元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話 作:Artificial Line
アリシアがドアを開ける。その瞬間鼻に嗅ぎ慣れた匂いが舞い込んできた。血の匂いだ。廊下には幾つかの異形、そして人族の死体が散乱しておりそれなりの戦闘が起きていたのだということが容易に推測できる。屋内ではカービンライフルの取り回しに難があるため、スリングで背中に固定しナイフと
進行方向の廊下はT字の構造になっていた。その間際まで進んできた時、アリシアがハンドサインで停止指示を出す。それをみて音を立てぬように足を止めた。そしてヘッドセットが拾う靴音とはまた違った足音。これは人間のものではない。恐らくは食屍鬼だ。ヘッドセットから聞こえてくる音からするにまだ15m以上は離れていると思うのだが、良くアリシアは気がついたものである。あのままT字路に飛び出していれば発見されていただろう。流石に無警戒に飛び出すことはしないが。
アリシアがT字路の壁に背を当て待機する。丁度音の聞こえてくる右の道からは死角になる位置に身を潜める。俺はT字路からの視線上から外れるように、だがアリシアの援護を何時でも行える位置に陣取る。ここは彼女に任せるとしよう。
音が近づいてきた。足音から推測するに一体だけだろうか。あと2mほど。アリシアが腰に指していた短剣を引き抜く。俺も何が起きても良い様にナイフを握り直した。レミントンACRの射撃で頭部に命中させても即死させられなかった事を鑑みるに、P226はお守り程度にしかならないだろう。それにP226のセットアップはサプレッサー無しの、アンダーレールにフラッシュライトを装着させているだけである。銃声を鳴らすのは最後の手段にしたい。
そして路地の影から食屍鬼の姿が現れた。その瞬間にアリシアが右手で食屍鬼の左腕を掴み、此方側へと引き込む。そしてそのまま足払いを行い地面へと組み伏せた。多少の音がなってしまうが、幸い近くに他の個体はいないようである。そして掴んだ腕を上方へと捻り上げ、そのまま圧し折った。鈍い音が聞こえ、食屍鬼が悲鳴を上げようとする。彼女はそれを首裏に脚で圧迫をかけることによって防いだ。その拘束を解かぬまま彼女は身をかがめ、食屍鬼の頭部に顔を近づけると聞き慣れない言語を発した。耳障りにも思えるような喉から鳴らす声。その声に対応するように食屍鬼が同じ様な言語を発する。とはいっても声質は異なり、更に不快なノイズの様な音ではあるが。彼女はその言葉の様な音を聞いた後に不敵に口元に笑みを浮かべ、食屍鬼の右肩部分を踏み砕く。そのままステップを行うようにして脚を首裏に戻し再び悲鳴を上げるのを防いだ。食屍鬼はたまらぬといった様子で連続で言葉を発する。それにアリシアが何言か返し、食屍鬼は地面に組み伏せられたまま何度か頷いた。彼女は満足そうな笑みを浮かべ、そのまま食屍鬼の首を踏み砕いた。嫌悪感を湧き上がらせる不快な音が聞こえた後に、食屍鬼の身体が完全に動かなくなる。
「右の通路の先に橋頭堡部隊は籠城しているらしいわ。数匹の食屍鬼が扉を破壊しようと試みているみたい」
「了解。今のは食屍鬼の言葉か?」
「そうよ。猿真似の様に覚えたものだけど、存外通じるみたいね」
そして俺たちは再び歩みを再開した。獲得した情報通りに通路を進めば、ドアを叩くような音をヘッドセットが拾う。警戒しながら進めば、一つの扉の前に陣取っている3匹の食屍鬼の姿が確認できた。だがここは廊下のど真ん中。遮蔽など無く、身を隠すすべは存在しない。今は気が付かれていないが、何か行動を起こした瞬間に察知されるだろうことは明白であった。アリシアが『どうする?』といった表情で顔を向けてくる。ここまで隠密で進んでこれたが、ここらが潮時だろうか。この先はスピード勝負といこう。
「食屍鬼3体を同時に相手することに問題は?」
「何も。音を出さないっていうのは流石に無理だけど」
「それでいい。俺は時間稼ぎするためにトラップを設置しとく。こちらの道にはこないようにしてくれ」
