個人的には一般生徒の制服は呉校が一番可愛いなと思ってます。
みなさんはどうですか?
「移動ですか?」
はれかぜでの飲み会の翌日、出勤して早々に課長に呼び出され告げられたのは情報調査室からの移動の内示だった。
「一ヶ月後に正式な辞令が下るけど貴女と納沙三正には警備救難部に異動してもらうことになるわ」
「一時的なものではないんですか?」
前にそれとなく話された時は一時的に異動するような口ぶりだったから不思議に思い思わずそう尋ねた。
「違うわね。どうやら上は警備救難部を恒久的に強化するつもりらしいわ。私もよくは知らないのだけど近々警備救難部の補強のために海上治安維持法第十一条一項を発令すると言う噂があるわ」
海上治安維持法第十一条一項はその時にブルーマーメイドが保有する戦力では対応不可能と判断される事態が発生した時にブルーマーメイド退官者や海洋学校関係者を強制的に任用し戦力の増強を図る条文だ。最近では七年前の海賊によるフロート占拠の際に母さん、宗谷真雪に対して行使されたのが最後だ。
勘違いされがちだがこの条文は何も一個人を任用するためではなく基本的にはある程度の規模を持って適用し稼働艦艇を増加することこそが主目的である。つまり今回の場合は警備救難部の戦力、つまり稼働艦艇数を増加させるために発令するのだろう。
昨今の海難事故や海賊被害の増加を考えれば現在の警備救難部では対処しきれているとは言い難いから発令もやむなしといえるが…。
「補強といっても現在警備救難部の艦艇は全て稼働状態ないしはドックで整備中。使える艦艇はなかったと思いますが」
「今年の海洋学校の予算に新規艦艇の購入予算が組まれていたでしょう。その予算で日本から他国に輸出していた艦艇を安く払い下げて購入しているそうよ。
多分二項の方も発令して海洋学校からそれを徴収するんじゃないかしら」
海上治安維持法第十一条二項はブルーマーメイドに関連する企業や学校に対して艦船、物資等の援助を強制させる条文だ。一項はともかく二項の適用はこの条文ができてからは一度もない。
「随分ときな臭い話ですね」
おそらく元々そのつもりで海洋学校に買わせていたんだろうがそんな回りくどいやり方、裏がありますと言っているようなものではないか。
「貴女は海洋高校の時岬二監の副長だったのだから何か聞いていないの?」
大抵の場合海洋高校時代のクラスメイトの繋がりは強い。三年間も同じ船で過ごしたんだ、当然と言えるだろう。野際課長もそう思って私に聞いたのだろうが生憎、私に限ってはそうではなかった。
「最近会っていないので特に何も聞いていません。野際課長はどうですか?」
野際課長は海洋高校時代大和型直接教育艦紀伊の副長をしていて艦長だった千葉沙千帆さんは現在二等保安監督官で保安即応艦隊司令長官をしている。
「私も特に聞いてないわね。そもそも千葉さんがその手のことが苦手だから知らないだけかもしれないけど」
「今でもよく会うんですか?」
同じ副長という立場同士当時の艦長との付き合い方に違いがあるのか気になって尋ねた。
「月に一度クラスのみんなで飲み会をしているわ。貴女はどうなの?」
私が最後に岬さんとプライベートで会ったのはいつだっただろうか。思い返してみると去年の西崎さんたちの卒業祝いの飲み会以来だから一年以上前だ。その飲み会は岬さんのニ監昇進のお祝いも兼ねていて晴風メンバー全員が集まって朝まで飲み明かして真冬姉さんに朝帰りを揶揄われたんだっけ。
そういえばあの時は知床さんが納沙さんの標的になって吐くまで飲まされていたけどあの飲み会以来、知床さんは納沙さんに積極的に生贄を差し出作ようになった気がする。
「多分みんなが集まったのは一年以上前ですね。私たちのクラスはそう言うのが最近はめっきり減りましたから羨ましい話です」
部署が違うとはいえ職場は同じだからたまにすれ違ったりする事はあるけどお互い忙しく世間話をする時間もない。
「意外ね。昔見たままの岬ニ監なら毎日でも飲み会とかやりそうだったのに」
「そう言うのは岬さんが一正に昇進して忙しくなってからは減りましたね。最近なんかはよっぽど忙しいのか誘っても来ないみたいなんですよ」
