霊能探偵笠沙技、今日もインチキ呼ばわりされながら事件を解決する。   作:ソナラ

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霊能探偵事務所と、新作ゲーム発売日。

 どういうわけか、話題になっているゲームの発売日になると我が探偵事務所はゲーム大会が開かれる。正確に言うと知り合いが全員集まってゲームを始めるのだ。

 俺もはかりも、趣味はゲームとアニメとマンガ、といったライトなオタク層であり、保土棘姉妹も同様。嵯城院のお嬢様たるしるべに至っては、幼少期一年ほどずっと自室に引きこもってゲームに明け暮れていた時期があったそうで、今でも話題の新作ゲームは発売日には購入し、夏と冬にあるPCゲームの大規模セールではカードが止まるくらい色々買い込んでいるらしい。

 まぁ後者はほとんど積んでいるわけだが。

 

 そして、そんなゲーマーとゲーム好きの中で、一際ゲームに熱中しているのがハナビである。まぁ考えてみれば当然の話、他とは違って神様は暇なのだ。一日中ゲームをしているのは若い頃のしるべもそうだが、ハナビはゲーマーとしては既に七年選手。実力に関しては他と隔絶したものがある。

 それでも霊能者組は戦闘で培ってきたセンスがあるからか、対戦ゲームでは割と渡り合えているのが凄まじいが、それはそれ。俺とはかりは一般人なので、もっぱらゲームは見ているだけのことが多いのだ。

 

 今日、この日を除いては。

 

 俺は今日を待ちわびていた。今日発売するゲームは俺がずっと新作を待ち続けていたゲームの最新作。下手をすると前世からずっと待ちわびていた最新作だ。

 基本的にこの世界は前世の世界とは違うが、決して何もかもが違うというとそうではない。近しいものは存在するのだ。例えば元の世界でもこの世界でも、ゲームの本体は主に二種類。スペック重視とアイデア重視の二択、夏と冬にセールをする大手PCゲーサイトが存在するなどなど。そこら辺は基本的にそう変わるものではない。

 だから、俺が待ちわびていた作品は、前世にも似通った作品が存在するのだ。というか、アイデアとしてはまさしく唯一無二のシリーズであり、同時に思いついてしまえば誰でも形にできるアイデアなので、どっちの世界にも類似作品が存在した。

 そして、俺の前世ではこのシリーズは頓挫していた。してしまっていた。

 

 それが、この世界では数奇な運命をたどってシリーズが復活! ついにその新作が発売されたのだ! これに関しては俺にとっては珍しく、事務所を休みにしてその日に備えていた。

 たとえ今日なにか事件が起こっても、絶対に明日にしてもらうという固い決意で霊安本部にも根回しして、今日を迎えた。

 最近のゲームは日付変更と同時にダウンロードでプレイができる、今は日付変更五分前。

 俺は血眼になって、その瞬間を待ちわびていた。

 

 

「おーっす、遊びに来たのだー」

 

 

 そして神棚から出現したハナビの方を向いて、

 

「ぎゃーっ! バケモノーーーー!!」

 

 ハナビにすごい勢いで逃げられた。

 

 

 ===

 

 

「そ、そうか……それは悪いことをしたのだ……」

 

 俺のアツイ演説に、ハナビはようやく納得してくれたらしい。ここまで実に四分五十秒。我ながら完璧なタイムキーピングだ……まぁそもそも日付変更してから更に小容量のダウンロードとアップデートとかが入るので、実際にプレイできるのはもう少し先なんだが。

 それはそれとして、

 

「ハナビ」

「なんだ?」

「あけましておめでとうございます」

「お前いよいよおかしくなったのだ?」

 

 時刻は0時、ついに、ついに俺の世界の年が明けた! この世の春じゃ!!

 

 即座にコントローラーを操作してダウンロードを開始して、その時を待つ。

 

「……お前さまがここまでなにか物に執着するところ、初めてみたのだ」

「おう」

「そのゲームの何が好きなのだ? ゲームの内容以外の理由で答えるのだ」

「チッ」

 

 一瞬、問われて即座に高速詠唱を始めそうになったが、続けていれられた注意によってそれは頓挫した。まぁこいつも好きなゲームで早口になるタイプなので予め止めたのだろう。っていうか自覚あったのかこいつ。

 

「……まぁ、ハナビならわかるだろ、未練だよ」

「もう一つの記憶、か」

 

