ラッセンの戦い ―Battle of Lassen― 作:みん提督
アウターリムのはずれの小さな星系。そこには銀河随一の美しさを誇る惑星が浮かんでいた。
惑星表面の8割を占める海洋は蒼く輝き、珊瑚礁によって形作られた島嶼群に、様々な生命が存在していた。
今も大部分では美しい環境が残っている。
だが、惑星の一部、かつては王都と呼ばれていた歴史ある街は廃れ、劣悪極まりない貧民街となっていた。
都市の中央、王宮があった場所には鉱石採掘のための巨大なボーリング塔が聳え立ち、古びたドロイドや貧相な格好をした元市民が休みなく働かされていた。
ボーリング塔の真横にある帝国軍管理センターには、高らかに帝国国旗が掲げられていた。
ここは惑星ラッセン。美しく、平和だった国は跡形もなくなり、代わりに銀河の覇者たらんとする銀河帝国が君臨し、市民、そして惑星そのものを食い散らかしていた。
惑星ラッセン軌道上、銀河帝国軍
そこには3人の提督と1人の将軍、そしてラッセン含む近隣星系を統括するモフ・ナミエの5人の高位軍人が常駐し、銀河帝国の力を誇示していた。
圧倒的な軍事力を誇る帝国軍だが、ヤヴィンの戦い以降、その力は一時的に弱まっていた。
帝国恐怖の象徴として君臨するはずだったデス・スターは反乱軍との戦闘で喪失。
さらにはデス・スター司令官であり、モフ総司令官たるグランド・モフ・ターキンも戦死し、生存者はベイダー卿たった1人という史上最悪の敗北を喫して半年。
未だに回復しきったとは言い難い帝国軍は特に高位軍人が足りなくなり、特例的に将軍や提督に抜擢される将校が増え、軍はバランスを欠いていた。
また、勢い付いた反乱軍による攻撃が激化。これに触発されて各惑星でも蜂起運動が続発するなど、帝国にとって苦しい時代であった。
しかし、元より海とも称される帝国艦隊は未だそのほとんどすべてが健在であり、各地の戦闘で順調に勝利を重ねつつあった。
だが、戦力不足は目に見えていた。戦闘任務はもちろんのこと、警戒すべき航路や反乱軍の拠点発見のための調査部隊など、副次的な任務が増えたことにより、さらに高性能なスター・デストロイヤーをより大量に配備する必要性に迫られていた。
銀河に無数に存在する帝国軍造船所にも、艦艇の増産と新規開発命令が出され、同時にそれの防衛や警戒も強化されていた。
ラッセンの造船所は特にその最たるものとして3隻のスター・デストロイヤーを中心とした艦隊が配備されていた。
そして、その内の1隻であるモフ・ナミエの旗艦『サーモン』では、5人の高位軍人たちの定例会議が開かれていた。
「何度言えばわかる、ラルフ提督。今以上の厳重警戒など戦力の過剰投入だ。そんな余裕など今の帝国軍にはない」
外見からもわかるほどのもて余された贅肉を特注の椅子に沈め、虚ろな目で彼を睨むのはセクター7星系総督モフ・ナミエだ。
「それは重々承知です。ですが十中八九、反乱軍は次にここへやってきます。どれだけの戦力で来るかわからない以上、万全の戦力で彼らを迎え撃つ必要があります。そのためには少なくともあと2隻のスター・デストロイヤーが……」
「提督、二度は言わんぞ」
ラルフの言葉を遮り、モフ・ナミエは色味と光を失った目でまたしても彼を睨む。
かつては有能な戦略家として名を馳せていたそうだが、今やその勇名は鳴りを潜め、権力と地位に固執する三流の独善的な為政者へと成り下がっている。
こうなっては、かつての名将も形無しだ。
「……失礼しました、閣下。出すぎた真似をお許しください」
こう言う時は下手に反論しない方がいい。一時的にでも相手に従った方が得だ。
穏健派な彼の経験から経た処世術のひとつだった。
「ふむ、それで良い。さて、他に具申すべきことがある者はいるかね?」
静まり返る会議室。もし、この空気感の中反論できたならばそれは命知らずなジェダイくらいだろう。
「では、本日の定例会議はこれにて終了する。各々、自身の立場をわきまえ、職務に一層奮起せよ、解散」
「……閣下はすっかり覇気が失くなっておる。あんなナリでは部下どころか民にさえも、帝国軍の威光を轟かすことなど不可能だ」
他の士官の目もあるシャトルの船内で、大っぴらにモフ・ナミエを批判するのはラッセン防衛艦隊の次席指揮官オービル提督だ。インターディクター艦『ウルフ』を指揮する彼は厳格な性格で、モフ・ナミエのような軟弱な士官は銀河の支配者たる帝国軍には必要ない。とまで断言するほどだった。
「オービル提督、今は我々だけでなく、他の士官もいます。そのような発言は控えられた方が……」
