元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話   作:Artificial Line

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オーバーロードの4期楽しみですね。
来年はエルデンリングも発売しますし、Valorant、VCTも各チーム再編成が始まっていて楽しみです。
ところでアーマード・コアの新作はまだですか?


Act11_紲星のカタルシス

Date.(日付)12-August-D.C224(D.C224年8月12日)

Time.2245(時間.22時45分)

Location.(所在地.)Kingdom of Mystia(ミスティア王国)-Outer rim of the Monstra Front(モンストラ戦線外縁)

Duty.(任務.)Defence(防御戦闘)

Status.(状態.)Green(士気旺盛)

Perspectives.(視点.)A Officers of the Almqvist(アルムクヴィスト軍のとある士官)

 

「長槍兵!騎兵突撃が来るぞ!スパイクを前進させ鼻っ面を折ってやれ!」

 

「第4魔術中隊は勢いの削がれた騎兵共にカウンターを浴びせろ!総員詠唱開始!」

 

前線には怒号が飛び交っていた。戦端が開かれたのは1時間ほど前。モンストラ戦線に大集結した魔物共が一斉攻勢を仕掛けてきた。

数は凡そ2000。大軍には間違いないが、ここはモンストラ戦線の主力たるアルムクヴィスト軍の前線基地である。更には近々予定されていた大攻勢に備え主力部隊が集結しつつあったのだ。こちらの戦力は2万を有に超える。この程度の攻勢で落ちるはずもない。

魔獣に騎乗したゴブリンライダーや通常のトロール、ボルグなどの突撃が開始されたが、こちらの損耗はほぼ無し。白兵戦前に展開された弓兵部隊による長弓射と魔術砲撃で魔物の突撃部隊の6割を削いだ。最早勝利はどうやっても揺るがないだろう。

だが敵の主力たる上位の魔物と魔族共は前線の奥に存在する岳陵で傍観を決め込んでいる。それがどうにも不気味である。むしろこの破れかぶれとも思える敵の突撃は何なのだろうか。まるで戦術的な意味を見いだせない。となれば戦略的な目的があるのだろうか。

相手にも魔物の将たる魔族ドレイクが参戦していることは確認済みである。奴らは人と同等かそれ以上の知力を持っている高位の魔族だ。こんな意味のない作戦を立案するとは思えない。

考えられる線としては何らかの目的の為の数減らしだろうか。低位かつ知能の低い魔物だけで突撃部隊が編成されていることを鑑みるにその説は濃厚に思える。最早民は皆避難を完了した土地だ。食料にできる人族は残っていない。それに当たり前だが動物だって無限湧きするわけでもない。使えない低位の魔物の処理を行っているのだろうか。味方を手に掛けたとあらば軍全体の指揮に関わる。その点知能の低い魔物には気取られず、高位の魔物共にとっては良い口減らしになるというわけだ。要するに面倒な雑魚の処理を押し付けられているということでもある。至極迷惑な。

 

騎兵共が魔術部隊の一斉射を受け戦列が崩壊する。そして混乱した敵の中へ数名の騎士が突撃し敵の前衛は崩壊した。完全に崩れた陣形を修復させる間も与えず追撃部隊が攻撃を開始する。これにて完全に趨勢は決した。

それを見た岳陵の敵主力は後退を開始する。やはり口減らしが目的であったようだ。それに加えて橋頭堡で孤立した別貴族軍の救出を妨害する事も目的であったのだろう。理解をしていても相手の術中に嵌るしかないというのはなんとももどかしい。

だが件の貴族軍の救出にはミスティア最強の傭兵部隊、レイレナードがむかったそうだ。その上オイフェミア様が最近気にかけている噂の男傭兵もその作戦に協力しているという。国内外最強の傭兵部隊と、逸脱者ノルデリアを退けた男が共同しているのであればそちらも心配する必要は無いだろうか。

念の為斥候を周辺の索敵のため走らせ、前衛部隊に死体の処理を命じる。死傷者4名、重症、軽症者複数。まあ1200近い魔物の突撃を捌いたにしては上々すぎる結果だろうか。

