「おはようございます!!」
お買い物を無事にすませて、荷物を鞄と手で抱えながら駆け足で林の中に戻ってくると、ナミさんたちはすでに起きていた。
慌てて、朝の予定通り主にナミさんに元気よく挨拶すると、ナミさんが「ん」と少しだけ笑ってくれる。
「……おはよう、朝から元気ね」
「はい!」
……っ、やった! ちょっと呆れた感じだけど、ナミさん笑ってくれた! これで小さな気まずさなんて吹っ飛んだとはしゃぎたくなる。
うきうき弾んだ気持ちで「おはよぉ……」と若干だれた感じのルフィさんと「おはよう」腕を組んで余力を見せるゾロさんの挨拶に頷き「お肉とお酒とフルーツのサンドイッチです!」とルフィさん達に差し入れをしていく。
「肉ぅ!!」
「……助かる!」
「あら、ありがとう」
いっぱい動いてきっとお腹をすかせている筈だと、食堂に行くまでのつなぎでたくさん買って来たけど好評の様で嬉しい。
早速肉にかぶりつくルフィさんと、お酒で喉を潤すゾロさん。野菜ジュースとサンドイッチを手に嬉しそうなナミさん。うんうん、いっぱい食べて元気になって下さい!
「あ……それとナミさん、一応備品の買い物をしてきたんですけど。こちら購入リストです」
「どれどれ? …………ええ、問題ないわ。後で私達の分は払っておくわね。食費も」
――――えっ?
あっ、ええと。さ、流石ナミさん! お金関係はきっちりしているんですね! 踏み倒される覚悟をしていただけに拍子抜けです!
ちょっと挙動不審になっていたのが悪かったのか、ナミさんはじと目で私の頬を抓る。
「……あのね? いくら私でも、ナナみたいな幸薄そうな貧乏人からお金を巻き上げたりしないわ。お金ができたら個人的に10回ぐらい奢って貰うけど♪」
「……なんだ。熱がある訳じゃ無かったのか」
「ああ、いつも通りだ」
「ぶっ飛ばすわよあんた達!!」
冷や汗すらかいてゾッとしていた2人に怒るナミさん。そんなやりとりが無性に嬉しくなってにやけていると、頬を抓る手が増えた。
「……あと、前髪」
「ふあ?」
「……勝手に切って、悪かったわね」
「ふぅえ? ひぃえひににふぇひゃいれふ!」
慌てて、気にしていないと身振り手振りする。
前髪が少し切られたのは確かに落ち着かないけど、ナミさんに切られたのなら別に良い。……なんだか、ナミさんの好みのタイプに近づいた気がして、悪い気もしない。
(好きな人の望む姿だというなら、自分の不都合など投げ捨てますとも!)
そんな風に自然とにやにやしているのが気持ち悪かったのか、ナミさんは頬から指を離してぷいっと顔を背けてしまう。
「……っ。それじゃあ、あんた達! ご飯食べに行くわよ!」
「おおー!!」
「酒も足りないしな」
「わっ、待って下さい、ナミさん! ゾロさん、空き瓶は鞄にいれて良いですよ!」
「いい、これぐらい持つ」
「腹減ったなー!」
ナミさんにぎゅっと手を握られ、その速さに転びそうになりながら駆け足。サンドイッチじゃ足りないぐらいお腹がすいてるのかな? 昨日までは、私の速度に合わせてくれたのに、今は凄く大股でずんずん歩いている。
「ナミさん。飴があるので舐めますか? みかん味です!」
「いらない。……あと、暫くこっち見ないで」
「へ?」
思わず、嫌われてしまったのかと足が止まりそうになるけど、ナミさんのむすっとした可愛い顔に不吉な予感は吹っ飛ぶ。
「……ナナの目、思ったより青みが深くて、宝石みたいでうっかり指をいれちゃいそうなのよ」
「へ? あの、ありがとうございます?」
「……ハァ。……冗談よ。とりあえず、そういう訳だから慣れるまで目を合わせるのは待って」
よく分からないけど、ナミさんの目を見たらいけないらしい。
え? 何それ寂しい。
でも、手を繋いでくれてるし、嫌われてる訳じゃないなら……本当に私なんかの目が宝石に見えるのだろうか? ……自分の容姿を誰かと比較した事ないし、よく分からない。
……記憶で宝石を視た事はあるけど、あんなにピカピカかなぁ?
