宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

19 / 30
天津風

天津風の鎮圧は意外と簡単に済ます事ができた。

時津風の鎮圧で経験があった事、事前に綿密な計画を立てていた事が功を奏した。PRDTは無傷で天津風に乗り込み天津風の機関を停止させた。

 

「時津風の時とは違い、随分と簡単に鎮圧できたな」

 

時津風の時は、突入から鎮圧の報告が来るまで二十分ほどの時間があった。だけど今回は突入から、鎮圧の報告が届くまで十分ほどしかかからなかった。

 

「時津風の時はまだRATtに感染しているってわかってなかったからね。慎重に行動してたんだよ。その分鎮圧に少し時間がかかったけど、今回はRATtってわかった上での行動だったからね」

 

「いまだに対RATt用の装備は、ブルーマーメイドの標準装備とされているから相手がRATtと分かっているならその装備を使えばいい。通常の装備だとRATtに対しては限定的にしか対処できないが、専用装備なら対応も容易になるというわけか」

 

「対RATt用の装備って海水を入れた水鉄砲と、抗ウィルス剤のアンプルを撃つためのダーツガンがメインになるから、普段の装備に慣れていたら心細くはあるけどね」

 

RATtウィルスに感染した者に対して銃による静止は効果がない。海水をかけるか、ウィルスを打ち込む事が一番の対応になる。

だがブルーマーメイドが普段相手にするのはそんな相手ではない。テーザー銃や拳銃を用いて鎮圧できる、言うなれば普通の人間が相手だ。当然、訓練もそれを想定したもので水鉄砲を使う事は想定していない。標準装備として残ってはいても、厳重に管理されたRATtが流出するなどあり得ないと言うのが主流の考え方で、あくまでも“もしも”の時のための備えが対RATtウィルス用の装備だ。

 

「学生くらいなら武器がなくても鎮圧できるとはいえ、やっぱりテーザー銃くらいはあってもいいよね」

 

「人間としての理性を殆ど失っているからな。テーザー銃を当てても動くんじゃないか?」

 

RATtに感染すると、普段では考えられないような力を発揮する。テーザー銃でも取り押さえることは困難だろう。

 

「宗谷さんはテーザー銃で撃たれたことってある?」

 

「あるわけないだろ」

 

いくら致命傷を与えずに人を鎮圧できるとはいえ、武器には変わりはない。撃たれてたことは愚か、撃たれようと思った事もない。

 

「PRDTの訓練ではテーザー銃に撃たれる訓練があるんだけどね」

 

「なんだそれは」

 

非殺傷とはいえ、自分から好き好んでテーザー銃で撃たれるなんてよくわからない。そう言う趣味があったのだろうか。

 

「実際に撃たれてその効果と威力を体験する訓練だよ」

 

「……一体なんのために?」

 

撃たれる事が一体なんの訓練になるのか。ブルーマーメイドがテーザー銃を撃たれるなんて事はまずない。ブルーマーメイドは撃つ側であり、仮に撃たれるとしたらテーザー銃なんて言う非殺傷武器ではなく、拳銃などの殺傷武器だ。

 

「非殺傷と言っても心臓が弱い人とかだと死ぬ可能性があるから、軽い気持ちで引き金を引いたらダメだよ。その威力は身をもって体験して、テーザー銃を適切に扱えるようになる事が目的だよ」

 

「撃たれる事とテーザー銃を適切に扱える事に因果関係があるとは思えないが……」

 

撃たれる事で気軽に引き金を引く事はなくなるのかも知らないが、それがイコール正しい扱いをできているかと言うと疑問が残る。引き金が重いと言う事は、いざという時に判断が遅くなるのではないだろうか。

 

「テーザー銃って三アンペアとかの低い威力の電気を流すんだけど、この威力が案外すごいんだよ。電気が流れた瞬間、身体が硬直して立っていられなくなってその場に崩れ落ちそうになるの。だから訓練だと両脇から支えてもらうんだよ」

 

「だが人によっては動く事ができるんじゃないのか?」

 

青木さんに勧められて読んだ漫画で、電気を浴びながら動いている人がいた。電気で痺れたからと言って絶対に動けないとは限らないんじゃないだろうか。

 

「なんて言ったらいいんだろう、電気が流れたら筋肉が自分の意思とは違った動きをするんだよ。だから余程変わった体質の人じゃないと無理だと思うな」

 

「そうなのか。ならRATtウィルスに感染していても関係なく無力化できるな」

 

「だから対RATt用の標準装備にテーザー銃を入れて欲しかったんだけどね。ホルスターにはダーツガンと拳銃。手には大きめの水鉄砲だからそう言うわけにも行かないんだよね」

 

RATt感染者に対して、感染初期なら海水で完全に無力化できる。時間が経っていても、海水を嫌うため怯ませるくらいはできる。その間に注射を撃てば対応は官僚する。

 

「テーザー銃まで持つと装備が重くなるし、持てるアンプルの数も減る。拳銃を削ってテーザー銃にすると、いざという時の対応力が下がると言うわけか」

 

相手がRATtウィルス感染者だとわかっていても、不測の事態への備えは必要だ。ブルーマーメイドの中でも最精鋭のPRDTなら間違ってもRATtウィルス感染者に対して拳銃を使用したりはしないだろうし、何かあった時のためにできる限り強力な武器を持っておくべきだろう。

 

「対RATt用の装備自体がRATt事件直後に策定された物で、その後最適化される事なく残っていたものだ。装備の不足は仕方のないものがあるんじゃないか?」

 