そう言えばアリシアは何処か楽しそうに口元に笑みを浮かべ大剣を引き抜いた。この通路で振り回すには些か無理があるように感じるのだが、大丈夫なのだろうか。まあここまでで彼女の強さは充分に理解している。きっと問題は無いだろう。彼女の心配よりも俺は俺の仕事をこなすべきだ。その場にしゃがみ込みワイヤーを廊下の端に設置する。そしてそのワイヤーにグレネードのピンを通し固定すれば、即席の爆破トラップの完成である。先の戦闘でオーガとトロールを殺す為に設置したものと同じものだ。殺せなくとも充分な時間稼ぎにはなるだろう。
彼女の方へと目を向ければ既に2匹の食屍鬼を片付けていた。大剣では無理があるのではと思ったのだが、彼女は手甲で刀身を直に掴み槍のようにして立ち回っている。そして最後の1体が突進してくる。彼女はそれを回避するでもなく、わずかに跳躍して膝蹴りを放った。カウンターで顔面に膝蹴りを食らった食屍鬼は大きく体勢を崩し後方へと転がる。彼女はそれを即座に追撃し首元に大剣の切っ先を差し込んだ。だが流石に音に気がついたのか、下の階が若干騒がしくなっている。確認しに来るのも時間の問題であろう。
「グッドキル。罠の設置も終わっている。さっさと中の連中に作戦を伝えてとんずらしよう。連中が本隊と合流できる様に、俺たちで陽動するぞ」
「了解」
アリシアはそういうと扉を叩き声を発する。
「ミスティア王国傭兵部隊、レイレナードの第2中隊指揮官、アリシア・レイレナードよ。救援に来た。扉を空けて」
すれば中から物音がし、直ぐに女の声が聞こえてきた。
「レイレナード部隊か!助かった!少し待ってくれ」
扉の内側から物音が響き、しばらくすればドアが開く。内部を見てみれば万全とは言い難い女達が10数名ほどいるのを確認できた。自力での移動が不可能そうな重傷者の姿も確認できる。
そして年若く凛とした面持ちの少女が前にでて声をかけてきた。
「私が指揮官のアリスティドだ。救援感謝する。…そちらの殿方は?」
「ベネディクテから派遣された傭兵のアサカ」
「第一王女殿下が…?本当に感謝する」
「生還したのちに改めて聞かせてもらうわ。ここより南側でレイレナード第2中隊の主力が待機している。貴方達は森を抜けてそちらと合流して頂戴」
アリシアがそういえば、アリスティドと名乗った少女の顔が歪んだ。理由は直ぐにわかる。重傷者達の処遇についてだろう。残念だが現状、彼女たちを連れて脱出することが難しいことは誰の目にも明らかだ。
「負傷者は…」
「残念だが置いていけ。俺たちは2人、あんたらも動けるのは6人だけだろう?重傷者を抱えての離脱など無理だ」
「しかしだな…」
「辛い選択だろうが、あんたらまで死んでしまえば俺たちがここまで来た意味も、これまでに死んでいった者達の犠牲も無駄になる」
そういう俺に対してアリスティドは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。気持ちは痛いほど理解できるが我々には力が足りないのだ。流石のアリシアだって重傷者を4人担いでの戦闘なぞできるわけもないし、そこまでする義理も彼女にはないだろう。人でなしの選択かもしれないが、ここで全員で心中する気は毛頭ない。
「…了解した。すまない…」
「はは、相変わらずアリスティド様はお優しい。我らを気にせずどうか無事の生還を」
重傷者達が痛々しく微笑みながら簡易敬礼を行う。アリスティドは涙を溢しながら部屋を出ていった。彼女は部下からの信頼が厚いのだということがそれだけで伝わってくる。人でなしの選択を何の苦も無く取れる自分自身に対する自己嫌悪が込み上げてくるが、感傷に浸っているだけの時間は無い。俺たちは俺達の仕事をこなすとしよう。
「どうかアリスティド様を頼む、レイレナード、アサカ」
残された重傷者の言葉を背中で聞きながら、レミントンACRを構えた。あんな年若い少女に、最適解だとはいえ辛い決断をさせてしまったのだ。言われずともここに来た意味は果たすさ。
「…ではよろしく頼む」