弱々しく、控えめにオービルに反論するのはノリントン提督。ラッセン軌道上のステーション基地司令官で、高級将校の大量戦死後に急遽抜擢された新提督の1人だ。
「ノリントン、貴官こそ帝国軍提督としての自覚が足らんのではないか。そもそも貴官は自分の考えを持たず、他人に賛同するばかりではないか。その上──」
帝国軍人たるものは……と、いつにも増した熱量で語るオービルに、今度はもはや何もいえず、ただ頷くばかりのノリントン。
もはや見慣れた光景だったが、その日はどうも落ち着かなかった。
「どうした、そわそわして。腹でも痛むか?」
隣に座るのは帝国アカデミー同期で、昔からなにかと同じ勤務地になっていた将軍、ザラだった。
「いやなに、何でもないさ………いや、少し何でもあるな」
コイツに隠し通すのは無理だ。経験上、素直に白状することにした。
「やはりどうも気掛かりでならんのだ」
「反乱軍か?」
「あぁ」
ラルフは腕を組み、天井をじっと見つめる。考え事をするときはいつもその格好だった。
「気掛かりもなにも……モフ・ハット(モフ・ナミエの渾名。体系と鈍重な動きからこう呼ばれる)の言い分は確かに気に食わんが、それでも事実だ。わざわざこんな厳戒態勢に奴らが突っ込んでくるか。まぁ、スカリフの例もあるし、一概には言えんが」
少し皮肉ったらしい喋り方が彼の特徴だが、今日はそれに茶々を入れたりはしなかった。
「いや、そうではなくてだ。俺が気になってるのはこの星の元王族だ」
「元王族……?あぁ、確かに取り逃がした奴らが数名いると聞いたな」
「中にはかなり名の知れたパイロットもいたそうだ。そんな連中が、仕掛けてこないわけはない……というのは考えすぎかな」
納得した表情をするザラだが、実際は何か悪い予感がするという程度のもので、確証も裏付けもない。
それにモフ・ナミエの言うことも確かで、帝国軍は戦力が足りない。今さら辺境の造船所の1つに集結できるはずもない。
「まぁ、ほとんど俺の勘だがな」
「ということはまた根拠も無しか。だが、貴様がそこまで言うのなら何かはあるだろう。部下たちにも警戒強化ぐらいはさせようか」
ザラの提案に頷くラルフ。
「助かる。いつも迷惑かけるな」
「なに、俺と貴様の仲だろう」
気兼ね無く腹の内をさらけ出せる親友というのはなんと有難いことか、彼のおかげで骨身に染みていた。
ステーション上空に浮かぶ純白の巨大戦艦、スター・デストロイヤー。それは、見るものを圧倒させ、畏怖を呼び、立ち向かう気力さえも奪い去るような絶望的な戦闘能力を誇る銀河帝国の力の源だ。
単艦でも惑星を丸ごと1つ制圧するというその艦がこのステーション上空には3隻も常駐し、さらに2隻のインターディクター艦、5隻のクルーザーに無数のスター・ファイターを有し、まさしく敵無しといえる強固な防衛網を持っていた。
その内の1隻、スター・デストロイヤー『アースガルド』の艦内。本艦を旗艦とするラルフは、自室で古い記録と小一時間にらみ合っていた。
するとそこへ副官のアキヴァ少佐が入室する。
「提督、失礼します。間も無く会議のお時間ですので、準備を」
「あぁ、すまない。もうそんな時間か。すぐにいくよ」
ホログラムを閉じようとしたとき、アキヴァ少佐が物珍しそうに訊ねた。
「古そうな記録ですね。何を調べてらしたので?」
「この星の旧王家のことだ。たしか、一人エースパイロットがいたような気がしてな」
ホログラムにはまだ、ラッセンに王家が存在し、独立を保っていた頃の象徴というべき男が映っていた。
少年期の写真だろうから、今は相応に歳を取っているはずである。
「エースパイロット……といえば、亡命した例の第1王子ですか?」
その男は圧倒的優勢を誇る帝国軍相手に一歩も引かずに戦い、帝国軍将兵からも称賛を受ける名将だった。
「彼が動き出すのではと胸騒ぎがしてならんのだ。……思い違いだと信じたいがな」
「提督はいつも考えすぎなのです。やたらと悪い予想ばかりすることもないでしょう」
アキヴァ少佐は信頼に足る士官だが、些か歯に衣着せぬ物言いが気になる。
それで以前は軍法会議一歩手前の事態を引き起こしたこともあるほどで、唯一の彼の心配なところだ。
「貴官は貴官で、もう少し言い方というのが……いや、今はよそう」
「懸命です。会議まで時間がないのでお急ぎください」
彼はそう言うと、足早に部屋を出ていった。
再び1人になった室内で、記録の中の男と向き合う。
「ニュー・ラッセンか……」
今度こそホログラムを切ると、彼はそそくさと退室していった。
次回からとうとう戦いが始まります。
今まで通り不定期なんで、続きは少しお待ちください