元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話   作:Artificial Line

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Act11_渦中へ向けて

/朝霞日夏

9月12日 20:01 ミスティア王国北東部—モンストラ戦線近傍

 

「死ぬかと思った……」

 

『サプレッサー無しで撃てばああもなります』

 

 岳陵の上から周囲を見渡しながらそう言葉が漏れた。紬からの至極真っ当なツッコミが入る。手厳しいがその通りなのでぐうの音も出ない。

 

 オーガを捌いたあともトロールやらフッドやらコボルトやらの群れと連続して遭遇し、その全てをいなしてなんとかここまで離脱できたのだ。

 多分あの森に居た魔物共は大体観測できたと思う。なんで偵察で浸透しただけなのにこんな無駄な戦闘をしているのか……。

 まあ原因は明確で、ゴブリンと遭遇したときにサプレッサー無しで銃声を鳴らした事に他ならない。つまりは自分のミス。まあしかしあそこで反撃しなければゴブリンに喉元を切り裂かれていたかもしれないし、結果論でしかないだろう。

 とりあえず次はこうはならないように立ち回ることを心に固く誓った。

 

 しかしトロールとオーガにはかなりに苦戦してしまった。

 あれらはかなり生命力が強いらしく、5.56mm×45mm NATO弾程度の火力では殺すのは不可能であった。

 

『ですがオーガとトロールを殺したトラップは見事でした。大木と手榴弾を用いての質量での圧殺。昔からそうでしたが、機転が効くようになりましたね』

 

「それはどうも。というか昔って、俺と紬はついこの間顔を合わせたばかりだろ。俺の記憶を見ているのか?」

 

『そうでもありますし、そうでないとも言えますね。ニャアン』

 

「誤魔化すなよ」

 

 相変わらず気まぐれな猫である。

 

『とりあえず、次回以降魔物の活動領域で作戦行動を行う場合は、大口径の銃を携行したほうがよろしいでしょう』

 

「それは俺も考えていたよ。5.56mmじゃ豆鉄砲もいいところだ。最低でも7.62mmはほしい所。ただ重量と反動による近接戦能力の低下が懸念だな」

 

『その懸念事項は最もです。ゼファー騎士補から膂力強化(ストレングス・プラス)の教練は受けているとはいえ、日夏くんの魔力量では構造強化(エンハンスド)は3回程度の発動しか行えません。膂力強化さえ用いれば12.7mmクラスの大口径ライフルを片手でも運用可能でしょうが、切りどころは考えなくてはいけないでしょう』

 

「某漫画のメイド長かよ。ところで魔力量って伸ばせるのか?」

 

『鍛錬で微小ながら伸ばすことは可能です。ですが基本的に先天性の才能に依存します。しかしお望みであればこちらで魔力供給を行うことはできますよ』

 

 興味深い話だ。

 

「それはありがたい。どの程度の魔力が供給できる?」

 

『日夏くんが用いる構造強化クラスの消費量であればほぼ無限に。とはいえ、魔力の供給は私と日夏くんのパスを通じてやり取りが行われます。つまり、過度な魔力の供給は、細い管に大量の水を流し込むのと同義です』

 

「なるほど。無理に大量の魔力のやり取りをすれば、管が壊れる可能性もあるということだな」

 

『その認識で合ってます。一度や二度であれば問題ないでしょうが、続ければ()()の様な症状を起こす可能性が高いですね』

 

 光明が見えたが、やはり万能ではないということか。

 

 とりあえず話にもあった通り、次からは大口径の銃を選択してこよう。

 まあだが偵察としては中々に収穫があったのではないだろうか。

 魔物共は横の連携が薄いが、対人用の偽装では誤魔化せない程度に感覚が鋭いということが身を持って理解できたのは今後に大いに活かせるであろう。

 ナイトビジョン無しで夜間の暗がりを見渡せるその目もそうだが、嗅覚や聴覚も人間に比べ鋭敏な様である。

 

 今俺と紬がいる岳陵の頂上は40m程周囲よりも高所であり、予測通り周辺がよく確認できた。

 森の中と違い月光を遮るものも無いため、肉眼でも風景が視認できるほどである。

 

