「晴れ渡る空! 気持ちのいい風! そして見渡す限りの美しき風景! まるで私達の英雄への旅路を祝福してくれているようではないか!」
「いいから静かにしてください! 御者の方が睨んでます。騒がしくして降ろされたりしたらどうするんですか!」
荷馬車の上で子供のようにはしゃぐベルを妹のレフィーヤが怒鳴りつける。
朝から何度も繰り返してきたやり取りに、さすがのレフィーヤも疲れてため息をつく。
しかしそれがなんだか懐かしく、意図せずして頬が緩んだ。
ベルとレフィーヤは現在、
故郷に別れを告げ、こうして二人旅をしているのにはもちろん理由がある。
モンスターに食われるや否やという絶体絶命の窮地を脱した後、魔法で怪我を治療した二人は一度ベルの祖父の待っているはずの家に帰った。
しかしそこにいるはずの祖父はおらず、テーブルの上に書き置きだけが残されていたのだ。
『ベルへ。
かわい子ちゃんが儂を呼んでる気がするので旅に出ます。捜さないでください。
しばらく帰らないから、お前はお前で好きに生きてええぞ。
祖父より』
汚い字で書かれたその書き置きを読み、ベルは大きく頷いて親指を立てた。
「というわけで、これで心置きなくオラリオに行けるネ!」
「そんな軽いノリで済ませてしまっていいんですか!?」
そしてあっさりと、ベルとレフィーヤのオラリオ行きが決定した。
そこからは早かった。手早く荷物をまとめ、村のみんなに挨拶し、たまたま村に来ていた御者に土下座して同行させてもらっていまに至る。
思い立ったら即行動のベルの瞬発力に、妹であるレフィーヤは呆れていいやら懐かしんでいいやら分からずただ振り回された。
「そういえばレフィーヤ。どうしてあの村に私がいる事が分かったんだ? ……まさか、前世の絆に導かれて――!」
3秒だって黙っていられないベルが思い出したように訊ね、何かに気付いたように目を見開く。
久しぶりのハイテンションに付き合わされ突っ込み疲れていたレフィーヤは、ベルの台詞を最後まで聞く事なく再び盛大にため息をついた。
「そんなわけないじゃないですか。というか、それなら兄さんも私がどこにいるか分かるはずでしょう?」
「ふむ。確かにそれもそうだな。じゃあ結局どうして?」
大仰な態度をすぐに引っ込めて首をかしげるベル。
この振り幅に早くも馴染んでしまっている自分がレフィーヤは少し嫌になった。
「私も最初からあの村に行こうとしていたわけじゃありませんよ。初めはオラリオに行こうと思ってました」
「オラリオに?」
「はい。だって英雄を目指す兄さんなら、どこで生まれようと絶対オラリオを目指すに決まってるじゃないですか。兄さんが私みたいに生まれ変わってるかは分かりませんでしたけど、でももし、少しでも可能性があるとしたらオラリオで待つのが一番だと思ったんです」
「ハッハッハ、さすがは我が妹! 私の事を良く分かってるネ!」
きらーんと白い歯を見せて笑うベルにジト目を向けながら、レフィーヤはあえて無視して話を続ける。
「でもオラリオに行く途中で、騒がしくてうるさいとても愉快な兎みたいなヒューマンがいるって噂を聞いて、急遽目的地を変えたんです」
「なんと! まだ冒険の一つもしていないのに既に噂にまでなっているとは、さすがは私! 英雄譚に語り継がれてるだけはある!」
「調子に乗らないでください! 完全に笑い話としての噂ですからね」
無視していたら際限なくテンションを上げるベルに、思わずレフィーヤは突っ込みを入れてしまう。
だがそれも仕方ない。これ以上騒がしくしたら本当に叩き下ろされかねないのだから。
御者の視線を気にしながら、レフィーヤは咳払いをして話を戻す。
「ともかく、そんな噂にまでなるような人が兄さん以外にいるわけないと思って、あの村に行ったんです。何日も旅してようやく辿り着いて、村の人から兄さんの家を聞いて訊ねてみれば留守で、どうしようかと思ってたら森の中から魔物の雄叫びが聞こえて、後は兄さんの知っての通りです。まさかモンスターに食べられそうになってるなんて思いもしませんでしたけど」
レフィーヤが呆れた視線を向けると、なぜかベルは胸を張る。
