元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話 作:Artificial Line
荘厳な装飾が施された議事室。部屋の中央には40名ほどが座れる大円卓が置かれ、上座にはより一層の豪華さを誇る大きな椅子が置かれている。私の右隣の席でもあるそこに座るのはラクランシア・ヴェノ・ミスティア。ミスティア王国の女王であり、私の実の母である。不機嫌そうな顔で王冠を被りながら円卓の諸侯達の顔を見ている。
さてミスティア王国は封建制王権国家である。
封建制は、君主の下にいる諸侯たちが土地を領有してその土地の人民を統治する社会、政治制度だ。
諸侯たちは、領有統治権の代わりに君主に対して貢納や軍事奉仕などといった臣従が義務づけられ、領有統治権や臣従義務は一般に世襲される。
女神イーヴァと神々の戦争、アヴァランチ大戦で活躍した逸脱者、エルリングの血を継承するミスティア家を君主として各地域の豪族、貴族が臣従する他種族国家。それがミスティア王国だ。
君主であるミスティア王家には神権主義に則り絶対的な権力がある。……とはいうのは表向きの話であり、この時代神の血筋という威光だけで盲信的に臣従する貴族は多くない。要するに多くの封建制国家と同じ様に、臣下たる貴族を纏め上げなければ国は回らない。納得のする条件を出し、各方への配慮を行わなければ国が二分され国力は大きく低下する。もし内戦となっても王家派閥には3大勢力たるミスティア王家、アルムクヴィスト公爵家、ウォルコット侯爵家が存在するため地方領主派閥の蹂躙なぞ容易ではあるが、それに伴う国家の弱体化は否めない。
身内で争う余力など存在しない。故に軍事力で大きく劣ろうとも地方領主派閥は強気に意見してくる。こちらが国の弱体化を嫌うのを理解しているのだ。
全く度し難いことではあるが、人族というのはそこまで合理的にはなれない。誰もが手を取り合い協力したほうが全体の幸福に繋がると理解していても、小さな欲求を追い求めてしまうのが実に人族らしいといえる。
現在ここに各方のお歴々の顔が並んでいるのは、フェリザリアとの停戦交渉の内容を審議するためだ。上記の理由により私としても、母上としてもこういった会議は嫌いである。青い血の流れる貴族としての責務だとは理解していても、意見の纏まらない貴族共を主導する立場というのはそれなり以上に疲れる。
円卓にはレティシアを除いた王家の主要人物、地方領主派閥の重鎮それぞれが顔を連ねている。面倒くさい。端的に言えばそれが私の率直な内心である。しかも今回のフェリザリアとの戦争の裁量権は王家の軍事統括者たる私が持っている。知らん顔して聞き流す事も出来ない。面倒くさい。
まあだがこの審議は今後のミスティアにとっても絶対に重要なものである。面倒くさいが仕事としてしっかりとこなさねばならないこと位は幼子でも理解できるだろう。
王家派閥に属する法衣貴族が立ち上がり、手元の資料に目を落としながら口を開く。
「では本格的な審議に入る前に此度の第6次フェリザリア戦役についての振り返りを行います。事の発端は7月下旬。ベネディクテ殿下とオイフェミア殿下がフェリザリア国境付近での軍役の最中、フェリザリアの逸脱者、ノルデリアに強襲された事です。フェリザリア第一騎士団1500に加え逸脱者ノルデリア。それらが国境線を侵犯し展開中の両殿下の軍へと攻撃を仕掛けました。我らミスティア側の戦力は500のあるムクヴィスト軍と20名足らずのベネディクテ殿下の第一王女近衛隊のみ。戦力差は絶望的でありました」
地方領主派閥の中心に座る抜き身の刀身が如き雰囲気を纏う老婆、二ルヴェノ伯爵が煙管に火を付け、口を開く。
「そこに救援として現れたのが、"男傭兵"ヒナツ・アサカか」
二ルヴェノ伯爵はミスティア南部の守護を担う地方領主派閥の中でも群を抜いた大貴族である。3大貴族の一つに数えられるその老婆は歴戦の軍系領主貴族であり、地方領主派閥の筆頭でもある。
