宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

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戦闘開始

磯風の分断に成功したと連絡の直後の事だった。

 

「続報きました! 分断の為に学生艦艦隊内に侵入したみくらが至近弾により損傷したみたいです!!」

 

その報告に、私は少なからず動揺した。みくら艦長は元時津風艦長の榊原さん、知らない仲ではない。もしその至近弾が大和型なものであればそれだけでみくらは航行不能になる。心配するなと言う方が無理な話だった。

 

「みくらは無事に離脱できたのか!?」

 

「航行に支障なし。離脱後も戦闘行動を継続しているみたいです」

 

いくら損害が軽微だったとしても、あの艦隊相手に戦闘を継続するのは相当な胆力のいる事だ。流石、榊原さんと言ったところだろうか。

 

「警備救難部の艦艇なら、無理せず下がれと言いたいところだが……」

 

「みくらは保安即応艦隊の所属ですからね。私達に命令権はありません」

 

「それにみくらが損傷してでも作戦を続行しているのは、私達が学生艦を鎮圧するためだからね。その想いに応える為にも、私達は分断した磯風の鎮圧に全力を注ぐべきだよ」

 

「そんな事は分かっている。問題は、みくらが損傷して事で作戦に影響が出ないかどうかだ」

 

そう、みくらの損傷を気にしても仕方が無い事は分かっているんだ。だけどその損傷度合いによっては、武蔵含む艦隊相手に保安即応艦隊の四隻では太刀打ちできなかなるかもしれない。

 

「それなら問題ないんじゃないでしょうか?」

 

どうしてそう思うのか。そんな想いを込めて納沙さんに視線を送ると、彼女はさも当然と言わんばかりに口を開いた。

 

「だって、保安即応艦隊からは作戦中止の通達はきてないんですよ。ならみくらの損傷は作戦に影響のないものだったと考えるのが妥当じゃないでしょうか」

 

「たしかにそうかもしれないな。だが、友人としてはみくらの状態が気になるのも仕方ないだろう」

 

「私だって気になりますけど、今私たちがやらなければ行けないことは、すぐそこにまで来ている磯風の鎮圧ですよ」

 

それに何も、私は榊原さんが心配だからと言うだけでみくらの状態を知りたいわけではない。私達の任務は磯風の鎮圧である事は間違いない。しかし、もしも保安即応艦隊の四隻のうち、一隻でも失う事があれば晴雪はその代わりとして参加することになるだろう。もちろん、伊良子さん達PRDTはうきぐもに移乗した上でだ。

 

「もし、みくらが作戦に支障が出るなどの損傷なら今のうちに晴雪と変わるべきだ。戦闘行動に支障があったとしても、PRDTの母艦としての機能くらいは持てるだろうからな」

 

「作戦を確実に遂行するためなら、それをいいかもしれません。ですが磯風はもうすぐそこにいますよ」

 

もう少し早く、みくらの損傷を知れていればあるいはその提案も通ったかもしれない。だけど、肝心の磯風がもうすぐそこにきているとあってはそれも不可能だ。

 

「仕方ない。磯風を鎮圧した後、一度保安即応艦隊と連絡を取るとしよう」

 

「じゃあ、伊良子さん達に出撃するように伝えますね」

 

今回の作戦は晴雪が磯風を引きつけ、スキッパーと内火艇で迂回した伊良子さん達が接舷し乗り込むと言うシンプルなものだ。その間、うきぐもは保安即応艦隊と連絡を取りながら私達をバックアップする。

 

「保安即応艦隊の方は、次の作戦に移っているのか?」

 

磯風との戦闘開始直前、保安即応艦隊との連絡をうきぐもにも任せる直前のそのタイミングは、磯風との戦闘前最後の保安即応艦隊と直接通信するタイミングでもある。

 

「さっきの連絡によると、もう既に涼月の分断を開始しているみたいですよ。分断完了予定時刻は今から六十分後だそうです」

 

「そうか。早急に磯風を鎮圧して、後の事を任せないといけないな」

 

この海域には、保安即応艦隊の四隻と、晴雪、うきぐもの他に学生艦鎮圧のために派遣されていた警備救難部の艦艇が数隻いる。この警備救難部の艦隊には、私達が鎮圧した後の学生艦の面倒を頼むことになっている。