 ――俺には秘密がある。前世の記憶。そのことを知っているのは、世界で唯一人、ハナビだけだ。いや、一柱か。つまり人間で俺の秘密を知る人間はいない。はかりは……まぁ察しているかもしれないが。

 信じてくれ、というのがムリな話だから……というわけでなく、この世界なら普通に信じてもらえるだろうからだ、逆に。

 そして、その上で話が面倒くさいからだ。どれだけ揺さぶっても大したものがでてこないのに、めちゃくちゃ揺さぶられるだろうから。

 

 今の所困っていないし、今後も必要なければ特に言及する予定はない。

 

「まぁお前がそれでいいなら、ハナビは気にしないのだが」

「まるで俺が話さないことに、たいそうなエピソードがあるかのようだな」

「なんでそうなるのだ? 笠沙技はたまに子供みたいな発想をするな」

「うるせー!」

 

 何だよ雑談かよ! こいつは俺の知ってる女性陣の中でも何を考えているかさっぱりわからない。人でないのだから当然だが、こいつはそもそも、どうして俺のことを気に入ったのかがわからないのだ。

 何故なら――

 

「……準備、終わったぞ」

「おっとサンキュー」

「……ところで」

 

 ぽつり、と。

 

「これ、2P操作もできるのだな?」

「………………」

「ハナビが今日、ここに来たのは日付変更と同時にこれをプレイするためなのだが?」

「…………………………」

「もちろん、お前さまのこだわりは承知したし、邪魔するつもりはないのだ。でも、2P操作くらいはさせてほしいのだ」

「……………………………………………………」

 

 とても、とても悩ましかった。

 俺の前世の思い出は、俺だけのものだ。こいつはそのことを知っていたとしても、直接見てきたわけではない。だから、その思い出に従うべきか? はたまた今の自分を重視して、その思い出を他人と共有するべきか?

 この場合、俺が悩むのは、後者も十分魅力的だったからだ。

 

「ええい、さっさと答えるのだ! もうゲーム起動してるのだー!!」

 

 と、突如としてハナビが俺に掴みかかってきた。流石にしびれを切らせてしまったというのだろう。これは俺の落ち度だ、とはいえいきなり掴みかかってくるものだから、俺はびっくりした。

 

「ちょ、おま!」

 

 そのまま、勢いよく倒れ込んでしまう。つまるところ、

 

「おい、さっさと答えを出すのだ! はーやーくー!」

 

 どすんどすん、俺はハナビに押し倒されて体重をかけられていた。分霊とはいえ、その体躯は自由自在に伸び縮みする髪を除いて本体と変わらない。こんな少女に欲情するかといえば否だが、少女が俺に迫ってくる光景はイカンともしがたいものがある。

 

 つまり――

 

 

『もー、こんな夜中に何のはなししてるの、探偵さー……ん』

 

 

 ――誰かに見られる可能性がある。

 壁を抜けて、にゅっと飛び出したのは、鼓子実ねねちゃん。最近この事務所に居座っている猫娘幽霊。だいたい年齢一桁くらいの少女は、俺達の様子をみて停止して、

 

『……ごゆっくりー』

「ちょっとまってくれ!?」

 

 なんでその反応が返ってくるんだよ!? 俺はそう思いながらも弁明を開始するのだった。

 

 

 ===

 

 

『ちわげんかをみせつけられただけのきがする』

 

 目を死んだ霊魂のようにしながら、ジトっとこっちを睨んでくる幽霊こと、ねねちゃん。

 

「なんか悪かったのだ……」

「大変もうしわけない……」

 

 原因は、俺のテンションがおかしくなっていたこと。ハナビがこういうことに遠慮がなかったこと、そしてねねちゃんの存在を一瞬でも忘却していたことだ。

 寝ている――霊だって寝る。魂を休めることで霊質の消失を防ぐのだ――ねねちゃんを叩き起こしてしまったことは、まことに申し訳ないというほかない。

 

『でも、このゲーム面白そうだよね。プレイしてるところ見せて見せて』

「おー」

 

 そっと差し出されたハナビの手にコントローラーをパス、人が集まってきたなら、大勢でプレイできる方が断然盛り上がる。明日の夕方には、ここにしるべや巫女姉妹も集まっているだろうな、と思う。

 はかりは今日事務所を閉める関係で、一日かけて上京して色々漁ってくるらしいので、不在だ。

 

「これ、どっちのほうが難易度たかいのだ?」

「流石に完全新作だからなんともな、シリーズの傾向だとこっちだが」

 