 持ち込んでいた双眼鏡で周りを見渡す。そして目を疑う。その理由は3kmほど先の平野地帯に魔物の大群が集結しているのが目に入ったからだ。大凡2000に届くだろうか、そんな数の大部隊が集結し、明らかに統制の取れた動きをしている。

 多少の動揺を抱きつつ、仔細を確認しようと視界を回す。

 

『ゴブリン、オーガ、トロール、コボルト。それにあれは……』

 

 魑魅魍魎共が戦列を形成している。その集団の最後方に見慣れない生き物に騎乗した人族のような姿を確認する。

 だが直感的に分かる。あれはベネディクテやオイフェミア、それに俺の様な『人の側』に属している存在とは決定的に異なるものだ。

 尖った耳に発光しているような目、あれは――

 

『魔族ですね。恐らくはドレイクかと』

 

 魔族は人族と同じ様な高度な文化を持つ知的存在だが、根本的に魔物側に属した存在らしい。いわば魔物の指導者的立場。

 実態は上位の魔物であり、あの人族と同じ様な姿も仮のものであるとベネディクテから貸してもらった資料には書かれていた。

 本当の姿は禍々しい巨人や竜であり、それに変身することが可能だそうだ。

 全くもって質量保存の法則は何処にいったのだと言いたいが、それも今更である。魔術が存在する世界で地球の物理法則を持ち出しても仕方がない。

 とりあえずはこの事をベネディクテへと報告した方が良さそうだ。偵察衛星や航空機が存在していないこの世界では、あの大部隊を前線の兵士が確認できているとも思えない。

 

「ベネディクテに連絡をとる」

 

『承知しました。私はオイフェミアさんに報告を行います』

 

 オイフェミア"さん"という紬に、思わず苦笑を浮かべる。オイフェミアが召喚した使い魔なのに、なんで敬称が"さん"なのだろうか。まあ取り敢えずそちらは任せることにしよう。

 

 脳内でベネディクテとの会話を強くイメージする。

 こうすることで通話のピアスを使うことができるとオイフェミアから教えてもらった。何ぶん使用するのは初めてのため多少の不安がよぎるが、それは杞憂に終わる。

 

『あ、アサカ!?待ていま湯汲み中で……』

 

「モンストラ戦線のフェリザリア国境から西へ10km、北へ5kmの地点で魔物の群団が集結している。数は大凡2000。後方の部隊はその存在を確認しているか?オーバー」

 

『……しばし待て』

 

 数十秒の間の後、ベネディクテの声が再び脳内に響いてくる。

 

『丁度オイフェミアから連絡がきた。前線部隊はその魔物部隊の存在はまだ認識していないらしい。だがその地点より北東に4kmほどの地点の橋頭堡を確保していた別の貴族軍からの救援信号を確認し、救援部隊の編成を行っていたそうだ』

 

 なるほど。あの大部隊は前線に一時的な攻勢を仕掛け、救援を妨害するための遅滞戦術部隊ということか。かなり高度な戦術を用いるじゃないか。やはり魔物の指導者たる魔族が指揮を取っているだけあるのだろう。

 

「了解した。魔物部隊に人族と同じ様な見た目の存在、恐らく魔族が確認できる。あれがこの作戦指揮を取っている将だろう。紬からの報告ではドレイクとのこと、オーバー」

 

『ドレイク……?尖った耳、綺羅びやかな甲冑、同じく綺羅びやかな大剣、爬虫類の様な瞳、これらに相違はないか?』

 

「相違なし、オーバー」

 

『間違いなくドレイクだな……厄介なことだ。了解した。アサカはしばしその部隊の動向を確認し報告してくれ。危険になれば即座に退避しろ』

 

「了解。アウト」

 

 ベネディクテとの通信を切り、改めてその部隊を確認する。

 とはいえ周辺警戒することは怠らない。幸いにも今は側に紬もいる。寧ろ俺よりも先に敵性存在の接近には気づいてくれるだろう。

 