 

「私達が鎮圧して、後の事を任せるのに十分な時間だな」

 

「はい。ですが時間的に、晴風鎮圧に取り掛かる頃にはあたりはすっかり暗くなっているでしょうね」

 

今回の鎮圧作戦で優先順位が最も高いのは武蔵だ。次に五十鈴、航洋艦の優先順位は高くない。

 

「この際、晴風を取り逃すのは仕方のない事だと割り切るしかないだろうな」

 

元々、航洋艦を一隻逃す可能性がある事は事前に行われた作戦会議で想定されていた事だ。それが晴風になった事はたんなる偶然だが、できる事ならここで鎮圧しておきたかった。

 

「そんな事より、いよいよPRDTを出撃させないとまずい距離になっているな」

 

これ以上近づきすぎると、出撃した伊良子さん達が磯風の砲撃に巻き込まれるかもしれない。

 

「伊良子さん達はもう間も無く、出撃できるそうです」

 

「よし、磯風に対して主砲による攻撃を開始してくれ。くれぐれも当てるなよ」

 

一応注意を促したが、砲術長である小笠原さんを信じていないわけではない。だが、意外と血の気の多い彼女の事だ。一言注意をしておかないと砲雷長の西崎さんと一緒に好き放題主砲を撃ちかねない。

 

「任せといて! 磯風に至近弾を浴びせて足を遅くして見せるから!!」

 

至近弾でも航洋艦相手だと少し不安が残るが、RATtに感染した(ふね)相手ではそれくらいはないと牽制にならない。学生時代に直撃コースの魚雷を、深度をを見切って回避行動さえしなかったシュペーから得た教訓だった。

 

「……まぁ、当てなければそれでいい」

 

「魚雷撃つのは……」

 

期待を込めた目で姫路さんが問いかけてきた。これまで魚雷は一度も使っていないから、水雷長である姫路さんは置物のようになっていた。西崎さんは砲雷長だから、主砲を撃つ時に出番があったおかげで、これまでその事に言及してこなかったが、姫路さんの言葉に触発されて騒ぎ始めた。

 

「流石に解禁でいいよね!? この艦隊を鎮圧すれば学生艦は殆どの残っていないから撃つ機会もなくなるし!!」

 

「ダメだ」

 

この艦隊を鎮圧すれば学生艦の大部分は鎮圧したことになる。比叡や猿島など、厄介な相手は残っているけどそれ以外は航洋艦が殆どだ。魚雷を撃つ機会はないならだろう。しかしだからと言って航洋艦相手に魚雷を撃っていい理由にはならない。

 

「相手は航洋艦だぞ。魚雷を撃つなら武蔵を分断した後だ」

 

「撃っていいの!?」

 

とてつもなく嬉しそうな様子だが、正直西崎に関してはあまり信用できない。魚雷を撃つために装備開発部に行くくらいには、魚雷好き(トリガーハッピー)な西崎さんだ。何かの間違いで武蔵以外にも魚雷を撃ってもおかしくない」

 

「武蔵相手にならだぞ!」

 

「砲雷長の命令があっても武蔵以外には絶対に魚雷を撃たないから、安心して〜」

 

晴風時代、水雷員の二人は大人しい部類に入る生徒だった。だけどそれも、水雷長だった西崎さんが加われば話は変わる。西崎さん指示の下、どんな相手に対しても魚雷をバンバン撃ちまくった。水雷員としては正しい事ではあるが、実は西崎さんみたい(トリガーハッピー)な性格なのではないかと密かに疑っていたりする。

 

「姫路さんがそう言うなら安心だ」

 

今ここで言う事でもないし、何より普段の様子は西崎さん(トリガーハッピー)とは掛け離れた性格だし安心できるとも思っている。

 

「だけど武蔵相手には撃ってもいいんだよね〜?」

 

いや、やっぱりそんな事はないのかもしれない。問いかける様子は楽しみだと言う気持ちを隠そうとしていないし、やっぱり姫路さんも西崎さんと同じ人種なのかもしれない。

 

「武蔵相手にだけだぞ」

 

「自分で命令して撃つの、した事ないからやってみたかったんだよねぇ」

 

