目の前には複数のモンスター。
そして少し離れたところにはお目当てのブルー・パピリオがひらひらと飛んでいる。
ダンジョンに来た目的を考えればブルー・パピリオを逃す手はないが、そちらに気を取られた隙にモンスターに背中を狙われかねない。
欲と安全を秤に掛ける選択肢を前に、ベルは即座に決断を下して叫ぶ。
「レフィーヤ、ブルー・パピリオは任せた! 私は他のモンスターを引きつける!」
「分かりました!」
いまの自分の【ステイタス】であれば、7体くらいのモンスターの群れを短時間なら捌く事もできると確信し、ベルは剣を抜いて突っ込む。
その間にレフィーヤは杖を構え、飛び去ろうとしているブルー・パピリオに向け詠唱を開始した。
「【契約に応えよ、森羅の風よ。我が命に従い敵対者を薙げ】」
距離は離れているが、それでも当てられると自分の魔法の精度を信じレフィーヤは魔法名を叫ぶ。
「【ゲイル・ブラスト】!」
レフィーヤが
その姿が崩れて消えるのを見届ける事なく、レフィーヤは兄の方を振り返る。
「兄さん! 合わせてください!」
素早い動きでモンスター達を翻弄するベルに聞こえるよう声を張り上げ、答えが聞こえる前に再び詠唱に入る。
「【契約に応えよ、灼熱の
一瞬、ベルとレフィーヤの視線が合う。
「【ロック・バースト】!」
レフィーヤが魔法を放つと同時に、ベルはモンスターの隙間をすり抜けて距離を取る。
そしてベルが離れた直後、10個近くある人の拳程度の大きさの岩が宙を駆けてモンスターに押し寄せた。
ベルに気を取られていたモンスターは目前に迫るまでそれに気付く事ができず、無防備に岩を身体で受ける。
拳ほどの大きさとはいえ、所詮はただの石つぶてならぬ岩つぶて。それだけでは大したダメージも望めないが、レフィーヤの放った岩はモンスターの身体に触れると同時に爆発した。
『グオォォォォォォ!』
一つ一つは小規模な爆発だったが、身体に直接触れた状態で爆発の衝撃をもろに受けたモンスターの被害は甚大なもので、腹や胸の一部が爆散し内臓を露出させた。中には複数の爆発をその身に受けた者もおり、そういったモンスターは耐えきれず灰に還る。
運良く直撃しなかったモンスターもいるにはいたが、ベルを襲うためにまとまっていた事が仇となって、爆発に巻き込まれる事は避けられず無傷のモンスターは一体もいない。
そこに再び剣を構えたベルが突撃を掛けた。
「はああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!」
レフィーヤの魔法で傷を負い、動揺していたモンスターにベルの剣を躱す余力は残っていなかった。
大した抵抗もできずその身を切り裂かれ、次々と灰に還って行く。
数秒後、後に残るのは魔石とドロップアイテムだけになっていた。
「ふぅ……数は多かったが、危うげなく勝てたな」
「はい。それにドロップアイテムも出たみたいですよ」
軽く剣を振って付着した血を散らせながらベルが呟くと、レフィーヤは笑顔である方向を指差す。
そちらに目を向けてみれば、青く輝く『ブルー・パピリオの翅』が落ちていた。
「これで5枚目か。発注書には3枚以上と書かれていたし、これだけあればナァーザも喜んでくれるだろう」
「運が良かったですね。まさか今日だけで6匹も見つけられるなんて」
ベルが魔石を拾っている間に、レフィーヤが遠くに落ちている『ブルー・パピリオの翅』を回収する。
昨日で2枚、今日で3枚、都合5枚のドロップアイテムに自然と二人の顔には笑みが浮かぶ。
「ナァーザからの
「バックパックがもう限界に近いですね。今日はブルー・パピリオ以外にもドロップアイテムが出ましたし……」
いまの戦いで回収した魔石とドロップアイテムをバックパックに入れながらレフィーヤは難しい顔をする。
このまま探索を続行する事もできなくはないが、これ以上荷物が増えると戦闘にも影響する恐れがある。
手間を惜しんで命の危険を上げるのは良策とは言えない。
「良し、ひとまず今日のところは引き上げるとしよう。ナァーザの喜ぶ顔も早く見たい事だしネ!」
「そう言うと思いました。でも、私も賛成です」
無理をする理由もなくベルは帰還を選択し、レフィーヤも若干呆れながら賛同を示す。
いまの戦いでベルが受けた傷を手早く治し、7階層の奥まで潜っていたため二人は正規ルートを目指して並んで歩く。
「そういえば、ナァーザさんはどうしてギルドを通して依頼しなかったんでしょうか?」