 

「斥候よりの報告です。北東より60名弱の集団が接近中。恐らくはレイレナード部隊でしょう」

 

部下の1人が手元のメモに目を落としながらそう報告してくる。もう救出を終えてこちらに戻ってきたのか。早いものだ。

 

「丁重に迎え入れろ。ベネディクテ殿下のご親友と、オイフェミア様のお気に入り達だ。無礼は働くなよ」

 

「了解」

 

命令を受けた部下が持ち場へと戻っていく。しばらくすれば基地より100m程の場所にレイレナード部隊の姿が見えてきた。その中には青いサーコートの鎧、要救助者であった貴族軍の指揮官の姿も見受けられる。確か地方貴族の次女、アリスティドだったか。次女という出生のため、無能な姉の補佐をさせられている可愛そうな娘だ。その従者と思わしき連中も傭兵に囲まれるようにして姿を確認できる。だが明らかに数が少なかった。総勢50名以上が橋頭堡の維持に参陣していたはずであったが、生存は8名ほどだろうか。悲惨なことだ。多少は陛下から軍役の免除などもあるだろうが、今後の活動に多大な支障が出ることは明白だ。また一から人材を育成せねばならない。ましてや弱小な地方貴族。戦士に適した人材を見つけること事態苦労しそうだ。

 

「レイレナード第2中隊だ。指揮官はいるかしら」

 

藍色の長い髪にマゼンタのメッシュ、耳には無数のピアス。金属甲冑身につけ背中に大剣を背負ったその女には見覚えがあった。ベネディクテ殿下の親友にして、逸脱者アリーヤの妹。上位者、"首刈りアリシア"だ。常人とは一線を画す身体能力と、天性の戦闘センスで相手を蹂躙する戦士(ファイター)である。錬金術師(アルケミスト)エンハンサー(構造改変者)の知識も有しており、ミスティア国内でも彼女と正面切っての白兵戦ができるのは、10名もいないだろう。要するに選りすぐられた超人の1人だ。

 

「私だ。アリシア・レイレナードとお見受けする。任務ご苦労であった」

 

一歩前に出てそう声を上げた。すればレイレナード部隊の面々が一斉に顔を向けてくる。その中には珍妙な装備を身にまとった男の姿があった。あれが噂の男傭兵だろうか。出自、能力などについては箝口令が敷かれているのかその全てが不明。現状ではオイフェミア様とベネディクテ殿下を窮地から救い、逸脱者ノルデリアを退けたとい話だけが1人歩きしている存在。見たところ魔力も対して感じないところを見るに魔術系では無いのだろう。

 

「要救助者は確保したわ。全部で8名。そちらで保護してほしいのだけど」

 

「勿論だ。そちらの被害は?」

 

「私とアサカが怪我を負ったけど、神聖魔術によって治療済み。ほかは被害なしよ」

 

「敵の戦力は如何ほどであった?」

 

「救出妨害を目的としたと思われるミノタウロスとオーガの集団が凡そ60匹。橋頭堡部隊を襲撃していたのは100以上の食屍鬼だったわ。ミノタウロスとオーガ共は殲滅したけど、食屍鬼はまだそれなりに残っていると思う」

 

彼女の報告に若干引く。ミノタウロスとオーガは魔物の中でも上位に分類される存在だ。両者ともに屈強な肉体を有し、オーガに至っては魔術すらも行使する。通常の人間であれば勝つことはまずもって不可能な存在だ。訓練された者であっても1匹を処理するのに最低でも4人はほしいところである。そんな魔物の集団を人数不利で殲滅?加えて食屍鬼である。奴らは"戦士殺し"の異名でも知られる最近存在が確認された上位に分類される魔物だ。ゴム質の皮膚を有し、生半可な刃武器で肉を斬る事は不可能である。メイスなどの打撃武器や魔術でなければ対処は難しい存在であるはずだが、彼女達にすればあまり関係の無いことなのだろうか。

 

