俺がこの世界に来て3日目、ポートラルは補給物資を取りに街へと出ていた。
「わっしゃっしゃっしゃ、ヒサギンよ。大健闘であったぞ、くるしゅーない」
今だに樽神名のこのテンションには慣れそうにない。
「……うざ」
「とか言いつつ抵抗しねぇのな」
……なんて、雑談を交わしていると……。
「ってなわけでぇ新入りくん! 男手が足りないんだから、さっさとお手伝いせい!」
「はは、任せてよ。コンテナに頭をコン、てな……。はいっ、アルトじゃ~ないと!!」
『Blizzard! ……』
「てめぇのくそさみぃギャグは置いといて、さっさと運び出すぞ!」
──しかし、その時だった。
「────糞ッ!!!」
来栖崎さんが俺を押し飛ばす。俺は咄嗟に受け身をとって来栖崎さんの方に目を向ける。
「え……」
──血だらけで倒れ伏した彼女に、俺は言葉が出ない。
「来栖……崎……さん?」
俺はその側に立っているゾンビを倒し、来栖崎さんに駆け寄る。───そして、頭に駆け巡る記憶。そして俺は、俺の体の記憶を取り戻した。
「あぁ……」
理解した。そうか、だから俺は感染しないのか、と。────そして、誰も知らない宇宙に1台の衛星が出現した。
「ぁがっ……」
息絶え絶えの状態で、少女は嘆く。
「んで……私が……」
「そうか……」
俺は来栖崎さんの刀を手に取り、もう片方の腕に向けて突き立てる。
「ッ……」
だがこんな痛み、あのキーを使った時に比べればなんてことない。
「な……なにしてるの新入りくんッ!!」
樽神名さんが走ってくるのを三静寂さんが抑える。
「だめだ! もうあの刀には……」
「なんでっなんで……心中なんて、意味ないんだよ!」
……ごめんみんな。こうするしか……なかったんだ……。
「来栖崎さん、少しだけ、我慢してください」
俺の血が滴る腕を、来栖崎さんの口にねじ込む。
「?! ……なに……すんのッ……?」
「俺の血を、舐めて」
自分で言っていても吐き気がする。
「きもぃ……なによぉその趣味……」
涙ぐみながら、来栖崎さんは俺を睨む。
「これで……治まるから……」
来栖崎は拒むことも出来ずに咳き込むように血を舐めとっていった。
「え……うそ?」
その衝撃的な光景に、あの樽神名さんですら言葉が出ないようだ。
「感染痕が……消えて……いくです?」
「感染症状まで……引いていくぞ」
「おいおい……まじかよ……」
「ありえません……」
ほんの数分で、彼女を包む絶望は、完全に抑えられた。
「……すぅ……すぅ……」
程なくして、ついに来栖崎は俺の指を加えたまま眠りについた。
「新入りくん……君は一体……」
「────思い、出しました。断片的に、ですが」
僕は来栖崎をお姫様抱っこしたまま立ち上がり、驚嘆する皆の方を振り返った。
「俺の血は……感染に有効です」
その他の記憶については全て後回しに、ひとまず俺たちは誰一人欠けることなくデパートへ帰っていった。希望と絶望、いまだどちらに天秤の針が揺れるのか、分からないまま。
デパートに戻った俺は、真っ先に医務室へと駆け、医務担当の蜂ノ巣さんに来栖崎さんの治療を任せ、中央会議室に行って俺についての情報を話す。
「俺の名前は、……飛電或人」
この体に名前が無いことがわかったので、俺は自分の名前を名乗る。
「そして、俺の中にはふたつの記憶がある」
「??」
みんなが困惑している中、俺は話を続ける。
「仮面ライダーゼロワンとしてアークと戦ったという、飛電或人の記憶と、この体にあった元の記憶が」
「かめん……らいだー……?」
「まぁ、そこの話はいいんです。本題はこの体の記憶なんですが、実を言うとまだそっちについてはほぼわかっていません」
「だったら────」
「少なくとも、俺は飛電或人の人格しか持っていません」
百喰さんの言葉をさえぎって俺は続ける。
「……ふむ。では君……飛電くんはその新入りくんの体に入り込んでしまったという事だな?」
「……はい。恐らくは」