道中、モンスターが出て来ない事もあってレフィーヤがふと気になっていた事を話題に上げる。
「どういう事だ?」
「ミイシャさんから聞いたんですけど、普通は親しいファミリア同士でも
首をかしげるベルにレフィーヤはギルドで聞いた事をそのまま説明する。
通常
「つまりレフィーヤはナァーザが正規の手順を踏まなかった事が不思議なのか?」
「はい。ナァーザさんは冒険者だったらしいので、そういった形式も知ってるんじゃないかなと思ったんですけど……」
いまは引退したとはいえ、ナァーザは6年以上も冒険者をやっていたと言っていた。ならばそういった作法にも詳しいはずなのに、わざわざ直接依頼してきたのはなぜなのかとレフィーヤは首をかしげる。
「単にギルドを通す前に私達のダンジョン攻略の話を聞いて、ついでに頼んだだけじゃないのか?」
「うーん、やっぱりそうなんでしょうか? なんとなくですけど、ナァーザさんらしくないような気がして……」
短い付き合いとはいえ、ナァーザの人となりをレフィーヤもそれなりに知っている。ちょっとがめつくて言葉がきつい事もあるが、商売人だけあって気遣いができる女性であり、理由もなく横紙破りな行いをするような人とは思えなかった。
「まぁなんにせよ、こうして依頼の品は手に入ったんだ。これを渡せばナァーザは喜び私達は報酬を貰える。どちらもハッピーで何も問題はないサ!」
ナァーザの行動に疑問を覚えるレフィーヤの違和感を吹き飛ばすように、ベルは明るい声を上げる。
何も考えていないような笑顔に脱力しそうになるレフィーヤだったが、ベルの次の一言に意表を突かれた。
「それに前にも言っただろう、妹よ。騙されている事に気付いていないくらいがちょうどいいんだ」
「えっ……?」
いつか聞いた言葉を繰り返され、レフィーヤはなぜ脈絡もなくいまそんな事を言うのかと目を丸くする。
しかしベルに答える気はないのか、荷物を背負い直して無駄に声を張り上げる。
「さぁ、早く帰るぞレフィーヤ! ナァーザがいまかいまかと私達の帰りを待っている!」
「ちょっと、兄さん! いきなり走り出さないでくださーい!」
突然駆け出すベルの後を追ってレフィーヤも慌てて走り出す。
そしてすぐにモンスターと出くわして痛い目に遭うベルとレフィーヤなのだった。
『青の薬舗』
路地裏を入った奥にある
魔石とドロップアイテムの換金を終え、ホームに帰る事もなく直接そこにやって来た二人は、頼まれた素材を持ってその建物の扉を開ける。
「たのもー!」
営業妨害にもなりかねない大声だったが、幸いというべきか店内には客が一人もいなかった。
普段は朝にしか来ない兄妹の来店に、
「ベル、レフィーヤ。……もしかして、もう
「ふっふっふ、このベル・クラネル。女性を待たせる事はしない主義だ! できるだけ早い方が良いと、ナァーザも言っていただろう?」
「それはそうだけど……まさかこんな速く持ってきてくれるなんて思ってなかったよ」
驚きを素直に口にしながら、ナァーザはベルがカウンターに置いた袋の中身を確認する。
そして頼んだ数の倍近い数量に再び目を丸くした。
「ありがとう、二人とも……。やるね。すごーく見直した」
「ハハハハハハハ! まぁそれほどでもあるけどネ!」
「兄さん、折角ナァーザさんが感心してくれてるのに、調子乗らないでください」
「ううん、ホントにびっくりした。二人はできる子だって思ってたけど、思ってた以上だったよ……」
調子に乗るベルをレフィーヤが諫めるが、ナァーザは手放しに賞賛を重ねる。
美女からの賛辞にベルはますます図に乗り、レフィーヤがそれに怒鳴る。
そんなコントみたいな兄妹の仲睦まじいやり取りを尻目に、ナァーザは椅子から立ち上がった。
「それじゃあちょっと待ってて。報酬持ってくるね」
そう言い残して、ナァーザはカウンターの裏に消えていく。
ベルとレフィーヤはその間もどつき漫才のようなやり取りをしており、程なくして木箱のケースを抱えたナァーザが戻ってくる。
「はい、これが報酬……ポーション2ダース」
「おおっ、大量だな!」
「良いんですか!? こんなにいっぱい!」
合計24個ものポーションにベルとレフィーヤは目を見開く。
この店のポーションは一個当たり500ヴァリスするため、ヴァリスに換算すれば12000ヴァリスにもなる。
おそらくではあるが『ブルー・パピリオの翅』をギルドや他の店で換金していたとしてもここまでの値段で買い取ってもらう事はできなかっただろう。
「手間賃も込めてるから……。もしまた何かあったら、二人に頼んでいい?」