「その通り。その後の御前報告にてヒナツ・アサカがミスティア国内での傭兵活動を認可され、アルムクヴィスト公爵家、及びベネディクテ殿下が監督役に付くことになりました」
諸侯の視線が私とオイフェミアに向けられる。普通の人間であれば萎縮してしまうような状況だろうが、こんな場嫌でも慣れた。第一上位者にすら至っていない存在の視線如きでグラつく程柔ではない。
「そして此度のフェリザリア、シャーウッド砦に対する攻撃か」
諸侯の一人が口を開く。王家派閥に所属する狼の様な壮年の女。
「はい。ウォルコット侯爵隷下の即応大隊2つとレイレナード第一大隊による逆侵攻は成功。相手側には逸脱者ノルデリアとフェリザリア第一騎士団、及び第八騎士団が存在していましたが、これを粉砕。5倍近くの敵戦力を相手にする攻城戦でしたが、烈火の異名を持つ傭兵の逸脱者、アリーヤ・レイレナードと単騎師団、ウォルコット侯爵、そして男傭兵、フェリザリア国内では"魔弾"と称されるヒナツ・アサカの功績が大きかったと言えます」
「やはり聞けば聞くほど正気とは思えぬ作戦であるな。勝ったから良いものの、もし敗戦していれば貴重な戦略戦力を2つも失いかねなかった」
嫌味ったらしく地方領主派閥の貴族が口を開く。クソが、通常戦力の派兵に一生難癖を付けてきたのは貴様だろうがこの女郎。こちらの視線に気がついていないのか、その女はまだ口を開く。
「しかも聞いた話ではヒナツ・アサカという件の男傭兵は此度の戦闘で重症を負ったらしいじゃないか。全く、期待されていてこの程度とは、落胆ですな」
自身の顔に青筋が立つのが自覚できる。いつか粛清するリストにこいつを付け加えておこう。視線をオイフェミアにちらりと向ければその蒼い瞳が爛々と光っていた。魔力の迸りを感じる。かなりキレている。
オイフェミアが口を開く前にあいつを黙らせた方がいい。そう判断し口を開こうとすれば、ヴェスパーの声に遮られた。
「言いますねぇ。報告ではアサカはかのフェリザリア女王カミーラ・ケリン・クウェリアの懐刀、上位者ゼータと交戦したらしいですが、ご存知でした?」
ヴェスパーの発言を受け議事室がザワつく。予想していなかった人物の名前が出てきたからだろう。ゼータに関する情報はまだ公にはしていない。
「ゼータ……?あの猟犬大隊の?」
「現フェリザリア女王の戴冠最大の功績者。"水天剣舞"の二つ名を持つあのエルフのゼータか」
「死んだのではなかったのか?」
ゼータ。本名不詳のエルフの剣士。フェリザリアで二番目の戦力であり、逸脱者にも匹敵し得る白兵戦最強格の女。だが知名度は高くない。
「……すいません。ゼータとは一体?」
若い地方貴族が声を上げる。歳の頃は17程度。私とほぼ変わらない。顔を見るのは初めての女であった。
「ああ、卿は母君が急死なされて家督を継いだばかりであったな。では知らぬのも無理はない。ここ20年ほどは表に姿を現していなかったからな」
老練の貴族がそれに応える。若い貴族は皆ゼータという女について詳しくないようであり、声を上げた地方貴族と同じ様な顔を浮かべていた。とはいえ私もゼータに関してはほとんど知らない。
「僕から話しましょう」
この場で唯一の男、ヴェスパーが手元の羊皮紙を持って立ち上がる。アルムクヴィストの当代でもあり、戦略級魔術師、逸脱者オイフェミアの兄でもあるヴェスパーは貴族の中でも一目置かれた存在だ。爵位の高さもあるが、その分析能力は敵対している貴族であっても評価するほどのもの。
「"水天剣舞"、それが彼女の二つ名だ。分類としては軽戦士。61年前のフェリザリア戴冠戦争時、浅瀬の湖で"満月の魔術師"と呼ばれた逸脱者を一騎打ちにて討ち取った事からこう呼ばれることになる」
フェリザリア戴冠戦争。61年前のD.C163年に起きたとされるフェリザリア王国の内戦である。