念の為、もう一度注意をしたがどうやら姫路さんには届かなかったようだった。だが、言われてみれば艦橋メンバー以外で砲雷撃の指揮をした事のあるクラスメイトは殆どいない。砲雷科の人間としては、魚雷を撃てることに気持ちが高まるなと言う方が無理な話なのかもしれない。

 

「姫路さん、くれぐれも武蔵以外には撃つなよ」

 

私の言葉に、姫路さんは「勿論」と頷いたが、ここに至っては正直あまり信用できない。しかし磯風との戦闘直前の今、これ以上のおしゃべりはできない。

 

「伊良子さん達が晴雪から離れて大きく迂回を開始しました」

 

「よし、攻撃始め!」

 

私の号令と共に撃たれた手法は、磯風の手前約五十メートルに着弾した。晴風と違い、射撃装置はいいものを使っているかやろうと思えば十メートル手前にだって着弾させられる。なのにここまで距離を開けて着弾させたと言う事は、小笠原さんはかなり安全に配慮してくれたのだろう。

 

「今回に限っては磯風から逃げる事はしない。早急に鎮圧しなければならない以上、多少危険でもこちらから近づいて行くぞ!」

 

「よ、よーそろー!!」

 

不安そうな、しかしそれでいてどこか力強い掛け声で知床さんが舵を握る。知床さんの弱々しい態度とは裏腹に、学生時代は彼女の腕で何度も修羅場を潜り抜けてきた。彼女に任せておけば無傷で磯風を鎮圧することもできるだろう。

 

「西崎さん。急ぎでわるいが艦内の手の空いている人を集めて突入部隊を編成してくれ。今回ばかりはPRDTが単独で鎮圧した、なんて事態にはならないだろうからな」

 

「……了解」

 

あからさまにテンションを落としながらも西崎さんは艦橋を出て行った。彼女の身体能力にはそれほど期待できないが、知床さんと西崎さんの二正二人のうち動けるのは西崎さんだけだ。

 

「伊良子さん達だけで鎮圧できないと思いますか?」

 

「伊良子さんなら鎮圧できると思う。だけど今回は今までと違って、晴雪は最初から学生艦に近づいている。今まで通りの鎮圧速度なら西崎さん達突入部隊が必要になるだろう」

 

今までは鎮圧行動は伊良子さん達に任せっぱなしだった。だけど今回は最初から晴雪は学生艦に近づいている。今までと同じくらいの鎮圧速度なら、接舷した時にまだ鎮圧が終わっていない事は十分考えられる。

 

「伊良子さん達なら問題なく鎮圧しそうな気もしますけどね」

 

「否定はしないが、万が一という事もある。用意しておくに越した事はないだろうっとと……」

 

呑気に話をしていると、至近弾を浴びて(ふね)が大きく揺れた。夾叉こそされていないが、距離が近づくにつれて少しづつ至近弾が増え始めている。

 

「流石に至近弾が増え始めましたね」

 

「こ、このまま進んだ方がいい? それとも回避を優先した方がいいかな?」

 

学生時代の知床さんなら、迷う事なく回避を優先するよう提言していただろう。それが回避を優先するか、このまま直進するかを私に選ばせるなんて随分と成長したものだ。

 

「知床さんの腕なら問題ないだろう。このまま、最大限の回避行動で磯風に向かうぞ」

 

「りょ、了解!」

 

昔なら「回避しないの!?」と聞いてきていただろうに、今は勇ましく前を見据えて舵を切っている。

そんな知床さんを見ていると、ふと疑問が湧いてくる。果たして私は学生時代と比べて成長したのだろうか。西崎さんは、変わっていないように見えて、あれで案外昔よりも撃ちたがる癖がマシになっている。納沙さんはまだブルーマーメイドになって時間もたっていないし例外。駿河さんも、黒木さん曰く頼もしくなったと言うし、伊良子さんも岬さんも学生時と比べると成長したのだろう。じゃあ私は、私はどうなのだろうか。

岬さんが何かしている事は知っている。かつての岬さんなら副長である私にその事を相談しないはずがなかった。なのになんの相談もせずに事を進めると言うのは、つまるところ今の私が学生時代と何も変わらず、成長できていないからに他ならないのではないだろうか。そんな、嫌な考えが脳裏をよぎった。

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