道化英雄譚   作:真黒 空

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ダンメモ5周年、おめでとうございます!
ミノタウロスを倒した後、竪琴を持って旅に出たアルゴノゥトがほんのわずかに登場する事を期待し、記念と祈願を込めて投稿します。


16:サポーター

 

 それはいつも通りダンジョンへ行こうとした日の事。

 バベルの前にやって来たベルとレフィーヤは可愛らしい声に呼び止められた。

 

「お兄さん、お姉さん、ちょっとよろしいですか?」

 

 二人が振り返ると、フードを被り身の丈ほどの大きなバックパックを背負った小柄な少女がこちらを見上げていた。

 

「私達の事ですか?」

「はい! 初めまして冒険者様。突然ですが、お二人はサポーターなんか探していたりしていませんか?」

 

 レフィーヤが自分達を指差して問い掛けると、彼女はにこやかな笑顔を浮かべてそんな事を訊いてきた。

 唐突な質問にベルとレフィーヤは顔を見合わせ、首をかしげる。

 

「えーと、君は……」

「あっ、名前ですか? リリの名前はリリルカ・アーデと言います。お兄さんとお姉さんの名前はなんと言うんですか?」

 

 丁寧にお辞儀をして名乗り、同じ質問を返してくるリリルカという少女。

 その問いに半ば条件反射で胸を張り、ベルは鼻を高くして名乗った。

 

「私はベル・クラネル! いずれ英雄となる駆け出しの冒険者だ!」

「レフィーヤ・ウィリディスと言います。初めまして、リリルカさん」

 

 ベルが中央広場に響き渡る大声を出す隣で、普通に自己紹介を済ませるレフィーヤ。

 対照的な二人に初対面の人は大抵目を白黒させるのだが、少女は少しも驚いた様子を見せずニコニコとしていた。

 

「で、サポーターだったっけ?」

「はい! もしよろしければ、リリをサポーターとして雇っていただけませんか?」

 

 ベルが改めて問うと、少女は元気に自身を売り込んでくる。

 冒険者の常識を鬼教官(エイナ)から叩きこまれている二人は当然サポーターがどのような物かは知っていたが、同時に自派閥以外の人間とパーティを組む時は慎重に、という忠告もされていた。

 そのためレフィーヤはこの突然の申し出に、エイナの言葉を思い出して顔を曇らせる。

 

「確かに私達は二人しかいないパーティですし、サポーターがいてくれたらいいなぁとは思っていましたけど、こんないきなり言われても……ねぇ兄さん?」

 

 同じアドバイスを受けているベルも同じ気持ちだろうと、レフィーヤは視線を隣の兄に向ける。

 しかし――

 

「こんなにも可愛らしい少女が私達の冒険について来てくれるのか! いますぐ雇おう言い値で雇おう!」

「即答ですか!? 兄さん、少しは真面目に考えてください!」

 

 一切の躊躇なく条件も聞かずに雇用に踏み切るベルに、レフィーヤは悲鳴と怒声が入り混じった叫びを上げる。

 だがそんな助言がテンションの高まり切ったベルに届くはずもなく、兄に同意を求めた己の愚行をレフィーヤは悔いる。

 そしてそんな間も、目の前の少女と兄の会話はどんどんと進んでいた。

 

「本当ですか! ありがとうございますっ、ベル様!」

「お礼を言うのは私の方だ! 君のような愛くるしい女性と共に冒険ができるなんて夢のようではないか!」

「そんな……愛くるしいだなんてお世辞だと分かっていてもリリは照れてしまいます」

「お世辞なものか! 君みたいなサポーターに声を掛けてもらった私は幸せ者だ!」

「ならベル様のような冒険者様に雇ってもらえたリリも幸せ者です!」

 

 完全に意気投合してハイタッチを決める二人。

 トントン拍子に雇用は決まり、レフィーヤを置いて二人はダンジョンへと向かっていく。

 

「……私がおかしいんでしょうか?」

 

 その後ろ姿に盛大なため息をつき、レフィーヤは兄といるといつも感じるトラブルの予感を抱きながら後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃああなたは、無所属(フリー)のサポーターではないんですね」

「はい。リリは【ソーマ・ファミリア】に所属しています。割と有名な派閥だとリリは思っていますけど、ベル様とレフィーヤ様はご存じですか?」

 