それまでは毎週末、岬さん主催で飲み会を開いていたてそれには晴風メンバーだけでなく知名二監や高橋さん、榊原さんや他のクラスの同級生達もよく参加していた。
けど流石に一正になるとその余裕も無くなったようだった。私自身一正だからよくわかるがこの階級は本部所属者であれば初めて役職が付き部下を持つことになる。それまでとは異なる仕事や悩みが出始めて忙しさも段違いだ。
「そうなの。まぁ岬二監は昇進ペースが早いからその分仕事も多そうだし仕方ないでしょうね」
「そうですね」
そういえば岬さんだけでなく高橋さんや榊原さんとも最近はあっていないけど元気にしているのだろうか。
「それとこの前提出してくれたラット事件の再調査書なんだけど知名二監がもう少し遡って調べて欲しいって言っていたわ」
「遡る…?しかしあの事件の始まりは入学式ですからあれ以上は遡ることに意味があるとは思えません」
そもそもの原因は西之島ができた際の海底火山の活動により実験艦が浮上したことだからそもそもラットと関わってすらいない入学式以前に遡る必要がわからない。
「それを私に言われても困るわ。ただ知名二監がさらなる調査を要求している以上それに応えるのが貴女の任務でしょう。期間は貴女が警備救難部に移動する一ヶ月後まで。それまでに引き継ぎをしながら納沙三正と一緒にこの件について再調査をしてください」
◇◆◇
それから三週間、引き継ぎをしながらラット事件の再調査をし続けていた。
ラット事件二週間前の横須賀女子海洋学校に関する記録の殆どを調べたけど特に怪しい事は無く、一体知名二監は私達に何をさせたいのかとその意図を直接問いただそうかと考えていると納沙さんが頼んでいた資料を持って戻ってきた。
「シロちゃん当時の入港情報持ってきましたよ」
「だから宗谷さんか宗谷一正と呼ぶようにと言っているだろ」
毎日挨拶のように繰り返しているこのやりとりだが組織人としてあだ名呼びを許すのは如何なものかと言う思いから今日もまたいつものように注意をした。
「えー、私達以外誰もいないんだしいいじゃないですか」
たしかに引き継ぎが終わった今、ここに来る人間は殆どいないからわからないでもないがそれに慣れて人がいるところで間違えて呼ぶよりはいいだろう。
「いつ誰が入ってくるかわからないだろ」
元部下が忘れ物を取りに来たりするかもしれないから用心に越した事はない。
「心配しすぎですよ〜。そんな事よりこの資料ここに置いておきますね」
そう言って納沙さんは机の上に持ってきた資料を置くと私が調べ終わった資料を戻しに資料室に戻っていった。
入港情報を持ってきて貰ったはいいものの、正直これで何か新しいことがわかるとは思えなかった。
横須賀海洋に来る船は海洋学校所属艦以外は基本的にブルーマーメイド関係の船だけだ。女子校という性質上外部の人間が入ることに対しての警戒感が強く教育艦の補給物資どころか学校の備品の補給でさえ全てブルーマーメイドを通して行うから犯罪が紛れ込む余地も殆どない。
もっとも、ラット事件の後に行われた調査で物資の横領が発覚しているから全くないわけではないけど一度きちんと調査が行われているからこそ後回しにしていた。
けど少し読み進めただけでそれが間違いだったことに気づいた。
「ビスマルクも来ていたのか。それにしても3日の入港船舶が異様に多いな」
よくよく調べると3日は海上都市支援の会の会議があって関係者がかなり横須賀女子海洋高校に来ていた。しかしこれは教育艦のある港には立ち入り禁止となっていたから特に関係はなさそうだ。
ただビスマルクについては少し気になる。同じドイツの教育艦のシュペーが実習に参加したのにビスマルクが参加しなかった理由はなんだろうか。
「何かわかりましたか?」
いくつかのファイルを抱えて戻ってきた納沙さんが尋ねてきた。
「うーん、取り敢えずビスマルクの3日以降の航路が知りたいから資料を持ってきてくれないか」
「それなら今持ってますよ」
そう言って持っていたファイルを差し出してきた。
