「ところで、カサンドラ嬢は一体何を探しているんです?」
「は、はい!?」
手をつないで意気揚々とデートを始めたベルは、半分口実になりかけていた目的を思い出して首をかしげた。
しかし問われたカサンドラは、いきなり手をつながれた事の動揺がまだ抜けきらないのか素っ頓狂な声を上げる。
「え、えっと……紐でラッピングされた緑色の芋を、探してます」
「……は?」
何度か深呼吸して落ち着きを取り戻したカサンドラの答えに、思わずベルは間抜けな声を出してしまい聞き間違いかと疑う。
そんなベルの心境が顔と声から伝わったのか、カサンドラは俯いて言いづらそうにしながら、もう一度か細い声で同じ言葉を繰り返した。
「だから、その……紐でラッピングされている緑色の芋を……」
最後の方は隣で歩いているベルにも聞き取れるか怪しい声量だった。
しかしどうやら聞き間違いではなかったらしい。一体なぜ彼女はそんな奇天烈なものを求めているのか。
納得のいく理由をなんとか見つけようとベルは頭を捻る。
「それはマジックアイテムか何かですか? それとも私の知らない隠語とか……?」
「い、いえ……! そうじゃなくてですね……」
咄嗟に考えたそれらしい理由はあっさりと否定される。
そうなるとベルにはもうどんな理由でそんなものを探しているのか予想もつかず、逆に興味がそそられてくる。
そしてカサンドラが口にした理由は、やはりベルの想像を斜めにどころか明後日の方向に超えたものだった。
「ゆ、『
「……夢?」
「は、はい。実は昨日の夜ダフネちゃんと――あっダフネちゃんっていうのは同じファミリアの友達で、でも、その、喧嘩しちゃって……」
首をかしげるベルにカサンドラが脈絡なく説明を始める。
いきなりの私的な話にベルは驚いたが、明らかに口下手なカサンドラの話の腰を折るのも憚られたため黙って耳を傾ける。
「喧嘩っていっても、私が一方的に怒らせちゃっただけで、ダフネちゃんは悪くないんです。……だからどうしたら仲直りできるかなって考えて眠ったら、『
「……」
「それでその……芋の場所までは兎が案内してくれるみたいで、オラリオで兎っていえばアルミラージかなと思ったんです。でも私一人じゃ中層には行くのは難しくて、どうしようか考えて街を歩いてたら、ベルさんとぶつかって……」
「……」
話について行けず、だがなんとか理解しようと集中して聞いていたベルは、いつの間にか話していたカサンドラがなぜか黙り込んでチラチラと自分の顔を見ている事に気付く。
いままでの話を総合するに、彼女が言葉を切った理由は――
「つまり……私の容姿が兎に似ているから、私といれば探し物が見つかると思ったと……もしかして、そういう事だろうか?」
「は、はい! その通りです!」
「……」
まさかと思って突拍子もない推測を口にすると、ぶんぶんと勢い良く頭を振ってカサンドラが頷く。しかし夢で仲直りの道具を見つけたからそれを探してる、なんて物心ついた子供の主張でもあるまいし、到底信じがたい話だ。周りと比べて夢見がちなベルでさえ、そのあまりの信憑性のなさに思わず閉口してしまうほどに。
だがいつもなら笑い飛ばすかふざけて誤魔化すようなベルがそうできず、咄嗟に沈黙を選択してしまったのには訳があった。
「あ、あの……やっぱり信じてもらえませんよね……」
夢で見た芋を探してる、なんて妄言を語ってベルを見つめてくるカサンドラの表情が不安と落胆に揺れていたのだ。
さっきベルが言葉を先取りして推測を口にした時には、期待と喜びで輝いていたはずの瞳が、見る見るうちに諦めと失望で暗く澱んでいく。
それはベルがこの世で最も見たくない変化で。
気付いた時にはベルは笑顔で口を開いていた。
「ならば私は、なんと幸運なのでしょう!」
「えっ……?」
突然大声を上げるベルに、カサンドラが目を丸くする。
しかしベルは構わず声を大にして続けた。
「あなたの夢のおかげで、私達は今日出会う事ができた! 私はあなたに頼られる事ができた! なんという奇跡! なんという数奇な出会い! きっとあなたが見た夢は、まだこの下界に降り立っていない神々の祝福です!」
