「RATtに感染した学生艦が艦隊を組んだ?」
何を馬鹿な事を言っているんだ、というのがそれを聞いた時の感想だった。第一次RATt事件含め、RATtウィルスに感染した
「規模と構成は?」
「武蔵、五十鈴、磯風、涼月、それから……晴風です」
「……ただのウィルスにしては随分と嫌な編成をしてくるな」
武蔵はただでさえ、保安即応艦隊の四隻と晴雪が艦隊を組まなければ鎮圧できないない
「できれば、私達以外で一当てして威力偵察をしたいところだが……」
「参加してる他の警備救難部の艦艇は晴雪以下の武装の
「航洋艦が十隻くらいいたよね?」
「晴雪ほどの武装はありませんよ。戦闘が主目的じゃありませんから、飛行船を運用のスペースに変えたり、対海賊用に機銃を増設したりしてますからね」
航洋艦クラスの
「あんまり役にたたないかぁ」
西崎さんは装備技術部にいたし、その武装がどれくらいなのか正確にわかるのだろう。当然、武蔵の装甲がどれほど強力なのかもよくわかっているし、武蔵以外の艦艇がどの程度の戦力なのかも正確に理解しているのだろう。
「保安即応艦隊と合同で事に当たるのは当然だが、問題はどう言う作戦でいくかだな。西崎さんはなにかいい案があるか?」
敵味方の戦力を誰よりも正確に理解しているのは西崎さんだろう。もちろん、乗り手の実力次第で多少の装備の差はひっくり返るが、一番に意見を聞くべき相手だ。
「四十六センチには四十六センチ、大和型を借りてきて武蔵にぶつけよう!」
「納沙さんは何か妙案があるか?」
西崎さんに聞いた私が馬鹿だった。トリガーハッピーな彼女からは、作戦と言えるようなものがかかるはずなかった。
「えっと……西崎さんの意見は?」
「納沙さん、あんなもの真面目に聞く必要はない。もっと建設的な意見が欲しい」
「そう言われても、西崎さん以上の意見なんて出ないと思いますよ?」
「納沙さんも大和型を使えと言うのか!?」
納沙さんは西崎さんのような人ではないと思ってたのに、正直裏切られた気分だった。
「それ以外に武蔵を中心とした艦隊に対抗する手段はありませんよ。保安即応艦隊も、想定している敵は大和型のような戦艦クラスではありませんし」
我々ブルーマーメイドが想定している相手は、海賊やテロリストといった武装組織だ。もしもブルーマーメイド所属艦が奪われたりしても、一隻や二隻なら他の艦艇で対応可能だ。そして、それが大和型であったとしても飽和攻撃を待ってすればいずれは撃沈できるだろう。だか、今回のようにできる限り乗員を傷付けずに捕縛しろと言われれば話は別だ。大和型の四十六センチ砲は一発でも当たれば致命傷になるし、かと言って撃沈は許可されていない。超甲巡なんてものがあるにはあるが、それも大和型に対抗できるようなものではない。
「たしかに考えれば考えるほど、大和型を持ち出さざるを得ないように感じるな。西崎さんも意外とちゃんと考えていたんだな」
「当たり前でしょ。私だってもう学生じゃないんだから」
「よし、なら西崎さんは大和型をどう使えばいいと思う?」
考えられる手段としては、大和型を先頭に晴雪でRATt艦隊を突破し武蔵に接舷、鎮圧する。あるいは大和型にPRDTが乗り込んで大和型で直接接舷乗り込みをする。
前者であれば流れ弾が晴雪に当たる可能性がある事、後者であれば接舷した際に武蔵と大和型に大ダメージが入り両艦共に沈没する可能性がある事がデメリットとして挙げられる。
「そんなの四十六センチ砲を撃ちあえばいい事でしょ?」
「……ところで納沙さん、この件は保安即応艦隊にも伝えてあるのか?」
やっぱり、西崎さんに意見を求めた事が間違いだった。
「ちょっと、私の意見は!?」
「西崎さんは学生時代と何も変わらないな」
「馬鹿にしてるでしょ!? 私だってちゃんと考えた上で四十六センチ砲を撃ち合うって言ってるんだから、理由くらい聞いてくれてもいいでしょ!?」
たしかに、理由も聞かずに学生時代と変わっていないと断じるのは早計すぎたかもしれない。
「参考までに聞かせてもらおうか」
「四十六センチ砲は相手に当てないよう、あくまでも牽制目的。それで武蔵の砲撃を抑制しつつ接近するのよ。後は晴雪で直接乗り込むなり、借りてきた大和型で乗り込むなり自由ってわけ」
完成目的であれば、四十六センチ砲は使えなくはない。直接当ててしまったら学生に被害が出るかもしれないが、そうでないのなら問題はないだろう。
「西崎さんも少しは成長しているんだな」
学生時代の西崎さんなら四十六センチ砲で沈めるとか言いかねない。それがない分、西崎さんも成長したのだろう。
「大和型を使う事自体は私も賛成だ。問題は大和型を調達する事ができるかどうかだな」
「今なら佐世保には紀伊が、舞鶴には信濃がいますよね?」
「使わせてくれるかどうかは別問題だ。なんせ大和型同士で撃ち合う、それもこちらは撃ってはダメなんて言う制限があったのでは、ただでさえ運用コストの高く、修理にも時間のかかる大和型を好き好んで貸し出したいとは思わないだろう」
