元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話   作:Artificial Line

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明けましておめでとうございます。そしてお久しぶりです。
去年の投稿数3本って少な過ぎだと自分でも理解してるんですけど、大体エルデンリングとOW2、Valorantが悪いんです。
尚今年にはAC6の発売がある模様。


Act15_誰かのリンボ

Date.(日付)24-August-D.C224(D.C224年8月24日)

Time.1115(時間.11時10分)

Location.(所在地.)Near Border(国境付近)

Duty.(任務.)Cover(援護)

Status.(状態.)Yellow(戦闘)

Perspectives.(視点.)Hinatsu Asaka(朝霞日夏)

 

「始まるな」

 

横でしゃがんでいたゼファーがそう呟いた。彼女は今、俺が貸したハーフギリースーツを羽織り、双眼鏡で戦場を見渡している。俺はといえば匍匐の姿勢で携帯端末を操作していた。その携帯端末は液晶画面の付いたPAD(コントローラー)の様な外観をしている。それで何をしているのかといえば勿論遊んでいる訳では無い。

 

「しかしそれは便利だね」

 

ゼファーが双眼鏡を上空に向けながらそういった。その双眼鏡の先には無人偵察機(UAVドローン)が飛んでいる。位置は戦場の200m上空。ほぼ全域が見渡せる位置で旋回飛行していた。そう、俺がこの携帯端末で操作しているのはその無人偵察機である。どっかの誰かが弾薬庫に保管していた物だが存外助かった。というか最早こんな物まで保管してあるなら弾薬庫というよりも、弾薬も保管している倉庫といったほうが妥当な気がする。

無人偵察機の正式名称はCCUA-3。通称シーガル。かもめと名付けられたこれはC.C.Cが独自開発した軍事用ドローンの偵察型である。太陽光パネル搭載であり、陽の光のある場所なら半永久的に飛び続けられる利便性と全長50cmほどという携行性が売りの機体だ。素人でもマニュアルを熟読すればメンテナンス可能な整備性も評価が高い。まあこちらの世界に来てしまった俺が宣伝しても虚しいだけだが。

 

「まあね。敵に使われるのは勘弁だけど」

 

「それはそうね。だけど銃だけでなく、あんな物まで存在する戦場を想像すると恐ろしくなるわ。こっちに飛ばされたのがアサカだけで良かったよ」

 

冗談っぽくゼファーはそう笑った。実際その通りだ。国家規模とは言わなくても、小隊規模などでまるごと飛んでいたらもっとややこしい状況になっていたのは想像に難くない。

 

「まあそれはそれとしてありがとう。観測手を引き受けてくれて」

 

俺は端末から目をそらさないままゼファーへ感謝を告げる。そう、彼女がいまこうして俺の隣にいるのは観測手を引き受けてくれたからなのだ。

 

「気にしないで。私がオイフェミア様から命じられているのはアサカの身辺警護。というかぶっちゃけ、私も戦士としての自負と自信はあるけど、"あんな"戦場にいても足手まといになるだけだしね」

 

自嘲気味に彼女は笑う。"あんな"戦場。逸脱者という人知を超えた存在が3人も揃う戦場。確かに人の身が介在する余地はほぼないだろう。オイフェミアとノルデリアの戦いの時でさえ、もっと近くにいれば死んでいただろう。そんな逸脱者が3人も揃っているのだ。一介のマークスマンが直接現場にいてもどうしようもない。無論それはゼファーも同じ意見であるようで、こうして観測手を引き受けてくれたのだ。

とはいえ、彼女は本職の観測手ではない。そのための訓練も受けていないし、初めての体験である。だから俺が彼女に任せたのは主に周辺警戒。誰か別の人物が周りを警戒してくれているだけでもこちらのパフォーマンスは上がる。ましてやドローンの操作までやってるのだ。簡易的な自動操縦は行えるが、精度が高いとはいえない。GPSが存在していれば座標を打ち込むだけでお手軽自動操縦なのだが、生憎とこの世界に人工衛星なんて便利なものは存在していないのだ。とは言え銃撃しながらモニターの確認なんぞ御免被るので、交戦が始まったら無人偵察機のモニタリングはゼファーに任せる予定である。