目の前の少女が口にした夢とやらを、ベルはこれっぽちも信じる事ができない。
自分と一緒にいたからといって、紐でラッピングされた緑色の芋なんてみょうちきりんな物が見つかるわけがない。
けれど、それで彼女の笑顔が曇ってしまうというなら。
ベル・クラネルは全身全霊でそれを見つけ出そう。
彼女が見た夢を、ただの夢ではなく真実へと変えてみせよう。
それこそが彼女に頼られ手を取った
「この幸運とあなたの夢に感謝を。私は必ず、あなたの探し物を見つけてみせます」
つないだ手を胸の前まで持ち上げ、ベルはカサンドラの目を真っ直ぐ見つめて宣言する。
街中で大声を上げて立ち止まってしまっているため周囲から注目を集めてしまっていたが、ベルはまるでそんなもの気にしていなかった。
そしてカサンドラも――
「祝福……? わたしの、『
呆然と、いつも半分ほどしか開いていない
その美しい瞳はベルを映しているのに、彼女の意識の中にベルはいなかった。
カサンドラの心はただ初めて告げられた言葉を噛み締め、不意にベルへと向けられた瞳に涙が滲む。
「あっ、その、ごめんなさい……わたしっ……!」
顔を逸らしながらベルに掴まれていない方の手で口元を押さえ、カサンドラは狼狽しながらなんとか必死に言葉を吐き出す。
「そんな事……言われた事なくて、だから、その……」
続く言葉が出て来ないのか、俯いて黙り込むカサンドラ。
しかしそれもほんの10秒ほどだった。
片手で涙を拭い、大きい息を吸い込んだカサンドラが顔を上げる。
そしてベルの前に、目元に涙を残した輝かしい笑顔が飛び込んでくる。
「ありがとう……ございますっ……!」
オラリオの女性はなんて美しいのだろうと、そんな事をベルは思った。
「あ、あの……すみません。あんなところで、いきなり泣き出してしまって……」
ぺこりと、申し訳なさそうにカサンドラが頭を下げる。
ベルの歌劇のような大声とカサンドラの涙で注目を集めてしまった二人は、逃げるように近くの店に駆け込んだ。
幸い飲食店だったようで、奥の目立たない席に座り飲み物を注文したところで、カサンドラが先程の謝罪したという成り行きだ。
「なに、気にする事はありません。むしろ私の方こそ、あのような場所で女性に恥をかかせてしまい面目次第もない」
「そんな……! べ、ベルさんは、何も悪くない、です。む、むしろ……!」
「……むしろ?」
「い、いえ! その、えっと、なんでもなくて……で、でもとにかく、ベルさんが悪いなんて事、絶対にありません……!」
ベルが聞き返すと、カサンドラは手をあわあわと忙しなく動かして動揺を露わにしたが、それでもいままでの自信のない態度からは考えられないほど強い口調で言い切る。
「ハハハ、そう言ってもらえるとありがたい。そのお礼というわけではありませんが、なんとしてもカサンドラ嬢の探し物は見つけなくてはネ!」
カサンドラの気遣いに乗っかりベルは朗らかに笑う。
だが内心では、それを叶えるのがどれだけ難しいかを想像して冷や汗を掻いていた。
その場の勢いで必ず見つけると言った事に後悔はないが、困難な道になる事はまず間違いない。
おそらくはそんな実在するかも怪しいものを見つけるよりかは、普通に友達と仲直りする方法を考える方が簡単だとは思うのだが、きっとそれでは彼女を十全に喜ばせる事はできないのだろう。
何よりそれがどれだけ困難であろうと、一度口にした事を翻すのはベルの信条に反する。
「えっと……恥ずかしいので、その……カサンドラ嬢っていうのは、やめてもらってもいいですか?」
「むむっ、これは失礼を。ではなんとお呼びしましょうか? 姫?」
「ひ、姫!? わ、私はそんな大したものじゃないです! 普通に呼び捨てで大丈夫です……敬語とかも、必要ないです」
ベルの提案にブンブンと首がもげるのではないかと疑いたくなる勢いで横に振るカサンドラ。
その可愛らしい反応に笑みを零しながら、ベルは大仰に頷く。