アリスティドに作戦の概要を伝え、別れる。彼女達は救出対象であるが別に軟弱では無い。特にあの生き残り行動可能な6名はアリスティドの軍の中では精鋭中の精鋭なのだろう。魔力石も幾つか分け与えたことだし、エスコートは不要だと判断できる。一方のアサカは各種装備の最終点検を行っていた。この男の身体能力は通常の人間のレベルであるようだが、その格闘術や判断は信頼できる。銃とやらも食屍鬼への効果は微妙のようだが、強力な武器であるには違いないだろう。他の生物や人間相手であれば無類の性能を発揮するだろうことは容易に理解できる。連続して鉛玉が発射できる飛び道具なぞ聞いたことも無かった。それに先程の判断。負傷者を見捨てる選択なぞ生半可な経験では行えない。最終的に行える者は多いだろうが、あの一瞬でそれを決断出来るものは少ないだろう。一体どれほどの戦場を渡り歩いてきたのだろうか。或いは既に壊れているのか。もしかすればそのどちらもかもしれない。
「アサカのプランは?」
「設置した罠の前面で一度派手に銃声を鳴らす。その後バリケードへ一気に後退し、相手を罠に嵌める。一応ワイヤーを引っ掛けない様に注意してくれよ?罠の手前にサイリウムを投げとくから、そこには近づかない様にしてくれ」
そう言いながらアサカは部屋から運び出してきた机やら何やらを廊下へと積み上げていた手を止めた。そして一本の棒のような物を取り出しそれを折り曲げる。すればその棒は淡くピンク色に発光した。見たこともない物に興味を抱くが、あれこれを聞くのは仕事が済んでからにしよう。
「私の配置は?」
「罠とバリケードの間に頼みたい。俺が後退してきたら前衛を頼む。俺はバリケードから援護射撃を行うから、キツくなってきたらバリケードまで引いてくれ。10分も時間を稼げれば彼女たちは主力と合流できるはずだ。その後俺たちも離脱するぞ」
現状で取れる最適解だと思えるアサカのプランに感心する。別に他部隊所属なのだから私の指示をアサカが聞く必要もないし、私がアサカの指示を聞く必要もないのだが、現状を楽に立ち回るのであれば彼の指揮能力の元で動くのが最適解であった。これがどちらかが貴族軍の所属であれば小規模であろうとも指揮権の統制なぞできなかった訳だが、幸いにも私達はベネディクテ配下の傭兵同士。何も問題はない。
「了解した。上手く退いて来なさいよね」
「何かあればフォロー期待しとくよ」
そう言ってアサカは罠の先へ配置につく。そしてけたたましい破裂音とオレンジ色の光が連続した。あれが銃の本来の音なのだろうか。先程までは気の抜けた音だった言うのに、随分の変わり様である。そして窓の外からは月光とは違う別の光が差し込んできた。銃声を聞いたアリスティドが信号魔術を打ち上げてくれたのだろう。これを見た本隊も行動に入るはずである。さて、10分間耐えるとしようか。
階段部に陣取ったアサカはその階下へ向かって連続して銃を放っている。暗闇の中にオレンジ色の光が音の数だけフラッシュし、アサカのシルエットを映し出した。だがそれも長くは続かない。
「めっちゃ来るぞ!」
アサカが少し上ずった声でそう叫びながら一気に後退してくる。その背後には階段から数体の食屍鬼が溢れ出し、走る姿が確認できた。サイリウムの置かれた床面を蹴り、アサカが私の手前へと転がり込み、そのまま後方6m程に設置されたバリケードへと身体を滑り込ませる。その後遅れてサイリウムを超えた食屍鬼の身体が消し飛んだ。凄まじい爆音と爆風が私の居る位置まで伝わる。アサカの指示した距離で待機しておいて正解であった。これ以上近ければ爆風で飛ばされた破片などを被弾していただろう。煙が通路を覆う。ゴブリンなどであればあの爆発を見れば恐れ退いていく所だが、食屍鬼は…
「グァァオ!」
退くはずも無かった。連中は異形の化け物の中でも仲間意識の強い種族である。仲間が目の前で殺されて逃げ出す訳もない。煙の中から2体の食屍鬼が飛び出してくる。私は腰に帯びていた予備の武器、ショートソードを抜剣しそれを待ち構えた。クレイモアと比べ馴染みの浅い武器ではあるが、あまり問題は無い。馴染み浅いとはいっても、それはクレイモアと比べてである。戦場では幾度も握った得物の一つだ。
食屍鬼の一体が跳躍し、鉤爪を振り降ろしてくる。それをバックステップで躱し、二体目の追撃を捌こうと視線を向ければ、その食屍鬼は大きく体勢を崩していた。後方からの炸裂音、アサカの支援である。心の中で彼に称賛を送りつつ、その姿勢の崩れた食屍鬼へと刃を一閃した。だがしかし相手は食屍鬼、この様な刀剣の効果は薄い。事実その外皮の浅い部分を切り裂くだけに留まり、肉を切る事は叶わなかった。だがそれでいい。私は前へステップし食屍鬼の顎の下を掴む。そのタイミングで一体目の食屍鬼が再び飛びかかろうとしてくるが、またもやアサカの援護で体勢を崩した。その隙を見逃さず掴んだ顎を右に捻り首の骨をへし折る。まずは一体。更に煙を超え2体の食屍鬼が視界に入る。1体はアサカの援護射撃により体勢を崩し減速するが、もう1体がその鉤爪を私に振りかぶった。回避してはジリ貧に陥る。そう判断し即座に