驚く二人に過度な報酬の理由を説明し、ナァーザは可愛らしく首をかしげる。
本人にそんなつもりはなかっただろうが、その仕草はベルに予想以上の効果を発揮し、条件反射でベルは即座に首を縦に振った。
「もちろんだとも! いつでもなんでも言ってくれ! ナァーザからの頼みであればいくらでも引き受けよう!」
「ナァーザさんからの頼みなので私も賛同したいところではありますけど……兄さん、安請け合いだけはやめてくださいね」
ベルの大して考えてもいなさそうな発言に、複雑そうな顔をしながらレフィーヤは注意を促す。
そんないつも通りのやり取りにナァーザも小さく笑い、極めて円満にベルとレフィーヤの初めての
しかしそれと同時に、いつも閑古鳥が鳴っている店内に予期せぬ来客が表れた。
「ふはははははははっ、邪魔するぞおおおおおおおおぉー!」
鼓膜に響く呵々大笑と共に、扉を蹴破って入ってきたのは髭面の
ニヤニヤとした嫌らしい笑みを顔に張りつけ、男神はベルよりも喧しい声を上げる。
「今月分の借金を取り立てに来てやったぞおぉ、ミィ~アァ~ハァ~」
尊大そうな目つきで店内を見渡しながら笑う男神は、名前を呼んだ人物がこの場にいない事に気付き目をしばたかせる。
「ぬっ! ミアハの奴はどこにいる!」
「外出中です……多分、数時間は戻らない……」
「なんだと! 儂が折角こんな埃臭い店にまで取り立てに来てやったというのに!」
苦々しい顔をしながら答えたナァーザの返事に、男神は途端に不機嫌になり地団駄を踏む。
何度か足を踏み鳴らして男神はようやく気が済んだのか、カウンターにいるナァーザを見下ろす。
「まぁいい! 今月の支払いは用意できておるんだろうな?」
「それは……」
「またできておらんのかぁ! この万年滞納ファミリアが!」
ナァーザが言いづらそうに口を噤むと、鬼の首でも取ったかのように男神は顔を片手でパシンと叩いて首を振る。
がっはっはと嘲るように笑う男神とは対照的に、ナァーザは悔しそうに小さく歯噛みする。
そんな力関係が明確に分かる構図に、横槍を入れる者がいた。
「すまない! 一ついいだろうか!」
高笑いをする男神を見上げてベルは真正面から声を掛ける。
そこでようやくナァーザ以外にも人がいる事に気付いたかのような態度で男神はベルを見る。
「ん? なんじゃ貴様は?」
「私はベル・クラネル! 【ヘスティア・ファミリア】の冒険者だ!」
「【ヘスティア・ファミリア】? あやつ【ファミリア】なんぞ立ち上げておったのか」
ベルの自己紹介に、どうやらヘスティアを知っていたらしい男神が首をかしげる。
「で、ヘスティアのところの小僧が儂になんの用だ!」
「いや、用があるのはあなたではない。そちらの方だ!」
「……私、ですか?」
ベルが視線を向けたのは、男神と一緒に入ってきたのにも関わらず、その身体の陰になって目立たず入り口付近に立っていた女性だった。
青と白を基調とした制服に身を包んだ美しい女性は、いきなり声を掛けられ怪訝そうに眉根を寄せる。
「どうも美しい人。先程も名乗ったが、私の名前はベル・クラネル。よろしければ、あなたの名前を教えてはくれないだろうか?」
「ご丁寧にどうも。私はアミッド・テアサナーレ。こちらにおられるディアンケヒト様の【ファミリア】で団長をしております」
「あなたが噂の『
女性の名乗った名前に憶えがあったベルは、その名を聞いた途端に目を輝かせて大声を上げた。
ダンジョン探索を進める合間にオラリオの美しい女性の噂もせっせと収集しているベルにとって、アミッド・テアサナーレという聖女の噂は決して聞き逃せないものだったのだ。
「なるほど。ウェーブの掛かった流れるような銀髪に、アメジストのような美しい紫紺の瞳。女神と見紛うほどの美しさに加え、一見冷たそうに見える印象も神秘的と言葉を変えれば途端に魅惑の魅力の一つに変貌し、綺麗系に見えるがちょっと垂れ目なところが可愛い系の雰囲気も醸し出している。その上ひとたび戦場に出れば傷付いたもの全てに癒しを与える、最高の癒し系お姉さん! 聖女と呼ばれるのも納得だな!」
「い、癒し系お姉さん……?」
「兄さん! 初対面の方に何を言ってるんですか!」
まくし立てるように目の前の女性について熱を上げて語るベルに、当のアミッドは困惑し、レフィーヤは悲鳴のような怒鳴り声を上げる。
しかし美女を前にしたベルに妹の叫びなど届くわけもなかった。
「是非一度、私と食事などはいかがだろう?
