道化英雄譚   作:真黒 空

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短いですが、まだ続けますという意思を込めて投稿です。
待ってくださっていた方、ありがとうございます。


5:墓参り

 

 ベルとレフィーヤがヘスティアファミリアに入団した翌日。

 ギルドの事務室で一人のハーフエルフが眉間に皺を寄せてため息をついていた。

 

「お疲れ~エイナ。なんか凄い人だったね」

 

 そう言って近付いてくるのはハーフエルフの少女、エイナの同僚であるヒューマンのミイシャだ。

 

「うん……冒険者に憧れてくる人は多いけど、あの子はなんていうか……濃かったね」

 

 ついさっきまでギルド中に響き渡るような大声とハイテンションで冒険者登録を済ませた白髪のヒューマンを思い返して、エイナは苦笑いを浮かべる。

 冒険者というのは職業柄なのか個性的な人が多いが、あの子はその中でも一際飛び抜けていた。

 

「エイナってモテるけど、初日で、しかも冒険者になる前から口説いてきたのってあの子が初めてなんじゃない?」

「からかわないでよ。私だってびっくりしたんだから」

 

 笑って問い掛けてくるミイシャに、盛大に肩を落としながらエイナは答える。

 なんだか見慣れない可愛らしい男の子が入ってきたと思ったら、開口一番に大声で口説かれるとは考えてもみなかった。しかもその後、エイナが答える間もなく連れのエルフの女の子に殴り飛ばされたのだから、これで驚くなという方が無理だろう。

 

「からかってるつもりはないんだけど……エイナはどうするの?」

「どうするって、どういう意味?」

「決まってるじゃん! あの子の誘い、受けるの?」

 

 両手を胸の前で握って前のめりになるミイシャの目は、きらきらと輝いていた。

 ギルド職員といっても年頃の女の子。他人の色恋沙汰には興味津々らしい。こういうところは学区にいた頃から全然変わらない。

 

「そんなわけないでしょ。まだ会ったばっかりだっていうのに。それに私、公私混同するつもりはないから」

「えー、でも一緒にご飯行ったりするくらいなら別に問題ないでしょ。エイナだって担当冒険者とたまにしてたわけだし」

「それはそうかもしれないけど、あれは別に疚しい気持ちがあったわけじゃ……」

「そうそうやめときな。見込みのない奴に気を持たせたって意味ないよ」

 

 下世話な方向にエイナとミイシャが盛り上がっていると、少し離れた場所から狼人(ウェアウルフ)の受付嬢であるローズが割って入ってきた。

 

「ローズさん、見込みがないっていうのは……」

「あんたも分かってるだろ。ありゃ早死にするよ。間違いない」

 

 断言されて、思わずエイナも沈黙する。

 ギルドの受付嬢なんて仕事を長くやっていれば、新たに門を叩いてきた冒険者に見込みがあるかの判断がなんとなくつくものだ。

 そして彼女の言う通り、エイナも先程の少年は冒険者の器ではないと感じていた。

 

「あの坊やにくっついてたエルフの子も気の毒なもんだよ。十中八九、巻き添えで死ぬね」

「ローズさん! そうやって決めつけるのはどうかと思います!」

 

 あまりの物言いに反射的にエイナは食って掛かる。

 ギルドやダンジョンでは日常的な話かもしれないが、人の生き死にが関わる事だけに気軽に断定するのは憚られた。

 しかしエイナの異議にローズはニヤリと口の端を吊り上げる。

 

「じゃあ賭けるかい? あの坊やがどれくらいもつか」

 

 その言葉に、話を聞いていた受付嬢達がこぞって賭けに参加し始める。

 半年、三カ月、一か月と、次々に金貨が集まり賭場が形成される。最短で半月と予想する者すらいた。

 あまりに不謹慎な行為に、エイナの顔が真っ赤に染まる。

 

「結構です! そこまで言うなら、私が担当アドバイザーになって彼を立派な冒険者にして見せます!」

 

