サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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14話 私が気絶しています

 

 

「それに、ナナは私達の……お客さんですもの。戦いに巻き込む必要は無いでしょう?」

 

 

 そう言って、ナミさんは笑う。

 私を殴った拳大の石を震える手で握りしめながら、倒れた私の前にゆっくりと座り込む。

 

 その光景に(だからって殴る必要は無いですよね?)と、ぐったりしている私を見下ろして、思い切りが良すぎると呆れてしまう。

 

 ――――ちなみに”私”は、これを『未来』から視ている。

 

 私が、ナミさんに気絶させられた直後の、私が知覚できなくなった”それ”を”夢”として覗いている。

 

 困った事に、私は夢を覚えられないタイプだ。

 だから、この一方的な知覚は現実に何の影響も及ぼさない。

 

 そして夢の中の”私”は、己をもう少しだけ深く知っている。

 

「お、おいおい。だからって、何も殴って気絶させなくても良かっただろ?」

「鬼だ、お前は……!」

「ナミはもっとナナに優しくしろー!!」

「えいっ」

 

 ゴッ!!

 

 あ、私が更に岩で殴られている。「「「やめんか!!」」」という男性陣のトリプル突っ込みを華麗にスルーして、更にゴッ!! と念入りに私の頭を殴ってから、ナミさんはキリッと顔をあげる。

 

「……言っとくけどね。私は怒っているのよ」

 

 そして、ナミさんはカヤさんをまっすぐに見つめる。

 

「……特に貴女にね、お嬢様!」

「……わ、私ですか?」

 

 ナミさんは、思わずカヤさんの前に出るウソップさんを無視して、倒れ伏した私をビシッ!! と指さす。

 

「この、思考だだもれおバカが!! お嬢様が戦場に行くって聞いて一緒に行かない訳ないじゃない!! この子を殺す気!?」

 

 ……まさか、私を間髪入れずに気絶させた理由がそれですか?

 

「っ!! ……す、すみません」

「ん。分かったなら良し!!」

 

 ……カヤさんも納得するんですか? いえ、私はそんな簡単に死にませんよ? “私”がいますし。

 

 ハッとしてシュンっとしてしまうカヤさんと、腕を組んで納得するナミさん。うーん……2人が会話しているだけで眼福ではありますが、納得ができません。

 

「あ。それじゃあ、私はあっちでナナを手当てしてくるから、あんた達は作戦会議始めてて!」

「マイペースにも程があるだろ……」

「わ、私も手伝います!」

 

 ぐったりしてだくだく流血する私をずるずる引きずっていくナミさん。ゾロさんが呆れ、カヤさんが慌てて手伝いを申し出る。

 

「そ、そうだな。よおし、よく聞けお前ら!! この海岸から奴らは攻めてくるが、ここから村へ入るルートはこの坂道1本だけ、ってぇ!! お前らはさっさと帰れぇ!!」

「嫌です、キャプテン!!」

「おれたちだって、何かできる筈だ!!」

「村を守りたいです!!」

 

 そんなウソップさんの声と、その後に響く子供たちの声が小さくなり、波の音しか聞こえなくなった辺りでナミさんは私を岩場に降ろし、徐に私が肌身離さず背負っている鞄を開けて、中身を確認する。

 

「ふぅん。流石に用意周到ね」

 

 ナミさんは満足げに笑って、嬉々として私の鞄の中から手当てできる道具を取り出す。そんなナミさんを、カヤさんがジッと見つめている。

 

「……何かしら? 言いたい事でもあるの?」

「……はい。ナナさんを、孤独にだけはさせないで欲しいんです」

 

 唐突で脈絡の無いそれに、ナミさんはゆっくりと目を見開いて固まる。

 

「……約束はできないわね」

「……そう、ですか」

 

 どうやらカヤさんは、私の思考によって過去の孤独が視えていた様だ。ナミさんも私が1人ぼっちに怯えていると知っているので、即座に拒絶しきれていない。気まずそうに、血がこびり付いた私の前髪に鋏をいれる。

 

「……え? ナナさんの前髪、切ってもいいんですか?」

「少しだけね。鬱陶しいもの。この子の前髪」

 

 チョキチョキと、ナミさんは鋏を動かす。

 

「……でも」

「本当にちょっとだけよ。……この子の青い目、もう少し見える方が……私としてもやりやすいし」

「……」

 