「了解した。疲れただろう、寝床と食事を用意する。出立はいつに?」

 

「ありがとう。明日の朝には王都へと向けここを離れるわ。私達の代わりに第4中隊がこっちに来るはず。アサカはどうするの?」

 

アリシアが背後に立っていた件の男傭兵に声をかける。すれば珍妙な装備を身に着けた男が声を発した。

 

「アリシア達が王都に戻るっていうなら、それに便乗して帰ろうかな。正直弾薬の損耗が激しくって1人じゃ不安だったんだよね」

 

弾薬?何のことだろうか。彼の持っている武器に使用する矢のようなものか?弦の無いクロスボウの様な見た目であるしその説は大いにあるか。

 

「何言ってるの。あんたならモンストラ戦線以外の魔物なんぞ楽勝でしょうに」

 

「アリシア、お前は俺のことを過大評価しすぎだ…」

 

「そんなことないわ。食屍鬼に生身だけで勝てる奴なんて人族にそうそう居ないもの」

 

食屍鬼に生身だけで勝つ?なんだそれは。私の価値観から言えば十分に化け物の類である。膂力でも、敏捷性でも通常の人族よりもよほど格上の相手だ。熟練の拳闘士(グラップラー)であれば可能であろうが、彼の姿はどうみても拳闘士(グラップラー)には見えない。

 

「兎に角部下に案内させよう。お前、客人をお連れしろ」

 

部下が彼女たちの前で一礼し、歩き始める。傭兵たちもそれに続いていった。

 

「どうみますあの男傭兵?」

 

側近の1人がそう声をかけてくる。やはり誰もが噂の男傭兵について興味津々のようだ。まあそれは私も同じである。

 

「あの首刈りアリシアがつまらん嘘をつくとも思えん。それに北西の森に偵察に出向いた斥候の情報では、その森内の魔物が殺し尽くされていたのだろう?」

 

「ええそうです。ゴブリンやオーク、トロールなどの死体を確認したとか」

 

「恐らくはそれを成したのもあのアサカという男だろう。オイフェミア様の話を聞くに、あのタイミングで北西の森に展開していたのはアサカしかいないからな」

 

「上位の魔物すら殺す力を持っていると?」

 

側近は訝しげな表情を浮かべる。こいつに限らず、アサカという新参の男傭兵の実力を疑っている者は多い。まあそれは理解できる。情報が殆ど出回っていない現状なら尚更だ。

 

「ああ。どんな能力を持っているのかは不明だが、装備を見るに弓兵や弩弓兵の様な後衛職だろう。あの魔力量で魔術師という事も無いだろうしな」

 

「やはりそうですよね。ですがオイフェミア様が気に入っているというのも納得できましたよ」

 

何を言っているんだお前、といった表情を浮かべ側近の方へ顔を向ける。すれば若干ニヤついた側近と目があった。何言ってんだお前。

 

「顔も悪くないし、その上実力者。おまけに傭兵にしては礼儀も悪くない。髭を生やしているのはどうかと思いますが、ありゃ嫌いな兵士はおらんでしょう」

 

やっぱり何言ってるんだこいつ。男日照りが続いて頭の中が花畑になっているのだろうか。かわいそうに。

 

「…なんでもいいが変な気は起こすなよ」

 

「勿論当たり前じゃないですか。私だってまだ死にたくないですよ」

 

どうだか、という言葉は出さず代わりにため息を付く。たまには近隣の街に行くのを許可して、男娼でも抱かしたほうが良いのかもしれない。

至極どうでも良い事で頭を悩ませつつ、今後の戦略を練ることとした。

 

 

Date.(日付)12-August-D.C224(D.C224年8月12日)

Time.2332(時間.23時32分)

Location.(所在地.)Kingdom of Mystia(ミスティア王国)-Outer rim of the Monstra Front(モンストラ戦線外縁)

Duty.(任務.)Rest(休息)

Status.(状態.)Green(異常なし)

Perspectives.(視点.)Hinatsu Asaka(朝霞日夏)

 

