――一つだけ、解決法が俺の中では存在しているだけだ。

 

 この事件。まだ全ての疑問にケリがついたわけじゃない。

 霊障神霊はあの呪具をどこから持ち出した? 霊障神霊の目的は? なぜ儀式は失敗したにも関わらず、あちこちで霊障化した猫が見つかっている? そして――俺が見つけたこのペンダントはなんだ? 落ちていた場所も問題だ。

 

「これは……ロケットペンダント?」

 

 旧トンネルは黄泉への入り口。あそこにたどり着けるのは俺だけだ。ただ、あそこは別にたどり着けないわけじゃなくて、普通にあの場所の近くに行っても、トンネルの入口が“視えない”だけなので、あそこにモノを落とすことがありえないわけじゃない。

 ただ、それでもあそこに落として俺が拾う。これは俺自身の体質が原因に思えてならない。

 

 そして、最後の一つ。

 

「はい、京一郎さんが関わっていた事件の霊障神霊が、今も持ち歩いていたもので――呪具です」

 

 どうして霊障神霊は、鼓子実つむぎさんを実行犯に選んだのか。

 

「おいまて、それは――」

 

 しかし、全ての疑問はある一つの答えで全て結びつく。

 全てのことに意味はあったんだ。

 

 ――俺は見た。このペンダントの中身を、これを一体だれが持ち歩いていたのかを。

 

 

「そいつは京一郎のペンダントじゃねぇか! どうしてお前さんがそれを持ってるんだ?」

 

 

 この事件の真の黒幕。――いや、彼の目的を考えれば黒幕というのはおかしいし、そもそもの発端はかなり偶発的なものだが、それでも。

 

 ここまでの絵図を描いたのは、彼だ。

 

 鼓子実京一郎。

 彼こそが苑恚の術士、霊障神霊、そして俺の体質までもを巻き込んで、俺をこの場に導いた。

 

 その、張本人なのである――――




小説家になろうの方にも投稿しました。
特にどちらが先行するということは今の所無いと思います。
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