宗谷ましろのブルーマーメイド勤務録   作:鉄玉

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マロンちゃんって意外と私服可愛いですよね。個人的にはいふり68話の扉絵マロンちゃんが好きです。


打ち上げ

無事に訓練航海を終わらせた私達は横須賀に寄港した足で艦橋メンバーと晴風クラスだった晴雪乗員とでいつも居酒屋船はれかぜが停泊する埠頭に向かっていた。

 

「にしても美波さんが船医として乗艦するなんてねぇ」

 

「もしかして『鏑木美波にこれ以上成果を出されるのは私の沽券に関わる』」

 

いつも通り唐突に始まった納沙さんの一人芝居に皆が私に止めるのは艦長の役目だろと言わんばかりな視線を向けてきた。

 

「『ではアイツは晴雪の船医にしてしまいましょう』みたいな話があったりして!」

 

「そんなんじゃない」

 

呆れたような口調で美波さんが言った。

 

「なんだそうなんですか? つまんないですね」

 

仮にも元クラスメイトの進退に関する事なのに、つまらないとは随分な言い草だ。

 

「けど美波さんって海洋医大での研究が楽しいって言ってたよね? なのにどうして晴雪に乗ろうと思ったの?」

 

知床さんの質問に美波さんは少し目線を泳がせると口を開いた。

 

「岬艦長に副長が艦長になると言うからできる限り乗組員を知り合いや横須賀出身者で固めたいから協力してほしいと頼まれたんだ」

 

「艦長と連絡をとっているのか!?」

 

私なんか艦長が警備救難部の部長になってから一度も連絡が来てないのに!

 

「最近はよく連絡が来ていた」

 

「どんな事を話してたんですか?」

 

「主にRATtに関する事を聞かれた。どうやら知名艦長とあの事件について調査しているらしい」

 

「そういえば私達も知名艦長からRATt事件の再調査を依頼されましたね」

 

「もしかしたら私達だけじゃないのかもな」

 

今の所RATt事件の話を振られたのは知っている範囲では私達と美波さんだけだ。しかし今のあの二人なら私達以外にも使える人材はいくらでもいる。

 

「そう言えばマロンもRATt事件のことを調べていたわね」

 

「柳原さんは海洋情報部の沿岸調査課だったな。RATt事件の事を調べるにしても限りがありそうだが……」

 

「西之島新島の海底隆起と、きっかけになった潜水艦について調べているみたいよ」

 

なるほど。それなら沿岸調査課でも調べられるかもしれない。だけど柳原さんはあまり過去には拘らないタイプ。今更RATt事件に興味があるとは思えない。

 

「それも艦長達からの依頼なのか?」

 

「これはマロンちゃん主導みたいだよ」

 

「他の二人と違ってマロンちゃんは沿岸調査課の部下を使って大っぴらに動いているみたいだし何か考えがあるのかもね〜」

 

ほまれさんと駿河さんは私達よりも長くブルーマーメイドにいるから色々噂も入ってくるのだろう。いや、駿河さん含めた機関科四人組は噂好きで根拠のないものまでまるで真実かのように話して、クラスを騒がせた事もある。あまり信用しすぎない方がいいかもしれない。

 

「黒木さん達は知名岬派に入ってますよね。何か聞いてないんですか?」

 

納沙さんの質問に黒木さんは眉を顰めた。

 

「ルナ達は知らないけど、少なくとも私は入ったつもりはなわね」

 

「クロちゃんが知らない事を私達が知っているはずがないよ」

 

「知らないに決まってるじゃん。マロンちゃんのこと一番知ってるのクロちゃんなんだから」

 

「あれ、そうなんですか?」

 

「マロンがその派閥に入ったから自然と仲の良かった私達も同じ派閥だろうって思われただけよ」

 

「それだとなんだか柳原さん自身が派閥を持っているみたいですね」

 

「あながち間違いじゃないんじゃなかしら。マロンはあれでいて人望があるし、私自身もし仮に派閥に入ってるとしたらそれは柳原派だと思うわ」

 

柳原さんが知名岬派に入った事で、それに近しい人達もまとめて同じ括りに入れられたと言うことか。なら横須賀派の実態は知名艦長、岬艦長、柳原さんの三頭体制と言えるのかもしれないな。

 

「私達以外にもマロンが岬艦長達と合流したからって子は多いわよ。マロン本人に自覚はないでしょうけどね」

 

「なら黒木さんは岬さん達がRATt事件について調べている理由も聞いているのか?」

 

「秘密って言って教えてくれないのよ。いつものマロンならなんでも私に相談してから決めていたのに」

 

「大学飛び級に成功した時は『クロちゃんと学生生活したい』ってただこねるくらいにべったりだったのに、機関長も成長するんだねぇ」

 