とりあえずは任務を無事にこなせたことに安堵の息をつく。この世界二度目の依頼にしては中々にハードなものであった。やはり救出作戦というものはどこの世界でも変わらずキツイものがある。それは肉体的にも、そして精神的にも。

自衛隊時代、C.C.C時代にも何度か救出作戦に参加した事はある。だが一つとして良い記憶はない。そもそも戦争を行っていて良い記憶もクソも無いのだが。あるのは苦い記憶ばかりである。仲間の死、ナイフで殺した敵兵の表情、見殺しにしてしまった友軍部隊。思い返せばきりがない。今では無くなったが、それこそ当時は毎晩悪夢で魘されたものだ。いまではそういった事はなくなった。起こってしまった事象はどうあがいても、どれだけ悩んでも変わることはない。それを理解したからだ。

意味のない事を夢想し続けられるほど、優しい世界には居られなかったのだ。

だがそれはそれとしても、部下たちの死亡を伝えた時のアリスティドの顔は精神的に来るものがあった。だがそれ以上にアリスティド本人のほうがしんどい事は間違いない。あの部屋で行った事は全て話した。ドッグタグも全て渡した。そして、俺が彼女の部下を殺したことも勿論話した。だがそれに対してアリスティドはただ、

 

「ありがとうございました」

 

とだけ言葉を返した。泣きそうな表情で、下唇を強く噛んで。あの様な10代半ばの幼い少女が言える言葉ではない。いや、これは侮辱的な考えなのかもしれない。彼女はあの歳で、領主に代わり軍役を担っているのだといっていた。だとすれば今までも多くの、彼女だけの地獄を経験してきたはずだ。人はそれぞれ、地獄を抱えている。それを他者が憐れむのは、間違いなく侮辱だろう。

 

「アサカ、起きてるかしら?」

 

あてがわれたテントの外から低めの女の声が聞こえる。アリシアの声だ。まだ出会って数時間とは言え、共に戦った戦友である。間違えるはずもない。

 

「起きてるよ。どうぞ」

 

そう返せばアリシアがテントへと入ってくる。すでに鎧を脱ぎ、身体の線がはっきりと分かるインナー姿だ。戦っている時は思わなかったのだが、彼女も相当の美人である事に今更ながら気がつく。切れ長でツリメ気味の目、血色の良い肌、整えられた眉、スッキリとした鼻筋、ふっくらとした唇。凡そ美形の特徴を兼ね備えている。オイフェミアやベネディクテと比べればどうしても劣るのだろが、俺はアリシアの様な顔の方が好みだ。というかあの二人の顔が良すぎるだけの気もする。魔石灯の明かりに反射された藍色の髪がしっとりと輝いていた。シャワーでも浴びてきたのだろうか。

 

「アルムクヴィスト軍がシャワーを提供してくれたわ。うちの隊のメンツは終わったから、行ってきたら?」

 

こんな最前線でシャワーがあることに驚く。文明レベル的にもシャワーなんぞ無いように感じる世界だが、魔術というものは存外便利なものらしい。弾薬庫でもオイフェミアに魔術でシャワーを作ってもらった事もあったが、それと同じ様な感じだろうか。

 

「ありがとう。じゃあ軽く汗を流してこようかな」

 

そう言ってバックパックを漁って準備を始める。その間背中に視線を感じていた。

 

「どうしたん?」

 

振り向いてアリシアに声をかける。彼女は相変わらずの無表情のまま、言葉を発した。

 

「あなたはどれだけの地獄を、見てきたの」

 

無言のまま続きを促す。地獄、地獄か。

 

「私は10年以上戦場に身をおいてきた。人生の半分以上を、殺し合いに費やしてきた。人も、化け物も、敵対する存在は何でも殺した。でも味方を殺したことは一度たりともない」

 

堰を切ったように流れ出る言葉。遮らぬよう、聞き手に徹する。

 

「勘違いしないで。貴方の選択を批判している訳では無いの。あの場では、彼女たちを殺すことこそ最大の慈悲だった。私ではそれはできなかったという事のだけ」

 