 

「そっちはいつものとは違う銃だね」

 

ゼファーは俺の横に2脚で立てている銃へと視線をずらしながらそう言った。

いつもの、とは恐らくM39EMRの事を指しているのだろう。弾薬庫で暇つぶしがてら行っている射撃演習モドキに使用しているのは大体M39EMRなので見慣れないのだろう。

 

「使い方も全然違うぜ」

 

今回の任務に持ち込んだプライマリの一本はM240軽機関銃。7.62mm×51mmNATO弾を用いるフルオート機関銃だ。弾薬はM39EMRと同じものなので射程はそれなりにある。精度も軽機関銃にしては高く、米軍ではこれをマークスマンライフルと同じ様に運用していた隊もあるらしい。

俺個人としてはあまり使用したことのない銃だが、分隊支援火器として隊では運用していた。仲間達の弾幕に幾度となく助けられた事は覚えている。今回の主な任務はミスティア軍右翼部隊の支援。1000を優に超えるフェリザリア軍勢をほぼ単騎で押し留めなければいけない。正直勘弁して欲しいというのが本音である。俺がしくじれば少なくても右翼に展開しているウォルコット軍の大隊1000人が死ぬことになる。軽くはないプレッシャーがトリガーにかかっていた。だが不思議と緊張はしていない。それはこれまでの経験からか、それとも半ばやけくそ気味であるからか。

もう一本のプライマリはブッシュマスターACR。普段から運用しているアサルトライフルだ。これは不慮の近接戦に対応するために持ち込んだものであり、恐らく火力支援として運用することはないだろう。

 

とはいえ、アサルトライフルとマシンガンだけで総計万に届くこの戦場をコントロールできるとは思っていない。確かに機関銃陣地は強力だ。歴史的に見ても日露戦争における旅順攻略戦の203高地など機関銃陣地が猛威を振るった戦場は多い。だがそれは複数の機関銃陣地がお互いをカバーし合う様に配置されていたからだ。単騎ではリロードタイムのカバーが行えない以上、その隙は味方にとって致命的となる。それに魔術を初めとした異能が存在するこの世界だ。どんな事が起こるかは予想もつかない。故に味方の損害を減らす為には初手で相手の士気をズタズタに引き裂き指揮系統を壊滅させるしか無い。そのための文字通りの秘密兵器も持ち込んでいる。これらの火器の運搬に協力してくれたレイレナード部隊には感謝しか無い。まあ自分たちの命に直結にするのだから打算的な計算なのだろが、そんな事はどうでもいい事である。

 

無人偵察機を簡易自動操縦モードに切り替え端末から視線を外す。そして横に設置してある今回の本命へと目を向けた。

見た目は実に簡素。一本の鉄の筒が天空に向けられ、それを支える為の脚が取り付けられている。これこそが今回の秘密兵器。

その名前はL16 81mm迫撃砲。アメリカではM252、陸上自衛隊では81mm迫撃砲L16の名が与えられた世界的ベストセラーの中口径迫撃砲だ。

 

迫撃砲は、簡易な構造からなる火砲である。高い射角をとることから砲弾は大きく湾曲した曲射弾道を描いて飛翔していく。

少人数で運用でき操作も比較的簡便なため、砲兵ではなく歩兵の装備であることが一般的で、最前線の戦闘部隊にとっては数少ない間接照準による直協支援火器の一つである。

射程を犠牲にして砲口初速を低く抑えることで、各部の必要強度を低減し全体を小型かつ軽量にしている。また、射撃時の反動を地面に吸収させる方式によるため駐退機や復座機といった反動制御機構を省略し、機構を簡素化する工夫が施されている。

 

戦場において火力は正義であり神と同義である。大げさに聞こえるかもしれないが、実際に地上戦の8割は砲撃戦で決まるのだ。俺たち通常歩兵の介在余地などほぼ無い。航空機が本格実運用されている現代戦に置いてもそれは変わりがない。