 基本ハードゲーマーなハナビに釣られるように高難易度を選んでいく。俺もシリーズに関しては十年選手だ、ハナビについていくことくらいはできるはず。

 

『あ、この子かわいー』

「ふむ、使ってみるか」

「あ、それ多分廃プレイヤー向け」

「見りゃわかる」

 

 普段はゲーム好きの集まりだから、ねねちゃんの反応は新鮮だ。ゲームに存在する文脈に関係なく、好きに感想を漏らすねねちゃんを間に挟んで、俺とハナビはゲームのプレイを始めた。

 結果――

 

 

「だめだー!」

 

 

 見事に討ち死にした。

 ぽーい、とハナビが放り投げたコントローラーをキャッチする、ハナビはそのまま子供のようにジタバタしていた。

 

 一応、既に体験版をプレイしていて、高難易度が凄まじい高難易度であることはわかりきっていたのだが、ハナビなら行けるだろと思って特に気にしなかったのが災いした。

 ハナビですら初見ではどうにもならない難易度だったのだ。シリーズを知らないと引っかかる初見殺しも多い。まぁ、俺は伝統に則って、一回目は解った上で死を選んだが。

 初見殺しの再現具合は完璧だった。これこそ期待できるシリーズだと言わざるを得ない。

 

『次はもっといい感じだといいね!』

「難易度最低まで落とすかぁ」

 

 そしてやってみると。

 

「……びっくりするくらい簡単なのだ!」

 

 びっくりするくらい簡単だった。さっきのアレはなんだったのだというくらい。普通に蹂躙できてしまったので、ここは一度中断。難易度を普通にしてみると……

 

『おー、いけー! まけるなー!』

「ハナビ、回復頼む!」

「言われんでも! このまま沈めるぞ!」

 

 ――開始からだいたい数時間。このゲームは周回プレイ前提なので、だいたいこれで一周の終盤といったところ。俺たちはほぼ初見でラスボスまでたどり着いていた。

 三人で声が枯れるくらい盛り上がって、気がつけばがむしゃらに熱中していた。

 

 ああ、なんというか――懐かしい感覚だ。ゲームも、こうしてゲームに熱中する経験も。

 

「っぐ……! すまん笠沙技!」

「らしくないな! でも十分だ、これで……終わらせる!」

『いっけー!!』

 

 ハナビは、ギリギリで残機が0になった。そして俺だけが、ライフミリ残しで残っている。ラスボスの体力はミリ残し、一撃でも大技を当たれば落ちる!

 

 そして、

 

「ここだ!」

 

 俺たちは数時間のプレイの後、ゲームの一周目をクリアした。

 

 

 ===

 

 

 ――夢を見ていた。

 若い頃の、といってもどこまで幼い頃の夢ではない。そう、二十歳の頃の夢、俺が前世の記憶を思い出し、超常現象を求めてあちこちを歩いていた頃の話だ。

 その当時の俺は、解りやすく言うとこってこてのオカルトマニアだった。あちこちの心霊スポットを飛び回り、心霊現象を探して色々と危険な場所にも足を踏み入れた。

 

 なお、この当時俺はそういう場所に足を踏み入れる時、律儀に許可を取っていたので後々霊安本部にその過去を掘り起こされてなにやってるんだ? と変な目で見られたことがある。

 やめてください黒歴史なんです。

 

 ――で、ハナビとの出会いも、まぁそう失礼だったとは思わないが、決して良いものではなかったと思う。俺はハナビの社に、深夜訪れた。

 もともと人の寄り付かない社ではあるが、だからこそそんな時間にやってこられてはハナビもたまったものではないだろう。一応、神社のマナーは守るが、それはそれとしてパシャパシャとフラッシュを焚いて写真を撮っていたからな。

 

 俺とハナビの出会いは、シャッター越しの出会いだった。

 最初、こんなところに随分髪の長い少女がいるな、と思った。それが神様であると気付いたのは、幼子と思って声をかけてから。

 当時のことは本当に思い出したくない記憶だ。

 何も知らなかった俺にとって、ハナビはこの業界の先生のような存在。無知を指摘されることは恥ずかしいもので、その無知の恥を全て引き受けてくれたのが、ハナビである。

 

 今でも思い出す、ハナビはよく俺のような変なやつに、アレほど親身になってくれたよな、と。

 

 考えてみれば自然なこと? 祟り神であり、見れば呪われ、呼べば呪われ、聞けば呪われ、感じれば呪われる。知覚も理解も感知も探知も察知も承知も何もかも、全てが呪いにつながるハナビにとって、人と言葉を交わす機会などほとんどなく、俺が初めての話し相手だったのだから当然だ、と。

 

 でもそれは、人の考え方だ。ハナビは人ではない。人の感覚で考えてはならない。じゃあ、そんなハナビが俺に良くしてくれる理由は?

