宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

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合流

保安即応艦隊からの追加の援軍三隻と私達が合流したのは翌日の事だった。

 

「保安即応艦隊の能村進愛だわ」

 

「晴雪艦長の宗谷ましろです」

 

能村さんは呉女子海洋学校出身で元大和副長だ。今は保安即応艦隊のみやけで艦長をしている。

 

「久しぶりじゃんね」

 

「お久しぶりです」

 

「そんな敬語にならんでいいよ。私と宗谷艦長は同じ一正で海洋大学は同じ年に卒業したからブルーマーメイド任官は同期だがや」

 

私が二年飛び級、能村先輩は一年飛び級だから海洋大学の卒業は同時。大和型で副長をしていただけよかったとあって優秀な人だ。

 

「先輩相手にそう言うわけにはいきませんよ。それに今回事件で保安即応艦隊の艦艇四隻は能村先輩が指揮すると聞いています。指揮系統は違いますが司令官相手にそう言うわけにはいきません」

 

今回能村先輩は保安即応艦隊司令官の千葉二監の指名で保安即応艦隊のRATt対応部隊の司令官に任命された。本来なら三監が任命されるべき役職に一正で任命されるたのは大抜擢と言っていいだろう。

 

「私より宗谷艦長の方が大変だわ」

 

「私がですか?」

 

「気付いとらんの?」

 

四隻の艦艇を指揮下に置き、RATtに感染した学生艦の鎮圧を担当する事になる能村さんが誰よりも大変なはずだ。警備救難部所属の艦艇として学生艦を探すだけだ。

 

「PRDTを乗せてる晴雪は、学生艦の鎮圧に主力となって動く事になるじゃん」

 

PRDTの所属は警備救難部だ。保安即応艦隊の艦艇に乗船する可能性が無いわけではないが、時には接舷乗り込みのように船体にダメージを与えるような乗り方をするため、最新鋭艦の配備される保安即応艦隊の艦艇はあまり使われない。

 

「航洋艦相手ならともかく、武蔵や比叡のような大型艦には晴雪では対処できません」

 

「前のRATt事件で武蔵、比叡の鎮圧に貢献した晴風副長らしからぬ言葉やね」

 

航洋艦で、それも旧式の航洋艦で大和や比叡、シュペーと正面から渡り合った晴風は客観的に見れば凄まじい(ふね)だ。だけどそれはあのメンバーで、あの艦長だからこそできた事だ。仮に私が艦長ならきっと大和は東京湾に突入していたし比叡はトラック諸島に、シュペーはアドミラリティ諸島に甚大な被害を及ぼしていただろう。

 

「艦長が良かったですから」

 

「その艦長の指示を受けて実行したのは当時の晴風クルーだら。自信を持ったらええのに」

 

「他のみんなの働きと比べたら私が果たした役割はそれほど大きなものではありませんから」

 

私がした事といえば比叡への砲雷撃の指示とシュペーとの戦闘指揮くらいのものだ。艦長の指示でそれらをこなしたけど全部クラスメイト達の働きあっての事。私の手柄じゃない。

 

「謙虚じゃね」

 

「事実ですから」

 

副長というのは難しい立場だ。普段の業務は艦長の補助や艦長が非番の時の(ふね)の指揮だ。

シュペーの時のように艦長が不在だと艦長の代わりに(ふね)を指揮するが、その時の船員はあくまでも艦長が指名した代理だから従うのであって、副長個人への信頼からではない。もちろんそうでない人もいるが、基本的に副長と言うものは船員から艦長への信頼を背景に(ふね)を指揮する。他のみんなはそれぞれ決まった役職をそれぞれに対する信頼から任されているのに、副長は副長個人への信頼ではなくその背後にいる艦長への信頼から職務を代行する。役職は艦長に次ぐ高さだが、その信頼は他のみんなよりも低い。

 