エルフの定住していた土地を人間が武力制圧し、建国されたフェリザリア王国であったが、強行的な支配政策に反発したエルフを中心としたレジスタンスが結成され、当時の王家へと反旗を翻した。当時からフェリザリア貴族であったクウェリア家を旗印として勃発したこの内戦は1年ほどの期間継続され、その間に100万人を超える人族が犠牲となっている。クウェリア家の統率を外れた民兵や極限状態となった王家派閥の兵士によるジェノサイドが多数引き起こされており、犠牲者が増える大きな要因となったらしい。
カミーラ・ケリン・クウェリアを筆頭に当時フェリザリア子爵であったノルデリア家等の活躍により、王家派閥の軍は崩壊。クウェリア派による王都占領と、カミーラが自身の手で当時の女王、ジェニファーを討ち取った事によりこの内戦は終結を迎えたとされる。
と歴史書で読んだ。そんな昔からゼータという女は活動していたのか。まあエルフであるならばその寿命は人間と比べ物にならない。
「ゼータの最も特筆すべき事といえばやはりその単体戦闘能力の高さだ。戴冠戦争時カミーラ率いるクウェリア派についたゼータはその当時から異常とも言える功績を上げている。満月の魔術師と呼ばれた逸脱者を単騎で討伐している事からもそれは理解できるだろう。皆さんであれば逸脱者を打ち取るのにどれだけの戦力が必要かは理解しているはずだ。今日の歴史書の多くはノルデリアの名を喧伝しているが、ゼータは間違いなく現フェリザリア建国の立役者だ。白兵戦の戦闘能力に限って言えばレティシア侯爵やノルデリアにすら匹敵する」
議会室が大きくザワつく。理由は理解できる。レティシアやノルデリアにも匹敵する戦士だと?何故そんな戦士に関する情報がこれほどまでに知られていないのだ。
「とは言えゼータは逸脱者ではない。その理由はゼータの魔力量が精々上位者止まりだからだ。逸脱者を逸脱者足らしめる最も大きな要因は保有魔力量であることは言うまでもないが、その点ではゼータはまだ理解の範疇に留まっている」
若い諸侯たちはヴェスパーの話を真剣な表情で聞いている。それには私もオイフェミアも含まれていた。
反対に歳を重ねた貴族達は思い出す様に頷いている。
「アルムクヴィスト公爵、質問よろしいでしょうか」
若い諸侯の一人が手を挙げる。それに対しヴェスパーは顔を向け、先を促す。
「ゼータなる人物がレティシア侯爵殿下に匹敵するほどの戦闘力を持つ存在だと言うことは理解しました。であれば何故そのような強者の報告がここ数年無いのでしょうか。先程逸脱者には至っていないとおっしゃいましたが、それでも逸脱者を討ち取った実績のある上位者なのでしょう?」
気になっていた事を質問してくれた事に内心感謝する。
「あー、ゼータはここ10年ほど生死不明になっていたからだよ。そもそも20年前位から表には殆ど出てきていなかったらしいんだけどね。ノルデリアがフェリザリア筆頭武官となってからは全く姿を見せなくなった。ですよね、ニルヴェノ伯?」
ヴェスパーが煙管を吸っていたニルヴェノ伯爵に向かって声をかける。声をかけられたニルヴェノ伯爵は老練な狼の様な表情でヴェスパーへ視線を向けた。
「その通り。ゼータは10年前の北方魔物部族連合の大南下にて消息不明になっていた。フェリザリアから正式な発表はされなかったが、我らは既に死んだものと認知していたのだ」
なるほど。生きているとは思わなかった存在の警告をいちいちするわけもない。王族などなら兎も角として、話を聞く限りゼータは一戦士である。
「まあそのほかの理由として歴史書の多くを蔵書していた王立図書館が火災で全焼したっていうのも大きいね。僕のこれだってレイレナード部隊からの報告を受けて調べ直したものだし」
母上の眉がピクリと動いたのがわかった。
12年前に起きた王立図書館の全焼火災。私の父上が死んだ事故。原因は今となってもわかっていないが、一説には暗殺であったとも言われている。母上は原因の追求を幾度も命じていたが、決定的な証拠は何も見つからなかった。
「ともあれだ。そんな最強の上位者のゼータが実は生きていて、今回の戦闘に参戦してきたというのが話の核。さっきも話したがゼータという女は逸脱者すらも一騎打ちで討ち取っている。それを相手に生き延びただけでもアサカは良くやったと思いますよ?どうです、ウェッケラン子爵殿?」