 ――一応、俺なりに答えがある。けれど、出会って七年。それを確かめたことはない。

 理由は単純、

 

 タイミングを、逸してしまったからだ――

 

 

 ===

 

 

 ――ふと、目を覚ます。

 コトコトと何かが煮込まれる音。テンポよく何かが振り下ろされる音。トン、トン、トン。その音自体が心地よく、微睡み故に俺は唸るように寝返りを打つ。その先で待っていたごつごつとした、ベッドとは思えない感触で、目を覚ました。

 

 確か、あの後俺は――

 

「おはよう、やっと起きたのだな。もう日はとっくに昇っているぞ」

 

 ――寝落ちしていたのか。ハナビと二人で一周目をクリアして、そのままぐっすりと寝てしまったらしい。声がする……ハナビのものだ。呆れたような声、そして、静かな落ち着いた声音だ。

 理由は――

 

「おっと、気をつけろ、隣でねねがまだ寝ているのだからな。まったく、いつ目を覚ますやら」

「……あ、ああすまない」

 

 まだ、寝ているやつがいるからだ。

 俺も慌ててそちらに意識を向けつつ、小声で返した。

 すやすやと、穏やかな顔で寝ている。思わず昔のあかりとくらいを思い出して手を伸ばしたが、俺には彼女に触れる方法がない、そっとその手を戻し、

 

 ――横から、小さな少女の手が伸びた。

 

 不思議と、それを少女とは思えなかった。びっくりするほど引き込まれる、美しい天女の手に見えた。感触を確かめるように、ハナビがねねを撫でている。

 慈しむように。こんな顔、そう見れることはない。

 

「こやつの母親は?」

「……まだ落ち着いてないそうだ。父親は見つかってない」

「そうか……もうそろそろ刻限だが、お前はこやつをあそこから連れて行くつもりだな?」

「そうだ。母親に何も言えないっていうのは、いくらなんでもあんまりだろ」

 

 ねねのこれからについて、俺達は言葉少なに伝え合う。俺たちはねねの両親ではない。代わりにもなれないし、なろうとは思わない。

 それでも、やるべきことはする。

 

『ママ……』

 

 ――そう、寝言でつぶやく彼女のことを、見捨てるなんて俺にもハナビにもありえないのだ。

 

「それで、朝飯ができているぞ、今のうちに顔を洗って食べておけ。ねねが起きたら……二周目なのだ」

「あいよ」

 

 言いながら起き上がり、ふとそれまでしっかりと見ていなかったハナビの姿を見た。私服姿である白いワンピースに、地味な色あいのエプロン。

 

「――似合ってるな」

 

 ぽつり。

 つぶやいていた。短くすればいいだろうに、わざわざ髪を長くしてポニーテールで纏めているのは、こいつなりのおしゃれなのだろう。実際良く似合っている。

 それを聞いて、ハナビは、

 

「……んむ!」

 

 満面の笑みを浮かべた。

 ――愛らしい、どこか浮世離れした少女と女性の交わった顔立ち。朗らかな笑みを浮かべれば、童女のそれに。妖艶に微笑めば神のそれに。一瞬で雰囲気を変えるハナビの姿は、なんというか見ていて心地よい。

 神であり、少女。その二つを同時に内包するハナビは、決して他の誰とも重ならない、ハナビだけの魅力を有している――なんて、何を気取って俺は考えているのだろう。

 

「なぁ、笠沙技よ」

「……なんだ?」

 

 ふと、ハナビが呼びかけてくる。

 その様子は、これもまたねねを慈しむものと同じように珍しいものだった。

 

「お前さん、ハナビと初めて出会ったときのことを覚えているか?」

「奇遇だな、今日夢に見たところだ」

「そりゃそうなのだ、ハナビが見せたからな」

「こいつ……」

 

 どうやら小細工を弄したらしい。ニシシ、といたずらっぽく笑うと、本当に年相応にしか見えないな。

 

