サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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16話 傍観者にも役割はあると思います

 

 

 物の記憶は、触れた人間の感情が強ければ強い程、期間が長ければ長い程、焼き付きが良い。

 

 視たい記憶が明確にある場合、過去であればある程に薄れてしまい、感情の強弱によっては逆もしかりだ。ものによっては視えない事も覚悟しなくてはいけない。

 

 シュシュの家は、長年積み重なった優しい記憶が手袋越しに伝わってきて、足を止めて見入ってしまった。

 そして、偽執事を殴って去っていくウソップさんを追えたのは、彼が憤っていたのと、直前だったので拾いやすかったのと、時間の経過による他者の上書きが無かったから。

 

「……ん」

 

 だから、夜明けと共に始まった戦いに関していえば……視えると確信していた。

 

(言い訳すると、最初は視るつもりなかった……)

 

 でも、林を抜けたらそこは戦場跡が色濃く残っていて、海の香りに混じって真新しい血の匂いを感じた時は身がすくんだ。

 長い坂道は酷い有り様で、岩や崖が砕けているし地面も抉れている。壊れた船の破片もポロポロと落ちていて、どんな激しい戦いがあったのだと不安になった。

 

 迷いながら、なんとなく誰も見ていないのを確認してしゃがみこむ。

 ゆっくりと手袋を外して、躊躇しながらも深呼吸。そっと地面に手の平を押し付ける。

 

『おれの名はキャプテン・ウソップ!! お前らをず~~~~~っとここで待っていた!! た……戦いの準備は万全だ!! 死にたくなきゃさっさと引き返せ!!』

 

 サア、とその光景が見えて、脳がぐわんと揺さぶられる感覚に顔をしかめる。

 何より、その視えたウソップさんの台詞に「ん?」と思わず手を離す。

 

(…………いえ、あの。…………まさか、海賊達が上陸する場所、間違えて張ってたんですか?)

 

 血の気が引いていく。いきなりの、そうとしか思えない不穏すぎるはじまりに、ドッと嫌な汗が背中を濡らす。

 だから、ウソップさんは1人で名乗りをあげている? ……い、胃がキリキリする。

 

(っ、いいや! ナミさん達は無事だった!)

 

 そうだ。素晴らしいネタバレを私は授けられている!

 

 私の目覚めはナミさんの腕の中という、約束されたハッピーエンドの先だからこそ与えられる楽園だった。怖気づいてどうする! 怯えるな私! よ、よし。……もう、今度は手を離さないで、全部見るぞ……!!

 

 覚悟を決める。

 

 そして、私は――――この戦いの一部始終を、頭の中の”目”で、しっかりと見た。

 

 

 

 

 ドサリ。

 

 

 

 

 気づいたら、地面に倒れていた。

 

 ぐわんぐわんと脳を尋常じゃ無く揺さぶられながら、手足を痙攣させて青い空を見上げている。

 読みとった情報量が多すぎた。たった1人の傍観者は欲張りすぎて、前後不覚に陥りながら彼らの戦いを何度も何度も反芻する。

 

(……皆が、命をかけていました)

 

 ルフィさんは、いっぱい暴れたり寝たり殴ったりして、船長だった。

 ゾロさんは、たくさん切ったり守ったり血を流して、心も体も強かった。

 ナミさんは、状況を見極めその時々の正解を掴み取り、お宝もしっかり盗んでいた。

 ウソップさんは、最後まで格好良く、守れるものを全て守りきった。

 カヤさんも、懸命に立ち向かい、泣いて、苦しんで、それでも戦いぬいた。

 子供達も、ウソップさんを見習って勇気を振り絞り、力を合わせて役割を全うした。

 

 そうして彼らは、この”日常”という勝利を手に入れた。

 

(今日という日に、この平和な村に海賊は”来なかった”)

 

 あの嘘つき少年は、見事に真実を優しい嘘に塗り替えた。

 

 

「…………は、ァ」

 

 

 視界がぶれる。

 

 興奮もあって、ズキリズキリと頭が痛すぎる。ちょっと深く視すぎて、ここで戦ったルフィさん達や海賊達の痛みまで脳が受け取ってしまった。全身が多種多様な痛みでズキズキする。

 

 でも、関係ない。

 本当に怪我をしている訳じゃないし、ナミさん達と違って出血もしていない。……もう、さぼっていないで起き上がろう。

 

「……んっ!」

 

 私は、私のできる事をしよう。

 

 傍観者は傍観者なりに、彼らの戦いを記憶する。一切合切を忘れない。

 

「……本当に、凄い人達だ!」

 

 戦いの軌跡は脳の皺に刻まれて、目を閉じればすぐにでも思い出せる。

 一瞬一瞬の彼らの戦いを、想いを、痛みを、積み重ねていくものを、私は全部覚えて生きていこう。

 

 絵物語や小説みたいに、読みとった記憶が頭の中で踊っている。

 

 稀にくすりとさせる、何してるんですか? と真顔で聞きたくなるやり取りすら彼らは真剣で、そんな暴力だけじゃない戦いが、きっとルフィさん達の味なんだと思う。

 

 視線が、坂道のとある一点に吸い込まれる。けれど、すぐに前を向く。

 

 

『敵わなくたって……守るんだ……!! あいつらは、おれが守る!!』

 

 

 ……ウソップさんめ。

 

 自身の無力をこれでもかと知って、突きつけられて、それでも諦めずに己を奮い立たせて、足腰に力が入らなくても、他者の力を借りても、最後までその腕で誓いを守り通すなんて、男じゃないですか。

 

 悔しいけれど、彼には敵いそうにない。

 

 ……これじゃあ、別れ際にだって、カヤさんに『将来的にお嫁さんになって下さい!』なんて言えない。ここまで勝敗が明確だと、当たって砕けるのも無粋というものだ。

 

 格好良いなぁ、キャプテン・ウソップ。

 

 本当に、同じ嘘付きでもキャプテン・クロとは天と地ほども違う。

 

(……まあ、自分しか幸せにしない大嘘つきと、誰も彼も幸せにする大嘘つきじゃ、同じ盤上にあがる事すらできませんけどね)

 

 ふふん、と我が事の様に嬉しくなりながら、流れていく雲に目を細める。

 

 ウソップさんの男泣きを意図せず見てしまった事故は横においておくとして……まずは、お買い物をしてナミさんたちを労わらなくてはいけない。

 

(消毒液と包帯も追加しないと。それから……お酒とお肉も!)

 

 勝者には私なりに報いてやるのだ。遠慮しようと恥ずかしがろうと嫌がろうと、甘やかしてちやほやして、気持ち良く手にした今日という日を堪能して貰う。

 

 ああ、ナミさん達の目覚めが今から楽しみで、戦いのあった坂道をもう一度だけ瞼の裏に焼き付けて、海風を全身に浴びて軽やかに地面を蹴る。

 

 うん。

 

 今日は、とても良い天気になりそうだ。

 

 

 

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