「本当にとるなよ?」
「お前ならやりかねん」
「あんたらわたしをなんだと思ってんのよ!!」
ん? 考え込んでいる内に、何故かルフィさんとゾロさんに真新しいたんこぶができている。
取り残された私を横にぎゃいぎゃい騒ぐ3人は、それでも足取りまっすぐに食堂に辿りつき、すぐに女将さんに挨拶して席に着く。
「おばちゃん、こっちに肉くれ!!」
「酒。あと日替わり定食」
「ナナはどうする?」
「私は……え?」
ドン! っと。そこで机にたくさんの料理が置かれていく。よく見ると、隣の席やその隣の席、店中の人が素知らぬ顔をしながら、店員さんにこちらを指さして何かを注文している。
「はいよ! お嬢ちゃんのおかげで、昨日は儲かったからね。サービスだよ!」
「わあ、女将さんありがとうございます!」
「本当か!? やったなナナ! おれにもくれ!」
「ありがてェ、酒もあるのか!」
「……」
嬉しいなぁ! 私のおかげというのが良く分からないけど、お財布が寂しいのでこれはとてもありがたい。早速、昨日の臓物の煮物からとりかかると、ナミさんは「……ぁ」数秒何かを考え込んでから私を見る。
「……ナナ? そういえば、1人で買い物してきたのよね?」
「はい! ここにも寄って、軽食を買ってきました! 村人さん達、すごく親切で色々と安く買えたんです!」
「……そう。……そういう事ね。……じゃあ、食べましょうか」
「はい!」
手作りドレッシングのかかったサラダを食べて、酸っぱ美味しいと舌が喜んでいる。ああ、幸せだなぁ。美味しいなぁ。ご飯がいっぱいだぁ。
特に、ルフィさんとゾロさんは血を流していたし、いっぱい食べないと心配だ。ナミさんも肩を怪我したんだし、たくさん栄養をとらなくちゃ!
カチャカチャ、どんどん、カチャカチャ、どんどん。
気づいたら、空っぽなお皿は減りながら食べるお皿は増えていく不思議な状況に首を傾げながら、美味しいは正義だと食べ続ける。
そうして、ルフィさんも満足げに魚を丸呑みにし、喉に引っかかって慌てて取ったあたりで、カヤさんの気配!?
「ここにいらしたんですね」
「! カヤさん」
「待って、気配って何?」
あ、口に出てました? 慌てて聞こえないふりをする。……そ、そりゃあ、好きな子の気配って一番最初に覚えますよ。普通に。
「よう、お嬢様っ」
ルフィさんの元気の良い挨拶に、カヤさんは笑っている。
「……。ナナには後で詳しい話を聞くとして、お嬢様は寝てなくて平気なの?」
「ええ。ここ1年の私の病気は、両親を失った精神的な気落ちが原因だったので……ウソップさんにもずいぶん励まされたし……甘えてばかりいられません」
……カヤさん。強くなろうとしているんですね。
その健気さにぐっときていると、カヤさんと目が合う。
「ナナさん……船の事、覚えてますよね?」
「……へ?」
「くれるのか!? 船っ!!」
「落ち着きなさい、おバカ」
身を乗り出すルフィさんの頭を、ナミさんがポカンと叩く。船……そういえば、そんな話もしていたな。
「それじゃあ、一緒に来てください」
「え? は、はい」
カヤさんから差し出される手を、おずおずととって、そのまま歩き出す。
ナミさんは、すでにカヤさんから話を聞いていたのか、ルフィさんの襟を掴んで海岸の方へ。私はカヤさんに招かれてお屋敷の方へ。
「え? あれ?」
「いいの。ナナはそっちよ」
なぜに!?
「え!? なんでだ!? 船は!?」
「海岸の方に用意してますよ」
「よし分かった!! すぐ行くぞお前らっ!! ナナも早く来いよ!!」
ちょ、ルフィさん!?
え? ええ? 私だけ行き先が違うの何でですか? か、カヤさん?
「ねえ、ナナさん」
「は、はい……!」
カヤさんは、私の手を優しく握りしめて、にっこりと微笑む。
「お着換え、しましょう」
…………はい!?
ちょっと意味が分からないまま、私は振り返るけど、もうナミさん達の背中は遠くて、空しく立ち尽くしそうになると、カヤさんの笑顔が近づいてきて、更に密着してくる!?
いえ、でもお着換えって、あの、でもこれ、旅立つ前に町の人達がわざわざ捨ててくれた大切な、あ、あ゛あああぁ。
カヤさん、腕を組むのは反則です!!!!