元陸自のアラサーが貞操逆転異世界に飛ばされて色んなヒロインに狙われる話   作:Artificial Line

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Act3_朝食と交流

/朝霞日夏

8月18日 07:11 ミスティア王国東部臨時キャンプ

 

 アゼルバイジャンの空はいつ見ても爆撃の黒煙で覆われていた。

 しかしいま天上にあるのは、何処までも続いている様な高い空。雲ひとつ無い早朝の晴天。

 それを見て、改めて自分が異世界に来てしまったのだと実感する。

 

 昨夜ラグンヒルドという名前の女性に案内された寝床は、存外寝やすい場所だった。聞いた話では将校用のテントだったらしいが、俺が寝床を奪ってしまった方は大丈夫だったのだろうか。

 

 員数外……KIA(死亡者)の将兵のものであれば良いのだが、もし元いた人を追い出す形になってしまっていたら申し訳無く感じる。

 ただそのお陰で体調は良好そのものだった。自分でもあんなにすんなりと寝れるとは思わなかった。

 戦闘直後、加えて初めて魔法を見た興奮はあったものの、意外と自分の肝は太いようである。

 

 現在時刻は大凡AM7時。長年の軍隊生活で培った体内時計がそう告げている。腕時計も身にはつけているが、再設定が必要だろう。

 

 時間間隔を掴むために、星見ぐらい学んでおけば良かったかと後悔する。この世界には恐らく大気汚染なども少ないだろうから、星がよく見えるだろう。

 

 学生時代に付き合っていた姫乃という元恋人は、天体観測サークルの所属だった。

 もう少し彼女の語る星の知識を真剣に聞いておくべきだっただろうか。

 

 周りでは中世風の鎧やら装備を身に着けた兵士達が朝食の準備を始めている。

その装備は、特別な造詣がない俺から見ても手入れが行き届いているもの。

 フルプレートの甲冑を装備した騎士風の人物から、鎖帷子に革鎧をあわせた一兵卒風の人物まで様々だ。

 この将兵たち、というかこの軍は相当に資金力があるのだろう。昔読んだ本にフルプレートの甲冑は相当に高価だと書かれていた。

 

 昨夜の時点でわかっていたことだが、やはりその殆どが女であった。男の兵士もいるにはいるが、ごく少数だ。男女比が偏っているのだろうか?

 少なくとも魔法が存在している世界なのだ。今更何が起きたところで不思議ではない。

 

 俺も何か手伝うべきなのだろうかと考えつつ、木箱に腰を掛け煙草を吸っている。

昨夜突然現れた謎の男に『手伝います』などと言われても困るだろうし。

 しかし働く彼女たちを見るだけで暇はしなかった。別に視姦しているわけではない。いや半裸で作業している女性兵士などもいるため、目のやり場には困るのだが。

 

 暇をしない最も大きな理由は、彼女たちの何人かの種族である。頭にうさ耳が生えた人や、笹葉の様な耳をしている女性たちが何人かいるのだ。

 

 あれは戦兎人(ヴォーリアバニー)森人(エルフ)と呼ばれる存在ではなかろうか。アニメや漫画の中にしかいなかった存在が目の前に実在していることに、若干心が踊る。

 

 彼女たちは当たり前に動いて朝食の準備を進めていた。しかし人間の比率が多いことから、ミスティア王国という国は人間が中心の国家なのではないかと推測できる。

 王族だというベネディクテも見た目も、その美しさ以外は普通の人間と差異があるようには思えなかった。

 

 とはいえ見た目だけ人間で中身は別物という可能性も大いにあるだろう。

 そう考える理由としては、昨夜の圧倒的な強さである。

 

 昨夜、本陣の手前で停止して援護射撃を行おうとした時に、ベネディクテが戦っている姿を見た。

 単騎で複数の騎兵を真正面から斬り殺す彼女を見て、『本当に人間か?』という感想を抱いたというのが正直な本音である。

 それはオイフェミアにも、あの黒い甲冑の騎士にも同じ感情を抱いたが。

 その辺についても直接聞いたほうが早いだろう。どうせ弾薬庫に連れて行く事になってしまったのだ。いくらでも時間はある。

 