考えても見て欲しい。いくら堅牢な要塞や陣地を築いた所で大火力砲撃ならばそこを守る防衛部隊ごと壊滅させることが可能なのだ。例えばビルにライフルを持った歩兵数十名が籠城しているとする。これを同じ歩兵戦力で制圧するためには室内に突入して近接戦闘(CQB)を行う必要がある。必然お互いを視認した銃撃戦になるため、どうあがいてもそれなり以上の損害が出る可能性がある。だが砲撃でそのビルごと吹き飛ばしてしまえばどうだろうか?防衛側が準備したトラップも戦術も、火力で灰塵に返してしまえばどうだろうか?答えはいわずともわかるだろう。例え残存戦力がいたとしても損害軽微に容易な制圧が可能だろう。

 

故に俺たち歩兵にとって砲兵は戦場の女神なのである。

では迫撃砲は?砲兵戦力が戦場の女神なのであれば、迫撃砲は戦乙女(ワルキューレ)といったところであろう。歩兵が携行可能な火力兵器。共に進行し敵前哨陣地を吹き飛ばす火力()の鉄槌。それが迫撃砲である。

 

これを用いて相手の出鼻を挫くというのが今回の俺のプランである。

 

とはいえ、うまくいくかという不安はある。俺は選抜射手(マークスマン)であり、分隊支援員ではない。迫撃砲は幾度か運用したことはあるが、本職のそれに比べれば知識も技量も劣る。それにいくら少人数での運用が可能な迫撃砲といえども、今回は実質的に俺一人で運用することになる。この迫撃砲にも銃と同じ様な封印がかかっているらしく、この世界で直接触れることが出来るのは俺だけなのだ。弾薬同様迫撃榴弾には他の人物も触る事が出来るためちょっとした支援は頼んであるが、それでも殆ど俺一人で行わなければいけない。射角算出、弾着観測、威力確認、修正射等色々とやることはあるが、弾着観測と威力確認以外は俺が一人でやることになる。初めての経験だがやるしか無い。

 

その時背中にぽん、と軽い衝撃を覚えた。何事かと思い顔を上げれば、優しげな微笑みを浮かべたゼファーと目が合う。彼女が俺の背中を軽く叩いたのだ。

 

「大丈夫。やれることは少ないけど、しっかり手伝うよ」

 

「……ふふ。ありがとう、ゼファー」

 

少し重荷が軽くなった気がした。

 

「それじゃあ無人偵察機の観測を頼むよ。何かがあったらそっちの判断で本部に報告してくれ」

 

「了解。この画面……?を見とけばいいのね」

 

「その通り。それを見て判断してくれ。こっちで手伝って欲しい事ができたら声をかけるよ」

 

ゼファーは顔の横に手を掲げて了承の意を返す。本当にこの世界でコミュニケーションを取ることが出来てよかった。一人では何者にもなれなかっただろう。

身体を起こし迫撃砲の射角調整を行う。レーザー照準器を用いて正確な距離を算出し、それを元に射角をずらしていく。敵歩兵部隊との距離は512m。改めて目と鼻の先に敵がいることを確認すると不思議と高揚した気分になる。

 

「本隊前進開始」

 

ゼファーの声が耳に入る。彼女の言葉の通り前衛に展開している本隊が進行を始めた。

 

 

 

Date.(日付)24-August-D.C224(D.C224年8月24日)

Time.1115(時間.11時15分)

Location.(所在地.)Near Border(国境付近)

Duty.(任務.)Conquest(制圧)

Status.(状態.)Yellow(戦闘)

Perspectives.(視点.)Alicia Rayleonard(アリシア・レイレナード)

 

「嫌なものね」

 

軍馬と甲冑歩兵が地面を蹴る轟音が轟く。その中でも、彼女の声は嫌に透き通って聞こえた。視線を向ける。目に入るのは人の倍以上はある全長を持った虎であった。だが普通の虎ではない。雪を連想させるような純白の毛皮に、青の縞模様。そしてそれを覆う緋緋色金製の甲冑。尾は槍のように鋭く、鞭のように靭やかで、象の鼻を2本足しても足りない位には長い。その獣の名前はティルグリス。幻獣、ティルグリス。人並み以上の知恵と、一個旅団を殲滅可能な身体能力を誇る人外の生物。だがその美しくも恐ろしい幻獣が声を発した訳では無い。

