宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

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行動開始

「攻撃準備完了したよ」

 

「攻撃始め!」

 

西崎さんの「撃て!」と言う命令と同時に、砲撃音が連続して鳴り響き、時津風の周囲に水柱を上げた。

 

「時津風、発砲しました!」

 

お返しとばかりに撃たれた時津風の砲撃は、私たちの周囲に水柱を造った。

 

「五インチ砲と言うのは、自分達で使っていた時はそれほど脅威にも思わなかったが、撃たれてみると存外怖いものだな」

 

「晴雪は三インチ砲ですからね。五インチで威力不足と嘆いた事もありましたけど受けてみたら意外と威力がありますよね」

 

精度と発射速度は晴雪の三インチ砲の方が高いが、威力は当然、五インチの方が高い。

 

「晴雪が巡洋艦クラスの装甲を持った(ふね)なら五インチを豆鉄砲って笑えるんだけどね。噴進魚雷の開発で防御力は水雷防御を重視するようになったから砲弾に対する防御力はむしろ下がってるんだよね」

 

「航洋艦クラスだと大きな違いじゃないだろう」

 

「まぁ、そうだね。このクラスの(ふね)で重要なのは航海長の腕。つまりりんちゃんの技術がそのまま防御力に直結するって事だね」

 

「知床さん、頼んだぞ」

 

「か、頑張りはするけど、こっちの方が速度が遅いからあんまり長くは持たないよ」

 

シュペーの時はこちらの方が早かったから射程圏外に離脱する事ができた。だけど今回はこちらの方が遅い。距離が近づけば学生艦の砲精度でも命中弾が出るだろう。

 

「伊良子さん達の様子は?」

 

「スキッパー部隊は三十秒後、時津風への接舷に成功します。内火艇はそれから七十秒後の予定みたいです」

 

「よし、取舵一杯。反転して伊良子さん達を援護する。手の空いているものには突入用の装備をさせて艦内に待機させろ」

 

いくら私が決断力のない無能な艦長でも、ここで反転せずに逃げ続ける事が最悪の決断だと言うことくらいはわかる。逃げ続けても結局捕捉される以上は、乗り込んだ伊良子さん達に協力できるように反転、可能なら晴雪も接舷して乗り込むべきだ。

 

「いいんですか?」

 

「構わない。伊良子さん達が失敗すれは晴雪は撃破されるしかなくなる。伊良子さん達の突入が成功したタイミングなら敵の砲撃精度も落ちるだろうし、今なら接近してもそれほど危険はない」

 

時津風を操っているのが何者であれ、伊良子さん達の突入への対応をした上で晴雪に対して効果的な反撃ができるとは考えにくい。

なにより伊良子さんに負担をかけた分、このくらいはしないと申しわけが立たない。

 

『こちらCIC万里小路。スキッパー部隊が時津風への突入に成功いたしました』

 

PRDTオペレーターの万里小路さんの報告に艦橋に歓声が湧いた。成功するだろうと思っていたが、それでも何パーセントかは失敗の可能性があった。特に時津風に乗り込むまでがPRDTの力の影響が最も出にくく、失敗するとすればこのタイミングだった。

しかし乗り込めれさえすればこちらのもの。余程の戦力差があるか、人質でも取られない限りは失敗することは無い。

 

「ここからは砲撃禁止だ」

 

「もう撃てないの!?」

 

「突入に成功した以上は必要ないだろう。それに何かの間違いで時津風に当たれば味方もろとも吹き飛ばす事になる」

 

「ひかりちゃんは当てたりしないと思うけどなぁ。なんせタマの指示とはいえ武蔵の砲弾を撃ち抜いた事もあるわけだし」

 

武蔵がRATtにより東舞港教員艦隊を攻撃した時、ひかりさんは立石さんの指示の下で晴風に向けられた砲弾を主砲で迎撃している。指示は

 

「あれは砲術長の腕が良かったからできた事だよ。私だけじゃ無理」

 

立石さんの砲術の腕は凄まじかった。同じ砲術科の人間だからあの技術の高さは他の科よりもよくわかる。とてもではないが私じゃ武蔵の砲弾を晴風の砲弾で撃ち抜くなんて芸当はできないし、やろうとも思わない。

 

「小笠原さんの腕が悪いとは私も思ってはいない。立石さんみたいに特筆した力量を持っている人は稀だ。誰が砲術長でもこの状況で主砲を撃つには多少のリスクがある」

 

「なら魚雷は!?」

 

「禁止に決まってるだろ!」

 

西崎さんはつまらなさそうな顔をしたが「了解」と指示に従う意思を示した。

 

「時津風ってこんなに砲精度悪かったっけ?」

 

舵輪を回しながら知床さんが言った。

 

「そんな事はないはずだが……」

 

「ですがさっきから至近弾一つありませんよ」

 

「りんちゃんももまともな回避運動一つしていないし、私の記憶だと時津風って晴風と同じ射撃管制装置のはずだからこんなに悪くなるはずがないよ」

 

言われてみれば晴雪は戦闘中にも関わらず随分と快適だった。回避や至近弾による大きな揺れが起きていないから何かに捕まる必要もないし、砲弾が当たる危険もないから呑気にお喋りもできる。

 

「時津風クラスのレベルが低い、なんて事はないよな」

 

「ないと思いますよ。武蔵クラスみたいに優秀な生徒を集めてなくても、艦橋メンバーや各科の長に関してはある程度優秀な人が揃ってるはずですから」

 

「それならどうしてこんなにも外れるんだろうな」

 

「あ、みかんちゃんたちの内火艇が接舷したよ」

 

スキッパーの時とは違い、万里小路さんの報告はなかった。だけどそれを不思議に思う事もなく艦橋には歓声が巻き起こった。

 