「ではそうさせてもらおう! 実は敬語とか苦手だったんだよネ!」
それが本気か冗談かはともかく、一瞬で言葉遣いを普段のものに戻してベルも同じ提案をする。
「カサンドラも私の事は呼び捨てでいいぞ! 私の方が年下なんだし、敬語も不要だ!」
「い、いえ、私はその、ため口とか呼び捨てとか慣れてなくて、だからこのままで結構です……」
「そうか、それは残念だ。カサンドラのような美女には是非私の名前を親愛を込めて呼び捨ててほしかったのだが」
「び、美女!?」
あからさまに肩を落とすベルとは対照的に、流れるように溢れ出てくる賛辞に過剰な反応を返すカサンドラ。あまりベルの周りにいなかったタイプの女性なだけに、ベルの口の滑りも軽くなっていった。
「ところで先程喧嘩した相手は同じファミリアと言っていたが、カサンドラはどこのファミリア所属なんだ?」
「わ、私は、アポロンファミリアです。えっと……ダンジョン探索系の、ファミリアです」
「なんと! ではカサンドラも冒険者なのか?」
「は、はい。えっと、『も』って事は、もしかしてベルさんも冒険者なんですか?」
「ああ! 先日オラリオに来て冒険者登録を済ませたばかりの駆け出しだ!」
なぜか自慢するようにベルは胸を張る。
相手がレフィーヤであればここで呆れたような突っ込みが入るのだが、カサンドラは驚いて感心するばかりだった。
というか、ダンジョン帰りの自分は防具を身につけたままなので一目で冒険者と分かる格好をしているはずなのだが、彼女は気付いていなかったのだろうか?
訊いてみたい気もしたが、淑女に恥をかかせるのは紳士失格。内心をおくびにも出さず、ベルは何食わぬ顔で会話を続けた。
「カサンドラはあまり前線で戦うようには見えないが、魔法メインで戦う後衛なのか?」
「い、いえ。後衛ではありますけど、攻撃魔法は使えなくて……だから私は、支援を担当する
「ほぅ、それは凄い! 回復魔法を使える冒険者は魔法が使える者の中でも珍しいと聞いているぞ!」
「そ、そんな大した事ないです……私なんか、いつも迷惑掛けてばっかりで……」
「謙遜する必要はない!
「あうぅ~……」
ベルの賞賛に顔を真っ赤にしてカサンドラは俯く。
可愛らしいのだが、そのせいで話は中々進まなかった。
「べ、ベルさんはどこのファミリアなんですか?」
と、思ってら今度はカサンドラの方から質問をしてくる。
「私か? 私はヘスティアファミリアだ!」
「ヘスティアファミリア……すみません、その、聞いた事がなくて……」
「無理もない。なんせ先日私達が入ってできた新興派閥なのだからな。むしろ知っていた方が驚きだ」
「そ、そうなんですね。じゃあベルさんは
「いや、妹と一緒にしている。自分で言うのもなんだか、私は大して強くないからな。モンスターにやられそうになる私を、妹がいつも助けてくれるんだ!」
ハハハ、と笑いながら情けない事を胸を張って堂々と口にするベル。
しかしそれを聞いたカサンドラは何やら真剣な顔で考え込み、期待するような眼差しをベルに向けた。
「じゃ、じゃあやっぱり、結構怪我なんかもしたりするんですか……?」
「ああ。冒険者なら当然なのだろうが、毎日生傷が絶えない。まだ探索を始めて5日程度だが、既に何度か死にかけたな!」
「だ、だったら私が一緒に――」
「あの時は妹がいなかったら本当に死んでいたかもしれない。怪我なんかは妹が治してくれるんだが、そのたびに無茶はやめろと文句を言われるんだ」
「あっ、妹さんも
ずーんと、なぜかカサンドラが盛大に肩を落とす。
「あ、あれ? 私何か、変な事を言ってしまったか?」
「いえ……なんでもないんです。なんでも……」
心なしかカサンドラの目が潤んでいるように見えたが、そこに触れてはいけないとベルの直感が全力で叫んでいた。
自分の感覚を信じて、ベルはカサンドラの様子には触れずに露骨に話題を変えた。
「そ、そういえば、カサンドラは喧嘩した友達のために探し物をしているんだったな。その友達も同じファミリアなのだろうか?」