西崎さんが驚いているけどこれにはみんな同意見だった。

柳原さんは海洋大学を一年飛び級して卒業しているけど、これは元々本人の意思ではなかった。黒木さんが飛び級しようとしているのを聞いて一緒に飛び級してブルーマーメイドになろうとした事が事の発端だった。

黒木さんと一緒にブルーマーメイドになるつもりだった柳原さんだったけど、誤算だったのは黒木さんが飛び級に失敗した事だ。普段のテストではいつも機関科の四人組とギリギリ合格点を取るような立場だったけど柳原さんは機関長になるくらいには地頭がいい。ちゃんと勉強すれば飛び級くらいはわけない。

逆に黒木さんは普段の勉強は計画を持ってキチンとやり遂げているけど飛び級するとなれば相当な努力と後は少しの運が必要だ。

一緒に飛び級できると思い込んでいた柳原さんが黒木さんの失敗を知ったのは全ての書類にサインした後だった。そこでただをこねても全てが後の祭り。半泣きになりながら卒業しブルーマーメイドになったのは今でも酒の席で肴にされている。

 

「マロンちゃんは私達一年飛び級組だと一番の出世頭だし……」

 

知床さん達他の一年飛び級組は現在二正で出世頭の柳原さんは私と同じ一正だった。

 

「確か装備技術部で保安即応艦隊に搭載予定の新型機関の不具合を見つけて昇進したんでしたよね」

 

ブルーマーメイドになって三ヶ月で不具合を見つけてその功績で昇進。さらに今年初めの人事異動で昇進と沿岸調査部への移動が命じられたのが柳原さんだ。

それに対して私は一年目から二年目まで順当に情報調査隊で一つずつ階級を上げてとうとう今年は海上勤務。二年飛び級した人間としては普通だが一般的なブルーマーメイドからすれば十分早い昇進速度だ。

 

「マロンは機関に関する事なら誰よりも優秀だったから。その代わり他の事は人並みだったけど。沿岸調査部に移動になったって聞いた時は心配していたのだけど思いの外馴染んでるみたいなのよね」

 

「クロちゃんは寂しいんじゃないの?」

 

「そ、そんな事ないわよ!」

 

駿河さんが揶揄うと黒木さんが声を荒げた。

柳原さんは黒木さんにべったりなのはみんなの知るところだが黒木さん自身それを嫌だと思っていないのもまたみんなが知っている事だ。

柳原さんが飛び級に成功した時だって打ち上げの時は祝ってたけど後で愚痴に付き合っている。内容はおおよそ自分も飛び級したかったと言うものだったがその枕詞には必ず「マロンと一緒に」とついていたあたり筋金入りだ。

 

「寂しいのは悪い事じゃないだろう。私だって艦長と昔みたいな関係でいられない事は寂しいと思うしな」

 

今の艦長と私では立場が違いすぎるがいずれはまた以前のように同じような関係に、同じ(ふね)に乗って航海をしたいと思う。

 

「晴風は無茶苦茶やってたけどすごい楽しかったよね」

 

「主砲もバンバン撃たせてくれたしね」

 

「魚雷もだよ〜」

 

「もう二度とごめんよ」

 

血気盛んな砲雷科の二人は艦長の指揮が楽しかったというが初代晴風で散々な目にあっている機関科の黒木さんは嫌そうな顔をした。

 

「けど岬艦長じゃないと二代目晴風の時みたいに機関をいじるの許してくれないよ」

 

「ルナ、いくら卒業したとはいえそれをペラペラ喋るのはダメよ」

 

二代目晴風は物足りないという柳原さんの鶴の一声でこっそりと空気予熱機が付けられて熱効率がアップしている。その影響で燃焼温度が安全基準ギリギリな上にタービンまで弄っている。だがそのお陰で海賊事件の時には先代晴風のような無茶苦茶な行動を取ることができた。

 

「思えばシロちゃんよく魔改造の許可を出しましたね」

 

「私は許可なんて出していない。知った時には全部終わった後だった」

 

「そうなんですか? 艦長の事ですからちゃんとシロちゃんと相談して許可したものだと思っていました」

 

「艦長がマロンちゃんの魔改造計画を知ったのも偶然だったしね〜」

 

「あの時機関室に艦長が来なかったらマロンは無許可で際限なく改造していたでしょうね」

 

「機関をバラし始めていたからもう止めようがなかったって聞いたけど違うのか?」

 

すでに柳原さんが行動を起こしていたせいもあって艦長は法律の範囲内での改造に抑えるので精一杯だったと聞いているが違うのだろうか。

 

「艦長が見た時には改造の六割は終わってたけどね〜」

 

「艦長は機関の事は門外漢だったから多分機関がバラバラになっているのを見てそう言ったんだと思うわ」

 