「私もまさかレフィーヤが助けに来てくれるとは思ってもいなかった! しかもあの絶妙なタイミング! 実は隠れて様子を窺ってたんじゃないですか、レフィーヤさん」
「そんな事してません! 私をなんだと思ってるんですか!」
疑わしい目で見てくる兄の言いがかりに憤慨するレフィーヤ。
しかしそんな怒りなどどこ吹く風で、ベルは魔物を倒した妹の魔法を思い出していた。
「私もオラリオに行って冒険者になったら、レフィーヤみたいな魔法が使えるようにならないかなぁ。やはり英雄にはド派手な必殺技の一つや二つあって然るべきだよネ!」
「知りませんよそんな事……あっ、でも
「なに!? それは本当か、レフィーヤ!」
「はい。なんでも読んだ人に魔法を強制的に発現させる書物らしいです。とっても貴重で、極一部の人しか作る事ができないものらしいですけど」
「つまりそれを読めば私も魔法を使えるようになるというわけだ! 前世でも叶えられなかった長年の夢を叶えるチャンス! 良しレフィーヤ、オラリオに着いたらまずその
「ちなみに値段もそれ相応のもので、8桁から9桁くらいはするらしいです」
「……」
テンションMAXで意気込むベルだったが、付け加えられた金額に急に大人しくなって真顔になった。
ふぅ、とこれ見よがしに息を吐いた後、空を見て、そしてまたゆっくりと妹を見る。
「レフィーヤ……」
「な、なんですか?」
「人の夢とは、儚いものなんだな」
「何バカ言ってるんですか、バカ兄さん」
無駄に格好つけるベルに、レフィーヤはげんなりと脱力しながら突っ込む。
そこでふと、何かに気付いたように首をかしげた。
「そういえば兄さんっていくつなんですか? 前よりも顔つきが子供っぽいですけど……」
レフィーヤの素朴な疑問を聞き、大人しくなっていたベルが再び喧しいテンションを取り戻してサムズアップする。
「良く聞いてくれた! 私がこの世に生を授かってもう14年になる。いやぁ、若いっていいネ!」
「ええー! 私より年下なんですか!」
目を丸くして仰天するレフィーヤ。
ちなみにレフィーヤはベルの一つ上の15歳である。
「ふむ。つまり今世では私は弟で、レフィーヤが姉という事か…………お姉ちゃんって呼んでいい?」
「やめてください気色悪いです兄ならまだしも弟がこんな性格とか恥ずかしくて外を歩けません!」
「えーそこまで言う必要なくない? お姉ちゃん」
「だからやめてください!」
いつものノリでふざけるベルをレフィーヤは全力で拒絶する。
前世では妹という立場だから、周りの人達もベルに白い目を向けても妹のレフィーヤにまでそれを向ける事はなかったが、姉という立場になれば弟の手綱も握れない無能な姉として自分も白い目で見られかねない。
そんな未来を想像してレフィーヤは可哀想なくらい青ざめた。
「だがまさかレフィーヤの方が年上とは……妹が姉で、姉が妹。くっふーなんだこの謎の背徳感と興奮は! 新たな扉が開きそうな予感!」
「勝手に興奮して変な扉を開けないでください! そんなバカな事、私は絶対認めませんからね!」
「お前が認めずとも世界がそう定めているのだ! 無駄な抵抗はやめて私を弟と認めるんだレフィーヤ! いいや、レフィーヤお姉ちゃん!」
「いやああぁぁぁぁぁぁ!」
そんなふざけた会話をしていたら本当に御者の人に叩き下ろされそうになり、乗せてもらった時と同様にベルが土下座してなんとか引き続き乗せてもらう事に成功するといった一幕がありつつ、二人は荷馬車に揺られてオラリオを目指す。
さすがにもう一度騒いだら今度こそ叩き下ろされるのが分かっているのか、ベルも無闇に騒ぐ事はしなかった。
「でも良かったのか、レフィーヤ。私と一緒に来て?」
のんびりとお互いのこれまでの人生を話していたら、急にベルがそう問うてきた。
質問の意図が分からずレフィーヤは首をかしげる。
「どういう意味ですか?」
「お前の両親は、今世ではまだ生きているんだろう? なら無理をして私に付き合わずとも……」
「無理なんてしてませんよ」
珍しく真剣な様子で諭そうとしてくるベルの言葉を遮ってレフィーヤは笑んだ。
「私が兄さんに会いたかったから森を出たんです。両親も私を笑って送り出してくれました」
その時の事を思い出すようにレフィーヤは胸に手を当てて空を仰ぐ。