どこまでも真剣な瞳が俺を射抜く。

 

「だけど貴方のおかげで気がつくことができたわ。私は、いままで色んな地獄を作り出していたんじゃないかって。無意識に、逃げていったんじゃないかって。だけど貴方は逃げなかった」

 

アリシアはそこで言葉を区切った。俺の返答を待っているのだろう。顎髭をいじりながら思考する。上手く言語が纏まらないが、口を開いた。

 

「逃げる、逃げないとか、そういう話では無いと思うんだ。俺はその先にある彼女達の地獄を見たことがあって、アリシアはそれがなかった。それだけだろう。それに俺は兵士としてアリシアよりも後輩だしね。俺が見たことの無い地獄を、きっと君は知っている」

 

そう返せば、ふっとアリシアは微笑んだ。優しい笑顔。初めて彼女の表情が変化するのを見た気がする。

 

「ふふ、優しいのね。ありがとう、そしてごめんなさい」

 

「気にすることはないさ。今更だしね。こっちこそありがとう。何度アリシアには救われたか。もう抱えられて走るのだけはごめんだけど」

 

重苦しい雰囲気が霧散したところで、茶化しをいれつつ俺も笑った。そう、今更なのだ。どうせ俺の手は真っ赤に汚れている。誰かの地獄を終わらせられるのなら、別に構わない。

これは別に誰かのためとか、自己犠牲的とか、そういうのでは無いのだ。むしろその逆。その後の展開を想像して、後悔するのがごめんなだけだ。つまりどこまで行っても自分のため。要するに自慰的な行動である。お礼を言われたり、謝罪をされる事では決して無い。

 

「あら、スリリングで良いでしょ?」

 

「スリリングな事は認める。だけど決して良くはないわ!マジで吐くかと思ったんだぞ…」

 

猫のようにアリシアは目を細めた。魔石灯の明かりに照らされた彼女は妙に妖艶に見える。戦闘後のドーパミンが引ききっていないためだろうか。端的に言えばエロく見える。邪念を振り払うため、無理やり視線を反らした。

 

「あら、なんで目をそらすの?顔を見せてよ」

 

わざとらしく彼女はそういう。わかっているくせに、意地悪な女だ。誘っているのか?貞操観念が逆転しているという事を加味すれば大いに有り得る。自意識過剰な位がこの世界では丁度いいのだ。

 

「ねえ、アサカ。私貴方に惚れたわ」

 

一瞬意識が真っ白になった。今なんと言った?惚れた?俺に?アリシアが?思わず彼女へと視線を向ける。僅かに紅潮したその頬を見て、腹をくくった。今までの女性経験と軍隊生活で鍛えられた観察眼が告げる。これは茶化しとか冗談とか、そういった物ではないと。

誤魔化す事は彼女に対する侮辱だ。大体地球ですら成人している歳であろう彼女に対して何を誤魔化す必要があるのか。

 

「本気か?」

 

「ええ。本気。だって、この国で貴方ほど戦える男は居ないもの。私と共闘できる男が目の前に現れるなんて、夢想の中だけだと思ってた。まさに青天の霹靂ってやつ。顔も、性格も、私にとって好ましいの」

 

アリシアが顔を近づけてくる。耳元に口を寄せ、囁くように彼女はそう言った。熱い吐息が耳に触れる。年甲斐もなく、心臓の鼓動が上がった。

 

「…嬉しいよ。想像もしてなかった。だけど…」

 

そこまで言ったところで、彼女に口を塞がれる。柔らかい感触。驚いて目を見開けば、彼女の顔が視界いっぱいに広がった。何をされているかは理解するまでもない。

 

「わかってるわ。今はそれでいいの。だけど、いずれ貴方を私に惚れさせるわ。覚悟しておいてね」

 

優しいキスを終え、彼女はくるりと出口へと向かった。

 

「髭って、チクチクするのね」

 