『オイフェミアさんにも情報は伝達しておきました。しばしベネディクテさんや現地指揮官との協議を行うそうです』

 

「了解」

 

 魔物部隊は複数の騎兵が存在するが、大方は歩兵戦力で間違い無いようである。やはり攻勢用の部隊ではなく、遅滞戦術を行う為の編成だ。

 だが相手の目的がわかっていてもそれに乗らざるを得ないのは中々に腹立たしい。

 

 これでアルムクヴィスト軍はあの部隊に対処することを強いいられ、救援部隊を出す余裕など無くなっただろう。オイフェミアや、ノルデリアレベルであれば、単騎でこの状況を壊すことも可能なのだろうか。

 しかし俺は所詮、この世界にとってイレギュラーであることを除いて一介の歩兵なことに変わりない。できることなど多くは無いが、それ故に自身のやれることは最大限に行おう。

 

 その時だった。北東部4km程の地点の上空に赤色の閃光が打ち上がる。あれがベネディクテの言っていたアルムクヴィスト軍が確認したという救援信号だろうか。

 そちらの方向へ双眼鏡を向ける。すると視界に入ってきたのは、森林部にひっそりと佇む砦であった。

 流石に距離があるため仔細は把握できないが、その城壁部分に陣取った複数の人影が、真下に向かって閃光を放っているのが写る。魔術で何かしらを迎撃しているのだろうか。そうだとすれば既に包囲され張り付かれている危険な状況だということは間違いないだろう。

 狙撃支援は不可能。

 いま装備しているACRの有効射程は300m~600m。4000m級の超長距離狙撃などできるわけもない。そもそんな狙撃が可能なのはバレットM82A1等の対物狙撃銃ぐらいだ。それでも相当の練度が要求されるが。

 

『聞こえるかアサカ』

 

 ベネディクテから再び通信が入る。協議の結果が出たのだろうか。

 

「聞こえるよ、オーバー」

 

『アルムクヴィスト軍は陣地防衛の為、橋頭堡部隊の救援に向うことが出来なくなった。その代わり元々橋頭堡部隊との合流予定であった"レイレナード"という傭兵部隊に救援依頼を行い、彼女らはこれを受諾している。アサカにも同様の依頼を出したい。レイレナード傭兵部隊と合流し、橋頭堡部隊の救援を行ってくれ』

 

 断る理由など一つも無かった。家族が殺されたあの夏の日から"生き死にの傍観者"になることなど至極ごめんである。

 

「了解した。合流地点を知らせ、オーバー」

 

 ベネディクテから不安の様な感情が流れ込んでくる。無線などと違いテレパシーを用いた通信であるために、言葉にならない感情が伝わる事もあるのか。

 

『……そこから東に1km移動した所に河川に掛かった大きな橋がある。ドゥミレス大橋という名が刻まれた石橋だ。レイレナード部隊とはそこで合流してくれ。アリシア・レイレナードという藍色の髪にマゼンタのメッシュが入った女が指揮官だ』

 

 ベネディクテより預けられていた地図を取り出し、位置を確認する。現在地からドゥミレス大橋までは谷の様な厄介な地形も存在せず、平野が続くようだ。この距離と地形であれば慎重に進んでも20分程度で現地に着けるだろう。

 

「確認した。現地到達予想時間は2030、オーバー」

 

『伝えておく。……無理はするなよ』

 

 やはり先ほどと同様にかなり不安とこちらを心配する感情が流れ込んでくる。もしかしたら俺の感情も向こうに伝わったのだろうか。

 

「了解、アウト」

 

 意識を切り替え余計な思考をシャットアウトする。

 

「紬、いまの会話は認識できているか?」

 

『認識しています』

 

「オーライ。じゃあ行くぞ」

 

 さあ、救出作戦の開始だ。エアロン大尉なら『ロックンロール!』って号令を出してそうだなと考えつつ、地面を蹴り出した。

 

/アリシア・レイレナード

9月12日 20:01 ミスティア王国北東部—モンストラ戦線近傍

 