 ダンジョン内に呑気な声がこだまし、兄妹が揃って首を振る。

 目的の階層まで進むまでの間、レフィーヤはベルが怠った少女の基本情報の聞き出しを行っていた。

 疑いたくはないが、もし彼女が良い噂を聞かない派閥の一員であったり、【ヘスティア・ファミリア】と敵対するような派閥であっては困るからだ。といっても、レフィーヤ自身もオラリオの【ファミリア】情報には詳しくはないのでこの場では判断ができず、地上に帰ってから担当アドバイザー(ミイシャ)やヘスティアに改めて聞く事にはなるのだが。

 

「そうなんですね。先程駆け出しだと仰られていたようですが、お二人はまだオラリオに詳しくなかったりするんですか?」

「実はその通りなんだ。オラリオに来てからまだ一月も経っていない」

「でしたら納得です。有名といっても【ソーマ・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】のような大きなファミリアとは比べるべくもありませんから」

 

 主にお酒を作っている【ファミリア】なんですよ、と自派閥の事を説明するリリ。

 その内容にレフィーヤは首をかしげる。

 製造系の【ファミリア】なら、なぜリリはサポーターなんてやっているのか?

 思いつくままにそんな質問をしようとしたレフィーヤだったが、いまはそれよりも先に聞くべき事があるのを思い出し、一先ず浮かんできた疑問は脇に置いて別の質問を口にする。

 

「【ファミリア】に入ってるならどうして私達に声を掛けたんですか? 違う派閥でチームを組むのはあまり良い行為ではないですよね?」

 

 冒険者やサポーターの間での共通認識をレフィーヤが問うと、これまでずっと笑顔だったリリの表情にわずかに影が差す。

 困ったような、拗ねたような、そんな顔をして少しだけ唇を尖らしたリリは、頬を掻きながらそのわけを話す。

 

「リリはこんなに小さいですし、腕っ節もからっきしなので、何もをやっても鈍臭いリリに【ファミリア】の方々は愛想をつかして邪魔者扱いにしてるんです。頼んでも仲間に入れてくれないんですよ」

「そんな事が……」

 

 ヘスティアという良い主神に恵まれ、【ファミリア】というものを本当の家族のように感じていたレフィーヤは、リリの【ファミリア】内での扱いに表情を曇らせる。

 オラリオに来た当初も【ファミリア】というものの理想と現実に少なからず衝撃を受けたレフィーヤにとって、リリの話を他人事と割り切るのは難しかった。

 

「役立たずの身としては肩身の狭い思いでして。【ファミリア】のホームでは居心地が悪いので、いまも格安の宿屋をめぐっては寝泊りを繰り返しています」

 

 自分の派閥のホームに居場所がないと語る少女は、別になんでもないとばかりに笑って見せる。その態度には、自虐と強がりが透けて見えた。

 つらい身の上の少女にレフィーヤは何か言ってあげたかったが、会ったばかりの相手に安易な慰めなど口にされてもいたたまれなくなるだけだろう。

 結局何も言えないまま気まずい沈黙が流れそうになったその時、いままで黙って周りを警戒していたベルが口を開いた。

 

「リリは小柄なのに、そんなに大きな荷物を持てるんだな」

 

 それはまるで脈絡のない話題だったが、大して気にする事もなくリリは答えを返す。

 

「これはリリのスキルの力です。荷物持ちくらいにしか使えない役立たずのリリにはお似合いのスキルですね」

「役立たずなんてそんな……」

「いえ、危険を冒してモンスターと戦ってくれている冒険者様と比べればサポーターのリリなんて背負ってるバックパックと同じお荷物でしかありません。気を遣っていただく必要なんて皆無です」

 

 自分を卑下するリリにレフィーヤは物申そうとするが、硬い声で当のリリはそれを退けた。

 そのあまりに頑なな態度は否定の言葉を拒絶しており、レフィーヤも反論の言葉を呑み込む。

 代わりに出会った時からずっと気になっていた話題をレフィーヤは訊ねた。

 

「そういえばリリさんは小柄ですけど、小人族(パルゥム)なんですか?」

 

 その問いにリリは被っていたフードを取った。

 すると頭の上にフードで隠れて見えなかった犬耳がぴょこんと現れる。

 

「リリは犬人(シアンスロープ)です。身体が小さいので良く間違われてしまうんですけどね」

「そうだったんですね……その、勘違いしてしまってごめんなさい」

「いえいえ、お気になさらないでください。リリの成長が乏しいのは分かっていた事ですから」

 