見上げた視界には雲一つない澄み切った青空がどこまでも広がっている。
「レフィーヤとして、
幸福を噛み締めるように瞑目してそう語るレフィーヤ。
その表情はとても満ち足りたものだった。
「だからもう、充分です」
そう言って目を開いた時には、レフィーヤはちょっといたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「それにお父さんとお母さんは私がいなくても大丈夫ですけど、兄さんは私がついてないとダメですからね。すぐにバカやったり無茶したりするんですから」
からかうようにそう言うレフィーヤに後悔や迷いなど微塵も見られない。
それを察してベルも野暮な事を聞くのはやめにした。
「そんな風に憎まれ口を叩かずとも、素直に私の事が大好きだと言っていいんだぞ! 愛しの妹よ!」
「こんのぉ……! 人が真面目に話してる時くらい真剣に聞いてくださいバカ兄さん!」
それから数日経ち、ようやく二人はオラリオへと足を踏み入れた。
「おおっ、ここがオラリオ! 噂に名高い迷宮都市か!」
「ラクリオスも大きかったですけど、それよりもさらに大きいなんて……。しかも色んな種族の人がそこら中にいる。世界の中心なんて言われるのも納得です」
「ああ、なんと壮観な光景か。これは綴らずにはいられない! 英雄日誌!」
そう叫ぶとベルはおもむろに懐から一冊の本と羽ペンを取り出した。
『ベル・クラネルはその日、オラリオへと足を踏み入れた。それはまさに、英雄への第一歩だった』
書く内容を口に出しながら羽ペンを走らせると、明るい表情から一転、顎に手を当ててベルは首をかしげた。
「ふむ、オラリオ編の記録を残すために新たな本を買うべきかもしれないな」
「折角オラリオに来たって言うのに、真面目な顔でどうでもいい事を悩まないでください」
慣れた突っ込みをして、オラリオの景色を眺めながらレフィーヤは現実的な問題について考える。
「でもこれからどうしましょうか。門衛の方が言うには、冒険者になるためにはどこかの神様のファミリアに入らなきゃいけないみたいですけど……」
兄には何か考えがあるのかと思ってレフィーヤが視線を向けると、もうそこにベルはいなかった。
そして少し離れた場所から妙に格好つけた声が聞こえてくる。
「美しきお嬢さん、私の名前はベル・クラネル。英雄になるためにこの地に来た冒険者の卵です。もしよろしければ街を案内しては――ぐべばっ!」
「街に入って1分で何見ず知らずの人を口説いてるんですか! 目を放したらすぐに恥を晒すのはやめてください!」
「誤解だ妹よ! 私はただ街の案内を美しい人にお願いしていただけで……」
「いいから行きますよ! 絶対に私から離れないでくださいね」
ボディーブローを食らってまともに動けなくなっている兄を引っ張っていく妹。
声を掛けられたのに置いてけぼりにされた女性は、そんな二人を目を丸くして見送った。
そしてそんな人騒がせなど手慣れた二人は、風のような切り替えの早さで気を取り直し街の中を歩く。
「しかし本当に凄いな。街路は活気で溢れ、他種族と神が入り混じって笑顔に溢れている。素晴らしい街だ」
「神様が普通に道を歩いてるってとんでもない光景ですよね。それにすれ違う冒険者の方もみんな強そうです」
「良し! 遠路遥々やっと辿り着いたんだ。今日は一日掛けてオラリオ観光としゃれ込もうではないか、妹よ!」
「いいですね。私も色々と見て回りたいです。でもさっきみたいにナンパなんかしようとしたら――しばき倒しますよ」
「おぅ……私がやらかす前から釘を刺すとは、成長したな。レフィーヤお姉ちゃん!」
「だからそれはやめてくださいって言ったでしょうバカ兄さん!」
「ぐふぉあ!」
観光する事に決め、宿に荷物を預けたベルとレフィーヤは二人であてどもなくオラリオを歩き回った。
その姿は、たとえ種族が違い、顔がまるで似ていなくとも、仲の良い兄妹そのものだった。
「これがバベル! なんという巨大な塔か。これは記念に私の名を壁に刻んでおこう!」
「ダメに決まってるじゃないですか! そんな事したら街に入った初日から憲兵さんに捕まりますよ!」