「その、なんだ? ねねに聞かれたのだ。お前さんが眠った後」

「……俺より二人は後に寝たのか」

 

 まぁ考えてみればおかしなことではないだろうが。

 なお、

 

 

「どうして二人は、付き合ってるの、とな?」

 

 

 トンできたのはとんでもないど真ん中火の玉ストレートだったが。

 ――ハナビは頬を染めている。照れているというか、嬉しがっていると言うか。いやそういう問題じゃない。ねねにとっては俺とハナビが恋人同士ということだ。

 俺の周囲にいる女性陣のなかで、一番見た目が幼いハナビが、だ! これは色々とまずい。

 

「落ち着け、俺たちは良好な関係だが、そこまで踏み込んではいないよな?」

「昨夜のあれの誤魔化しに失敗したのが、決定打だったようだな」

「……ああうん、ごめんなさい」

 

 結果として俺はとんだ変態になり、ねねちゃんにとんでもないものを見せつけてしまったことになる。俺が優柔不断だったばっかりに……いや押し倒したのはハナビだと思うんだが。

 

「それで、どうしてそれが最初の出会いにつながるんだ」

「いや、あの時はお互いに混乱してたからな。正直、ハナビはあの時の記憶が曖昧だ」

「……俺も、あんまり思い出したくないぞ」

 

 オカルトマニア時代は忌むべき歴史だ。にわか知識をオタクは笑うが、自分だってにわかだっただろう頃のことを、オタクは絶対に語らない。知ったかぶりこそマウント戦士オタクくんの本懐なのだから。

 とても脱線した。

 

「それでもな、覚えていること……絶対に忘れられないことがある」

「……それは?」

 

 ハナビの笑みが、大人らしい妖しいものへと変化した。人とは思えぬ隔絶した笑み。どれだけ生きても、これはハナビにしか浮かべられそうにない。

 

「――ハナビの名を、お前さまが呼んだときだ」

 

 端的に、とてもシンプルな理由だ。

 ただ、あの時はたしか――

 

「いや、それはハナビの名前があまりにも長ったらしくて面倒になって……」

「そうだな、お前がハナビの名を“視て”も、呪われなかった時だ」

「ああ……」

 

 納得。

 

 ハナビは、その存在が呪いそのものだ。本体を視ただけでも人は呪われて、矮小な霊障なら一瞬で消し飛ぶ。名前を呼ぶなどもってのほかで、知られるだけでも呪いに成るのだ。

 俺は、俺にとってはそれは名前でしかなかった。ハナビの姿が、とてつもなく髪の長い童女としか映らなかったように。

 

「――お前のことを、ハッキリとハナビが認識した瞬間だ」

 

 そのことを、ハナビが理解した時、ハナビは何を思ったか。

 よくよく覚えている。あの時のハナビの様子を――

 

 

「そうしたら自然と、涙が止まらなくなっていた」

 

 

 ――ああ。

 今にも泣き出しそうで、思い出すだけでもそうなるんだろう。ハナビはその瞬間だけはあまりにも小さかった。

 

「今でも不思議なのだ。ハナビは思うに、ハナビという存在は人と同じ考え方をしていない。人と同じようにしていても、それは人の真似事をしているだけだ、と」

「それを口にしてしまうくらいには、な」

「けど、これだけは――この感情だけは、あの時の思い出だけは、ハナビが生きているという証なのだ」

 

 まったく。

 そうやって笑うハナビは、どこまでも普通の少女だ。

 ――奔放なゲーマーで、慈しみと母性を有し、子供のように飛び回り、妖艶な人成らざる美を垣間見せる。百面相とはまさしくハナビのことで。

 どれが正しいハナビであると俺には言えない。

 

 ただ、一つだけ言えることがある。

 

「俺は、今こうしているハナビが一番好ましいよ」

 

 ――と、いうことだ。

 

「…………」

 

 きょとん、とした顔でこちらを眺めるハナビ。どうかしたのか?

 そうお互いに視線を向けあっていると、

 

「…………馬鹿め」

 

 と、そっぽを向かれてしまった。

 ……俺、間違っていないよな?

 

 

 ===

 

 

「で、なんでねねの言葉からそこにつながるか解らないんだが」

「いや、お前さまに泣かされたからな、と返答したらねねがドン引きしたのだ」

「なんて答え方してくれてんだよ!?」

 

 ――思わず叫んでねねを起こしかけて、俺は何故か怒られるのだった。

 これは俺、悪くないよな……?

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