声の主はティルグリスに騎乗している人物。深い藍色の長髪に、エメラルドグリーンのメッシュ。顔を含めた身体の至る所にはマゼンタ色のボディステッチが見受けられる。胸部を護る革鎧を装着し、左手にはバックラーと呼ばれる小盾。そして右手には真語文字が彫られたレイピアを装備している。そして着ている服はフード付きの上着とスカート。チェストアーマーさえ外せば今から買い物に行くのでは無いかと思わせるほどに、その女は軽装であった。大凡戦争に赴く格好ではない。精々が駆け出しの冒険者、もしくは狩人といった装備である。

だが私はこの女が真の化け物であるということを誰よりも知っている。視線をその女の顔へとずらした。その女は心底楽しそうに、嘲笑っていた。

女の名前はアリーヤ・レイレナード。烈火の異名を持つ、最強(逸脱者)の一人である。単騎で国さえも滅ぼす災害。そして、私の実の姉でもあった。

 

「人殺しなんて、趣味じゃないもの」

 

アリーヤは何処までも楽しそうな笑みを浮かべながらそう言った。だがその笑みに喜色は含まれない。ただあるのは、原始的な暴力にも似た物。

 

「せめて真顔で言うべきセリフでしょうに」

 

馬の腹を蹴りながらそう返す。同時に背中に担いだクレイモアを引き抜いた。手入れされていない草原を、無数の人と軍馬が駆け抜ける。眼前に見えるのは、砦とその前衛で陣を築くフェリザリアの兵士達。

最早砦の懐といってもいいほどの距離。意識を先鋭化させていく。刃物の様に、張り詰めさせていく。直後、脳内に声が響いた。

 

『左翼へ魔術迫撃』

 

砦から轟音が響いた。同時青白い閃光に包まれた投射物が私達へ目掛けて放たれる。魔術迫撃によって投射された魔術弾だ。使用用途は投石機と大凡同じ物。違うのは、それが魔術によって投射される事。アサカの言う所の大砲のような大型の魔術装置に数名の魔術師が魔力を流す事によって高速で物体が投射可能な兵器。戦術的驚異度は、投石機の比ではない。あれがある限り、一般部隊は接近すらままならない。

 

「フフッ」

 

だがそれは一般部隊の話である。上空に紅い閃光が迸った。直後、高速で迫っていた魔術弾が爆発を起こす。まだ300m以上距離があったというのに爆発音と爆風が身体に届き、その威力を実感する。だが真に恐ろしいのは……

視線を横にやった。そこには全身に紅い雷を迸らせ、狂暴な笑みを浮かべる姉の姿がある。この女があれを迎撃したのだ。

アリーヤが用いたものは魔術である。だがただの魔術ではない。その魔術は"龍神の赤雷"と呼称される、雷系の最上位魔術。20km以上という圧倒的な射程距離を誇る戦術級魔術である。通常の魔術の射程がどれだけ長くても50m前後ということを考えれば、その異常性が理解できるだろう。威力は一室を吹き飛ばす程度(まあそれも十分可笑しいとは思うのだが)であり然程ではないが、現存するどの兵器よりも圧倒的に高射程で高精度、高速度な魔術である。

勿論こんな魔術が誰にでも使える訳がない。龍神の赤雷はそもそもが神話に登場する魔術である。一撃で一般的な魔術師2人が魔術欠乏に陥る魔力消費量。そして圧倒的な演算難度の高さ。神代の歴史書に登場し、幾千名もの偉大な魔術師が再現を試みた魔術。だがそのほぼ全てが再現に失敗し、『これは御伽噺の魔術だ』と匙を投げた魔術。だがそれを再現した逸脱者がいた。現代に蘇った魔術の神の化身、オイフェミア・アルムクヴィスト殿下である。