「い、一体なんの話をしているのですかあなたは!」
最初は建前を取り繕っていながら後半で化けの皮が剥がれたベルの誘い文句に、アミッドはついていけず混乱して大声を上げる。
グイグイと距離を詰めようとするベルに気後れして、無意識に足が半歩後ろに下がっていた。
「もちろんあなたの話だ。そして私の話だ。あなたと私の二人の話だ!」
「意味が分かりません! 私は冒険者としての話なのか、プライベートでの話なのかを訊いているんです」
「それならばどちらでもあり、どちらであろうと意味はない! あなたとの時間はどんな話をしていようと最高のものとなるだろう!」
「だから結局なんの話なのですか!」
出会って5秒で口説き始めたベルの思考回路と口説き文句が理解できず、アミッドは困惑と苛立ちから端正な顔を真っ赤にして叫ぶ。
長年の経験からその反応に光明を見出したベルが、このまま勢いと共に口説き落とそうとさらなるマシンガントークを展開しようとした直前、追撃を仕掛ける前に彼女の主神が割って入ってきた。
「おい貧乏人! 貴様のような輩がうちのアミッドと親しくしようなどとは100年早いわ!」
まるで親のような立場でアミッドとベルの間に入り、ディアンケヒトと呼ばれた男神はベルに人差し指をつきつける。
「アミッドとデートの一つでもしたいならば、うちの店の在庫を空にするくらい買い物してからにしろ! 貴様のような貧乏人には一生無理だろうがな!」
親ではなく、金にがめつい商人の立場だった。
貧乏人と見下されて笑われるベルだが、そんな事にはまるで頓着せず笑顔で言い返す。
「生憎と私は女性との仲を金で買うような真似はしない。美しい女性との至福の一時には値がつけられないほどの価値があるのだから」
ベルは立ち位置を変えてディアンケヒトの身体に隠れるアミッドの前に移動すると、片膝をついて手を差し出した。
「どうだろうかアミッド。どうか私のデートの誘い、受けてはくれまいか?」
「で、デートですか……?」
直接的なベルの誘いにようやく自分が口説かれている事に気付いたのか、アミッドがさっきとは別の意味で顔を赤くする。
視線を逸らして少しだけ考え込み、答えが出たのか身体の前で両手を合わせ口を開く。
「その、誠にもうし……」
「くだらん! 話にもならん! 帰るぞアミッド!」
丁寧な口上でアミッドが断ろうとしたところでディアンケヒトが大声を出してそれを遮った。
入ってきたのと同じ勢いで店の扉を開け、ナァーザに向かって喧しく怒鳴る。
「いいか、来月までには最低でも滞納分の金を用意しておけ! でなければ今度は貴様らを追い出し、このオンボロなホームを売り払ってやるからなぁ!」
「し、失礼します」
捨て台詞と共に出て行くディアンケヒトに、アミッドは律儀に頭を下げて退室の言葉を口にしながら慌ててその背中を追っていく。
嵐が通り過ぎたかのように静まり返る店内で、片膝をついたままだったベルが無念そうに拳で床を叩いた。
「くっ、聖女との甘い一時はお預けか。なんと惜しい……!」
「そんな事よりナァーザさんに謝ってください! 大事な話をしていたのに台無しにして……!」
「ううん、いいんだよ……。むしろありがと、ベル」
レフィーヤの叱責をナァーザが遮り、代わりにお礼の言葉を口にする。
「あのジジイの矛先が私に向かないように庇ってくれたんでしょ? あんなバカな事してまでさ」
ふざけたベルの態度を深読みして、ナァーザが柔らかく笑い掛けてくる。
それに答える事なく、ベルは床についていた膝を手で払って立ち上がった。
「ナァーザさん……その、借金っていうのは……?」
先程までの話を思い返してレフィーヤが訊きづらそうに問う。