「うまい! うまいぞレフィーヤ! オラリオの名物、じゃが丸君! あまりのうまさにほっぺが落ちてしまいそうだ!」
「名物云々は売り手の人が勝手に言ってただけな気もしますけど……でも本当においしいですね。癖になりそう」
「ぬあ! なんという神々しい女性だ! さすがはオラリオ! あのような美しい女性が平然と歩いているとは……私の想像をいとも容易く上回る!」
「女神様なんですから神々しいのは当たり前です! というかそんな不敬な眼差しを女神様に向けるなんて失礼です! やめてください!」
そんなこんなで騒がしくしながらも仲睦まじく観光を楽しんでいると、時間はあっという間に過ぎていった。
空も赤らみ、もうそろそろ宿に戻ろうと兄に提案しようと話し掛ける。
「兄さん、楽しかったですけど時間も時間なので今日はこれくらいに――――って、あれ?」
顔を向けると、なぜか隣にいたはずのベルが忽然と姿を消していた。
慌てて周囲を見渡すも、あれだけ目立つ白髪頭がどこにも見当たらない。
つい十秒前までは一緒に歩いていたのに、もはやベルの姿は影も形もなかった。
「だから私から離れないでくださいって言ったじゃないですかー!」
仰天したレフィーヤの恨みがましい泣き言がオラリオの一角に響き渡った。
レフィーヤの叫びがオラリオにこだましている頃、ベルは一人拳を握りしめて己の行動を省みていた。
「私とした事が、浮かれて歩き回っていたら迷子になってしまうとは……。いや、ここはさすがは迷宮都市とオラリオを褒めるべきだな。うん、私悪くない!」
わずかに反省しようとしたのも束の間、あっという間に責任転嫁を遂げお気楽に笑うベル。
そして改めて自分がいる場所を見渡してみる。
ここにいる人達の身なりはみなどこか薄汚れており、それはいままですれ違ってきたオラリオの住人と比べても貧富の差が明らかなものだった。
「貧民街……オラリオにもこんなところがあるのか。しかし……」
ベルは目に映る人の身なりではなく、顔と様子を見る。
井戸の側で洗濯物をする女性達が笑顔で談笑している。道端で老人が唸りながら
「たとえ貧しくとも活気がある。悲嘆にくれず、投げやりにもならず、みなが懸命に生きている。良い街だな、オラリオは」
わずかに目を細めながら、ベルは目に見える光景をそう評した。
もちろん目には見えないところで何があるかは分からないし、貧民街である以上、治安だって決して良いとは言えないのだろう。しかしかつてモンスターに生存領域を侵されていた時代、こういった場所では自棄になった人間同士の争いが絶えず、悲鳴と腐敗臭に溢れていた。それと比べればここはベルの目にはとても穏やかに映った。
「しかし凄い構造だ。まるで迷路のようじゃないか。どことなくあのラビリンスを彷彿とさせるところが私的にはとっても複雑!」
明らかにいままで歩いてきた場所とは異なり、石造りの建物や階段、路地が縦横関係なく錯綜している。
まるで人を迷わせるために作られたのではないかという重層的な街並みに嫌な記憶を重ね合わせ、ベルは眉間に皺を寄せながら引き攣った笑みを浮かべて叫ぶ。
珍妙な顔をしながら一人騒ぐベルを周りの住人は奇異の目で見るが、そんな視線には慣れっこなベルは構わず道も分からないのにずんずんと進んでいく。
奇妙な街並みに感心しながら歩を進め、歩けば歩くほど複雑になって元来た道すら分からなくなる事にさすがのベルも不安になって来た時、可愛らしい声が聞こえてきた。
「ねぇねぇあったよ。これなんていいんじゃない?」
「えー白とかちょっと地味過ぎるだろ。もっと派手なの探そうぜ!」
「分かってないなぁ。あまり色が強いのなんてお母さんにもお姉ちゃんにも似合わないの。ねぇルゥ?」
「うん。僕もこれが良いと思う」
ワイワイとしゃがみ込んだ子供達が言い合っていた。
遊んでいるだけなら邪魔するべきではないのだろうが、もう日が沈む時分に子供だけで貧民街をうろつくのはさすがに危ないだろうと、ベルは声を掛ける。
「何をしてるんだ? 君達」
「わっ!」「きゃ!」「えっ?」
後ろから話し掛けたベルに子供達はそれぞれ驚きながら振り返る。
左からヒューマンの男の子、
「なんだよ兄ちゃん、いきなり話し掛けてきやがって!」