「副長と言うものがいかに難しい立場にあるのか、能村先輩なら理解できると思いますが……」

 

「否定はせんよ。だけど副長だからと言って艦長に負けてるなんて思った事は一度もあらへんよ」

 

「それは大和の副長だったからでしょう。大和の副長ともなれば、(ふけ)を選ばなければ艦長になるだけの素質はあったはずです」

 

大和型の副長ともなれば勉強面はもとより、それ以外の資質においても十分なものを持っていたはずだ。

 

「それは違うだら。確かに素質はあったと思うけど、まだ艦長には早い。艦長になるよりは副長として経験を積んだ方が、後々の成長につながると思われたからなんだわ。宗谷艦長も同じなんと違う?」

 

「……確かにあの頃の私はまだ艦長になるにはやばかったと思います。ですが今の現状を鑑みるに副長として艦長を支える事ができていたのか自信が持てないんです」

 

今艦長が私を必要としていない事が何よりの答えなのではないか。そう思えてならない。

 

「RATtの時も海賊の時も晴風クラスは誰一人欠ける事なく帰って来れた。それは艦長はもちろん、副長の力もあったからできたことやと思うよ。自信を持ち」

 

学生時代ならそう言われれば嬉しく、自信を持てただろうけど今は無理だ。どうしても自分の実力に疑いを持ってしまう。

 

「どうしても自信を持てへんなら今回の事件で手柄を立てて自信を持てばええわ」

 

今回の事件で手柄を立てて自信を持つか。それはいい考えかもしれない。客観的に見て、私に足りないのは自信だ。なぜ自信が持てないのか、その理由はよくわかっている。

艦長と言うものをしているとどうしても学生時代の岬さんを比較対象としてしまう。学生の岬さん相手に指揮能力で劣るつもりはないが、学生の身分であれだけの指揮を取れた岬さんと比べると今の私はそれほど特筆したものがないように思えてしまう。ここで一つ、大きな功績を上げれば少しはその気持ちがマシになるかもしれない。

 

「晴雪が学生艦鎮圧の主力になると言っていましたけどそれはどう言う意味ですか?」

 

「武蔵、比叡以外の学生艦は貧弱でこっちから攻撃が出来へんやん。だからPRDTが乗船しとる晴雪が主力となって鎮圧する事になるんだわ」

 

「保安即応艦隊に移すと言う手もありますが……」

 

「私もそう提言したんやけどね。千葉先輩と岬二監が却下したんよ」

 

「岬さんだけでなく千葉二監もですか?」

 

岬さんが却下するのはまたわかる。だけど千葉二監も反対したのはよくわからない。

 

「保安即応艦隊の艦艇が損傷するリスクを避けた、と言う事でしょうか?」

 

「意図としてはそうやと思うけど……」

 

「らしくないですね」

 

千葉二監の人柄からすれば少し違和感がある。少数とはいえ保安即応艦隊を出した以上は学生艦鎮圧のために全力を尽くしそうなものだ。晴雪にPRDTを乗せるよりは足の速い保安即応艦隊の艦艇に乗せた方が発見後すぐに対応できるから千葉二監ならそうすると思っていた。

 

「理由がなんにせよ、宗谷艦長が主力になって動く事は変わらんよ。多分、警備救難部が発見した学生艦の鎮圧に向かうよう指示があると思うわ」

 

「ですがそれは保安即応艦隊も同じですよね」

 

「みくらくらいは派遣するかもしれんけど案外、武蔵と比叡発見に対応するために待機ってこともあると思うよ」

 

武蔵と比叡以外なら晴雪で対応できなくもない。だけど武蔵と比叡だけはやはり別格だ。火力、装甲ともに高く晴雪では近づく前に撃破されるだろう。

保安即応艦隊の艦艇でもそれは変わらないが、火力においては警備救難部よりも優れたものを持っている。精度もいいから武蔵と比叡を沈めずに、負傷者が最小限になる程度に攻撃する事ができるだろう。