「これで時津風の制圧は完了するね」

 

「そうだな。時津風を制圧すれば他の行方不明艦の状況もわかるかもしれない。事件解決はすぐそこだ」

 

「みかんちゃん達、どれくらいで制圧できるかな」

 

「荒事の専門家ですし十分もかからないんじゃないんじゃないでしょうか」

 

「それだと晴雪が接舷するまでに全部終わることになるな」

 

いくら精度が悪いと言っても時津風からの砲撃を受けながら向かうのは少しばかり時間がかかる。おそらく着いた時には全部終わっている事だろう。

晴雪のクルーを武装したテロリストがいるかもしれない時津風に送り込まなくて済んだ事に対する安堵と、結局伊良子さんに全てまかしてしまった事への罪悪感とがないまぜになって複雑な気分だ。

 

「CICの万里小路さんに時津風の状況を尋ねてくれないか?」

 

「わかりました」

 

納沙さんが艦内電話を手に取りCICと連絡をとったが直ぐに受話器を置いた。

 

「今は予断を許さない状況だから後にしてほしいそうです」

 

「突入に成功したのにか?」

 

たとえ相手が武装していても、余程のことがない限りは伊良子さん達が負ける事はない。内火艇が時津風への接舷に成功してから明らかに砲撃精度が悪くなり、敵の人数がそれほど多くない事は確実だ。なのになぜ予断を許さないと言う状況になるのだろうか。

 

「今の時津風なら回避行動は最低限でいいな」

 

万里小路さんがこちらへの対応をやめてまで集中しなければならない事態。下手をすれば突入部隊に被害が出ているのではないだろうか。

 

「しろちゃん?」

 

「できるだけ急いで時津風に向かうぞ」

 

「か、回避行動最低限なんてあたっちゃうよ……」

 

知床さんの懸念はもっともだがここは無理をしてでも急ぎたい。されに今なら簡単には当たらないと言う確信もある。

 

「今の時津風の攻撃精度ならとびきり運が悪くない限りは当たらないだろう」

 

「しろちゃんみたいにですか?」

 

「……それを言われると自信がなくなってくるな」

 

「冗談ですよ。どれだけしろちゃんの運が悪くても当たったりしませんよ。だってほら、今の砲撃だって晴雪から……」

 

納沙さんが言葉を発するより先に、晴雪に至近弾が浴びせられ(ふね)が大きく揺れた。

 

「ごめんなさい。なんでもないです」

 

「や、やっぱり回避しながら行く?」

 

「そうしよう。晴雪が撃沈されて伊良子さん達の帰る場所がなくなったら元も子もないからな」

 

ゆっくりと、だが確実に時津風に向かうとしよう。

 

「それと、万里小路さんにはできるだけ早く状況を報告するように伝えてくれ」

 

「PRDTの邪魔をする事になりませんか?」

 

「私達が適切なサポートをする為にも情報は必要だ」

 

「それもそうですね。伝えておきます」

 

納沙さんが艦内電話をとると西崎さんが呆れたような視線を私に向けた。

 

「それにしても副長の運の悪さは相変わらずだね」

 

「……さっきのは私のせいと決まった訳じゃない」

 

「けど副長がやる気出した途端だったからね〜。副長のせいでしょ」

 

「た、確かに私が行動を指示した直後だったが、だからと言って私の運の悪さが今回も悪さしたとは限らないだろう」

 

自分で言っていながら苦しい言い訳だと思う。だがここで私の運の悪さを認めたらなんだか負けた気分になる。

 

「まぁ、そう言う事にしとくよ」

 

これ以上反論するのは墓穴を掘るだけだ。何か別の話しで誤魔化そう。

 

「時津風の砲撃は中々緩まないな」

 

「みかんちゃん達が突入に成功したから、もうそろそろ緩まるはずだけど……」

 

私達はこうしてくだらないお喋りもできるが、時津風の砲撃を避ける為に知床さんは絶えず舵輪を回し続けている。

時津風の砲撃が緩まっていないのは、舵輪を握る知床さんが一番よくわかっている。

 

「砲撃が緩まなくてもりんちゃんがいれば無事に時津風まで辿り着けるよ」

 

「そうだな。ところで西崎さん、頼みがあるんだがいいだろうか?」

 

「撃てなくて暇だしいいよ」

 

「晴雪の突入部隊に指揮官がいない。頼んでもいいだろうか?」

 

海洋学校所属艦同様、晴雪も極度に自動化された(ふね)だ。突入部隊と言っても十人にも満たないがその中に指揮官になるべき人材がいない。暇そうにしている西崎さんなら階級的には指揮官に丁度いい。

 

「え゛!?」

 

「暇なんだろう?」

 

「だけど私、荒事は苦手なんだよね」

 

「確かに学生時代から体を動かすのはそんなに得意ではなかったな」

 

「そうそう! だから別の人に頼んだほうがいいと思うよ」

 

ブルーマーメイドとして致命的、と言うほどではないが西崎さんは運動が苦手だ。砲雷科出身で本人も撃つのが好きなのにも関わらず、武器の開発に回っていたのはこの辺りの事情が関係している。

ブルーマーメイドであればデスクワークが中心の部署でない限りはある程度体力と運動能力が必要だ。

 

「だが西崎さん以外に適任もいない。補佐として納沙さんをつけるから指揮を頼む」

 

「私もですか!?」

 

「納沙さんも接舷すれば暇になるだろう」

 

「それはそうですけど……」

 

不満そうな西崎さんと納沙さんを説得しているうちに、時津風の砲撃は止み晴雪は時津風の右舷側に接舷した。

 

「晴雪突入部隊はPRDTの指揮下に入って援護に向かえ!」

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