話はここで終わるはずであった。例え神話の魔術を再現できたとしても、結局それを行使できるのは人を逸脱した存在のみ。そう、人を逸脱した天才がもう一人いたのだ。

 

「あはは!」

 

第二射、三射と魔術迫撃が放たれる。だがその全てが赤雷によって迎撃されていく。狂ったような笑い声を上げる女は、狂暴な笑みを浮かべていた。

アリーヤが赤雷を迸らせた右腕とレイピアを顔の前に掲げる。そしてはち切れんばかりの赤雷が発生したと同時に、腕を振り抜いた。ほぼ同時に砦の城壁部分、魔術迫撃機が赤雷に包まれ爆発する。周囲には複数名の魔術師がいたようだが、着弾と同時に姿は消えていた。ただそこには血煙だけが残っている。

 

「おやすみ」

 

逸脱者というのはそもそもが人を大幅に逸脱した化け物達である。だがそれぞれに特徴がある。例えばアイフェミア殿下であれば逸脱者の中でも特に秀でた無尽蔵の魔力と、精神掌握。レティシア殿下であれば異常な反射能力と高速戦闘。フェリザリアのノルデリアであれば高精度の魔力放出と天性の戦闘センス。

そして私の姉……アリーヤ・レイレナードであれば魔術の多重複次展開、部隊への指揮、幻獣の操作、そして剣術、それら全てを並列に処理する演算能力、無詠唱、結果として生まれる破壊である。

 

私達レイレナード部隊がいるのは戦場の左翼である。フェリザリアの守るシャーウッド砦を最奥に、その手前にフェリザリア前衛部隊。その真正面に向かい合ってウォルコットの第一大隊。右翼にはアサカの援護がついたウォルコット第二大隊が布陣している。我々ミスティア勢力がフェリザリアを全翼に渡って包囲するような布陣である。最も、彼我の戦力差を考えればとても包囲には程足りない数ではあるが。だがそれは通常戦力に限った話である。

 

魔術迫撃機が爆発した直後、中央のウォルコット部隊から何かが目にも留まらぬ速さで敵前衛部隊へ迫っていくのが横目に確認できた。

 

「レティシア殿下が吶喊された!我々は予定通りに敵前衛部隊の真横まで抜けるぞ!アリシア、あんたは私のバックアップ。詠唱の時間を稼ぎなさい。他の連中は敵を逃がすな!動きを牽制しろ!範囲には巻き込まれるなよ」

 

アリーヤが怒声を上げる。別に私の援護がなくてもあんたは大丈夫でしょうに。声には出さずにそう呟いた。

同時に彼女の斜め上後方に無数の魔術陣が展開されていった。それぞれの魔術陣の中心には魔力で形成された青白く輝くダガーが顔を覗かせている。あれは魔術の空剣と呼ばれる魔術であり、半自動的に目標へと投射される展開型魔術である。

威力、難度共に常識の範疇であるが、連続展開は出来ても同時展開は出来ない魔術である。だが複数の魔術を同時に詠唱できるだけの演算能力を持ったこの女にはそんなこと関係無い。大凡20にも届く魔術の空剣を同時展開しながら、さらなる魔術の詠唱を行っている。

 

バンッ!という耳を劈くような金属音が戦場に響き渡る。同時に草を押し倒す程度の衝撃波が身体に伝わる。音の方向へ目をやればこの戦場のど真ん中で二人の女が鍔迫り合いを行っていた。

一人は漆黒のフルプレートアーマーに身を包み大槍を振るう騎士。フェリザリア最強の逸脱者、ノルデリアである。

もう一人はアサカの持つ銃のような特殊な形状の双剣を振るう銀髪の女騎士、レティシア・ウォルコット殿下だ。恐らくレティシア殿下が超高速で吶喊した勢いのままぶつかりあったのだろう。鍔迫り合いはほんの一瞬の事であり、そのままお互いに連続で魔力放出による高速戦闘へと移っていく。