 カヤさんは、少しだけ困った様な優しい目でナミさんを見つめて、小さく「……ごめんなさい、ナナさん」と、私の頭を撫でる。

 

「私も、共犯になります!」

「……あら。お嬢様も意外に悪ね」

「少し違います。ナナさんを通して貴女を知っているので……少しだけ、気持ちが分かるんです」

「……あら、そう」

 

 まあ、そうでしょうね。

 

 目元が隠れていては、ただでさえ何を考えているのか分からないのに、流れてくるのはひたすらプラスの好感情なんて、さぞ心臓に悪い事でしょう。

 ナミさんは、少しだけ複雑そうにカヤさんを見つめて、やれやれ、と溜息を吐く。

 

「私も。……お嬢様の事はこの子を通して伝わってくるせいで、距離感が掴めなくて困るわ」

「……はい」

 

 くすり、と微笑む音が重なって、私のもっさりしていた髪が大分すっきりしたところで、額の治療も丁寧に行ってくれる。ナミさんは、最後の仕上げとばかりに私の鞄に入れていた自身のお酒を取り出す。

 

「ナミさん?」

「えい」

「ナミさん!?」

 

 そのまま、気絶した私の口にお酒を注ぎこむ。……うーん。容赦ない。

 

 瓶の中身が減っていくのと、私の顔色が青ざめていくのをあわあわ見ているカヤさん。半分ほど中身が減ったところで、ナミさんは「よし!」とようやく注ぐのをやめてくれる。

 

「ここまですれば、絶対に明日の昼まで起きないわね!」

「流石にやりすぎです! ナナさんが心配なのは分かりますけど……」

「心配じゃ無くて迷惑なの! この子、放っておいたら何をやらかすか分かったもんじゃないんだから!」

 

 ふん! と鼻を鳴らすナミさんは、自然と私の手を握って、切ったばかりの前髪をいじっている。……私の寝顔を見る瞳が優しすぎることに、ナミさんは気づいていないのだろうか? いないんでしょうね。

 カヤさんは、それに目を丸くして頬を染め、何かを納得する様に口元を隠して放ちかけた言葉を飲み込む。

 

「何よ? どうかしたの?」

「……い、いいえ。そろそろ、ウソップさんたちの所に戻りましょうか?」

「? そうね。あいつらには何としてでも勝ってもらわないと! お嬢様から船を貰えなくなるしね!」

「……あの、それなんですが」

 

 ナミさんの華麗なウインクをカヤさんは苦笑気味に受け入れて、身を乗り出してナミさんの耳元にこそこそと囁く。

 何を言っているのか気になりますが、聞こえないので”私”は私を見下ろす。

 

 良かったですね。私はけっこう、ナミさんに好かれている様ですよ。

 

 まあ、私のだだもれ思考とやらは、これ以上なく女性受けが良いでしょう。……愛に飢えた人間にこそ、こんなにも自分を愛してくれる他人はもういないと、そう思わせるぐらいには強烈です。

 

 孤独を知りすぎている私は、特別が欲しくて、誰かを心の底から絶命させるレベルで、愛さずにはいられない。

 

 まあ、だからこそ愛を分散させる為にも、たった1人だけを愛せないという難儀な性質持ちですが。

 

 ナミさんは、カヤさんの内緒話に暫くして「え?」と目を丸くすると。―――嬉しそうな、悲しそうな、複雑すぎる顔を一瞬だけ浮かべて、楽しそうにニッと笑う。

 

 

「それは良い考えね、お嬢様! それならナナが1人になり様がないわ! あいつらが絶対に逃がさないもの!」

 

 

 そう、ナミさんが言って、私を抱き上げたところで。

 

(おや……)

 

 唐突に、世界が霞んでいく。沈んでいた意識が浮上してしまう。

 

 

(私の、目覚めの時が近づいていますね……)

 

 

 もう、”夢”という昨日は溶けて、私はナミさんの思惑通りに全てが終わった後”傍観者”として目を覚ます。

 別に殴らなくても、”私”が私を危険にさらさない様、そう誘導ぐらいするんですけどね。

 

 

 では。名残惜しいですがお2人とも、生きていたなら、おはようの時間に私とまた会いましょう。

 

 さようなら、私の大好きな人達。

 

 

 

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