アサカを嘲笑した貴族が苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。いい気味だ。
「第一ゼータとの交戦で重傷を負わされたのはアサカだけじゃない。オイフェミアの近衛隊の一人であるハーフワルキューレのゼファー騎士補も、レイレナードの首狩りアリシアも深手を負わされている。僕が思うに、ゼータに対する情報共有がなされていなかったことと、そのゼータの異常な戦闘能力が原因だと思うんだが、皆さんは如何でしょうかね?」
議会室内が静まる。皆異論は無いようだ。アサカを嘲笑した本人だけは悔しそうな顔をしているが。
「随分と話がそれてしまいましたね。続き、お願いします」
ヴェスパーがそう言いながら席に着く。バトンをタッチされた進行役の法衣貴族が再び立ち上がり、口をあけた。
「停戦につきましてですが、フェリザリア王室からはいくつかの条件が提示されています。1つ、国境線は原状回復とする。2つ、ミスティアが蹂躙した村の住民の即時返還を求める。3つ、ミスティアはフェリザリアに対し2億ケヴェル(200億円相当)の賠償金を支払う」
唖然とした。空いた口が塞がらない。なんだその停戦条件は。
「なんだその巫山戯きった内容は!」
「フェリザリアは舐めている!こんなもの到底受け入れられるわけもない!」
「停戦ではなく降伏勧告と間違えているのか?野蛮人共が」
円卓上に諸侯達の怒声が響き渡った。机を殴りつける様な衝撃が伝わり、皆の表情がその胸中を物語っている。
勿論そんな巫山戯た内容、私としても到底受け入れることは出来ない。母上もそうだろう。むしろ誰一人として納得するわけが無かった。
「そして!」
進行役の法衣貴族が大声で叫ぶ。その声と姿を受け、怒声が収まりみな次の言葉を聞き逃さんと耳に神経を集中させた。
「それらが受け入れられない場合、再審議の為、ミスティア側の停戦交渉団を派遣することを求める。またその交渉団の代表としてヒナツ・アサカを派遣すること」
10秒ほど議会室が静寂に包まれる。私もその情報を脳が咀嚼し理解するのに時間がかかった。
「……それが最初から目的か」
「最低でも上位者級戦力である男傭兵の派遣。如何にもあの野蛮な国の連中が求めそうな事だ」
「だが悪くないのでは?もとからそんな条件をこちらが飲むとも思っていないでしょう。アサカ殿を派遣することでまともに話が進むならそうすべきでは?」
思わず机に拳を叩きつけそうになる。だがその怒りの感情の9割は個人としてのものだ。公人としては更に多くの血が流れるのを避けるにはそれが最も手っ取り早いと理解している。故に固く握りしめた拳を再び膝の上に戻した。
「だが連中の目的の真意はアサカの懐柔だろうよ。我が国としてもアサカクラスの戦力を失いかねない」
「実際此度のシャーウッド砦の戦闘ではアサカ一人で右翼の支援を全うしたというじゃないか。更にはゼータとの交戦で生き延びた実績。それは馬鹿には出来ないだろう」
「フェリザリアからの一方的な要求というのも気に食わないが、今出た意見の通りアサカの功績は大きいものだ。そんな武功を上げた人物を半ば人質に差し出してしまっては多くの者が納得はしまい」
「同意する。とはいえこのまま拒否してしまっては戦争は継続されるぞ。今のミスティアに三正面で戦う余力などない。深淵戦線とモンストラ戦線の維持だけで精一杯なのだ」
「戦費もかさんでいますからね。このままでは臣民の暴動も起きかねない」
「ではそのまま受け入れアサカを派遣するというのか!何のかんの言い訳をして絶対にフェリザリア内に引き止められるぞ!」
「誰もそうは言っていない。だが実際問題としてアサカを派遣した方が丸く収まるだろう」
「軟弱者の若造が!英雄を差し出して停戦だと?貴様それでも青い血が流れた貴族か!」
「何だと?脳筋ババアが。ならば建設的な代案の一つでも考えろ」
議会が紛糾していくにつれて私の脳が冷静になっていく。思考しろ、どうすれば一番国への利益と個人的な感情を満たすことができる?