だがそんな異常な逸脱者同士の戦闘を前にしても、フェリザリアの一般部隊の対応は早かった。即座に部隊を2分割し逸脱者同士の戦闘を避けるようにしてウォルコット軍へと進行を開始していく。我々左翼から迫る騎兵部隊への対応も忘れておらず、阻止射撃の為の魔術師を部隊外郭に配置していた。良い判断力だ。恐らくはフェリザリアの副官は相当に優秀な人物なのだろう。だが相手が悪い。

 

「ふふっ」

 

阻止射撃の為に配置されていた複数の魔術師が上空から落とされた赤雷によって同時に爆散する。龍神の赤雷の亜種魔術の同時行使だ。勿論そんな馬鹿げた真似ができるのはアリーヤ以外にはいない。

 

「フェリザリア一般部隊の進路を塞ぐ様に馬を奔らせろ!殺す必要は無い!相手の足を止めたら直ぐに離脱だ!」

 

指示を受けたアリーヤ隷下のレイレナード第一大隊が突撃を行う。移動中の敵部隊の進路を塞ぐようにして馬が列を成して、すれ違いざまに魔術を放っていく。結果それによって一瞬連中の足が止まった。

だがそれは本当に一瞬のことであり、騎兵部隊が過ぎ去った後にフェリザリア部隊は直ぐ様に進行を再開しようとする。だがそれは出来なかった。

先頭を奔っていたフェリザリアの騎兵が突如として何がに激突したようにして落馬したのだ。後ろから続く歩兵部隊も次々と"見えない壁"にぶつかるようにして倒れていく。

 

「良い眠りを」

 

アリーヤがそう呟いた直後、そのフェリザリア部隊の周りに水銀のような霧が立ち込め初めた。それは立方体状に彼女らを包み込む。何が起きているのか、それに気がついたフェリザリア兵の一人が、見えない壁に対して武器を振り下ろし始めるがもう遅かった。

立方体の中に閉じ込められたフェリザリア兵が次々と藻掻きながら倒れていく。水銀の霧が晴れる頃には誰もそこには立っていなかった。

 

「殲滅完了」

 

アリーヤが用いた魔術は"盾"と"致死の銀霧"と呼ばれるもの。盾は不可視の立方体状に魔術障壁を展開させる防御、拘束魔術。そして致死の銀霧は触れた生命全てを蝕む設置型の魔術。盾によりフェリザリア兵を逃さぬ籠を創り、致死の銀霧をその中に発生させたのだ。気がつくのが遅れればただ待つのは死。だが初見でそれを見切るのはほぼ不可能だろう。

こうしてフェリザリアの左翼部隊2500は一瞬にして壊滅した。えげつない。

 

その光景を咀嚼することも無く、ただの敵戦力の現象という事実として脳で処理する。悲惨な状態の死体が山のように転がっているが、別に死んでしまえばただのモノだ。これが仲間ならばそれなり以上の困惑は私の中に生じるだろう。だが一度敵と認識していた存在であればなんてこと無い。

 

戦場に長く身を置いているからこその自身の精神的防壁。私は私の心を護るために、この眼の前で起きた"敵兵"虐殺について深く考えることはしない。

 

「レイレナード部隊!砦を牽制しつつ中央の部隊を追い詰めろ!」

 

アリーヤの怒声。同時に彼女の騎獣であるティルグリスが大きく口を開く、そこから青白い雷が迸る。それは目にも留まらぬ速さで飛翔し、敵中央の通常歩兵へと炸裂した。

電撃が人から人へ伝播し、壊れた人形の様に人が死んでいく。

 

私も馬を走らせる。ノルデリアとレティシア殿下の異常な戦闘には巻き込まれないようにしつつ、態勢を立て直そうとしている歩兵部隊へ目掛け突撃する。

同時エンハンサーの多重発動。ビートルスキン、キャッツアイ、マッスルベアー。敵弓兵がこちらに目掛け放った矢は強化された動体視力の前では止まっているも同然に見える。クレイモアでそれを切り捨て、更に速度をあげる。

大盾兵が前衛をはり、パイクがこちらを突き刺そうと迫る。だがそんなものは関係ないとばかりに馬を大盾兵へとぶつけた。同時鐙を蹴り大きく飛び上がる。そして上段からクレイモアを敵陣の中心目掛け一閃。敵の士官クラスと思われる女を一刀両断する。