「殺してみなさい、化け物共」
次が来る。右から2、左から1。左下段から繰り出される鉤爪をショートソードで防ぎつつ、右の2体の攻撃を身を反らして回避する。そのまま追撃に移ろうとするがそれよりも相手の対応が早い。こちらの行動を先読みしてステップの方向に攻撃を置いてきた。こいつら戦い慣れている。避けきれない攻撃が顔面左へと命中した。
「リロード!」
アサカが後方で叫ぶ。再装填の合図だ。つまりは数秒の間援護射撃は期待できない。だが先程から何度も手助けしてもらっているのだ、この程度踏ん張れなくてどうする。肩を折った食屍鬼の身体を投げ飛ばし、正眼から追撃してくる食屍鬼へと叩きつけた。そして即座にショートソードを中段で構え全体重を乗せた刺突を行う。その攻撃は命中したが、食屍鬼の外皮の耐性により貫通はできなかった。咄嗟に手を放し、中途半端に刺さったショートソードの柄部分に前蹴りを行う。生半可な刃は通さぬ食屍鬼の外皮も、流石に
「装填完了!だけどこれが最後のマガジンだ!」
再びアサカの声が聞こえる。ちらりと聞いた話ではアサカの銃の装弾数は30発だと言っていた。残弾30発、向こうもリソースの限界が近いらしい。とりあえず残る残敵は1。さっさとこれを片付けないといよいよ不味い。ショートソードは先程の食屍鬼に刺さりっぱなしであるのでまともな得物はクレイモアだけだが、この状況で構えている余裕は無いだろう。最後の食屍鬼はこちらを伺うように低い唸り声を上げている。このまま時間を取られるのはよろしくない。意を決して前面へと踏み出した。
だが食屍鬼は時間を稼ぐようにバックステップを行い距離を取ろうとする。さっき抱いた感想の通り、やはりこの個体は戦闘に手慣れている。だが生憎こちらにいるのは私だけではないのだ。
「しゃがめ!」
脚を前へ突き出しスライディングを行う。金属甲冑と石床が擦れ火花が散るがこの際どうでもいい。直後視界を遮るようにして舞った私の髪を切り裂く様にして弾丸が飛来した。その弾は凶悪な初速をもって食屍鬼の膝へと命中する。奴が体勢を崩した、一気呵成に仕留める!
「フッ!」
スライディングの勢いのまま食屍鬼の脚を払いのける。顔面から転がる様にしてこちらに転倒してくる食屍鬼の首元に右肘を絡め首をロックした。後はこのまま圧し折るだけ、そう思ったが急速に身体から力が抜ける感覚がした。
「この野郎テメェ!」
アサカがバリケードから飛び出し食屍鬼の顔面に膝蹴りをかましたのだ。そのまま仰向けで吹き飛んだ食屍鬼の首を即座にロックし、彼はそのままそれを圧し折った。
「はぁ…ハァ、大丈夫かアリシア?」
「オーライ。だいぶ顔は痛むけど行動に支障はないわ。そっちは?」
「最初にもらった裂傷以外は問題ない。だが弾は殆どないぞ。ここらが潮時だ」
それには多大に同意する。外での戦闘音も響き出した。陽動としては十分な成果であっただろう。さっさとこんな場所を離れようと立ち上がるが、アサカの視線は橋頭堡部隊が籠城した部屋へと向いていた。
「何をする気…?」
「最後の仕事が残ってる」
彼のその一言に、理解が及ばなかった。
好きなヒロインは?
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ベネディクテ
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オイフェミア
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ゼファー
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アリシア
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レティシア
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ゼータ