 正直なところ軽率だったかと思わなくもない。

 しかしどちらにせよ弾薬庫の位置は露見する。そうであるならば、強力な後ろ盾が付く可能性のある現状で素直に案内したほうが得であろう。

 

 自分の悪運に苦笑する。ファンタジー世界に転移させられたのは意味がわからないが、その直後に国の超重要人物2人と一気にパイプを持てたのは運が良かったのだろう。

 だがまあ、こんな所で強運を発揮するのならば、そもそもT-90の砲弾くらい反らしてくれればよかったものを、とは思わなくもない。

 

「Bist du der, der uns gestern geholfen hat?」

 

 突然背後から声をかけられた。振り向いてみれば、そこに立っていたのは複数の女性兵士。そしてどうやら人間では無さそうである。

 頭から犬のような耳が生えており、何処と無く獣の様な顔つきをしている。鍛え上げられた四肢は彫像の様に美しい。

 そして晒された豊満な胸。一切隠されていないそれは、乳頭まで丸見えであった。

 露出はともかくとして、純粋に痛くないのか心配である。

 

 彼女らの言語を理解することはできなかった。幾度も聞いたことのある言語なのには違いない。だが俺は()()()()なんてできない。

 彼女たちの英語がドイツ語訛りである原因がわかった。母語がドイツ語なのか。

 

「グ、グーテンモルゲン……」

 

 とりあえず知っている単語で返事を返す。

 

「Oh, verstehst du mich nicht?」

 

 何を言っているのかさっぱり理解できないが多分俺の素性について尋ねているのだろう。

どう返答するか逡巡していると、甲冑を身にまとった将校風の女性が半裸の獣人たちを一喝した。

 

「Was macht ihr denn, ihr Werwölfe! Hört auf, den Gast zu belästigen, und arbeitet!」

 

 断片的に聞き取れた単語の一つに、『ヴェア・ボルフ』というものが混ざっている。英語だと『ウェア・ウルフ』――人狼か?彼女たちの種族だろうか?

 

 怒鳴られた獣耳の女性たちはそそくさと退散していく。

 

「では私もこれにて。部下のご無礼をお許しください」

 

 将校風の女騎士が口にするのは、ドイツ語訛りの英語。

 士官以上は英語が使えるのか?いや、士官というよりも貴族階級だろうか。

 彼女も一礼をした後に、踵を返して去っていってしまう。

 

 それにしてもドイツ語とは。英語を用いている事ともいい、地球と様々な符号点が存在している。

 であるならば、この世界は何かしら地球と関与のある世界なのだろうか。

 

 再び一人取り残される。

 皆に仕事がある中、ただ煙草吸っているのもいたたまれなくなってくる。

 筋トレでもしていたい気分であるが、突然素性もわからぬ男が筋トレを始めるのは、さぞや奇っ怪に写るであろう。

 

 結論、現状待機。

そうしてしばらく待っていれば、空腹を刺激する様ないい匂いが漂い始めた。

鼻腔を刺激するいい香り。これはコンソメの匂いだろうか。

 

「アサカ様、おはようございます」

 

 再び背後から声をかけられる。だがこの声には聞き覚えがあった。

 

「ラグンヒルドさんおはようございます」

 

 振り向けば、栗毛で高身長な女性騎士、ラグンヒルドが立っていた。年の頃は20代後半から30代くらいだろうか。大体俺と同年代に見える。

 オイフェミアやベネディクテほどでは無いが、整った顔をしており綺麗な女性であった。

 

「ベネディクテ様が、朝食を一緒に、と申しております」

 

「ああ、願ってもない。かなり空腹だったのですよ」

 

「それは良かった。ではどうぞこちらへ」

 

 ラグンヒルドはそう微笑み、歩きだした。

 俺も木箱から飛び降りそれに着いていく。

 

 それにしても彼女たち、適応が随分と早くないか?