 体格から半ば確信していた予想があっさりと外れる。

 これは古代でも共通だが、種族を間違うのは無礼に当たる行為だ。

 そのためレフィーヤは丁寧に頭を下げ、リリは笑ってそれを許した。

 

「それよりレフィーヤ様。リリの事はリリと呼んでください。他の呼称でもいいですが、さん付けはダメです」

「えっ、どうしてですか?」

 

 種族を間違う無礼よりもそちらが問題だと指を立てるリリに、レフィーヤは不思議そうに首をかしげる。

 その何も分かっていない態度に、いいですか、とリリが真剣な表情で講義する。

 

「先程も言ったように、サポーターなんて所詮は冒険者様と違って戦闘中は安全な場所に逃げ込んで傍観するだけの臆病者です。何もしていない癖に甘い蜜を吸おうとする寄生虫なんです」

「そんな事は……!」

「リリ達が冒険者様と同格であろうとする事は傲慢です。冒険者様も許しません。もしリリが冒険者様と同格であろうとする生意気なサポーターなんて風評が流れてしまえば、リリはもうサポーターとして食べていけなくなってしまうんです」

「……」

 

 自分の認識とはまるで違う価値観を懇々と説明され、レフィーヤはなんとも言えない表情で黙り込む。

 反論したかったが、それで自分ではなく相手の方に不利益が生じると言われてしまえば、レフィーヤの我儘で意見を押し通すわけにはいかなかった。

 

「だからケジメとして、リリの事は呼び捨ててください。リリを助けると思って、どうか」

「……はい、分かりました」

 

 下手で頼まれ、納得できないながらもレフィーヤは渋々頷く。

 それに満足そうに笑みを浮かべたリリは、レフィーヤが予想もしなかった提案をしてきた。

 

「では練習してみましょう。さぁ、リリの事を呼んでみてください」

「えっ、いまですか?」

「はい! こういう事は慣れが大切ですから」

 

 満面の笑みで逃げ道を塞がれ、レフィーヤは思わず首を縦に振ってしまう。

 

「わ、分かりました。では……」

 

 謎の緊張感を感じて冷や汗を流すレフィーヤ。

 ふぅ、はぁ、と何度か深呼吸し、意を決してレフィーヤはリリの名前を口にした。

 

「り、リリ………………さん」

「……レフィーヤ様?」

 

 つい違和感が拭い切れず敬称をつけてしまったレフィーヤを、リリがジト目で睨む。

 その視線に慌てて手を振ってレフィーヤは言い直した。

 

「じゃなくて……リリ、ルカ…………さん。でもなくて、アーデ……さん、も違くて…………リリ……様?」

 

 普段誰に対しても名前を呼び捨てる事がないレフィーヤは、自分でも思った以上に抵抗があるのかリリの名前を口にするだけの事に四苦八苦する。

 最終的にリリが口にする敬称につられて、当初よりも酷い形になっていた。

 

「はぁ……仕方がないので、おいおい慣らしていきましょう。でも人がいるところでは気をつけてくださいね」

「……はい、ごめんなさい」

 

 意外なポンコツぶりを見せるレフィーヤにため息をついて、その場で名前を呼び捨てさせる事を諦めるリリ。

 意気消沈するレフィーヤを横目に、先頭を歩いていたベルが警告を発する。

 

「楽しい話はひとまずそれまでにしよう。モンスターが出てきたようだ」

 

 ベルの言葉につられるようにして、奥の通路と壁面からモンスターが姿を現す。

 

「行くぞレフィーヤ! リリは後ろに下がっていてくれ」

 

 リーダーらしく号令を掛けるベルに、レフィーヤとリリも力強く頷いた。

 

「張り切ってドジを踏まないでくださいね、兄さん!」

「お気をつけください、お二人とも」

 

 返事を聞く前にベルはモンスターへと斬り掛かる。

 それを目で追いながらレフィーヤも杖を構え、この日初めての戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夕刻。

 ダンジョン探索を終え、3人が地上に戻ってきた時には既に日が赤く染まっていた。

 

「リリのおかげで随分とダンジョンに潜っていられたな。もしかしなくても、冒険者になってから一番の稼ぎじゃないか?」

「本当に助かりました。ありがとうございます、リリさ…………リリルカさ……」

「いえいえ、私なんて大した事はしていません。今日の稼ぎはお二人の実力ですよ」

 