 眼前に鈍色に輝く刃が迫る。それを身体を屈め最小限の動作で回避しつつ、一歩前へ踏み出す。

 相手はオーガ、身体が大きい分、懐に入り込めばこちらが優位だ。両の手に構える大剣、クレイモアを下段から切り上げれば、オーガの腕が宙に舞った。常人であれば傷をつけるのも一苦労な異形の外皮は、しかし私にとっては最早何も問題はない。

 一振りで汚い血を撒き散らしながら絶叫を上げるオーガの後頭部を、そのまま左腕で鷲掴みにし腹部に膝蹴りをかます。足甲を纏った足技はそれだけで高威力の打撃となり、オーガの身体がくの字に折れ曲がった。即座にクレイモアを両手で構え直し、上段から首目掛け振り下ろす。すれば何の抵抗も感じず、オーガの頭部は地面へと転がった。

 

 次、後方からダークトロールが2体棍棒を振り回しながら突撃をしてくる。剣を正眼に、しかし腕を右に寄せ、左足を前にした構え、所謂プフルークの構えを取り、それを待ち構えた。

 ウォークライを行いながらダークトロールが接近してくる。距離5m、まだクレイモアのリーチではない。上段からダークトロールが棍棒を振り下ろす、猫目(キャッツ・アイ)で強化された瞳で捉えるそれは、かなりスローモーションでゆっくりと見えた。

 ――いける。そう確信し一歩踏み出しながらクレイモアを突き出した。結果ダークトロールの棍棒が完全に振り下ろされる事はなく、その前に大剣の切っ先がダークトロールの頭蓋を破壊する。これで2。

 間髪入れず、もう1体のダークトロールが棍棒を横薙ぎに振りかぶってきた。それをクレイモアで弾きながらバックステップで距離を取る。膂力強化(ストレングス・プラス)で筋力が向上しているとはいえ、流石にトロール相手に鍔迫り合いは行いたくない。正確に言えばクレイモアの刃が傷つき、後々鍛冶屋の女将に文句を言われるのでやりたくなかった。

 距離を取った瞬間にダークトロールの左手側に回り込む様に駆け出す。奴は大柄で動きは緩慢だ、旋回速度も遅い。私の敏捷であれば容易に背後は取れる。だが念には念を入れ、大剣を担ぐ右手とは逆の手で地面の土をつかみ取り、即座にそれをダークトロールの顔面めがけて投げつけた。土が目に入ったのか、ダークトロールは左手を顔に当て、大きく体勢を崩す。

 そのがら空きの背中から、ダークトロールの首を目掛けクレイモアを横薙ぎにした。臭い鮮血をばらまきながら頭が宙を舞い、不愉快な音を立て地面へと落下する。相変わらずのアホ面だ、本当に穢らわしい。

 

「アリシア!北からミノタウロスが7体接近している!フユカが抑えているが、流石に軽戦士(フェンサー)一人では分が悪い!」

 

 仲間の一人がそう叫んだ。舌打ちをしながら高速で現状の整理を行っていく。

 橋頭堡部隊との合流目指して進軍をしていた最中に、それなりの規模の魔物集団からの襲撃を受けた。それが約10分前。

 敵の数は大凡50といった所、その殆どがオーガやトロールといった上級の魔物である。

 対する私達も50人。だがしかし人間を中核として多種多様な人族で構成されている百戦錬磨といっても過言ではないミスティアきっての傭兵部隊だ。

 この程度の襲撃で殲滅されるはずもない。

 しかし北側の戦力が遊兵化するのは不味いだろう。フユカは紛れもなく精鋭でありミノタウロス程度に負けることは無いだろうが、もしもという事もある。人員を回したほうが懸命だ。

 

「貴方達はそのままフユカと合流して彼女の指揮下に入って。ミノタウロスの殲滅後は任意の判断に任せるわ」

 

「了解した!アリシアも気をつけて!」

 

 北側へ向う友軍を見送る。彼女たちが合流すれば北側の趨勢は決するだろう。

 