ナァーザはそれに一瞬だけ顔をしかめ、しかしすぐに無表情に戻って首を振った。
「気にしないで……これは私達の【ファミリア】の話だから」
「でも……!」
「気分の良い話じゃないんだよ。話す方も聞く方も」
食い下がろうとするレフィーヤに、硬い声でナァーザは拒絶の意を伝える。
気まずい沈黙が流れる店内で、ベルはカウンターに近寄ると懐に遭った財布を取り出して丸ごと彼女の前に置いた。
「ナァーザ、これで買えるだけのポーションとマジックポーション、それから解毒薬も含めた一通りの薬を用意してくれないか?」
突然の注文に、ナァーザは目を丸くしてマジマジとベルを見る。
しかし構わずベルは注文を続けた。
「ホームでの備蓄も少なくなっていたし、明日も貯金を持って買い物に来るから在庫を用意しておいてほしい」
「兄さん……」
「ベル……」
明らかに先程の借金の取り立てを考慮した大量注文。
まだ駆け出しなのだから決して懐には余裕がないだろうに即断で身を切るような真似をするベルに、ナァーザは喜ぶよりも先に困惑して表情を歪ませる。
「どうして……そこまでしてくれるの? ポーションなんて、他でも買えるのに……」
ベルとナァーザは、まだ出会って半月ほどしか経っていない。
それにベルが『青の薬舗』で買い物をしているのも主神同士の仲が良かっただけで、この店に通い続けるのっぴきならない事情があるわけでもない。
なのに理由も聞かずに力になろうとしてくれるベルの真意が、ナァーザにはまるで分からなかった。
「何を言ってるんだナァーザ。まさか私がこの店にポーションを買うためだけに来ていると思っていたのか?」
「……だってここ、
店の存在意義を問うような言葉を投げられ、ナァーザは眉をひそめて問い返す。
むしろそれ以外に何をしに来るのだと、そんな視線を向けられてベルはやれやれと首を振った。
「前にも言っただろう? 私達の冒険はナァーザの笑顔を見て始まるんだ。なのにこの店が潰れたら、私達の冒険は始まる前から頓挫してしまうじゃないか」
「……!」
以前言っていた戯言を持ち出して、ベルはそれが当然の事のように笑う。
否、事実としてそれはベルにとっては当たり前の事だった。友人が借金に苦しんで店を畳むのを知らん顔をしてダンジョン探索に勤しむなど、どうしたってベルには不可能な事なのだから。
それで毎朝見ている女性の笑顔が見られなくなるのなら、尚の事。
「私達の冒険者生活のためにも、この店が潰れては困る。そうだろう、妹よ?」
ウィンクをして最も信頼する妹に視線を送ると、兄の意図を察したレフィーヤは迷わず首を縦に振った。
「はい! 兄さんの言う通りです!」
「ベル、レフィーヤ……」
あまりにもお人好しな二人の言葉にナァーザは呆然と口を半開きにしてしまう。
人が良い事は知っていたが、まさかここまでのものとは思ってもみなかったのだ。
「だからもし買い物以外に私達にできる事があるなら、なんでも言ってくれ。さっきも宣言した通り、ナァーザからの頼みであればいくらでも引き受けよう」
笑顔で申し出てくるベルの混じりけのない純粋な厚意に、普段は軽はずみな兄の言動を諫めるレフィーヤが何も言わずに賛同してくれている事に、ナァーザは胸の奥から感謝と悔恨の気持ちが同時に湧き上がってくるのを感じた。
その片方はいま口にするべきではないと、そっと胸の奥深くに押し込み、ナァーザは目元に涙を溜めながら感謝だけを口にした。
「……ありがとう。二人とも」
原作のアルゴノゥトを見るに、フィーナは作中で使っていた3つの魔法の他に、雷属性と氷属性と爆発属性の魔法が使えそうだったので今回はそのうちの1つを出してみました。
残りの2属性も今後出していく予定です。