 俺がアゼルバイジャンやイラクで、突然騎士甲冑の女に助けられたりすれば絶対に混乱と警戒をするのだが。

 いくら命の恩人だとしてもだ。これが感性の違いというやつだろうか。もしくはその他に警戒をしない要因があるのか。

 

 しばし歩けば、他よりも少し大きい天幕が見えてくる。ラグンヒルドはその前で声をかける。その後中へと入っていった。

 俺もそれに続く。中に入れば、オイフェミアとベネディクテがテーブルを囲んで座っていた。テーブルに並べられているのは簡易的な洋風の朝食。

 

「おはようアサカ。よく眠れたか?」

 

 ベネディクテがそう声をかけてくる。

 昨夜も思ったことだが、やはりとても美しい容姿だ。とりわけ雪のように真っ白なロングヘアーと切れ長の真っ赤な瞳が印象的である。

 

「おはようベネディクテ。自分でも驚くくらいぐっすり眠れた。朝食にお誘い頂いて感謝するよ」

 

 そう言った後、ラグンヒルドが引いてくれた椅子に一言礼を言ってから着席した。

 

「おはようございますアサカ様。ゆっくりお休み頂いたのなら幸いです」

 

 続いてオイフェミアが飲んでいたティーカップを置きながらそういった。

 この娘もやはり非常に美形だ。豊かな長い金髪には少し寝癖が残っている。だいぶ眠そうであるが、朝は苦手なのだろうか?

 だがそれにしても、そんなに畏まった言葉遣いをされると少しむず痒い。俺は別にMr.をつけられる様な人間では無いのだ。

 

「おはようございますオイフェミアさん。あ、あと俺に敬語は不要ですよ。名前も呼び捨てで構いません」

 

 そう返せば、何故かオイフェミアの顔が少し赤くなる。昨夜と同じような反応。相当に男慣れしていないのか。

 

「わ、わかりました。ですが敬語は生来の癖でして」

 

「昨夜のテンパった時みたいにたまに剥がれ落ちるがな」

 

「うるっさいですよベネディクテ!兎も角そう言ってくださるのでしたら、私にも敬語も敬称も不要です。オイフェミアとお呼びくださいなアサカ」

 

 頬を膨らませながら怒った後に、笑顔でオイフェミアはそういった。

 その光景が微笑ましく、思わず笑いが溢れる。 

 

「え、なんで笑うんですか!?」

 

 いじけたようにいうオイフェミアの顔が、記憶の妹と重なった。

 

「あはは。ごめん。妹もいじけた時は同じ様な表情をしていたなと思って」

 

「妹がいるのか?」

 

 ベネディクテが興味深そうに訊いてくる。そんなに意外だろうか?

 

「ああ。9個下に秋奈って名前の妹がいるよ。多分2人と同年代くらいかな?」 

 

「なるほど。いずれ会ってみたいものだ」

 

 日本に置いてきてしまった秋奈。今頃元気にやっているだろうか。

 仕送りは一方的に送りつけていた為、金銭的には問題は無いだろう。

 

 ――3年前の記憶が蘇る。

 夏の夕暮れの真っ赤に染まった部屋。

 そこに転がっていたのは、真紅の花を咲かせた両親と弟。

 ――こめかみに鋭い痛みが奔る。

 やはり近くで守るべきだった。逃げ出さず、甘えず、秋奈と姫乃の側にいるべきだった。

 

《あなたのせいではない》

 

 急激に頭痛が収まっていく。 

 そうだ。 ()()も友人たちに頼んである。大丈夫なはずだ。

 

「……アサカ様?」

 

 オイフェミアが心配した様子でこちらの顔を覗き込んでくる。

 軽く取り繕いながら、言葉を続けた。

 

「ああ、ごめん。改めてよろしく、オイフェミア」

 

 無理やり笑顔を作りながら、彼女に言われた通り気取った言葉を廃する。 

 

 正直、敬語が不要になるのはありがたい。

 仕事柄、高貴な身分の人間の身辺警護は幾度かあったものの、コミュニケーションは他の人員に任せていた。母語である日本語であるならともかく、英語の敬称や敬語表現にも馴染みが深いとは言えない。

 

 オイフェミアは安心した様子で、少し赤らめた笑顔を浮かべる。

 そろそろ慣れてほしいものだが。とはいえ、彼女らの文化に造詣があるわけでもない。その辺りの話も追々探っていこう。

 

「とりあえず簡素なものしか用意できないが、食べてくれ」

 

「ありがとう、ではいただきます」

 