ヒューマンの少年が眉を逆立てて文句を言ってくる。
対してベルは子供の理不尽な怒りに目くじらを立てるような事はせず、胸を張って名乗った。
「私はベル・クラネル。今日このオラリオにやって来た、いずれ英雄となる男だ」
子供達と目を合わせるために、しゃがみながら腰に手を当てて自己紹介をする。
英雄などと言うとバカにされるか冷めた目を向けられる事が殆どだったが、子供達は純粋故にベルの妄言を侮る事なく首をかしげた。
「英雄? 兄ちゃん弱そうなのに冒険者なのか?」
「正確には冒険者志望だな! いや、英雄志望といった方が正しいか!」
子供らしい正直な感想に若干傷付きながらもめげず、ベルは胸を張ったまま訂正する。
「それで、君達は何をしていたんだ? 初対面の私が言うのもなんだが、もうすぐ日が沈む。子供だけで出歩くのはやめて、早く家に帰った方がいい」
自己紹介も終えてベルが訊ねると、
「私達ね、お花を探してたの」
「花?」
「うん。お母さんといつも遊んでくれるお姉ちゃんに、集めたお花で花飾りを作ってプレゼントしようと思って」
花を贈る相手の事を考えてか、笑みを浮かべてサプライズ計画を話す少女。
その笑顔に胸が温かくなり、ベルもつられて笑顔になる。
「なるほど。お世話になっている人に贈り物をするためというわけか。とても素敵な考えだ」
「えへへ、そうかな」
ベルの賞賛に照れくさそうに少女は頬を掻く。
子供達の健気な思いに感動したベルは、大して考える事もなく拳で胸を叩く。
「そういう事なら私も手伝おう!」
「えっ? お兄ちゃんが?」
予想外の提案に子供達が目を丸くする。
呆気に取られる少年少女にベルはにこやかな笑顔で頷いた。
「ああ! 幸いまだ日が沈むにはもう少し時間がある。なら私も手伝えばなんとか日没までには花も集まるだろう」
「そうかもしれないけど……」
言い淀み、警戒するように少女がベルを見る。
ヒューマンの少年も睨みつけるようにこちらを半眼で見ていた。
貧民街に住んでいるだけあって、見知らぬ人間への警戒心が強いのだろう。
ベルには後ろ暗い事など何一つなかったが、子供達の態度も理解できたのでどう警戒を解こうかと頭を悩ましたところに、
「ライ、フィナ……この人、大丈夫」
何を以てそう判断したかは分からないが、ベルを信用すると語る
「じゃあ、お願いしよっかな?」
「悪い奴には見えないしな」
ひそひそと話し合って頷き合うと、子供達は天真爛漫な笑みをベルに向けた。
「オレはライ。よろしくな、兄ちゃん!」
「私はフィナっていうの。よろしくね。ベルお兄ちゃん」
「僕、ルゥ。よろしくお願いします……」
警戒した様子から一転、好意的な笑顔を向けられたベルはそれに戸惑う事もなく、返すように明るい笑みを浮かべる。
「よろしく! ライ、フィナ、ルゥ!」
一人ずつ握手を交わして一瞬で打ち解けるベル。
子供達も年は違えど新たな友達の出現にどこか嬉しそうだった。
「良し! ではみんなで日が沈む前に美しい花飾りを作り上げようとではないか!」
「おう!」「うん!」「頑張る……!」
それぞれ違う形で意気込みを表し、四人は花を探して歩き出した。
兄が子供達と楽しげに話している時、レフィーヤは驚きに固まって目を見開いていた。
「ねぇねぇどうしたの? なんだかすっごく困ってるみたいだったけど」
「あんたねぇ……知らない人に見境なく話し掛けてるんじゃないわよ」
レフィーヤの前には褐色の肌を惜しげもなく晒したアマゾネスの二人がいた。
その顔はレフィーヤも見慣れたものでありながら、彼女が見た事もない表情を浮かべている。
そして何より、二人の隣にはもう一人、レフィーヤが良く知る顔があった。
「何か、あったんですか?」
表情乏しく、首をかしげて訊ねてくる金髪の麗人。
世界一美しい尊顔を前にして、レフィーヤは呆然と呟いた。
「お姉様……」
「「「お姉様?」」」
突拍子もない妖精の言葉に、アマゾネスの少女達と金髪のヒューマンは揃って首をかしげた。
普段アルゴノゥトは描写が難しいですね。参考資料が少ないのもありますが、同じ文章でも声があるのとないのとでは微妙に受ける印象が変わってくる気がします。
次回:それぞれの邂逅