三静寂さんの問いかけに俺は恐らく、と保険をかける。でも、もしかしたらこれで変身できるかも……そしたら、もっと皆の役に立てるかも……。そんな期待は、次の豹藤さんの言葉とともに引っ込んだ。
「大変です!」
「どした、やちる?! んな息切らして」
「1階の……バリケード、壊されちゃったみたいで……。エントランスにゾンビが沢山侵入しちゃってます!」
「バリケードが? ゾンビ風情に突破ができるとは思わなんだが」
「ごごごごごめんだよみんな! バリケードの耐久度が下がってたのは知ってたから……。強化しようとして忘れてました……」
「すいません……野放しにしすぎました。管理不行き届きです」
「とにかく謝罪は後だ! みんな! 急ぐぞ!」
俺はみんなより一足先に部屋を出て1階に向かう。そして、ドライバーを腰に装着する。
『ゼロワンドライバー!』
そしてプログライズキーの起動スイッチを押す。
『Junp!』
よし、今度は上手くいったみたいだ。そしてドライバーの認証部分にキーをかざし、ロックを解除する。
『Authorize』
すると、ライダモデルのバッタが出てくる。俺は周りに被害が出ないように素早くドライバーにキーを装填する。
「変身!」
バッタが分解されてアーマーになり、俺の体に装着される。
『飛び上がライズ! ライジングホッパー! A jump to the sky turn to a riderkick』
そして遅れてやってきたみんなはその姿を見て呟く。
「……あれが、仮面ライダー……」
「ゼロワン、それが俺の名だ!」
俺はそう言ってゾンビの群れへと突撃する。
「わ、私たちも行きましょう!」
「やちるんとリッちゃんはバリケードの修復を頼んだよ!」
俺に続いてみんなも戦闘を開始する。俺はゾンビたちの群れへとジャンプし、そして飛び蹴りを食らわせる。そして残骸を蹴って突っ込んでいき、そして空中でゾンビを踏み台にして高く飛び上がる。
「ハァッ!!」
俺は右側のスロットに装填されていたキーをかざす。
『メガライズ!』
「お前を止められるのはただ1人、俺だッ!」
そして、キーを押し込む。
「ライジングメガインパクト!」
そして綺麗に着地し、その場に文字が表示される。
ラ
イ
ジ
ン
グインパクト
「……っしゃあ! ふぅ……」
俺はカバーをスライドさせ、キーを取りだし変身を解除する。
「はっ、やるじゃねえか或人」
「すごいよあーちゃん!!」
あーちゃん? あだ名かな? 初めて付けられたんだけど……。
「いや~、戦闘も終わったし、銭湯でも入るか~……。はいっ、アルトじゃ~ないと!」
「……あ、うん」
まだまだギャグは成長途中だからな。仕方ない。ま、場を和ませられただけでもいいだろう。などと、考えていると……。
「キャーッ!!」
上階から悲鳴が響き渡る。
「なんだ?!」
「今の聞いた!?」
樽神名さんはみんなに問いかける。
「ああ、女性の悲鳴、しかも上階からだ」
「ゾンビを上階へ打ち漏らしちまったか?!」
「ッ、とにかく急ごうみんな! 行って見ればわかる!」
俺たちは走る。そして4階に辿り着くと、悲鳴の原因に直面する。
「ヒサギン……?」
「がぅっぅううゔッ!」
来栖崎さんが、蜂ノ巣さんの首を握りしめ、殺さんとする来栖崎さんの姿が、そこにはあった。
「傷が……ふさがってるだと」
「髪が白い……てか目が……」
あの黒髪が、一点の曇りもなく白髪になっていた。
「やはりい……感染は治ってないんじゃないですか……。だから私はッ!」
「後で聞くから百喰さん! 今は、助けよう!」
多分、俺の血の効能は一時的なものだと思う。だからこそ、俺は無力化を望んだ。
「手心を加える余裕があるなら是非もない!」
姫片さんや三静寂さんたちが来栖崎さんを取り押さえる。
「っしゃ、組み伏せたぞおらッ!!」
「数人がかりでやっとだがな……」
「ありがとうございます。みなさん」
「いいですか或人さん。1度きり、1度限りのチャンス。血を飲ませる機会をあげます」
「百喰さん……」
俺は百喰さんに頭を下げてそのまま腕をそのまま噛ませる。