結局、あの事件以来今日までその装備が使われることはなかった。(ふね)のスペースを無駄に使うし、廃止の話もあった。それでも残っていたのはブルーマーメイド全体が、あのRATt事件の恐ろしさをよく理解していたからこそだ。

あの時は奇跡的に学生艦だけの被害で済んだけど、一隻でも島や陸地に辿り着けば未曾有の大災害になりかねなかった。もしも同じ事件が起きても対ああできるように、対RATt用の装備は絶対に(ふね)から降ろすわけにはいかなかった。

 

「装備のアップデートくらいはしてほしかったよ。流石に水鉄砲とダーツガンだと好戦的なRATtウィルス感染者を相手にするのは疲れるよ」

 

「なら次の鎮圧作業からはテーザー銃を持ち込めばいいんじゃないか?」

 

「そんな簡単な問題じゃないんだよ。最近の情勢だと拳銃は外したくないし、かと言ってダーツガンも外せない。テーザー銃を装備する場所がないんだよ」

 

天津風鎮圧から帰ってきたらばかりの伊良子さんの格好を見てみると、手には大きな水鉄砲、右太腿にはダーツガン、左の太腿には拳銃。腰や胴回りにはアンプルやダーツガンの弾や予備の水などが付けられていてテーザー銃まで装備する余裕がないのが伺える。

 

「ダーツガンと水鉄砲だと、ダーツガンの方が使い勝手が悪かったんだけど、水鉄砲の水が無くなればこっちに頼らざるを得ないんだよ」

 

いくら海には大量の海水があると言っても、船の中に持ち込める量には限りがある。初期感染ならともかく、ある程度時間が経つとかなりの量の海水でなければRATtウィルス感染者は気にすることもなくむかってくる。

晴風では市販の水鉄砲と筒と棒を使った原始的な水鉄砲を使っていたが、感染が進むと、この程度の装備で止めることは不可能になる。一番最後に鎮圧した武蔵でさえ、完全に感染しきっていなかったからこそ、晴風の装備でも鎮圧できた。

 

「使い勝手はよくないけど、ダーツガンだと直接抗ウィルス薬を打ち込めるから絶対に止まってくれる。だけど一発撃つごとに弾を込めないといけないし、当たり方によっては上手く刺さらない事もあんだよね。射程距離も有効射程が三メートルくらいだし……」

 

どうやらダーツガンの方には随分と不満があるようで、中々不満が止まらない。

 

「水鉄砲も射程距離はそんなに変わらないんじゃないのか?」

 

射程距離に関しては水鉄砲も似たようなものだろう。ダーツガンの愚痴から流れようと思わずそう尋ねたが、これが不味かった。

 

「水鉄砲を甘く見たらダメだよ!」

 

ダーツガンの時とは違い、まるで料理の話でもするかのように瞳をキラキラさせながら伊良子さんは言った。

 

「ブルーマーメイドがRATtウィルス感染者を無力化するために開発しただけあって、有効射程は二十三メートルもあるの!」

 

厳密には一から開発したわけではなく、市販品をブルーマーメイドでの使用に適した形に発展させたものだ。それでも当初はわざわざ改良する必要があるのか、市販品をそのまま利用してもRATtウィルス感染者を相手するのに十分なのではないかという批判があった。

今の伊良子さんの反応を見るに、市販品をわざわざ改良した甲斐があったようだ。だが、一つ気になる事がある。

 

「……艦内でそんなに長射程、必要なくないか?」

 

甲板ならともかく、狭い艦内なら精々十数メートルあれば射程距離としては十分だ。なんなら三メートルしか射程距離のないダーツガンでさえ、艦内なら十分な射程と言えるだろう。

 

「そんな事ないよ! 艦内だと中を知り尽くしている感染者側が有利だから、できる限り外に誘導するから射程は必要だよ!!」

 

いつになく興奮している伊良子さんに思わず一歩後退りすると、伊良子さんはハッとした様子で恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

「ご、ごめんね。つい熱くなっちゃって……」

 

「いや、装備の良し悪しは作戦の成功率に直結する。熱くなるのも無理はない」

 

晴風の装備がよくなった時は、私もテンションが上がったしそれと同じだと思えば伊良子さんの気持ちもよく分かる。

 

「そうだよね! 昔は武器のこととかどうでもよかったんだけど、千葉さんに誘われてPRDTに入隊してからは、やっぱり自分が使う仕事道具だから包丁とか、カメラと同じようにしっかりと手入れするから愛着も湧いてくるし……」

 

どうやら私はいらない一言を言ってしまったようだった。ますます熱が入ってしまい、伊良子さんの口は止まらなくなった。納沙さんを見ると分かるが、自分が好きな事と言うのは一度話し始めるとなかなか止まらない。おそらく私が何か言っても右から左に聞き流すだろう。これはしばらく止まらないな。そう思って大人しく話を聞く大勢に入ると、大きな音と共に扉が開かれ納沙さんが入ってきた。

 

「しろちゃん大変です!!」

 

「なんだノックもなしに……」

 

親しき仲にも礼儀ありと言うし、いくら長い付き合いとは言っても今は仕事中。もしも一緒にいるのが伊良子さんでなければとんでもない事になっている。それが気持ちよさそうに自分の好きな事を話しているとなれば尚更だ。

 

「そんな事はどうでもいいんですよ!!」

 

いつになく焦った様子の納沙さんに、私は不安を感じながらも報告を促した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。