 両手をあわせて日本人特有の食前の文句を述べる。

 それを不思議そうにオイフェミアとベネディクテは見つめていた。

 

「それはなんだ?イタダキマス?」

 

「ああ、俺の国では食べ物を食べる前に『いただきます』って言うんだ」

 

「食前の祈りみたいなものでしょうか?」

 

「そんな感じ。ミスティアではそういうのないの?」

 

 3人で食事を開始する。

 豆と薄切りの肉が具のコンソメスープ、それに加えライ麦パンというメニューであるが、変にコースメニューなぞ出されるよりはよほどありがたかった。

 

 高級料理なぞ、日本にいた時に行った叙々苑が関の山だ。テーブルマナーも学生の頃に学んだ記憶があるが、最早忘却の彼方である。

 

「国としての文化では無いな」

 

「信仰する神や宗派によってあったりなかったりって感じですね」

 

 そう言って2人は上品にパンを食べスープを口に運んでいる。その所作を見ていると、本当に一国の姫君と最上位貴族なのだということが実感できた。

 

 それはそれとして、いまのオイフェミアの言葉で気になるところがあった。

 

()()()()()ってことは、多神教なのか?」

 

「その通りです。寧ろ私の知る限りで一神教の国家は現在にはありませんね」

 

 なるほど。多神教世界なのか。日本人の俺からすれば寧ろ馴染み深いものである。

 

「そういえばオイフェミアはベネディクテから聞いたのか?俺がこの世界の人間じゃないこと」

 

「伺いましたよ」

 

「それは……こういっては何だが、何故君たちは俺のことをそうも信じる?」

 

 最も疑問に思っていた事を問いかける。

 別にここまで疑心暗鬼になることも無いと思うのだが、現状はっきりしているのは俺の持つ銃がこの世界でも通用することぐらいだ。

 心の余裕は増やしておきたい。

 

「ふむ。オイフェミア構わないか?」

 

「……はい」

 

 オイフェミアの返答に対して、ベネディクテは口を開く。

 

「まず最初に。この世界では魔術が非常に身近なものとして存在する。魔術というのは魔力を源として様々な現象を引き起こす術だ。アサカの世界には魔術は存在したか?」

 

「いや、存在しない。そういうのは御伽噺や創作物の世界の話だ」

 

 そう言えばオイフェミアもベネディクテも、そして護衛として控えていたラグンヒルドも驚いた様な表情を浮かべた。

 その表情から、彼女たちにとって魔術というものは存在することが常識なのだということが伺える。

 

「……なるほどな。正直魔術が存在せん世界なぞ想像もできん。ともかく、我々は魔術を日常的に用いて生活している。一口に魔術といっても様々なものが存在してな。農耕用から戦闘用まで様々だ」

 

 俺はスープに口をつけながらベネディクテの話に集中する。

 幼い頃に憧れた魔法や魔術が実在しているという高揚感。

 

「そんな魔術の天才がこのオイフェミアなのだ。特に精神系魔術では横に並ぶものはいないと言われている」

 

「精神系魔術?それって相手を混乱させたりとか幻覚を見せたりとかってやつか?」

 

「そういうことも勿論できる。だがそれではお前の問に対する答えにはならないだろう?」

 

「確かに」

 

 ベネディクテは紅茶を口に運ぶ。そしてその後言葉を続けた。

 

「我々がアサカを信用できるのはだな、オイフェミアが前の心を覗き見たからだ」

 

「……まじか」

 

 口に出した瞬間、オイフェミアの肩がビクリと震えた。

 目だけをそちらへ向ける。俯いて、その表情は伺えない。だが怯えているように感じた。幼少期の妹が悪さをして、両親に怒られる直前の様子が思い出される。

 

「だよな、オイフェミア?」

 

 オイフェミアは、顔を俯けたまま頷いた。

 ああ、理解した。この少女は、人に嫌われることを恐れているのか。

 心の中を覗けば——憎悪、恐怖、畏怖、妬み。それらを直に感じてしまう。

 言葉や態度は嘘をつけるが、心は嘘をつかない。

 

 危険な綱渡りをしていた事を自覚し、背筋が寒くなった。つまりは敵意や過剰な警戒心を抱いていれば、即座に敵対する未来もあり得たのか。

 

