宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

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投稿時間間違えましたけど早い分には問題ないのでこのままで


来訪者

私の一番上の姉、宗谷真霜はだらしのない人だった。服は脱いだら脱ぎっぱなしだし休みの日は正午まで寝ている。昔は何てだらしのない人なんだと思ってた。だけどいざ自分がブルーマーメイドになるとその気持ちが少しはわかる。

海に出れば常に仕事をしているようなものだし自分の家でくらいゆっくりしたいと思うのは無理からぬ事なんだろう。だからと言ってあそこまでだらしなくなるのはダメだと思うが。

 

真霜姉さんほどではないが、私も何もない休日は私も少しばかりだらけた生活をしている。朝は規則正しく起きるが着替えずパジャマのままで布団にくるまっている。それくらい真霜姉さんに比べたら可愛いものだが、普段の私からすればかなりだらけきっている。

その日は誰かと会う約束も出かける予定もなく丸一日部屋でだらけて過ごそうと考えていた。

しかし部屋に鳴り響いたインターホンの音がその計画を全て台無しにした。どうせ宅配便か何かだろうとパジャマのまま玄関の扉を開けると、そこにいたのは予想外の人物だった。

 

「知名ニ監!?」

 

扉を開けた先にいたのはラフな私服に身を包んだ情報調査隊の室長、知名もえかさんだった。

 

「久しぶり。こうしてプライベートで会うのは大学以来だね」

 

大学時代は勉強を見てもらったりと何かとお世話になったけど、ブルーマーメイドになってからは、職場は同じでも立場が違う彼女と会う機会は岬さん以上に少なくなっていた。

そんな知名二監が私に会いに、それもプライベートで会いに来るなんて岬さん以上にあり得ない話だった。

 

「えっと……とりあえず一度着替える時間をとった方がいいかな?」

 

私の格好を見た知名二監が二言目に発した言葉がそれだった。よく考えると今の私はパジャマに身を包んでいてとても人前に出られる格好ではない。私は少しの間知名二監に外で待ってもらい慌ててパジャマから着替えて部屋に招き入れた。

 

「お待たせしてすみません」

 

「こちらこそ連絡もなく急に訪ねてきてごめんね」

 

「いえ。休日だからとだらけきっていた私が悪いんです」

 

元とはいえ上司に頭を下げられると言うのはあまり心臓に良くない。

 

「そんなに固くならないくていいよ。今日は横須賀の同期として、友人として会いに来ただけなんだから」

 

そうは言われても知名二監はブルーマーメイド屈指の権力と実力を持つ人物だ。今の彼女に昔のように話しかけるのは難しい。

そんな私の心情を察したのだろうか。知名二監は小さく笑った。

 

「宗谷さんは昔と変わらず真面目だね。安心したよ」

 

「はぁ……」

 

これは褒められたのだろうか。人とは歳をとるごとに良くも悪くも変わるものだ。変化すると言うのは成長していると捉えることもできる。変わったないとは、つまり成長していないと言う事なんじゃないだろうか。

 

「私達は変わってしまったけど宗谷さんには変わらずそのままでいてほしいな」

 

「私達と言うのは岬さんと知名二監の事ですか?」

 

「宗谷さんから見て私達は変わったと思う?」

 

変わったかどうかで言うと多分、変わったと思う。私の知る岬さんなら、なんの理由も説明せずに伊良子さんをブルーマーメイドに復帰させたり、晴雪に横須賀出身者と晴風メンバーを集めたりはしない。

そう考え頷くと知名さんはどこか寂しそうな表情を浮かべた。

 

「そう、宗谷さんにはそう見えるんだね。だけど私もミケちゃんも本質的には何も変わってないんだよ」

 

「自分で変わったと言ったのにおかしな事を言いますね」

 

「周りがそう言うからね。私達自身は本質的には何も変わっていないと思っているけど、周りから見れば変わるのは自然な事じゃないかな」

 

「本質的にはどうであろうと、今の岬さん達は私が知っていた頃とは違います。変わっていないと思ってもそれは自覚がないだけでしょう。少なくともかつての岬さんなら私に何も説明せずに行動することはありませんでした」

 

海洋学校に入学した当初であればなんの相談もせず飛び出すことも多かったが、RATt事件を経てそれも変わった。今の岬さんはまるで入学したばかりの頃のようで行動が全く読めない。

 

「元々ミケちゃんは突拍子もない事をなんの相談もなくやる様な子だよ。宗谷さんと出会って変わったけど今のミケちゃんは昔に戻っただけ」

 

私と違って海洋学校入学以前からの付き合いだしおそらく知名さんの言う事は正しいのだろう。事実、入学当初は考える前に行動するような人だった。私が副長になりストッパーとなったから自重するようになったけど、岬さんの本質は知名さんの言う通りなものなのだろう。

 

「それが良いことだったのかどうか、私にはわからない。私はミケちゃんがやろうとする事を全力でサポートする事しかできないから……」

 

「貴女が正しくないと思うのなら止めれば良いじゃないですか。それだけの力が貴女にはある。それに岬さんは貴女の言葉を無視するような人じゃないでしょう」

 

付き合いの長さもあるのだろうけど、岬さんは私よりも知名さんの方を信頼していると思う。

 

「ミケちゃんは私の言葉なんか聞かないし聞く必要もないんだよ」

 

聞かない、聞く必要がないか。岬さんは知名さんの言葉を無視したりする事はなかったと思うが、知名さん視点では違うのだろうか。

 

