勘違いしてるトレーナーとタキオンが曇る話   作:暇です

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勘違いしてるトレーナー

 まずは、俺がタキオンのトレーナーとなるまでの話をしようか。

 

 俺は何事でも過大評価されることが多かった。

 

 俺がまだ学生だった頃の出来事だ。

 

 数学が好きだった俺は数学のテストで満点を取ろうと毎日勉強していた。でも結局満点は取れず、90点という努力した凡人らしい結果が出た。

 

 けれども、大した勉強していなかった他のテストでは、選択肢とか勘で書いた答えが全て当たっていて、高得点を叩き出しまくっていた。

 たまたまその時のテストが難しく平均点が低かったことにより、俺は総合順位で一位を取った。

 

 まあ、こんな事があれば勿論周りには実はすごい奴だったんだなみたいな目を向けられる。

 

 俺がトレーナーとなったのも同じような事がきっかけだ。

 

 俺は他の事に向けて精進していたのだが、親からウマ娘のトレーナーにならないかと誘われた。

 

 実際、俺は子供の頃レースを見に行って彼女達の情熱、気迫に圧倒され感銘を受けた。そのウマ娘のトレーナーに憧れは確かに抱いており、親からの強い推薦を断ることはできなかった。

 

 そうしたら、たまたま受かった。

 

 まあ、俺も自分なりに精一杯の努力はしたんだ。片っ端からウマ娘について調べて、実際に足を運んで何度もその姿を目に焼きつけた。

 面接の練習なんて飽きるほど繰り返したし、知識量だけならばそこらのトレーナーに負けないように詰め込んだ。

 

 とは言ってもトレーナーは狭き門。俺みたいな凡人がちょっと努力しただけじゃその門はくぐれるはずもない。

 テストで自信を持って合ってると言える問題なんてほとんど無かったんだ。

 

 面接もそりゃあ精一杯やったが、俺のはいたって平凡な物だ。周りの人達は俺じゃ全く理解できないような難しい内容を喋っていたり、生まれがえげつなかったりもした。後は全員顔が良かった。

 

 まあ、家に帰るときには俺は完全に諦めムードで、完全に落ちたと思っていたよ。すると何故か来た合格通知、見た時は何かの間違いじゃないかと疑った。

 

 本来なら、そんな物は辞退するべきだったんだろう。実力じゃないんだからな。そんな奴がトレーナーになってもウマ娘の可能性を無くしてしまうだけだ。

 

 でも、その時の俺はウマ娘への憧れを抑えきれなかった。運良く転がり込んできたチャンスをみすみす手放すなんて出来なかったし、周りからの期待もあったからな。

 

 別に超一流トレーナーになる必要はない。多少の才能の差は死に物狂いでした努力で何とかカバー出来るだろうと思っていた。

 

 で、何やかんやあってタキオンのトレーナーになった。何で俺になったのかはよく分からない。どうせ俺の妙な悪運が働いたんだろう。

 

 勿論全力で指導をした。片っ端からタキオンのデータを集めて、最適なメニューはどんなものか寝る間も無く考えた。出来上がったのはいたって無難なメニュー。凡人らしいと言えばそうなのだろうが、何とも不甲斐ない自分のことを責めた。

 

 けれど、俺はそこでミスを犯した。練習量を1.2倍にしてしまったのだ。単純な計算ミス、凡人以下のミスを犯したのだ。

 

 たかが0.2倍と言う人もいるかもしれない。しかし、その0.2倍と言う数字はとてつもなく大きい。そもそもがかなりキツいメニューを1.2倍になんてしたら最悪足が壊れてしまうことだってありえる。

 

 けれども、運がいいの悪いのか分からないがそんな事は起きなかった。逆に、限界ギリギリを見定めてメニューを組んでるのか! みたいに周りからの評価が上がることとなった。

 

 他にも、少しでもタキオンの力になれるようマッサージの方法とか、足を労るにはどんな物を食べればいいかを調べて実践しようとした。

 

 正直言ってそういう類のことに関してはタキオンの方がはるかに詳しいと思う。その時の俺は少しでも自分に出来ることを探すのに必死で、気づかなかった訳だが。

 

 その時タキオンは足を痛めていたのを俺に隠していたようで、それに気がついたことにされた。勘違いされてるとはいえ、タキオンが足を壊すのを防げたと安堵していたから俺はそこまで気にしていなかった。

 

 今思えば、あそこが分岐点だったのではないだろうか。

 

 その時から、タキオンから熱っぽい視線を感じるようになった。俺に取る態度はあまり変わらない。最初は気のせいだと思っていたのだが、日々タキオンからの視線は熱を増すばかり。

 

 俺は鈍感トレーナーではないので、そこでタキオンが俺に好意を抱いているというのは分かった。

 

 でも、その好意を受け止めることは俺には出来なかった。

 

 タキオンが好意を抱いているのは、『タキオンの中での俺』であって俺ではない。これ以上、タキオンを騙し続ける訳にはいかない。

 

 俺への評価が増すにつれて、そんな思いは強くなっていった。

 

 

 

「私はトレーナーくんと出会えて良かったよ」

 

 やめてくれ、俺はそんな大した人間じゃないんだ。

 

「トレーナーくん、この後ディナーにでも行かないかい?」

 

 悪いが、お前の思いには答えられないんだ。お前が恋してるのは俺だけど、俺じゃないんだよ。

 

「このレースで勝てたのは、トレーナー君のおかげだよ」

 

 違う、違うんだ。 

 

「トレーナー君……私は君のことが」

 

 もう、やめてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、俺はお前のトレーナーを辞めることにしたよ」

 

 いつも通りの研究室。タキオンが入れてくれたコーヒーがほのかに湯気を立てている。

 

「……え? なんて言ったんだい、トレーナーくん」

 

 俺が言ったことが理解できてないようで、キョトンとした顔をしているタキオン。けれども、そのルビーのような赤い瞳からは恐れと不安がありありと感じ取れた。

 

「今言った通りだ。いや……今日でトレーナーそのものを辞めるよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

 

 机の上にあるコーヒーに手をつけ、一口飲む。さっき入れたばかりというのに、コーヒーは既に冷めきっていた。

 

「実はな、俺はお前が思っているような人間じゃないんだ。今までの評価されてる凄腕の指導も全部偶然、ただのまぐれだ」

 

「な、何を言っているのか分からないよ、トレーナーくん」

 

 そう言って、ソファーから立ち上がりタキオンに背を向ける。これ以上、自分のせいで彼女の顔が悲痛に歪むのを見たくはなかった。

 

「じゃあな、お前と居た時間は楽しかったぜ」

 

 そう言って、静かにドアを閉める。部屋の中から聞こえてきた、全ての感情をぐちゃ混ぜにした啜り泣く声は、聞かないふりをして。




色々とガバいけど何となく上げてみた。
ハッピーエンドにしたい。したいだけ。
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