 昨夜オイフェミアが行使していた、あの地形ごと破壊する魔術がこちらに飛んでこなくて本当に良かった。

 

 とりあえずオイフェミアには謝らなければならない。

 自分があの時に考えていたことで、彼女を侮蔑するものはなかったと記憶しているが、人の深層心理というのはわからないものだ。どこかで彼女に怯えていた可能性は、否定できない。

 

「オイフェミア、すまなかった」

 

 言葉を口に出せば、オイフェミアは鳩が豆鉄砲を食らっていたような顔をしていた。

 

「……え?いえいえいえ!こちらが勝手に思考を覗いたんですし謝らないでください!寧ろごめんなさい!」

 

 2人で頭を下げ顔を上げる。そして目が合った3人で吹き出した。

 

 とりあえず他にも幾つか聞きたいことがある。

 弾薬庫に行けば今度は俺が質問攻めに合うことは容易に想像できるし、この朝食の間に聞けることは聞いておいたほうがいいだろう。

 

「そういえば気になっていたことなんだが、何故女性ばかりなんだ?」

 

「何故と言われても、それが普通では無いのか?」

 

「―ん?」

 

「どうした?」

 

 どうやら常識が根本から違うらしい。まずは認識のすり合わせから行う事にしよう。

 

「俺のいた世界では現代こそ変化してきたが、軍役やら兵役なんていうのは男の仕事だったんだ」

 

「それだと頭数が全く揃わなくなりますし、国が崩壊しませんか?」

 

 2人が本気で困惑した表情を浮かべている。

 まだ噛み合わないらしい。どうやらもっと根本的なところから違いがあるようだ。

 

「つかぬことを聞くんだが、男女比ってどうなっている?」

 

「3:7だな」

 

「3:7ですね」

 

「どっちがどっち?」

 

「男3、女7」

 

 思わず頭を抱える。この世界を作った神がいるのならば、何を考えているのだ?

寧ろよくそれで今まで絶滅しなかったものだ。

 

「……すごい世界だな」

 

「そうか?ではアサカの世界はどうだったのだ」

 

「詳しくないけど、大体1:1だと思う」

 

 2人の動きが止まった。

オイフェミアはティーカップを持ったまま固まり、ベネディクテは目を見開いている。

 

「……羨ましい世界ですね」

 

 オイフェミアが呟いた声には、切実な響きがあった。

 

 なるほど。皆の奇異の視線の理由は装備だけではなかったのか。大体の点と点が線で繋がった。

 昨夜のベネディクテの反応もそういうことか。

 ベネディクテほどの美人を褒めないなど、この国の男全員不能なんじゃないかと思ったのだが、異常なのは俺の方だったのか。

 

「一応聞くんだが、一般的に婚姻を申し込むのってどっちからだ?」

 

「女だな」

 

「女性ですね。男性の絶対数が少ないので姉妹や親戚で1人の夫を戴く事も多くありますよ」

 

 これが本当の竿姉妹ってか。おかしいだろこの世界。

 半裸の女がやたらいた理由がはっきりとわかった。

 

 とりあえず俺、というか地球の男のほとんどは、この世界の基準だととんでもなく淫乱な男ということになるのだろうか。

 とんでもなく不名誉である。一応元の世界の貞操観念についても伝えておこう。

 

「多分この世界と俺の世界、貞操観念が逆だと思う」

 

「だろうな。でなければ私の容姿を褒めてくるはずもあるまいよ」

 

 カラカラ笑うベネディクテ。いやそれは可笑しいと思うのだが。美しいものは美しいと褒めるべきだろうよ。貞操関係なく。

 兎も角事情を知らない人物と関わる時には気をつけねばならない。

 

「そういえば2人の歳はいくつなんだ?」

 

 ふと疑問に思ったことを口にしてみる。

 女性に年齢を聞くことは失礼に当たるかもしれないが、この世界はどうやら貞操観念が狂っているらしいので多分大丈夫だろう。

 

「年齢か?私は今年で17歳だ」

 

「私は16になります」

 

「……若いな」

 

 自分と一回り違う事に衝撃を受けた。

 つまりは女子高生とアラサーのおっさんが喋っているようなものなのか。

 

