来栖崎さんの治療も終わり、俺たちはまた会議室に集まっていた。
「来栖崎さんをポートラルに置いておくこと、私は反対です」
「モグッチ、反対って……」
「いいですかアド、今回はその男の時とは違うんです。感染者は即刻排除、トラブルが起きないために作った鉄の掟を忘れたのですか?」
「……」
一同沈黙。百喰に対する反論、なし。だがその沈黙を、俺が破る。
「ちょっとみんな待ってよ」
「なんですか?」
百喰さんは酷く冷たい声でそう返事する。
「そりゃ確かに、ルールを破ったらいけないだろうけどさッ、でもまだ生きている。なのに……。それに俺なんかより来栖崎さんと長く過ごしてきた『仲間』じゃなかったのか……?」
「『仲間』ですか……。ふん、むしろこの会議の開催自体が、今日までこの掟に殉じてきた仲間への冒涜とさえ、私は感じますが?」
「……」
「感染してしまえば数時間の命、そう知り、大切な誰かを巻き込まないために死んでいった仲間たちを、貴方は侮辱している。違いますか或人さん」
「でも……だからって、見捨てたくはないんです。助かる可能性を、投げ捨てたくはないんですっ」
「助かる可能性、ですか……」
「ああ、そんな奴を追放したりしたらそんなの……」
頭に『人殺し』、という単語が出てきたが、それは口には出さない。俺は、吐きそうになるのを堪えて言葉を紡ぐ。
「俺、やっぱ助け────」
すると、俺の言葉を遮って豹藤さんが叫ぶ。
「あ、あの! 皆さん窓の外! 見てください!」
俺は窓に目をやる。
「あ……、来栖崎……さん……」
デパートから飛び出していく1人の少女の姿が目に入った。そして、蜂ノ巣さんが会議室に慌てて入ってくる。
「ど、どうしたんだ蜂ノ巣くんそんなに慌てて」
「来栖崎さんがっ、出てっちゃって!」
来栖崎さん……。
「……ごめんみんな。俺、行ってくるよ」
ドライバーとキーを持って俺は部屋を出ようとする。すると……。
「ど、どこ行くんだよあーちゃん!」
「これしか……思いつかなかった。みんなごめん!!」
俺はそのまま駆け、デパートの1回へと辿り着く。そして、ピンク色のキーで変身する。
「変身!」
『フライングファルコン!』
俺は1人で、その場から飛び去ろうとする。すると……。
「或人さま~!」
「或人くん!」
「あーちゃん!」
3人が、俺の名前を呼ぶ。
「え……?」
樽神名さんと三静寂さんと……あと誰だ? 変身を解除して地上に足をつける。
「うわっ?!」
俺の身体に、少女が抱きついてきた。
「つ、ツヅリン?!」
「わたくし、サン様の勇ましい啖呵に、胸きゅん撃たれてしまいましたですの!」
そのツヅリンとよばれた少女は、高らかに俺への好意を声に出す。
「へ?」
その言葉を理解するのに数秒かかってしまった。
「平易にお伝えした方がよろしいでしょうか? わたく、或人さまに一目惚れしてしまいましたわ」
あっちの世界じゃ、そんな子いなかったからかなり動揺してしまう。
「世界中の誰もが否定しようとも、お供させてくださいまし、ぴとり」
「ごっほん、或人くん、行く宛はあるのか?」
三静寂さんが本題に戻してくれる。
「……いえ、それが……。来栖崎さんになにか、思い出の場所とかでもあればいいんだけど……」
「へっへ~ん、あーちゃん、実は知ってるんだよね!」
「本当ですか!?」
「それはね? ────コスモリアランド」
「遊園地的ななにかか?」
「うん。……ヒサギンの、思い出の場所」
「よし。じゃあ決定だ。そのコスモリアランドに急ぐぞ!」
俺はライズフォンをドライバーにかざす。
『changing to super bike motorcycle mode』
『頭上にご注意ください』
アナウンスが流れ、上空からバイクが1台降ってくる。
「よし、これも問題なく使えるな。よしみんな、行っくぜ~!」
幸いデパートにもバイクが1台置いてあったので2人乗りで行くことになった。俺は最短距離でそのコスモリアランドへの道を進む。
道中、樽神名さんから来栖崎さんの過去の話を聞いた。そして目的地に辿り着く。
「ここがコスモリアランド……」
「あーちゃん、あっちにゾンビの死体が続いてるよ!」
「……いや、そんなことはしなくてもいい」
『Fly to the sky! フライングファルコン!』
俺は地面から飛び立ち、辺りを見回す。
「いた……! みなさんはゾンビたちをお願いします!」
空中から近づいていき、そして来栖崎さんの立っているゾンビの山の上へと降り立ち、変身を解除する。
「迎えに来たよ。来栖崎さん」
「……いらない」
「君を、死なせるわけにはいかない」
「いらない……。帰れ」
「駄目だ。……さ、ほら、早く帰るぞ、俺たちの家に」
「……ねぇ、聞こえないの? 本っ当にウザイから。私の視界から消えて」
「だからっ……」
「消えて」
そのあまりにも冷めた言葉が、俺の心を抉る。
「きっ……そんなの……」
「邪魔だっつってんだよッ!!」
「……」
「最後くらい……ここでゆっくり……1人にさせて」
「最後じゃ……ないよ。君はまだ、終わったりなんてしてない! 確かに、感染はしてしまったのかもしれない……でも────」
「アンタに分かるわけないでしょぉ゙ッ?!」
「わかるよッ! 大切な人を失う気持ち……その痛みを、復讐の辛さも全部! だからッ!!」
「……違うわよ」
「……?」
「私がッ! 私を化け物みたいな目でッ! 見といて……気色悪い目で私を見て……!」
「来栖崎さん……」
「覚えてるのよ……全部全部全部! 皆を殺しそうになったことも゙ッ! 皆に……ぁう……皆に殺されそうになったこともッ!」
マズイ。どんどんおかしくなってきているのが見て取れる。
「俺は、君を殺そうとなんてしていないっ」
「私のこと……化け物みたいに脅えといて……嘘つくなよ偽善者がァッ!!」
「化け物じゃないッ!! ……君は、化け物なんかじゃない。だから一旦落ち着いて!」
「落ち着きたいわよッ!? 私だってぇ! 落ち着きたいのに……、中にナニカいるの……。私のナカニ……。心が……おかしくて……殺したくて……頭がおかしくなりそうで……したぃ」
「……?」
「殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい────」
「来栖崎さんッ!!」
俺は来栖崎さんを抱きとめる。
「俺が、これからは俺の血を飲めば生きれるから! だから……」
「私を軽蔑する誰かの血を啜ってまで!? 生きたく、ないわよぉ……」
「いいか来栖崎さん。俺は君を嫌ってなんていない、ましてや化け物なんて思ったことは1度もないッ!! それにそんな感染症、俺が治すッ!! だから……、死のうとなんて、しないでくれ……」
「あぁ……ぁあああぁぁあぁああ!!!」
彼女は泣きながら、俺の方にかぶりつく。
「……ほんと……ごめん」
そして泣き疲れたのか来栖崎さんは俺の懐で寝息を立てている。俺はそれを起こさないように運び、デパートまでたどり着く。