 予想外に放たれたエイナの叫びに、賭けに参加していた受付嬢達は目を丸くする。

 それもそうだろう。エイナは上層部から別件を押しつけられている最中で、担当冒険者を持つ余裕などない事はここにいる全員が知っていた。

 しかし撤回する気はないのか、エイナは一人くらいなら大丈夫だと頑として譲らない。

 

「じゃあ私はあの子と一緒にいた、エルフの女の子のアドバイザーやろっかな」

 

 そっと手を挙げて、ミイシャが立候補する。

 驚いてエイナが振り返ると、照れくさそうに頬を掻いたミイシャが控えめな笑顔を浮かべていた。

 

「二人で一緒にサポートして、冒険者として成功させてあげようね」

「ミイシャ……」

 

 おそらくミイシャもあの男の子に冒険者としての素質はないと感じているだろう。

 担当冒険者が亡くなるのは、相手がどんな人であれつらいものだ。

 なのに自分に付き合ってアドバイザーになってくれるというミイシャに、嬉しくなってエイナは思わずその両手を握り締める。

 

「うん! ありがとうミイシャ!」

 

 こうしてベル・クラネルの担当アドバイザーにはエイナ・チュールが。

 レフィーヤ・ウィリディスの担当アドバイザーにはミイシャ・フロットがつく事に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者登録を済ませてギルドを出た後、ベルはレフィーヤと共にオラリオを訪れたら必ず行こうと考えていた場所に向かった。

 レフィーヤにはついて来なくていいと言ったのだが、いつもとは違う兄の雰囲気を感じ取ったのか「邪魔でないのなら連れて行ってほしい」と頼まれ、二人で行く事にした。

 常にテンションの高いベルがこの時ばかりは大人しく、無言で二人は歩き続ける。

 途中でなけなしのお金を使って花束を2つ買い、やがて辿り着いたのはオラリオの第一墓地だった。

 

「ここって、もしかして……」

 

 何かを察したレフィーヤに、ベルは無言で微笑み墓地の奥へ進んでいく。

 そしてある墓地の前で立ち止まる。

 

「来るのが遅くなってしまってごめんなさい。お父さん。お母さん」

 

 祖父から聞かされていた両親の墓に買ってきた花束を供え、ベルは膝をつく。

 

「もっと早く来たいとは思っていたんだけど、ここは気軽に来られるような場所でもなかったから」

 

 そう言って微かに笑いながら、ベルは父親譲りの深紅(ルベライト)の瞳を細める。

 

「僕はもう、14歳になりました。立派に……と言えるかは分かりませんが、健康で元気に生きています」

 

 いつものおどけた態度も、芝居がかった口調も取り払い、この時ばかりはただのベル・クラネルとして言葉を紡ぐ。

 14歳の、ただの子供として。

 

「こっちいるのは、妹のレフィーヤです。血はつながっていませんが、僕の家族です。レフィーヤがいてくれるから、僕はお父さんとお母さんがいなくても寂しくはありません」

 

 無言でレフィーヤがお墓に向けて頭を下げる。

 それを横目で見て、ベルは視線を再びお墓へと戻した。 

 

「僕はこのオラリオで、冒険者になりました。まだひよっこですが、お父さんと同じようにこれからは冒険者として、英雄を目指そうと思います」

 

 顔を上げて、空を見上げる。

 晴れ渡る空に――その向こうにいる誰かに伝えるように、ベルは告げた。

 

「だからどうか、見守っていてください。あなた達が誇れる息子であれるように、あなた達が笑って見ていられるように、僕は精一杯生きていきますから」

 

 手を合わせ、目を瞑って黙禱を捧げる。

 後ろでレフィーヤも同じようにする気配があった。

 それからしばらく、ベルは祈りを捧げ続けた。

 

「もう、いいんですか?」

 

 ベルが顔を上げると、後ろからレフィーヤが問うてくる。

 

「ああ。だがもう少し、付き合ってもらってもいいだろうか?」

「もちろんです」

 

 ベルが問うとレフィーヤも迷わず頷いでくれる。

 できた妹にベルはわずかに頬を緩めると立ち上がった。

 