「アサカは幾つなのですか?」

 

「俺は29だよ。正直2人が若すぎて驚いている」

 

 ベネディクテとオイフェミアは、こちらの年齢を聞いて笑みを浮かべた。

 どういう意図の笑みか気になるが、つっこむのは藪蛇だろう。本能的にそう感じる。

 こちらからすると、自分の歳が三十路目前なのは気が滅入るだけなんだが。

 

「29ならまだまだ若いではないか。元の世界に伴侶などはいるのか?」

 

 ……少し言葉に詰まる。

 姫乃とはそうなりたかった。だが既に別れている。 

 100:0でこちらが悪かったのだが、C.C.C入社前に派手に振られていた。

 

「……いないな」

 

「ほう、そうかそうか。それは良いな。なあ、オイフェミア」

 

「そうですね。良いと思いますよ」

 

 煽りか?そう感じたが、どうやら違う思惑がありそうだ。まあ、こちらに害がなければいい。2人の顔も、随分と晴れやかで楽しそうだ。

 

「そうだ。この世界の種族ってどんなのがいるんだ?さっき外で兎耳とか犬耳の人とか見かけたんだが」

 

「寧ろお前の世界には戦兎人(ヴォーリアバニー)狼人(ウェア・ウルフ)はいなかったのか?」

 

「いないな。人種の違いはあれど、元の世界には俺みたいな人間しかいないよ」

 

 またしてもオイフェミア、ベネディクテ、ラグンヒルド3人の顔に驚きが浮かぶ。

向こうの常識からすれば、考えられないことなのだろう。

 

「それは凄い世界だな……」

 

「ええ……驚きました。では幾つかの種族について説明していきましょう。まず人族と呼ばれる者達についてです。これは私達が信仰する秩序の神々からの寵愛が与えられた種族の事を言います。代表的なのは人間(ヒューム)森人(エルフ)鉱人(ドワーフ)などですね」

 

「さっきの戦兎人(ヴォーリアバニー)狼人(ウェア・ウルフ)っていうのは?」

 

「彼女らも人族に属していますね。そういった人族達はいがみ合い殺し合う事もありますが、基本的に同一集団を形成することが可能です」

 

「なるほど。因みに一応聞くんだけど、オイフェミアとベネディクテは只人(ヒューム)だよな?」

 

 俺がそう問いかけるとオイフェミアは少し困った様な顔をする。まさか違うのか?と疑問を抱くが、その解はベネディクテより齎された。

 

「私とオイフェミアは只人(ヒューム)だが、神の血を引いている。いわば半神半人(ハーフゴッド)だな」

 

「へー、神ねぇ……神ッ!?」

 

 一瞬とても大事な情報を流しそうになった。現人神かなにかなのだろうか?

 

 それに神という存在が存外身近という事に驚きを隠せない。神だなんだと言われても、あまりピンとこないというのが本音ではある。多くの日本人はそうではなかろうか。

 

「ええ。実は私とベネディクテは従姉妹なんですよ。我々の先祖は深淵の楯神イーヴァと逸脱者エルリングという人間なのです」

 

「凄いな。さっきから圧倒されっぱなしだよ。正直、神って言われても俺の感性だとピンと来ないんだが、結構カジュアルなものなのか?」

 

 率直な感想を述べる。これがキリスト教圏とかならまた違うのだろうか。いや寧ろキリスト教圏で神の血を引くとか自称した瞬間にリンチにあってもおかしくない。

 

「カジュアルとはまた違うが、実在するものとして我々は肌に感じることができる。最もなのは各神の大神殿だな。滅多に無いことだが、直接降臨なされる事もある。それに、神に昇華なされたばかりの方だと、眷属や信者を獲得するため肉の体を持って我々とお触れ合いなさることもあるのだ」

 

「驚いたよ。俺も一度神様にはあってみたいな」

 

「どうせいずれイーヴァ様に報告に伺うんだ。そのうちお会いすることになるぞ」

 

……ん?なんの報告だ?別世界から流れ着いた人間の報告か?

 

 そうこうしている内に食卓から朝食は無くなっていた。

 さて、次は弾薬庫へ案内する番だ。

 一応だが、気を引き締めて行くとしよう。

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