「は、はい。同じアポロンファミリアで、ダンジョン探索なんかも、いつも一緒に行くんです……」
「なるほど。もし良ければ、詳しく話を聞かせてもらっていいだろうか?」
「だ、ダフネちゃんの話をですか!? そ、そんな、一体どうして……!?」
身を乗り出す勢いで机を叩きカサンドラが問うてくる。
さっきまでの過剰な反応よりさらに過剰な、大袈裟ともいえる態度にさすがのベルもギョッとする。
「いや、新米冒険者として是非とも経験のある先達の話を聞いておきたかったのだが……何かまずかっただろうか?」
「あっ! そ、そういう事ですか…………えっと、その……良かった、です……」
「良かった?」
何やら良く分からない答えにベルは首をかしげるが、それに対する返答はない。
カサンドラは顔を逸らしながら何やら独り言を言っており、「……ダフネちゃんに興味があるわけじゃないんだ」といった呟きが小さく漏れ聞こえてくる。
「え、えと、ダンジョンの話ですよね。もちろん大丈夫です。じゃあこの前に行った、遠征の話なんですけど……」
気を取り直してカサンドラが拙く話し始める。聞き入るベルは、時折大袈裟なリアクションを取りながら終始笑っている。
そんな二人の様子は、傍から見れば間違いなくデートそのものだった。
「もうそろそろ日が沈むな」
「す、すみません……時間も考えずに話し込んでしまって……」
店から出て天を見上げると、もうすっかり青かった空は赤く染まり、太陽の反対方向には星がまたたいていた。
「何を言う! ダンジョンの話を聞きたいと言ったのは私の方だし、非常に興味深く楽しい時間だった。むしろ私の方がお礼を言いたいくらいだ」
「そ、そんな……」
本当は落ち着いたらすぐに出る予定だったのだが、思いのほか話が盛り上がったためすっかり時間を忘れて楽しんでしまった。
それはデートという意味ではこれ以上ないほど成功なのだが、当初の目的からすれば完全に失敗だった。
「これではもう探し物をする時間がないな……」
「そうですね……」
あと30分もしないうちに日は沈み夜になるだろう。
そうなれば芋を売っている店は軒並み閉まり、彼女が目的とする『紐でラッピングされた緑色の芋』を入手する事は物理的に不可能になる。
同じ事をカサンドラも考えているのか、その表情は店で話していた時よりも随分と暗い。
「カサンドラ、もし良ければなんだが……明日も一緒に夢に出てきたという芋を探さないか?」
「えっ……」
彼女の落ち込んだ顔を見ていたくなくて、ベルはそんな提案した。
「今日見つけられなかったのはもうどうしようもない。だがきっと、明日は見つかる。だからもし予定がないのなら、私と一緒に明日も芋探しをしよう」
カサンドラに予定があれば一人でも探そうとは考えていたが、それをおくびにも出さずベルは笑い掛ける。
本来なら彼女がいない間にこっそりと見つけ出してプレゼントする方が格好良いのだろうが、カサンドラが求めているのは友達と仲直りするための道具だ。それが『紐でラッピングされた緑色の芋』というのは一言物申したいところでもあるが、仮に見つけたとしてもそれが本当に彼女の夢に出てきたものなのかをベルに確認する術はない。彼女に渡した後で確認してもらうという手もないではないが、仲直りをするために探しているものなのだから、違っていた時の事も考えてできる限り時間のロスは避けるべきだろう。
となればカサンドラ本人と一緒に探すのが最も効率が良い。ついでにベルとしても美女とのデートは望むところだ。
「い、いいんですか? その、明日も付き合ってもらっちゃって……」
「もちろんだ! 何より私は君の探し物を見つけると約束した。このベル・クラネル、自慢ではないが女性との約束を破った事は一度もない! 必ずやあなたの探し物は私が見つけよう!」
ドンと胸を叩いて男らしく宣言するベル。
実は昔から結構な頻度で妹の言いつけを守らず好き勝手やらかしていたのだが、そんな事は完全に頭から抜け落ちていた。
「じゃ、じゃあ、是非明日も一緒に――」
「あー! ベル君じゃないか」