「ユーリさんやガルムスさんのお墓を参るんですか?」

 

 この第一墓地には古代の英雄の記念碑(モニュメント)も建てられている。

 かつての旧知の墓前にも花を供えるのかという妹の問いに、ベルは目的地に歩を進めながら首を横に振った。

 

「いや、彼らに何かを報告できるほどの活躍をまだ私はできていない。墓を参るのはこのオラリオで一番の酒を飲みながら私の冒険譚を話す時までお預けだ」

「そのこだわりは良く分からないですけど、なんだか兄さんらしいですね……」

 

 少しだけ呆れを含んだ声が返ってくる。

 レフィーヤは会いたいだろうかと横目で顔を窺ってみるが、隣を歩く妹が気落ちしている様子はなかった。

 

「じゃあ、一体どこに?」

「ああ……ちょっとな」

 

 言葉を濁して、ベルはそのまま歩く。

 そして墓地の外れ、他のお墓からは遠く離れた茂みの奥に進むと、やけにみずぼらしいお墓がポツンと3つだけある場所に出た。

 

「どうしてこんなところにお墓が……?」

「事情があって、別にしたらしい。当然私も、来るのは初めてだが……」

 

 そう言ってレフィーヤに持たせていた花束を受け取り、ベルは墓に供える。

 

「どなたなんですか?」

「伯母だと……聞いている。それから父が世話になった人らしい」

 

 私は会った事がないがな、と小さくベルは付け加える。

 両親は物心ついた時にはもうおらず、親戚が訪ねて来るような事もなかった。

 ベルが実際に話した記憶のある唯一の家族は、レフィーヤを除けばおじいちゃんだけだ。

 

「じゃあこっちのお墓は?」

「そちらは私も良く知らないんだが、二人とは浅からぬ縁だったそうだ」

 

 ベルが知っているのは、ここに伯母を含めた3人の墓があるという事だけ。

 そしておじいちゃんから聞かされた、伯母とその友人であった彼の人となりくらいのものだ。

 

「私に墓参(ぼさん)などされても彼らは喜ばないかもしれないが、それでも一言だけ伝えておきたかったからな」

 

 片膝をつき、右手を胸に手を当てながら、ベルは強い意志を宿らせる瞳を墓に向けた。

 

「来たよ、伯母さん」

 

 その声は力強く、自信に溢れていた。

 

「英雄になるため、この私がオラリオに」

 

 胸を張って告げるその姿は、まるでどこかの英雄譚に出てくる英雄のようで。

 レフィーヤは目の前の兄が3000年前のあの時に戻ったかのような、そんな錯覚を憶えた。

 

「だから安心して、眠っていてくれ」

 

 笑顔でそう言うと、ベルは片膝をついた姿勢のまま黙祷を捧げる。

 しかしそれは両親にしていた時よりも遥かに短い時間で終わり、すぐにベルは立ち上がった。

 

「兄さん……?」

「もう行こうか。妹よ」

 

 優しい笑みで促され、レフィーヤは何を言っていいのか分からず、無言のまま兄の背を追った。

 少しして兄が自分の手を握ってきたので、レフィーヤもそっと握り返した。

 





ベルの両親の墓の所在は捏造です。
そもそも母はともかく父の方はまだ生きてる可能性も微レ存あると思ってるので、今後の情報によっては後々修正するかもしれません。

ダンメモコラボでの再登場もあり、続けてほしい(意訳)という感想もいただけたのでなんとか復帰しました。

投稿は遅くなってしまうと思いますが、構想は結構できているのでちょくちょく進めていけたらと思っています。
ただ文字数を気にしていてはいつまで経っても投稿できなさそうだったので、これからはあまり気にせずキリの良い所までできたら文字数が少なくても投稿していこうかと考えています。

あとアンケート結果は『酒場の店員、ポンコツ妖精リューさん』になりましたのでリュー・リオンの立ち位置は原作通りになります。
協力してくださった皆さん、ありがとうございます。
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