 直後東の藪から3体のオーガが飛び出してきた。

 左手を突き出し、何かを詠唱し始めた事から何かしらの攻撃魔術を使うつもりだろう。馬鹿め、そんな時間が与えられるはずも無いだろうが。

 腰から投擲用のナイフを引き抜きそれを投げつけた。微塵の狂いもなくオーガの顔面に命中したそれは殺傷には至らないものの、魔術の詠唱を中断させることに成功する。

 その隙をついて前衛として上がってきたオーガ2体の身体に向けクレイモアを振りかぶった。駆け出し途中で身体を回転させながら横薙ぎにした刃は遠心力を伴い、容易にオーガの身体を切断する。特殊金属で鋳造されたこの刃であれば、オーガの強靭な身体すらバターの様に切り裂く事が可能であった。数秒とかけず2体のオーガを屠り、魔術を発動しようとした個体に突撃する。

 クレイモアを頭の上に両手で構えながら跳躍し、重力落下の勢いを乗せて大上段からオーガへと振り下ろした。頭蓋が砕ける気持ちの悪い感覚が刀身から柄を通じて拳へと伝わってくる。幾千の肉塊を切り裂こうとも、相変わらずこの感覚は気持ちの良いものでは無かった。

 

 オーガ3体を殺し終え一息つく。そのタイミングで北側の上空に閃光が奔った。あれは信号魔術だ。あの発光色は救援を要求する緊急事態用の物。となれば北部の橋頭堡を確保している部隊にも同じ様な攻撃が行われているのだろうか。

 

 そこではっと気がつく。この我々に対する魔物の攻撃も、北方部隊への合流を妨害するための遅延戦術なのでは無いだろうか?

 まんまと相手の将にの術中に嵌った事に気が付き、大きな舌打ちをした。

 しかしまだ信号魔術を打っているということは救援が間に合う可能性はあるかもしれない。そもそも私たちがさっさと合流できていれば、この自体は避けられたかもしれないのだ。

 

 だが後方に陣を敷いているアルムクヴィスト軍はどうするのだろうか。我々にこういった妨害攻撃が行われている以上、本隊たるアルムクヴィスト軍にはそれ以上の攻勢が行われる事が想像できる。であれば救援部隊を出す余裕など無いだろう。

 

 なら現状遊撃戦力として動けるのは私達レイレナード部隊だけだろうか。

 

『アリシア、聞こえるか?』

 

 脳内に声が直接響いてくる。凛とした低めのハスキーボイス。直ぐに誰の声かは理解できる。

 

「ベネディクテ、どうかした?」

 

 幼子からの友人であり、ミスティア王国の第一王女、ベネディクテ・レーナ・ミスティアからの通信であった。一介の傭兵がコネを持っている人物としては破格の存在であるが、寧ろ私からすればベネディクテが本物の姫であるということの方に違和感がある。

 最初に知り合った時のベネディクテはこっそり城から抜け出して城下を好き勝手遊び歩いていた。しばらくして身分を知った時は驚いたものだ。馬鹿姉と2人でベネディクテを探しに来た近衛隊の面々から匿ったものである。後々両親に烈火の如く叱られたが。

 

『現在地は何処?』

 

「モンストラ戦線フェリザリア国境部分から西へ8km、橋頭堡から南へ2kmの地点だ」

 

『魔物からの襲撃はあったか?』

 

「現在対処中よ。まもなく殲滅が完了する。また橋頭堡を確保していた部隊からの救援信号を確認しているわ」

 

『了解した。現在大凡2000程の魔物集団がアルムクヴィスト軍の陣地へ向け攻勢準備を行っている。そのためアルムクヴィスト軍は橋頭堡部隊の救援に向うことが難しくなった』

 

 想定通りの事態であった。ならば必然、ベネディクテの次の言葉も推測できる。

 

『故にレイレナードへミスティア第一王女として依頼を行いたい。アルムクヴィスト軍に変わり橋頭堡部隊の救援へと向かってくれ。報酬は王家の方から色を着ける』

 

「了解したわ。ただ報酬をもらうわけにはいかない。そもそも私たちは橋頭堡部隊との合流を依頼されていたのだから、これはその延長線よ。ただ我々も50程度の小規模部隊、過度な期待はやめてね」