そう言い残し、アリシアはテントを出ていく。後ろ姿に見えた彼女の耳は、付けているマゼンタのピアスと同じくらい紅潮していた。

キスなんていつ以来だろうか。C.C.C時代同僚は休暇に良く女遊びをしていたが、俺はそれに付き合ったことはない。となれば最後に恋人が居た学生時代だろうか。凡そ5年ぶりに感じた女の唇は、記憶のそれよりも柔らかかった。

苦笑いをしながら椅子に座り、胸ポケットから煙草を取り出す。それを加え、ゆっくりと火を付けた。肺に入れた紫煙を、天を仰いで吐き出す。それから思考をゆっくりと回し始めた。

こんな事になるとは、さっきもいったが想像をしてなかった。ストックホルム症候群に似たようなものだろうか。命の危機に瀕した際に異性に恋愛感情を抱くのは良くあることである。だが戦いが終わってしばらくたったこのタイミングを考慮すれば、一過性のものではないだろう。

まあ嬉しいものだ。"こんな俺なんかよりも"といった自虐的な性格でもないため、素直に嬉しさの感情が勝る。この世界、というかミスティアという国の男性は王都に訪れていた時に何人か見たが、その殆どが線の細い優男であった。あれがこの国でモテる男なのだろう。その点俺は彼らの真反対に位置するような外見をしている。髭は生えているわ。筋肉は付いているわ、武を生業にしているわ。まあそういった普通の男性と違うという点、共闘したという事実を考えればこういう事もあるのかと納得する。彼女程の強者であれば尚更なのだろう。

だがどうしようか。アリシアはいい女であると思うが、現状恋愛的に好きかと言われれば首をかしげざるを得ない。付き合ってから恋愛感情が芽生える事もあるのは間違いないが、あの言いぐさを考えるに俺がアリシアに惚れてからの決断でなければ、彼女は納得しないのだろう。というのも振る理由もないという事もある。

オイフェミアやベネディクテからの支援に、利用価値以外の感情が混ざっている事には流石に気がついている。だがしかし、言い方は悪いが彼女たちはまだ幼い。今後なにかの弾みや切っ掛けで感情が変わる事もあるだろう。そういうのは妹の学生時代によく見てきた。大体女子高生と変わらない年齢の女の子に恋愛感情を抱く29歳の独身男性という字面がヤバすぎる。地球、というか日本なら余裕で犯罪者予備軍だ。そういった心のセーフティはあるにせよ、10代の少女の感情を利用して性的な喰い物にしようなどという鬼畜さは、俺は持ち合わせていない。

その点アリシアは地球でも成人しているであろう年齢。あまりこの言い方は好きではないが、十分大人であろう。オイフェミアとベネディクテが子供というわけでもないが、20を過ぎれば自分の感情を制御できる歳である。こっちとしても心のセーフティをかける必要は全く無い。

まあ何れにせよ、今後次第だろうか。俺が恋愛的にアリシアに惚れることができて、付き合えるというなら、まあそれはそれで幸せである。どうせ一般人にそういった感情を抱くのは今更無理なのであるから、続くにせよ、終わるにせよ、試してみるのは人生に彩りを加える事になるだろう。

陸自時代、先輩に合コンに参加させられた時に一般的な女性との隔たりを強く感じだ。故に、まあ、アリシアの様な戦士、傭兵なんかで馬も合う女性は好みではある。結婚も、恋愛も、人生にとっては趣味のようなものであるが、それが良き物であるならきっと楽しいことは間違いない。

自分でも結婚などの些か飛躍した思考になることにやや自嘲する。だが許してほしい、こちとら三十路目前のアラサーだ。仕方が無いのだ。そう、仕方がない。

兎も角、恋愛的にアリシアに感情を抱けるのならば、さっきの告白は受けることとしよう。どうなるかは時が来るまでわからないが、どうなってもきっと面白い。

煙草を一口吸い、紫煙と共に言葉を漏らす。

 

「女って、怖えわ」




恋愛ダービーにアリシア参戦。大人の女、アリシア相手にベネディクテとオイフェミアは遅れを取り戻せるのか。

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