 普段は荷物が多くなるたびにダンジョンと地上を行き来していたが、今回はリリというサポーターがいたおかげでダンジョンにずっと潜っていられた。

 そのため充分な手応えを感じるベルとレフィーヤに、リリは笑顔で謙遜を口にする。

 

「それで今日の報酬の話なんですが、回収した魔石とドロップアイテムは全てお二人にお渡しします。どうか懐を温めてください」

 

 ダンジョンで集めた稼ぎを全て差し出すリリ。

 稼ぎは当然山分けだと考えていたレフィーヤは、その提案に驚いて目をしばたかせた。

 

「えっ!? どうしてですか? リリさんがいなきゃこんなに稼げなかったんですし、ちゃんと分けて……」

「レフィーヤ様、また呼び名が戻ってますよ」

「あ、あう……」

 

 注意されていた名前の敬称を指摘されて、レフィーヤが顔を赤くして黙り込む。

 

「こんな事でお二人の信用が得られるならお安いものです。今日はいわばお二人の中でのリリの価値付け、信頼に足る相手なのかを見極める通過儀礼なのですから」

 

 ただ働きになるというのに、リリは非の打ち所がない笑みで明るくそんな事を言う。

 自分を存分に値踏みして、明日からも雇ってほしいと下手に出る姿は、彼女がダンジョンで口にしていたサポーター観によるものだろう事は容易く想像がついた。

 それを否定すれば、きっとまたダンジョンの時のような押し問答になってしまうだろう。

 

「リリ、この後の予定はあるか?」

「えっ?」

 

 だからベルは彼女のサポーター観を否定するのではなく、別のところで折り合いをつけようと、差し出された稼ぎを片手に笑って見せる。

 

「良ければ私達とディナーへ行こう! 今日稼いだお金で目一杯にみんなで舌鼓を打とうじゃないか!」

 

 その提案がよほど意外だったのか、リリは目を丸くしてマジマジとベルを見た。

 

「そんな、リリなんかと食事なんて……」

「私達がリリを信用できるか見極めるというなら、逆も言えるはずだ。このままリリを返したんじゃ、私達はサポーターを働かせるだけ働かせて儲けをふんだくる酷い冒険者様になってしまう。そんな事ではリリの信頼を得る事はできないだろう?」

 

 彼女が口にした文言をそのまま利用して、片目を瞑ってみせるベル。

 その隣では彼女の妹がいつも通りの兄の口の上手さに口元を綻ばせていた。

 

「だから今日は私達の契約記念に思う存分騒ごうじゃないか! 軍資金はこの通りたんまりあるわけだしネ!」

 

 リリから受け取った稼ぎを掲げ、テンション高くベルは言い切る。

 予想外の展開についていけず、狼狽するリリは助けを求めるようにレフィーヤに視線を送る。

 しかし彼女も笑顔で兄の提案に首を縦に振った。

 

「私も兄さんに賛成です。一方的にいただくのは気が引けるので、是非一緒に食事を楽しみましょう?」

 

 レフィーヤにも誘われ、ついに逃げ道のなくなったリリは迷うように視線を泳がせて、やがて諦めたように頷いた。

 

「……分かりました。ではご一緒させていただきます」

「その言葉を待っていた! さぁ、今日の夕餉はご馳走だ!」

 

 肩を落とすリリとは対照的に、張り切ったベルは夕陽を指差しながら洋々と歩き出した。

 





そんなわけでリリ登場回でした。
原作の焼き増しにならないように工夫しようと試みたんですが、結構似た形になってしまったところに力量不足を感じる今日この頃です。
次回からはもっとアルゴノゥトらしさを出していきたいですね。

そして盗人小人族(パルゥム)の話を始めるこのタイミングで、フィアナ騎士団の話が始まる運の良さに慄いています。
嬉しい偶然と5周年のPVを見てテンションが上がったため、このたび登場するキャラクターの生まれ変わりだと思えるキャラとの絡みを書こうと思うので、もしよろしければアンケートにご協力ください。

実際にどのタイミングで話を挿入するかは未定ですが、5話以内を考えています。

ちなみにフェルズとヴァレッタさんは確定ではなさそうなのでとりあえず除外します。
まだ話が進んでいない段階で安易に登場させられるキャラでもありませんからね。

どのキャラクターと閑話が読みたいですか?

  • フィン
  • ライラ
  • ラウル&アナキティ
  • ガリバー4兄弟
  • ノイマン
  • リオン
  • そんなのいいからリリの話を進めろ
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