敵集団のど真ん中に飛び込む形になり完全に方位された。だがそれがなんだというのだ。私は上位者。逸脱者には届かぬにせよ一騎当千の兵である。その生半可な武器で私の身体を抜けるものならやってみるがいい。

 

ショートソードを中段に構えた敵兵がこちらへと斬りかかってくる。それを左手の籠手と硬質化された腕で強引に受け止め、腹を思い切り蹴り上げた。筋力強化された今の私の脚力は、それだけで立派な武器だ。脊髄を完全に折った嫌な感覚が足裏から伝わり、敵兵は痙攣しながら後方へと吹き飛ばされる。

次、背後から2人が斬りかかってくる。それに対し左足で後ろ回し蹴りでのカウンター。頭部に命中した私の足によって敵兵の頭部が兜ごと千切れた。残ったもう一人の斬撃を回転の勢いのままクレイモアで弾き飛ばす。クレイモアを右手から左手にスイッチしつつ、右の籠手で敵兵の首目掛け打撃を飛ばす。頸椎が折れる気持ちの悪い音と共に、その身体は後方へと倒れ伏せた。

 

3人をしばいたとは言え、ここは敵中央のど真ん中。5m程の距離を開け、全周囲を敵が取り囲んでいる。肉体一つであればあまりにも無謀な突撃であることは言うまでもない。流石に千を超える相手と戦い続けるのは、相手が明確に自分よりも格下とは言え、魔力が持たない。つまりこの突撃自体、愚か者のする行為。

普通であればそうだ。

 

「グワッ!?」

 

だが私が突撃してきた方向で敵が空へと吹き飛ばされている。1人、2人、5人、7人。次々と吹き飛ばされている敵兵の奥から現れたのは、先程まで私が騎乗していた馬の姿。オリハルコン製の馬鎧に身を包み、獰猛な闘牛の様に敵をなぎ倒している。

 

先程の突撃は別に馬を犠牲にしようとした訳ではない。私はこの騎獣が並の人間なぞよりも圧倒的に強い事を理解している。この馬の種族名はディバインホース。馬と瓜二つの見た目をした幻獣である。人並み以上の知能、魔術すらも仕える魔力量。そして幻獣であるが故の圧倒的なフィジカル。通常の人間などと比べ、生物としての格が違う。

 

見ればディバインホースの身体にはいくらかの血が付き、鎧を装備していない部位には槍先が突き刺さっている。だがそういった傷口からの出血は既に止まっていた。おそらくは自分で戦いながら治癒魔術を施したのだろう。

私は地面を蹴り、ディバインホースの鐙へと飛び乗る。それと同時に手綱を引いて腹を蹴った。ディバインホースはそのまま包囲していた敵兵を蹴散らしながらその集団を強引に突破していく。

 

一気に距離を取り再びの突撃の準備を始める。その時、耳慣れないヒューという風切り音が聞こえてきた。

なんだ?そう思い空を見上げる。音の方向には小さな黒い粒。あれはなんだ?その答えを思考するよりも先に、その黒い粒が敵右翼へと落ちていった。

 

ドゴーン。ある程度の距離があるのにも感じる爆風が私達の元へ届き、赤い炎と黒炎が地面から吹き出る。幾名かの敵右翼兵士がそれと一緒に空へと舞い上げられていた。

再びの風切り音。少しズレた敵右翼へとまた黒い粒が降り注ぎ、爆炎をあげる。

 

「アサカか!」

 

攻撃の主に合点が行き、思わず叫んだ。なるほど、銃とはまた違う武器のようだが、しっかりと自分の仕事を果たしているじゃないか。流石だ。

では彼の仕事を減らすためにもさっさと敵中央の通常歩兵どもを破壊しよう。それにレティシア殿下のお手をいつまでも煩わせる訳にもいかない。

私はディバインホースへと指示を出し、再び敵中央への突撃を敢行した。

 

 

好きなヒロインは?

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  • アリシア
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