 

『だと思って助っ人も用意している。そこから西へ数kmの地点に最近王家公認の傭兵となった者が展開している、そいつとドゥミレス大橋で合流して作戦行動に入ってくれ』

 

 最近王家公認の傭兵になった者、王都深淵事変を解決した立役者の一人――異世界よりの放浪者(ノーマッド)か。話では妙な武器を使う男傭兵だとか。

 

「最近ベネディクテが執心しているという男かしら」

 

『そうだ。別に執心はしていないがな。名前はアサカだ、彼と合流し作戦にあたってくれ』

 

「了解。何かあればまた連絡する」

 

 そういってベネディクテとの通信を終える。

 だいぶそのアサカとやらに対する心配や恋慕に近い感情が流れ込んできたが、ベネディクテにその自覚はあるのだろうか。まあそれは良い。ベネディクテとオイフェミア殿下が気にかける存在なのだ、使えないという事も無いだろう。

 

 直後北側でミノタウロスと交戦していた数名が戻ってくる。返り血は浴びているものの大きな怪我は無さそうだ。流石に優秀である。

 

「アリシア、北側の殲滅は終わった。他の連中は?」

 

 革鎧と片手剣、バックラーを装備した軽戦士(フェンサー)が声をかけてくる。 

 フユカ、うちの部隊の優秀な斥候の一人だ。

 王家の血を引く者と同じ様な綺麗な白髪と赤目が実に印象的な女である。そのため実は王家の血筋の末裔か何かでは無いかと噂するものもいるが、本人曰く『ただの農民の娘』らしい。仔細は知らないし興味もないが、まあ傭兵なんて皆出自も育ちも曖昧な連中が多い。今更であった。

 

「まもなく皆戻ってくると思うわ。まあだけどしばらくは忙しくなりそう」

 

「何かあったのか?」

 

「ベネディクテから連絡が入った。北方の橋頭堡部隊の救援。とりあえず現状確認が終わった後にドゥミレス大橋に移動するわよ」

 

「ドゥミレス大橋?真逆じゃないか」

 

「助っ人が来るんだって。その人と合流し仕事に取り掛かる」

 

「信用できるのか?」

 

「ベネディクテが信用しているんだし、それなりには使えると思う。とりあえずシキは何人か連れて先行して斥候をよろしく。合流地点はここで」

 

「はぁ、了解。レイン、トリス着いてこい」

 

 そういったフユカは凄まじい速度で地面を蹴り走り出していく。

 彼女は純粋種の只人であるが、その脚は馬よりも早い。

 つまり時速60km~90km程の速度で数十分疾走できる。

 正直意味が分からないが、フユカに聞いても『お前らの脚が遅いんだ』としか言わないため真相は闇の中である。

 ともかく彼女達が斥候に向かったのであればその助っ人とやらが合流するまでに橋頭堡の状況は把握できるだろう。

 

「アリシア隊長、こちらの被害は無し。数名の軽症者が居ますが、ジェネファーの神聖魔術(ホーリー・アーツ)で治療済みです」

 

 部下の一人が声をかけてくる。どうやら各方で戦闘をしていた連中も全員戻ってきたようだった。オーガやらトロールやらの混成部隊を相手にして犠牲者無しなら大戦果も大戦果だ。

 

「よろしい。このまま私たちは北部の橋頭堡部隊の救出に取り掛かるわよ。南側のドゥミレス大橋で他の傭兵と合流した後、共同で作戦行動に入る。各員移動開始」

 

 そう号令をかければ隊列を維持したまま全員が一糸乱れぬ動きで行動を開始する。この練度の高さは私達の誇りだ。ミスティア最強の傭兵部隊の矜持もかけ、全力で橋頭堡部隊の救援を行うとしよう。

 

 私はベネディクテとオイフェミア殿下が気にかける男傭兵がどの様な人物なのか想像しつつ、地面を蹴り出した。

好きなヒロインは?

  • ベネディクテ
  • オイフェミア
  • ゼファー
  • アリシア
  • レティシア
  • ゼータ
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