「それに本質的には私もミケちゃんと変わらない。うまく隠しているだけで正しいと思えば周りの意見なんて無視して突き進む。私達がやろうとしている事はミケちゃんがやりたい事であると同時に私がやりたい事でもあるんだよ。だけど理性の面で私はそれが正しくないと、そう思ってしまった」

 

岬さんの行動は感情的なものが多いけど知名さんは理性的に行動する。お互い正反対だからこそうまく噛み合いお互い良いコンビになっているのだと思う。

 

「それを伝えれば良いじゃないですか」

 

「言ったよ。だけどそれは私の役目じゃなかった」

 

「岬さんが知名二監の意見を無視したと、そう言う事ですか?」

 

「と言うよりは私が説き伏せられたって感じかな。いつの間にあんな知恵を身につけたんだろうね。宗谷さんの影響かな」

 

非難するような視線を向けられ少し居心地が悪くなった。彼女が知らない岬さんの一面があるとしたらそれは間違いなく晴風クラスの影響だろう。

 

「非難してる訳じゃないんだよ。それがミケちゃんの成長にも繋がったしね」

 

非難しているわけではないというがその口調はどこか厳しい。もしかしなくとも本心ではないのだろう。

 

「非難しているわけじゃないという割にはなんというか恨みがましいというか、昔の岬さんに対して未練のような感じる言いように聞こえますが」

 

「……もしミケちゃんが宗谷さん達と出会わなければって考えた事はあるよ」

 

私達と出会わなければ。つまり晴風クラスに入らなければどうなっていたのか。私が岬さんと出会わなければきっと今の私はいないだろう。

岬さんがいない晴風クラスならきっと私は自分の運の悪さを嘆き周りの不況を買って、下手をすればクラスで孤立していた事だろう。

 

「考えてみてどうでしたか?」

 

「子供の頃と全く変わらないミケちゃんはきっと可愛らしくて私にとってすごく都合がいい存在だと思うよ」

 

「それは岬さんが変わったと、そう言う事ではないのですか?」

 

「たしかにミケちゃんは変わったと言えるかもしれない。だけどそれは成長したと言うのが正しい言葉だと思うんだ」

 

成長するとは即ち以前とは変わってよくなる事だと思う。ならば変わったと言ってさしつかえないのではないだろうか。

 

「晴風クラスがそのまま武蔵に乗り込んだら武蔵クラスになると思う?」

 

「……クラスが変わらないのなら晴風クラスと言えるんじゃないでしょうか」

 

難しい質問だ。見た目、というより呼び名は武蔵クラスになるのかもしれないけど中身は私のよく知る晴風クラスなのであれば晴風クラスと言って良いだろう。

 

「そうだね、私も同意見だよ。じゃあ晴風に武蔵クラスが乗り込めばそれは晴風クラスになる?」

 

「それは武蔵クラスでしょう」

 

晴風クラスが武蔵に乗り込んでも晴風クラスなのと同様に武蔵クラスが晴風に乗り込んでも武蔵クラスのままだ。

 

「つまりはそう言う事だよ」

 

「乗る(ふね)が変わろうとも中身が同じなら変わっていない。行動や言動が変わろうともその人の考え方が変わっていなければそれは変わっていないと、そういう事ですか?」

 

「そうだよ。どれだけ見た目が変わろうとも中身が変わっていないのであればそれは成長しただけに過ぎない」

 

たしかに中身は変わらずとも見た目だけが変化したのであればそれは成長と言えるのかもしれない。だけど随分と極端な意見なように思う。

 

「人と(ふね)は違う。(ふね)は自分達の意思に関わらずとも変わるけど、人の言動や行動が変わるという事はなんらかの心境の変化があったという事です。それはつまり中身が少なからず変わっているからこそ起きる現象ではありませんか?」

 

私の言葉に聡明な知名さんらしくなく驚いた様子を見せた。

 

「……そっか、私達は変わっちゃったんだね。なのに成長だとか嘯いて馬鹿みたいだね」

 

知名二監はもう一度「そっか」と言って頷くと暫く喋らず目を瞑って何か考えている様子だった。

 

「超えられない嵐はない」

 

呟くように知名さんが言ったその言葉は艦長が、岬さんがいつだったか言っていた言葉だった。

 

「だけど嵐を越えても船が無事とは限らない。幾多の荒波を超えて沈んだ晴風みたいにね」

 

「何が言いたいんですか?」

 

今までの話の流れからすればすごく不穏な言葉に聞こえてしまう。まるで岬さん達が荒波を超えたその先で沈むかのようなそんな不穏な言葉だ。

 

「困難を乗り越えた時、私達が無事とは限らない。そういう話だよ」

 

「私が岬さんを支えろと言うことでしたら私に異存はありません。艦長を支えるのは副長として当然の役目です」

 

てっきり私に岬さんを支えてほしいと言う事だと思っていたけどどうやら違ったようで知名二監は寂しげな笑みを浮かべた。

 

「私はミケちゃんの選択を尊重するよ。大きな船を動かすには相応の人手がいるからね。せめて私だけでも近くにいないと。だけど一人じゃできる事は限られているんだよ。できる限り沈まないように努力はするけど、もしもの時はお願いするね」

 

それを最後に知名さんは具体的な事は何も話さずに帰って行った。

知名さんは、岬さん達は一体何をしでかすつもりなんだろうか。副長だった私に何も知らせずに何か事を起こすと言う事はそれだけ秘匿性が高い事なのだろう。

だけどどうせ知るなら知名さんを通じて知るのではなくて岬さん本人の口から聞きたかった。

岬さんは本当に私のことを信じてくれているのだろうか。今の岬さんは本当に私の知る岬さんなのだろうか。

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