アサカをフェリザリア側に行かせるにしても停戦交渉終了と同時に帰国させる。これは絶対条件。公人としても個人としてもこれがフェリザリア側に対する最大限の譲歩。
であればどうやってアサカの即時帰国を担保させる?フェリザリア側としても随分強気な文書を送ってきたが、戦争継続は避けたいはず。初動のオイフェミアの捕縛が失敗した以上、向こうにとっても旨味は何も無いはずだ。まあ大凡の予測ではあるが、北方魔物部族連合への対処を上手く行えていない我が方を見て強気には出て来ないだろうと想定しての条件の提示してきたんだろう。確かに今のミスティアに戦争継続能力は無い。いくら3人の逸脱者を保有しているとはいえ、3正面も相手にするほどの金銭的余裕も軍事的余裕もない。それは今回のシャーウッド砦の侵攻でも露見してしまっている。
加えてゼータという個として突出した戦闘能力を保有したイレギュラーの存在。ノルデリアと合わせれば厄介な事極まりない。
どうすべきか、思考を回していれば閃く。要するに問題点はアサカが帰国出来ない可能性への懸念に他ならない。であれば無理矢理にでも事が済んだら交渉団を帰国させるように仕向ければ良い。先程も言ったがフェリザリア側も本気で戦争継続を望んではいないはずだ。
「私が、交渉団に同行しよう」
紛糾していた議会の中、静かにそう呟く。すれば怒声が不思議と収まった。諸侯たちの顔が私に向けられる。驚いている者、思考を回す者、納得している者など様々だ。
「ベネディクテ。ですが貴女は次期ミスティア女王です。もしもの事があれば」
オイフェミアが真剣な表情で訊いてくる。それに対しこちらも口を開いた。
「確かに危険は伴うだろう。だがフェリザリア第一騎士団は大半の士官階級の損失、加え第八騎士団の壊滅を考えるにフェリザリア側にも戦争続行の意思は無いはずだ。元より戦争を続けたいならばそもそもこの停戦の交渉すら一蹴しているだろうからな。交渉団として私が赴けば連中はアサカを引き止めるのを躊躇う。私にもしもの事があればどうなるか、それは連中も理解しているだろう」
諸侯たちがそれぞれ思考に入る。今回の交渉団の最適者は私だ。君主である母上自らがフェリザリアまで足を運ぶなど地方領主派閥どころか王家派閥まで許さない。オイフェミアもレティシアも駄目だ。そもそも今回の戦争はフェリザリア側がこちらの逸脱者戦力を削ごうと行動したのが発端。逸脱者の貴族を向こうに送り出すのなぞ下策も下策。
その点私であれば色々と条件をクリアしている。次期女王であるが今の君主ではなく、上位者ではあるが逸脱者ではない。加えてそれなり以上の強権と影響力。血統、立場からしても申し分ない。正直な話私が死んだとしてもヴェスパーとオイフェミアがいる。王位継承権第2位と3位の2人が残れば継承問題も紛糾しないだろう。
しばらくたったが誰も口を開こうとしない。その理由は皆の視線を見れば理解できる。彼女らの視線は全て母上たる現女王、ラクランシア・ヴェノ・ミスティアに向けられていた。
母上は瞑っていた目をゆっくりと開く。そして私へと視線を向けた。
「ベネディクテ、構わないのだな?」
少し低い声でそう訊いてくる母上に対し、ゆっくりと、だが力強く頷く。
すれば母上は満足そうに笑みを作り、直後表情を真剣な物へと切り替え立ち上がった。
「では第一王女ベネディクテ・レーナ・ミスティアにミスティア女王として命じる。ヒナツ・アサカを伴いフェリザリアへ赴き、停戦交渉を纏めなさい」
それを受け、私も椅子から立ち上がり母上の前で膝を折る。最敬礼と共に口を開いた。
「謹んで承ります」
母上の手が伸ばされ、それを右手で取り立ち上がる。
「諸侯諸君、異論は?」
母上が円卓に座る各貴族へと視線を向けた。表情はそれぞれであるが、異論は上がらない。
「女王陛下がお決めになられたことなら」
「実際ベネディクテ殿下に手を出すほど連中も愚かでは無いでしょう。私も支持致します」
母上は頷き、視線をヴェスパーへと向ける。
「ヴェスパー、ベネディクテと法衣貴族と共に交渉団を選抜なさい。それと交渉条件の纏めも」
「畏まりました、叔母上。いえ女王陛下」
さて忙しくなる。いやもうここ数日溜まった政務で忙殺されているのだが、更に身体に鞭打つ事になりそうだ。出立は遅くとも2週間以内だろうか。それまでにある程度の仕事は片付けておかねば。なんでかな、私はただアサカとイチャラブ甘々本気セックスしたかっただけなのに。
でも停戦をこちらに有利な形で纏め上げれば次期女王としての求心力は十全なものともなる。アサカに貴族位を与え、オイフェミアと共にシェアする例の計画もやりやすくなるだろう。