ベルの提案に顔を輝かせたカサンドラが喜びのままに頷こうとした直前、喧騒を破る大声が横合いから飛んでくる。
二人が揃って振り向くと、そこには黒髪で巨乳の、胸元が盛大に開いた白いワンピースに青い紐を纏わせた女神がいた。
「おおっ、ヘスティアか! 偶然だな!」
「こんなところで何してるんだい? もしかして、迎えに来てくれ――あれ、その子は?」
何やら紙袋を抱えて近付いてきたヘスティアは、ベルの隣にいたカサンドラに気付いて首をかしげる。
すると即座にベルが二人の間に入った。
「紹介しよう! 今日知り合った先輩冒険者のカサンドラだ。カサンドラ、彼女は私の主神、炉の神のヘスティアだ」
「よろしく、カサンドラ君!」
「えっ、あっはい。よろしくお願いします……」
持ち前のフレンドリーさを発揮して笑顔で挨拶をするヘスティアに、カサンドラは慌てて頭を下げる。
自分の主神があれなだけに、癖がなく親しげなヘスティアの態度にカサンドラは戸惑うが、それを気にする事なくヘスティアは持っていた紙袋の中から何かを取り出して彼女に差し出す。
「お近付きの印にこれをあげるよ。どうせベル君の事だ、無駄にはしゃいで迷惑を掛けたんだろうしね」
「心外だヘスティア! 女性に迷惑掛けるなんて事、この私がするわけないだろう!」
「きみ、それレフィーヤ君の前で言えるのかい?」
「もちろん!」
ジト目を向けてくるヘスティアにベルが即答すると、なぜか盛大にため息をつかれた。
解せぬ。
「ちなみにそれ、期間限定の抹茶クリーム味のジャガ丸くんなんだぜ。売り上げに貢献したからって女将さんがサービスでくれたんだ!」
「おおっ、さすがはヘスティア! 我が主神だけあって大活躍だな!」
「そうだろうそうだろう! ちゃんとベル君とレフィーヤ君の分もあるから、後で一緒に食べようぜ」
気分良く頷いて、ヘスティアはウィンクしながらサムズアップする。
ベルも一緒になってはしゃぎ、主神と眷属は周りを置き去りに騒ぎ出す。
「抹茶、ジャガ丸くん、紐……」
目の前で騒ぐ二人を見ながら、カサンドラはぽそりと独り言を呟いて真剣な表情で何かを考え込んでいた。
そしていきなりカッと目を見開くと、ベルの二の腕当たりの服を両手で掴んで引っ張る。
「こ、これですベルさん!」
「ほえ?」
「
興奮気味に、今日一番の大声を出してカサンドラが断言する。
カサンドラから出た声とは思えない声量にベルは驚きながらも、その内容を理解してポンと手を叩いた。
「ああ~なるほど。紐はヘスティアの服で、緑色は抹茶味、そして芋がジャガ丸くんという事か」
一つ一つ夢に出てきたという要素を確認して行くと、確かにそうとも言えなくはないものが揃っている。
ブンブンと勢い良く頷くカサンドラに、ベルは凄い偶然もあったものだと、このこじつけのような幸運に笑みを零した。
「という事は、これで夢で出てきた探し物は無事見つかったというわけか。私の手で見つけられなかったのは残念だが、捜索が長引かなくて何よりだな!」
「あっ、そうですね……見つかっちゃいましたね……」
自分の力とは何一つ関係ないところで目的が達成されてしまった事に複雑な思いを抱きながら、それでも本心から喜びを伝えるベルだったが、なぜかカサンドラはそれを聞いて残念そうに顔を曇らせた。
まるで見つかってほしくなかったかのような態度だが、一体どうしたというのか。
「うーん、話が見えないんだけど。何かあったのかい?」
二人のやり取りを横で見ていたヘスティアが首をかしげる。
それを受けてベルはすぐに事情を説明しようとしたが、その前にカサンドラが手と首を同時に振った。
「い、いえ、なんでもないです……ベルさん、その……ありがとうございました」
「なに、気にする事はない! 実際私は何もしていないしな」
お礼を言うカサンドラに、笑いながらベルは手を振る。
必ず見つけるなんて言っておいて、自分がした事と言えばお店に入って話し込んだくらいのもの。
その時間は大層役得ではあったが、カサンドラの探し物に寄与したところは一つもない。
