サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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10話 許容できない会話が聞こえます

 

 

 青ざめて震えるカヤさんの手を握り返して、何もできずオロオロしている間に事態は進展してしまう。

 執事さんの一方的な要求にウソップさんは「もう二度と此処へはこねェ!!!!」と行ってしまった。

 

「ウソップさん……」

 

 カヤさんの声はか細く、その手は氷みたいに冷え切っている。3人で笑っていた時の温もりが恋しくて苦しい。

 

「このヤロー羊っ!! キャプテンはそんな男じゃないぞ!!」

「そうだ!! っばーか!!」

「ばーか!!」

「ばーか!!」

 

 ウソップさんを慕う子供達と、何故かルフィさんも一緒に執事さんに怒っている。

 私だって怒りたいけど、それ以上にカヤさんの様子がおかしい。あの執事の不気味さに足が震えながらも、カヤさんの頭を背伸びして撫でる。

 

「君達もさっさと出て行きたまえ!!」

「ぴぃいいいい!?」

「……っ、クラハドール!! 彼女を怯えさせないで!!」

 

 不意打ちで怒鳴られて、心臓が飛び出しそうになった。

 泣きそうになりながらガクガク震えていると「ナナ」ナミさんが近づいてきて、手を握られる。

 

「行くわよ」

「あ……」

 

 ぐすっと鼻を鳴らして、ナミさんに引かれるまま足を動かすと”くん”っとカヤさんの腕が伸びる。

 

「……っ」

 

 悲しそうな、何かを耐える様な顔をして、けれど無理に笑って「……行って」手を離される。

 咄嗟に、握り返そうと腕を伸ばしたけれど、カヤさんは身を引いてしまう。

 

「……ありがとう、ナナさん。私の代わりにウソップさんを追いかけて欲しいの……私から謝りたいって、伝えてくれる?」

「! わ、分かりました……」

「お嬢様!!」

 

 声を荒げ、すぐにギロリ! と私を睨む執事にヒいッ!? と声を漏らす。足がすくみそうになったけど、ナミさんに肩を抱かれて「ほら、もう行くわよ!」その場を離れる。

 

(……し、知らなかった。私って弱虫なんだな)

 

 鼻をすすって、そんな自分を発見しながら小さく振り返ると、カヤさんがまだ私を見ていて、大きく手を振ると寂しそうな顔で手を振り返してくれた。

 

「……お嬢様の事、心配?」

「……はい。でも今は、ウソップさんのことも心配です」

 

 早く探して、カヤさんの言葉をウソップさんに伝えなくてはいけない。悲しいすれ違い期間なんて、短ければ短い程に良い。

 ナミさんとは繋いでいない方の手袋を噛んで、ずるりと外す。そのまま屋敷の門を通り越してから、指先で地面に触れる。

 

「? 何してるの」

「……ウソップさんを探します!」

 

 別れ際の、カヤさんの様子がおかしかったのも気にかかる。

 早くウソップさんと2人でカヤさんを元気づけたくて、ウソップさんの”残滓”を指先からすくいとる。

 

(……あっちの方に行ったのか)

 

 ウソップさんが張りつめた空気を纏い、むっすりした顔で歩いていく”それ”を、頭の中にあるもう1つの目で追いかける。

 

「! ちょっと、何よそれ」

「え?」

「……っ、気にしないで、あの執事の事を思い出して腹がたっただけ」

 

 おお、ナミさんも怒ってくれるんだ!

 

 知っていたけど本当に優しい人だ。なんだか嬉しくなって「ですよね!」と調子に乗ってその手を両手で包み込む。

 

(ナミさんの手、温かい。……カヤさんの手、ちゃんと温まったかな?)

 

 思い出して、沈みそうになる心をナミさんの体温で回復させる。よし! 気合を入れてウソップさんを追いかける。

 そうやって歩き出すと、ナミさんも当たり前についてきてくれるから、それがくすぐったくて心強い。

 

「……ま。お嬢様からは船がいただけるみたいだし、機嫌はとっておかないとね」

 

 かわいい。

 そんな建前をわざわざ口にするなんて、ナミさんは恥ずかしがり屋さんだと微笑ましくなる。……うん? 繋いだ手がかつてない力でぎりぎり絞められる。めちゃくちゃ痛いし骨が軋むけど、そういう気分なのかな? 痛い痛い可愛い痛い。喜んで受け入れよう。

 

(ナミさんは本当に可愛いなぁ。……ああ、ほんっっきで、お嫁さんになって欲しい)

 

 ナミさんへの想いを高め、彼女と繋いだ手を離したくない一心で、口だけで無理矢理手袋をはめ直しながら、ウソップさんが向かった海岸の方に歩いていく。暫くすると、ルフィさんとウソップさんの声が聞こえてくる。

 

「……ルフィもいるのね」

「はい!」

 

 2人が楽しく会話しているのが聞こえて、お屋敷での張りつめた空気が霧散したウソップさんの明るい声にホッとする。

 

「そうなんだ!! こんな果てがあるかないかもわからねェ海へ飛び出して、命をはって生きてる親父をおれは誇りに思ってる!!」

 

 男同士のお話というやつだろうか?