とそう考えれば膨大な面倒事や仕事に対するモチベーションも不思議と上がっていった。どうやら自分は思ってるよりも下半身で生きているらしい。だが仕方が無いじゃないか。17歳処女、自分で自分を慰める日々に突然異世界より現れた自分の救世主の男。顔も性格も強さも好み。そんなんもう肌を重ねたいに決まっているのだ。
というか特別大切な政務であることを理解していてもアサカと共に居られる時間が増えることに内心小躍りしている自分がいることを否定は出来ない。もしかしたら今回の1件でより関係が深まってアリシアよりも先に進めるかもしれない。そう考えれば全ては些事、どんな大きな障害だろうが粉砕する気力が湧いてくる。
下腹部と双丘の先に血が集まる感覚がする。いかんいかん、股を濡らすな。諸侯達の前だ。こんなどうしようもない妄想が少しでも顔に出れば威厳もへったくれもあったものではない。
母上を挟んだ向かい側の席で凄い表情をしているオイフェミアの顔が見えた気がするが、きっと気の所為だろう。
「では停戦前の会議は終了とする。各自解散、各々の政務に励め」
母上の言葉を受け諸侯たちは礼をし部屋から退散していく。私も同じく部屋を出ようとしたところで、母上から言葉をかけられた。
「ベネディクテ、フェリザリアの女王カミーラは狡猾で自分の欲求に素直な人物です。加えハーフエルフということもあり寿命も人間とは桁違いに長い。圧倒的な経験値の差は否めない。ですが、しっかりと己が仕事を全うするように」
少しそれに驚く。いつもは厳しい母上にしてはかなり優しい激励だ。歳取って丸くなった……などといえばぶん殴られそうだが、何か良いことでもあったか。
「ありがとうございます母上。あんな巫山戯た停戦内容を突きつけられた割には随分と上機嫌そうですね」
フッと鼻で笑いながら母上は私の目をしっかりと見据える。そして幼年期の記憶でしか見たことが無い笑顔のまま私の頬に手を伸ばした。
「子供の成長が見られた。私はそれが嬉しいのさ。だから、期待しているぞ」
最後の言葉と共に母上の表情がいつもの厳しいものに戻る。予想していなかった言葉をかけられ少し驚くが、こちらも表情を律し口を開く。
「お任せください」
母上はそれ以上何も言わず、付き人を伴って部屋から退室していった。
部屋に残されたのは私一人。俄然やる気が湧いてきた。母上に一人前として認められる為にも、ここで成果を掴まなくては。
「ベネディクテ」
「ひゃわ!?」
誰もいなくなったと思っていた中で突如背後から声をかけられ、猫の様に跳ね上がる。声の方向に顔を向ければドアから頭だけを覗かせるオイフェミアと目があった。ジト目で眉間に皺を寄せながらこちらを見ている。
「な、なんだ……」
「抜け駆け、したら怒りますから、ね?」
彼女の青い瞳が爛々と輝いている。普段ならそんな風に凄まれても飄々と受け流せるが、先程していた邪(性欲に実直)な妄想のせいか声が上擦った。
「す、するわけないだろぉ~?」
精神捜索系の魔術をかけられた時特有の不快感は無い。であれば私の様子を見て釘を指してきたのだろう。女の勘、というやつだろうか。
どう誤魔化そうかワナワナしていれば、オイフェミアは呆れたようにため息をつき、ドアの影から全身を見せる。
「はぁ。まあ良いです。それよりも政務のスケジュール、結構ヤバいんでしょう?手伝いますから、さっさと片付けましょう」
「オイフェミアぁ……」
やはり優しいやつである。魔女姫なんて呼ばれている彼女だが、生まれてこの方ずっと共に過ごしている私は、彼女がごく普通の優しい少女の精神性を有している事を知っている。
踵を返したオイフェミアを追いかけるように部屋を出る。
「夕飯、こっちの屋敷で食べます?」
「ああ、そうしようかな。アサカにも話しておきたいし」
「また面倒事をアサカにかけちゃいますね」
「仕方ないさ。力あるものの責任、と割り切れはしないが、今回は私もしっかり手助けするさ」
「交渉の主導役はベネディクテでしょうに」
「カミーラが手を出そうとしたら叩き切ってやる、ということだよ」
2人で城のカーペットの上を歩く。色々この先面倒事が待っているが、気分は晴れやかだ。
いい連中と出会えた。いまはそれだけで満足しておこう。
前書きにも書きましたが、これにて二章完結です。
かなり時間がかかってしまいましたが、皆さんここまでお付き合い本当にありがとうございました。
この後は2話ほどEXパートを挟んでから3章を書き始める予定です。
読んでくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、評価を付けてくださった方、そして感想をくれた方々に最大限の感謝を。感想の返信は行えていませんが、全てしっかり読ませていただいています。
これからも応援していただけると幸いです。
敬具
ArtificialLine
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