(―――まだ、私は死ねない)
だけど、死んでしまうかもしれない。
おかしいな。昨日まで平和に過ごしていた筈だったんだけどな!? だけれど現実として目の前にライオンがいる。長い前髪でもしっかり見える。自分の倍の大きさを誇る肉食獣がグルグルと唸っている。海賊という人災で滅びかける町の一角で、私はライオンと、更にその背に騎乗する海賊の1人と1匹を相手に向き合っている。
「……なんのつもりだ、小娘」
怖すぎるっ。無慈悲すぎる暴力が、私と、その背にある家を狙っている。
きっと、このまま此処にいれば私は死ぬだろう。
(でも、でもでも、此処から動いたら……きっと私は死ぬのと同じぐらい後悔する!)
運悪く、見かけただけの家だ。
彼に吠えられて、逃げた時にうっかり家に触ってしまった。流れて来る記憶があまりに優しくて、だから放っておけなくなった。
主のいない、無人だけど温かなそこは『彼』の宝物だから、動きたくない。
(―――し、死にたくないけど、それと同じぐらい、この意地を捨てたくない!!)
両手を広げて、足を震わせ、ぎゅっと目を閉じながら嗚咽を飲み込む。
耳に苛立ちと困惑交じりの怒鳴り声が響いて、足がガクガクする。だけど、それを理解するだけの余裕は無く、ひたすら恐怖でガンガン痛む頭を意識して現実逃避。
生き残る為に現状できる事は何も無くて、意地だけでこの場に立つ私は、数秒後に死ぬかもしれない。
(……悲しい。やりたい事はいっぱいあったけど、この小さな戦士の隣に立てたのは、きっと喜ばしい事だから)
諦めるつもりはないけど、死んじゃうだろうなって怖い。でも悔いはない。
それに、さっきから足が痛い。
邪魔だとばかりに『彼』が強い力でズボンをひっぱり、私が意地でも動かないと悟った途端血が滲むほど足を噛んできた。
自分の宝物が危機に瀕しているのに『逃げろ!』って言ってくれる彼に、ちょっとだけ微笑んで「君は、逃げないでしょう……?」涙で震えた声が出る。
だって、見えてしまったのだ。
サアと、その時の光景が頭の中に溢れて、心を奮い立たせてくれる。
『見ろ!! シュシュ!! 完成だ!!』
ペットフード屋の開店を喜び、心を通じ合わせる2人の物語が。生きていた彼らのかけがえのない想い出が見えてしまったから、逃げたくない。
(……2人の家が、今まさに壊れそうになっている。……縁も義理も何もないけれど、1秒でも止められたら上等だと思うから)
きっと『彼』は、本能的にライオンの一撃を避けてくれる。私にはできないけど、ただの無意味な壁役だとしても、この家は……そんな簡単に壊されていいものではないから。
私は、意地と覚悟で身体を張ろう。
「な、なんなんだ、お前は……!! くそ、頭が痛ぇ……!!」
海賊が1人、吠える様に詰問する。
心臓が震えるぐらい怯えながら、何故かビクリと震える海賊に、怖いけど頑張って口を開く。
「……な、名前は無いです! 自称トレジャーハンターな、元浮浪児です……!」
ああ、最後の名乗りがこんなのって……情けないなぁと、無理矢理笑って、むんと胸を張る。
「ッ。名無しが、バギー海賊団を舐めんじゃねぇぞ!!」
怒鳴られて、その迫力にちびりそうになる。
(ぴぃ―――!? こわいこわいこわい!! ででででも今は、この家が壊れちゃうのが嫌だから、ここからぜったいどかないぞ……!!)
ガクガクしながら、身体全部を盾にする様にいっそう腕を広げると―――真横から腕が凄まじい速度で伸びてきた。
「え」
バキィ!! と派手な音がして
「ぎゃああああああ!!??」
伸びてきた拳が、ライオンの横っ面にあたってライオンの巨体が吹っ飛ばされる。背中にいた海賊は巻き込まれながらライオンの下敷きになって血を吐いて……え? え?
「あっはっは! 根性あるなーお前!」
「へ? あ、え?」
「おーい!! 大丈夫かおぬしらー!!」
「ぅえ? あ、あれ?」
「ちょっと、何があったのよ!?」
「……え、っと」
突然の事に唖然としていると、ぺろりと足を舐められる。ハッとして見れば、血が滲んだ足を舐めてくれる『彼』がいて、その感触に目をパチパチしていると、麦わら帽子を被った人にバンバンと背中をたたかれる。
「俺、ルフィっていうんだ! なあお前、俺の仲間になれよ!」
それが、私と彼らの出会いだった。
初投稿です。
拙いですが、こういうワンピース百合を読みたいなぁを形にしてみました。
よろしくお願いします!