「艦長、顔真っ青になってたね」

 

「黒木さんは止める側だと思っていた」

 

機関科の中では、いや晴風の中でもかなりの常識人の部類に入る黒木さんならきっと止めると思っていたのだが違ったようだな。

 

「クロちゃんはマロンちゃんに強くお願いされると弱いもんね〜」

 

「だってマロン、拗ねたら面倒じゃない」

 

その言葉に思わずみんなが「あー」と言ってしまった。

柳原さんが最初に拗ねたのは赤道祭だったがあの時は機関室に籠って出てこなくなった。

あの時は(ふね)が動いていなかったからいいけど航行中に拗ねたら厄介極まる。流石に職務を放棄することはないだろうが晴風の無茶な作戦行動は機関科の職人技によって成り立っていた部分はかなり大きい。それが少しでも崩れれば晴風が簡単に航行不能になってもおかしくはない。

 

「ところでもうそろそろはれかぜが見えてもいい頃合だと思うんだが……」

 

「そういえばそうですね。いつもこの辺に止まってますけど今日はどうしたんでしょうか?」

 

「みかんちゃん寝坊しちゃったのかな〜?」

 

「ルナじゃないんだからそんなわけないでしょ」

 

「給養員が寝坊するところったあんまり想像できないよね。晴風に乗ってた頃も毎朝ちゃんとご飯出てきたし」

 

黒木さんも西崎さんも寝坊説には否定的だ。かく言う私もそうだ。

 

「給養員でも寝坊する時はするよ。特に夜遅くまで新メニュー開発してた次の日なんかは絶対に一人は寝坊するからみんなで協力して起こしあうようにしていたの」

 

「なら駿河さんの寝坊説もありえないわけじゃないのか」

 

「みかんちゃんに連絡入れる?」 

 

「もしそれで航行中だったり別の場所で営業中だったら迷惑になるな」

 

西崎さんの提案を否定したが私自身あまりいい案がない。どうしたものかと思案していると納沙さんが口を開いた。

 

「ならはれかぜのホームページ見てみますね。もし休業なら何か情報があると思います」

 

普段は晴風クラスのグループチャットや本人と直接やりとりしてるから忘れがちだが居酒屋船はれかぜにはちゃんとホームページがある。普通の店ならすぐにその考えに思い当たるのに友人の店だからかすっかり失念していた。

 

「えーと、居酒屋船はれかぜは……」

 

納沙さんが調べている間に周囲を調べているがやはり何処にもはれかぜの姿はない。

 

「た、大変です!!」

 

「どうした? まさか本当に寝坊でもしていたのか?」

 

「は、はれかぜが閉店したって!」

 

納沙さんが見せてきたはれかぜのホームページにはこう書いてあった。

 

『長らくのご愛顧ありがとうございました。誠に勝手ながらこの度、諸般の事情により店を開くことができなくなったため一時的に閉店する事となりました。

次回いつ開店できるかなどは未定ですが再びはれかぜを開くことができた際にはぜひお越しいただけると幸いです。

居酒屋船はれかぜ 船長 伊良子みかん』

 

「本当に閉店したのか……」

 

「みかんちゃんグループにも何も言ってないのに……。よっぽど急な事情だったのかな……?」

 

「ほまれさんも聞いてないのか?」

 

私の問いかけにほまれさんは力なく首を横に振った。ほまれさんは横須賀女子海洋学校に入学する前から伊良子さんと仲の良い友人関係だった。何か知っているかと思ったけど聞いていないのか。

 

「仲の良いほまれさんも聞いてないならよっぽどだな」

 

予想外の出来事に誰もが皆沈黙を保った。

 

「これからどうする?」

 

口火を切ったのは西崎さんだった。

 

「打ち上げって空気でも無くなっちゃいましたね」

 

「はれかぜ閉店の……残念会でもするか?」

 

「残念会ってシロちゃんセンスないですよ」

 

残念会は適切ではなかったか。だが他にいい表現も見当たらないし何よりこのまま帰るのもおかしな話だ。

 

「残念会しよう。それで何も言わずにお店閉めちゃったみかんちゃんの悪口でも言い合おう」

 

顔を俯かせながらほまれさんが言った。仲の良かった伊良子さんに何も言わずに店を閉められたことがよっぽどショックだったようだ。

 

「私は構わないが……」

 

他のみんなはどうだと問いかけたが皆に異存はないようだった。

結局その日の飲み会はほまれさんが日を跨ぐまて飲んで酔い潰れるまで終わらなかった。酔い潰れたほまれさんは呼び出された妹のあかねさんが連れ帰ったが、彼女もはれかぜが閉店したと聞いて自分も残念会に呼んで欲しかったといい今からでも飲みに行こうと言い出した時には流石に焦った。

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