「ありがとう。けどどうして持っていたんだ?」
私の問いかけに待ってましたと言わんばかりの勢いで納沙さんが答えた。
「聞いてください、当時のビスマルクの艦長が凄いんですよ!」
「誰なんだ?」
「なんとテア艦長と次期ヴァイマルブルーマーメイドのトップを争っているあのクローナ・ゼバスティアン・ベロナ二監ですよ!」
ベロナ二監は代々ドイツ海軍とブルーマーメイドの高官を輩出してきた名家だ。テア艦長と同い年だし海洋実習は必修だから当然と言えば当然だがまさか横須賀に来ていたとは知らなかった。
「それがどうしてそのファイルを持っていたことと繋がるんだ?」
「え、だって当時のベロナ二監が何をしていたのか気になりませんか?」
「それは仕事と関係があるのか?」
「特にありませんね。ただの趣味です」
悪びれた様子もなくサボることを宣言する納沙さんに思わず語気を強めた。
「遊びに来てるんじゃないんだぞ。給料を貰ってるんだからちゃんと仕事をしろ」
「飛ばされて暇なんですしちょっとくらいいじゃないですか」
「飛ばされたとか人聞きの悪いこと言うな!
それにいくら暇でも私達は国から給料を貰っている公務員なんだからサボっていいわけないだろ!」
ただ部署が異動になるから引き継ぎで人が少なくなっただけだ。
「冗談ですからそんなに怒らないでくださいよ。
ビスマルクの事だって横須賀に来ていたのにどうして実習に参加しなかったのか気になったから持ってきたんですから仕事のうちですよ」
いくら冗談でも言っていいことと悪いことがあるが説教はまた次の機会にして今はまずビスマルクの件だ。ただでさえ残り時間は少ないのだから有効に使わなければならない。
「それで、どうして実習に参加しなかったんだ?」
「それがわからないんですよね。元々参加する予定はなかったみたいなんですけど何故か途中までシュペーと一緒に行動しているんですよ」
「いつまで一緒だったんだ」
途中といってもいつまで一緒だったのかでその意味合いは変わってくる。
「ラット事件当日の朝5時くらいまでですね。ビスマルクはそのあとシュペーと別れてゼーアドラー基地に向かったみたいです」
「西之島のすぐ近くにまで来ていたのに実習に参加せずに態々ゼーアドラーに向かったのか。参加すればよかったのにな」
せいぜい前日くらいまでだと思っていたがまさか当日まで一緒にいたとは。
「それだったらビスマルクもラットに感染しちゃうじゃないですか。武蔵だけでもブルーマーメイド艦四隻が航行不能になったのにビスマルクもそれに追加されるなんて最悪ですよ」
たしかに超弩級戦艦が二隻もRATt事件に巻き込まれると言う事態は想像しただけでもぞっとしない。
「けど仮に納沙さんの最初の報告書の言うように初めからラットを船に乗せていたなら話は別だろ」
「たしかにそうですけど、あんなの冗談に決まってるじゃないですか。まさかシロちゃん信じてるんですか?」
「そうじゃない。ただビスマルクが感染する事はないから逆に日本に使える手札が増えたって言いたかったんだ」
あの時稼働していた日本の戦艦の中に大和型とまともに撃ち合える戦艦はいなかった。ビスマルクでは最終的には打ち負けるかもしれないがこちらは数では勝っていたからビスマルクを最大限に生かした作戦を立てれば多少楽に大和を制圧できた筈だ。
「けど実際はラットに感染するからより悪い方に進みますよね」
「たしかにそうだな。今はビスマルクが実習に参加していなかったことを喜ぼう」
ビスマルクが参加しなかったことは不思議ではあるが元々そう言う予定だったのなら深く追求する必要もないだろう。
そう結論づけて私はビスマルクに対する調査を終了した。
実を言うと元々この『宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録』最初はココちゃんがブルーマーメイドになってから当時を思い出しながら書いた回顧録みたいにしようとしていたんですよね。
それが続きを書き始めたらシロちゃんが主役になってさらに連載小説になっていると言う…不思議ですね。