しかしカサンドラの意見は違ったのか、大きく首を横に振ってベルの手を取る。
「何もしてないなんて、そんな事ないです……! 本当に、本当にありがとうございました! 私を信じてくれて……私の
両手でベルの手を掴み、涙を浮かべながらカサンドラは何度も感謝を述べる。
何が彼女の琴線に触れたのかは分からないが、それを問うのも野暮だろうと、ベルは驚きながらも彼女の感謝を変に遠慮せず受け取った。
「そ、その、ベルさん……もし良かったらなんですけど…………また、会ってくれますか?」
自信なさげな瞳をさらに不安で揺らしながら、おずおずと上目遣いでカサンドラが見つめてくる。
探し物が終わった以上、ベルにこれ以上付き合う義理はなかったが、義理のあるなしの話をすればそもそも探し物を手伝う義理すらあったかも怪しい。
何よりベルに女性からの誘いを理由もなく断る選択肢など存在しなかった。
「もちろんだ! カサンドラのような美人からのお誘いであれば、いつでも時間を空けよう! いやむしろ待ちきれずに私の方から誘ってしまうかもしれないな!」
「~~~!」
ベルの快諾にカサンドラは顔を真っ赤に染め上げ、それが恥ずかしかったのか両手で表情を隠した。
その後お互いのホームの場所を教え合って別れ、ベルは待っていてくれたヘスティアと向き合う。
「英雄はともかく、ベル君がハーレムを作るって言ってたの、割と冗談だと思ってたんだけど……」
ベルの顔をマジマジと見て、ヘスティアは怪訝そうな、納得いかないような、なんとも言えない表情を浮かべた。
「君って、意外とモテるタイプなのかい?」
「モテるかどうかはともかく、常にモテたいとは思っている!」
まるで質問の意図とは外れた赤裸々な男の子の本心を堂々と答えるベル。
ある意味それはそれで男らしいのかもしれなかった。
「処女神の眷属の答えとしてそれもどうかと思うんだけど……まぁいいや。それじゃあ帰って、ジャガ丸くんでパーティーとしゃれ込もうぜ、ベル君!」
「ああ、帰ろう! 私達のホームへ!」
笑顔で頷き合って、二人は並んで歩き出す。
そうしてベルと奇妙な予言者とのデートは終わりを告げた。
「あんた、こんな時間までどこに行ってたの?」
「あ、えっと、ちょっと探し物をしてて……」
「探し物? また夢で見た何かとか言い出すんじゃないでしょうね」
「ちがっ……くはないんだけど、そうじゃなくて、その……」
「あのね、昨日も言ったでしょ。いい加減、夢とかバカな事を言うのやめなさいよ」
「う~……」
「で、何を探してたの?」
「えっと、これを……」
「なにこれ、ジャガ丸くん?」
「う、うん。期間限定の抹茶クリーム味なんだって。昨日その、ダフネちゃんを怒らせちゃったから、そのお詫びにって思って……」
「私に? ……あんたまさか、一日中こんなのを探してたっての?」
「……」
「はぁ……バッカじゃないの。貴重なオフをこんなの買うために無駄にするなんて」
「む、無駄じゃないもん……」
「はいはい、そうかもね。じゃあこれ、貰っておくわ。いいんでしょ?」
「う、うん……」
「それじゃ着替えて、さっさと夕飯済ましちゃいなさい。あんたが食べないといつまで経っても片付かないんだから」
「うん、分かった……」
「……」
「……」
「カサンドラ」
「な、なに……?」
「……ありがとね。わざわざこんなの、買ってきてくれて」
「えっ……」
「それだけ。明日もダンジョンに行くんだから、早めに身体休めなさいよ」
「…………だ、ダフネちゃーん!」
「わっ、いきなりどうしたってのよあんた!」
「ごめんねっ……ありがとうー! ダフネちゃん!」
「意味分かんないから! というかっ、離れなさいよ!」
「うわああぁぁん!」
原作でもかなりチョロ――話してすぐにベル君に好意を示していたカサンドラさんの陥落話。
カサンドラさんを可愛く書けていたならそれだけで満足です。
書き貯め分はこれで終わりです。
感想をいただけるとその分だけやる気が上がって執筆も捗るので、もし良ければどしどしください。