 お邪魔じゃないかナミさんを見たら、彼女は興味無さそうに肩をすくめて、ざっくざっくと音をたてて歩いていく。つ、強い!

 

「それなのに、あの執事は親父をバカにした……! おれの誇りをふみにじった!!」

「うん!! あいつはおれも嫌いだ!!」

 

 はい!! 私も嫌いです!! カヤさんの顔を曇らせやがって!!

 

 ルフィさんと意見があったのが嬉しくて、心の中で同意しながら足を進める。驚かさないタイミングでお2人に声をかけよう。

 

「でもお前、もうお嬢様の所へは行かねェのか?」

「……さァな……あの執事が頭でも下げてきやがったら、行ってやってもいいけどよ!」

「行きましょうよ!!??」

「うおおおーっ!?」

 

 思わずスライディングする様に身を乗り出して声を荒げてしまった。

 

 だってだって「ちょっと……!?」カヤさんは謝りたいって言ってましたよ! つまり会いたいって事ですよ!? ウソップさんがいないとカヤさん寂しいままですよ!?

 

「な、ナナじゃねェか。……ったく、おどかすなよなぁ」

「だって、カヤさんがウソップさんに謝りたいって、伝えて欲しいって、悲しそうな顔で言うんですよ!?」

「ナミ? お前なにしてんだ?」

「引きずられたのよ!!」

 

 地面に正座して、ウソップさんに懇願する。ウソップさんは動揺して気まずそうに酸っぱい物を食べた様な顔で目を逸らす。

 

「……そ、それは、でもな。あの執事が」

「あの執事がか?」

「そう、あの執事あの執事……あの執事が何で此処にいんだァ!?」

 

 え? ウソップさんが突然崖下を見て叫び、私も身を乗り出そうとして、ナミさんに「危ないでしょう!」引き寄せられ、一緒に崖下を見る。

 

(……ほ、本当にあの執事さんがいる)

 

 数十分ぶりだけど。カヤさんの傍にいなくていいのだろうか? 

 

「おい、ジャンゴ。この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだぞ。村のまん中で寝てやがって」

「ばか言え、おれはぜんぜん目立っちゃいねーよ。変でもねェ」

 

 あと、この村の雰囲気から外れた、ハート形のサングラスをかけた独特なファッションセンスの男性もいる。あの2人、こんな人気のない場所で何してるんだろう?

 

「もう1人、誰かいるな変なのが」

「見かけねぇ顔だ……誰だありゃ」

「……見るからに怪しいわね」

 

 私を引き寄せたまま、ナミさんも目つき鋭く崖下を睨んでいる。……その横顔も可愛いのですが、あの、お胸の感触が伝わって集中できません!! くっ、ちょっとだけ惜しいけど離れなくては……! そろっと、ルフィさん側に行こうと少しずれる。

 

「それで……計画の準備はできてるんだろなぁ?」

「ああ、もちろんだ。いつでもイケるぜ、"お嬢様暗殺計画”」

 

 ――――――は?

 

 身じろいだ姿勢のまま固まり、ゆっくりと目を見開く。

 想像したこともない”埒外”の台詞が聞こえた気がして、頭の中で今の台詞を反芻する。

 

 

(この人達、今なんて言った?)

 

 

 意味を理解したくない台詞に、ナミさんはギクリと固まり息を乱している。肩が触れたルフィさんもジワリと汗を滲ませ、顔を強張らせている。ウソップさんは、自分が聞いた事が信じられないと青ざめて崖下を凝視している。

 

(……いや、きっと聞き間違いだ。そうに決まっている)

 

 だって、そうでしょう?

 

 あの、何の罪もない、ご両親を病気で亡くし、1人残されてしまったカヤさんを。

 あんな風に、楽しそうに笑う優しいカヤさんを“殺す”なんて、聞き間違いじゃないと、ダメだから。

 

 

「”暗殺”なんて聞こえの悪い言い方はよせ、ジャンゴ」

「ああ、そうだった。”事故”……! “事故”だったよな"キャプテン・クロ”」

 

 

 ――――――。

 

 ジワリ。

 

 胸に黒いものが広がる不快な感覚。言葉にできないドロリとした感情が、ナミさん達に向けるのとは違う、冷えきったそれが全身に広がる。

 

 その会話が"本気"だと分かるからこそ、この瞬間、あの偽執事は私の”敵”になった。

 

 

 

 

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