無理に貸してもらっても、その学校とブルーマーメイドの間に軋轢を残したくはない。ただでさえ晴雪の件で学校側に貸しを作っているのにこれ以上は無茶だろう。
「ですが、放っておいたら佐世保や舞鶴にも被害が出るかもしれませんよ」
「納沙さんの言う事は理解できるが、何も今言った理由だけで否定しているわけじゃない。それ以外にも、佐世保も舞鶴もRATt艦隊発見場所から遠すぎる。もたもたしていたら取り逃すかもしれないから、おそらく大和型を借りている時間はないだろう」
「たしかに、発見場所まではどちらも数日かかりますね。これが横女なら違ったんでしょうけど、生憎被害を受けてのが横女ですからね。ないものねだりになっちゃいます」
「保安即応艦隊とも協議が必要だが、おそらく動かせるブルーマーメイド艦艇全てを動員する必要があるだろうな」
かつて、東舞校教員艦を十八隻も航行不能にしたのがRATtウィルスに感染した武蔵だ。ブルーマーメイドの艦艇と東舞校教員艦の艦艇の間にそれほど大きな戦力差はない。数こそブルーマーメイドの方が多いが、カタログスペック上は少し教員艦の方が上だ。その代わり、ブルーマーメイドの艦艇の方が同数の乗員数でも操艦は容易になっている。だから練度の面ではブルーマーメイドの方が勝っている。
「このタイミングで動かせるのかな?」
正直、かなり難しいだろう。宗谷派の支配が行き届いていた地方の支部は本部に従順とは言い難い。暴発を防ぐためにも、保安即応艦隊は必要だ。おそらく、警備救難部からも相当数艦艇を出さなければならない。
「装備技術部の艦艇もできれば借り受けたいところだな」
西崎さんの古巣である装備技術部にも少数だが
「あ〜、あれを手放すのかぁ。装備技術部のみんな嫌がるだろうな」
実験艦は大型火器の実験にも用いられる。もし撃沈されるような事があれば装備技術部は大規模な実験はできなくなるだろう。日夜意味のわからない実験を繰り返している装備技術部としては貸し出したくない
「もしそうなれば説得は頼むぞ」
「私がするの!? 艦長とか上の人が言えばいいじゃん!!」
「岬さん達上層部は忙しいみたいだからな。最近はこのRATt事件の対応も殆ど現場に丸投げ状態だ。おそらく、欲しければ自分で要請しろと言われるだろう」
何度か保安即応艦隊の増員を要請するように上には頼んでいるが、能村先輩や榊原さん達保安即応艦隊の人達と直接交渉するよう言われるだけだった。同時に警備救難部としては今回の事件、現場指揮官は私と明言されてしまった。もちろん、保安即応艦隊に対する指揮権はないが、伊良子さん達への指揮権も最近になって渡されてしまった。正直晴雪だけで手一杯なのに、他の艦艇もとなるとパンクしそうになる。
「今回の事件でしろちゃんは随分と多くの権限をもらいましたからね」
「この規模の事件なら私のような一正ではなく、三監以上の人に現場指揮をとってもらいたいものだ」
「肝心の三監以上が宗谷派ばっかりですから、RATt事件の指揮官にはできませんからね」
他の派閥は私達世代が中心だから、どうしても岬さん達以外は一正以下が多くなる。だけど宗谷派は古くからあるおかげで幅広い階級の人材がいる。本来ならその中から適切な人材を当てればいいが、ことRATt事件に関しては今の宗谷派は信用できない。
「それなら私も宗谷の人間なんだし、指揮官から外した方がいいと思うがな。でないと岬さんが余計な勘繰りを受ける事になる」
私は宗谷家の人間だ。その私を重用する事は今の岬さん達の方針に反するし、ともすれば他の派閥からの批判対象になるのではないだろうか」
「たしかに、そうですね。ただの現場指揮官としてならともかく、こんなにも重用したら色々と文句を言われても不思議じゃありませんね」
「だけど副長からしたらいい事なんじゃないの。宗谷家が酷い事になっても自分が巻き込まれずにすんだ上に、出世も見込めるんだし」
「私は今でも岬さんを支えたいという気持ちは変わらない。もしも私を重用したことが岬さんにとって重しになる事は私の本意ではない。岬さんの足枷になるくらいなら私は切り捨てられても構わない」
岬さんがブルーマーメイドで出世し、力を握る事を望んでいて、もしもその妨げに私がなるのなら切り捨てられた方がマシだ。
「……しろちゃん」
「なんだ納沙さん」
「重いです。それに艦長は、しろちゃんが自分の身を犠牲にするような事は、望んでいないと思いますよ」
「そうだろうか?」
岬さんを支えたいとは思う。だけど、今の私が岬さんの力になれるかどうか私自身自信を持たない。だからこそ、切り捨てる事で岬さんの利益になるのなら遠慮なく切り捨てて欲しいと思う。
「そうですよ。だからこそしろちゃんを重用しているんだと思いますよ。いえ、寧ろしろちゃんには自分に近い場所まで上がって欲しいんじゃないでしょうか」
「……ありがとう。少し自信がついた」
納沙さんの言葉を全面的に肯定することはできない。だけど、少しだけだも納沙さんの言葉が当たっていれば嬉しく思う。