 

「保安即応艦隊の艦艇が来てくれると心強かったのですが、そうはいきませんか」

 

「最近の事情を勘案すると無理やろね。海難事故や海賊が増えてるからその対応のためにこれ以上は無理。警備救難部が無理して出した艦艇は本来、それらに対応する部隊だら。普段よりも保安即応艦隊を出す基準は下げとるやろうけど、過度に動きすぎるとここぞとばかりに海賊の行動が活発化しかねんよ」

 

私達が学生だった頃は航海実習を行う場所まで数日かけて航海することもあった。だけど今はそれができないくらい治安が悪化している。海賊に学生艦奪われる事を警戒して海洋学校の航海実習は本土近海でしか行われなくなっている。

もし鎮圧に手間取るような事があれば海賊の活動はさらに活発化して日本のブルーマーメイドだけでは対処しきれなくなるだろう。

 

「RATtと海賊のせいでホワイトドルフィンが弱体化した事が遠因ですが、今回の事件でより酷い事になりそうですね」

 

「そうやね。できる限りそれを小さなものにするためにも早期解決は不可欠だわ」

 

「警備救難部の艦艇に予想範囲で哨戒してもらっていますが結果が出るまでにどれだけの時間がかかることか……」

 

「可能ならPRDTを派遣してもらって、保安即応艦隊の方にも乗せたいけど、海賊のことを考えるとそれもできんしね」

 

「そもそも学生艦の鎮圧にPRDTは過剰戦力ですから」

 

銃火器で武装した海賊ならともかく、学生艦の艦内でそれらが使用される事はまずない。能村先輩は私達が主力となると言っているが、なにもPRDTでなくとも学生艦の鎮圧は可能だ。だから追加のPRDTが送られる事はまずない。

 

「自動化された弊害で学生艦の鎮圧を単艦でできるのは晴雪くらい。PRDTと言わずとも突入部隊くらいは欲しいわ」

 

(ふね)によるが、ブルーマーメイドの搭乗員数は三十人から五十人ほど。そこから必要のない人員を学生艦の鎮圧に回すとすれば八人から十二、三人だろうか。鎮圧できなくはないが、余裕があるとは言い難い。

PRDTも人数の上では十二人と少数だが、装備も練度も桁違いだ。

 

「参加している警備救難部の艦艇の余剰人員を保安即応艦隊に移せませんかね」

 

「所属が違うし無理やと思うよ。それに哨戒能力と不意遭遇時の対応力が下がるからできればそれはしたくないんだら」

 

「しかし晴雪一隻だと複数の艦艇が見つかった時、能村先輩達もでなければなりません。そのタイミングで武蔵や比叡が見つかれば対応しきれません」

 

航洋艦が複数見つかる分にはそれほど問題はない。だが武蔵や比叡が見つかればかなりまずい。警備救難部の艦艇の多くはこの二隻を長時間見張れるほどのスペックはない。下手をすれば遠距離からの砲撃で沈みかねない。

 

「ないとは言い切れんね。対策としては祈るくらいしかあらへんよ」

 

「……神頼みは嫌ですね。私は神様に嫌われているようなので」

 

運が悪いと諦める事はやめたけど、それはそれとして自分の運の悪さが相当酷いものだと言う自覚はある。本当に今言ったような事にならなければいいが……。

 

「冗談じゃね。もし同時に見つかるようなことがあれば、千葉先輩を説得して保安即応艦隊を派遣してもらうから安心するじゃね」

 

「お願いします。その時は私からも岬さんにお願いするようにします」

 

「ほうしてくれるとありがたいわ。流石に現場指揮官二人からそれぞれの上官に直接提言したら無視できんじゃらからね」

 

「そうですね」

 

岬さんは無視するのではないか、と思ってしまったけどそれはないと理性の面で打ち消した。いくら今の岬さんがわからないからと邪推しすぎだ。

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