バイクに3人を乗せ、俺は来栖崎さんを背負ってデパートへと帰った俺たちは、会議室で百喰さんと話をつけていた。
「俺が……来栖崎さんと一緒にいる。これでいいだろ?」
俺は会議室で百喰さんに問いかける。
「……。……ずっと側にいる……とは」
「ずっとはずっとだよ……俺の血がいつでも飲めるように、さ。いい案だと思わないか?」
「……そんな、馬鹿げた理由で通るはずないで────」
「おい百喰くん……此度ばかりはもうよさないか」
否定しようとした百喰さんを三静寂さんが止める。
「三静寂さん……」
「君は確かに審議する側だった。だが飛電くんは筋を通し、案を携え、ここに立っている。逆転だ。次に審議されるは……君の覚悟だぞ? 自らの命に変えてでも……来栖崎くんが危険因子だと追求する、覚悟だ」
「覚悟などと……問題が起きたら一体どうす────」
百喰さんの言葉を遮って三静寂さんが言葉を紡ぐ。
「問題など起きない」
「え……?」
なぜ三静寂さんはこんなにも俺と来栖崎さんに肩入れしてくれるのだろうか?
「もし万が一にでも問題など起きようものなら……その時私は腹を切って、せめて君たちの食料にでもなって償うと誓おう」
三静寂さんには、それほどの覚悟があるのか……。
「……分かりました。三静寂さんがそこまで仰るのなら、もういいです。精々、ポートラルへ迷惑のなきように」
とうとう百喰さんも折れてくれて、会議室を出る。そして部屋に残されたのは、捜索隊と、来栖崎さんだけとなった。
「ほんと……ありがとうございます」
「なに、男子の覚悟を尊重する。三静寂の女として当然の振る舞いをしたまでだ」
「アヤネル……あたし惚れそうだったよ今」
樽神名さんがお得意の冗談でこの場を和ませてくれる。
「ふふ、姫片と違い、女性を食べる趣味はないぞ」
? 姫片さん……?
「わたくしは或人様のご覚悟にもう一度惚れ直しましたわっ」
「みなさん……」
俺は部屋の隅でぐっすり眠っている来栖崎さんの方を見て微笑む。俺は来栖崎さんとともに部屋へと戻る。
「ねぇ来栖崎さん」
「なに? 早く寝てくれない?」
「うぐ……冷たいなぁ」
「別に。あんたと話すことなんて何もないし」
「いやあるんだよ。結構大事な話が」
すると、来栖崎さんは真剣な顔つきになって俺の話に耳を傾ける。
「……。……何?」
「部屋で屁やで! ……はいっ、アルトじゃ~ないと!」
「……っぷ。……は、はぁ? あんた、何のつもり?」
「少しでも仲良くなれたらな、と」
すると、俺は尋常じゃない強さで首を締め付けられる。
「あがっ……ちょ、ギブギブ」
「あんたと仲良くするつもりなんて、ないから……」
「ご、ごめんごめんってっ」
「……わ、わかったのなら、いいのよ……」
そして俺たちは、眠りについた。
現在俺は、窮地に立たされている。
「……消えろよ糞が」
「いや……ほんとごめん」
来栖崎さんの入っているトイレの個室の前、俺は不動の構えで立っている。
「俺がずっといるとか言ったせいで……。まぁ、突発的に来るんだから仕方ないよ」
「……じゃあ……耳塞げよ……」
あー、そういうことね。
「わかってるって」
俺は完全に聴覚をシャットダウンする。
「聞いたら……なぶり殺すわよ」
「あー……なんか言った?」
よく分からない。
「……ふふっ」
何を言われても聞こえない自信がある。
「じゃ、そろそろいいか?」
俺は個室内の来栖崎さんに声をかける。
「……いいわよ。……いいって!!」
個室のドアが勢いよく開かれた。
「バッ……!」
俺はつい目を逸らしてしまう。
「なーに期待してんのよ。変態」
「へっ……?」
「まさか、見れるとでも思った?」
「思ってないってっ、そんなことっ」
が、弁解の甲斐もなく、俺の呼び方が『変態』となってしまった。そしてトイレから出た後、俺たちは豹藤さんに呼ばれて食材管理室へと移動する。
「在庫の数が合わないだって?」
食材管理担当の豹藤さんの言葉を聞き返す。
「はい……。ここ数日なんですけど、屋上菜園で採れた野菜も、地下倉庫に格納してある食材も、記帳している在庫数より実際の在庫数の方が少ないんです……」
「あー、そういう事ね。でも、誰か部外者……いや、泥棒が入り込んだ形跡はないんだよね?」
「はい……」
「アンタじゃないの、変態」
来栖崎さんはまだその呼び方で言ってくる。
「ちがっ……。俺はその……変態……じゃないよ!」
「いえ……或人さんが来る前からですので……。それに泥棒はちょっと言い過ぎかと」
「言い過ぎ?」
俺はまた聞き返す。
「ホント、減っているのは大した量じゃないんです。スナック菓子が1袋とか、苺一房程度の可愛い量……」
「一房か……」
流石終末世界。ってか関係ないけど、その豹藤さんの格好はなんだろう。直視できないんだけど……。
「だから……勝手に食べちゃった人も……出来心でつまみ食いをしちゃってるだけだと思うんです。配給も多くは無いですし、ひもじい思いなのか、つい」
「あー、わかった。つまりはその子をこっそりと注意して穏便に済ませて欲しいってことだな」
「はい……。お願い……出来ますか? あ、それと或人さんのそのベルト、預かってもいいですか?」
「別にいいけど、一応理由教えて貰えるかな?」
「……それ使ったら、周りに被害が出ちゃうから、です」
「あ~、そういう事か。じゃあ、はい」
俺は懐から取り出したゼロワンドライバーとプログライズキーを豹藤さんに差し出す。
「……ありがとうございます」
「じゃあ行こっか、来栖崎さん」
「あっ、くれぐれも穏便に、ですよっ」
豹藤さんは釘を差すようにして言う。
「おっけーおっけー、軽く注意して終わらせるよ」