サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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1話 口には出せない夢があります

 

 

「ご、ごめんなさい、海賊にはなれないし、なりません!」

「えー!? なんでだよ!? 海賊は楽しいぞー!!」

「やめなさいお馬鹿!! 当たり前でしょうが!!」

 

 ばこん! とオレンジ色の髪をした綺麗な人に殴られたルフィさんが、納得いかなそうなふくれっ面になる。

 その後ろでは、のびたライオンの下敷きになった海賊をぼこぼこにしているご老人がいた。「貴様ら、よくもこの町を!!」と怒っているところから、正当な怒りの様だと目を逸らす。

 

(……彼は、どうして私みたいな足手まといを誘ってくれるんだろう?)

 

 首を傾げて疑問を覚えながらも、仲間に誘われたという嬉しい現実に頬が緩んでしまう。海賊になるのはお断りするしかないけど、本心では惜しむ気持ちでいっぱいだ。

 

(それに、この人可愛いなぁ。……お嫁さんになって欲しい)

 

 ほわっと女の人に見惚れて、いやいやいきなり不埒な考えはいけないと慌てて首を振る。

 

「……え」

「あっはっは!!」

 

 何故か、一歩下がる綺麗な人と、楽し気に笑っているルフィさん。そして足元でペットフードをもりもり食べている『彼』ことシュシュ。その姿を見ていると、怪我がなくて良かったとホッとする。

 そして、改めてルフィさんを見つめると、彼は私をまっすぐに見てにっかりと笑ってくれる。

 

(……生まれて初めて誰かに仲間になれって求められて、すごく嬉しい)

 

 ほんとうのほんとうに嬉しくて、によによしてしまうけど……海賊はやっぱり駄目だ。

 

「えー!?」

「黙ってなさいバカ!!」

 

 また拳骨されていて、本当に仲が良いなぁと2人に羨ましいものを感じる。

 

(……うん。私の当面の目標は、トレジャーハントでお宝を見つけて、私みたいな浮浪児が大人になるまで生きられた町へ恩返しに1億ベリーを寄付する事)

 

 だから、海賊はダメなのだ。

 

(海賊になったら、そのお宝が盗品だと疑われて海軍に没収されかねない。だから、海賊にはなれない。……1億ベリー寄付し終わったら、今度はこちらから仲間にして下さいって、お願いしてみようかな)

 

「おう、いいぞ!! 今すぐでもいいぞ!!」

「お馬鹿!! 黙ってなさいあんたは!!」

 

 旅立ってすぐに目標が2つに増えるなんて、人生暇なしで良い事だ。今すぐ彼らの仲間になれないのは残念だけど、欲張ってはいけないと我慢我慢。

 

(でも、仲間かぁ……それってどういう感じなのかなぁ。きっと満たされるんだろうなぁ……もしかしたら、私の夢にも近づけるのかなぁ)

 

 手を伸ばして、シュシュの頭を撫でる。

 

「なあ、お前の夢ってなんだ?」

「え?」

「ちょっとルフィ!! ……あはは、ごめんねぇ、こいつ本能で生きてるから」

「い、いいえ」

 

 びっくりしたけど、流石に命の恩人とはいえ、初対面に近い彼らに言える訳がない。

 受け入れられる自信が無いし、何より、人道に反した酷い夢なのだ。

 

(……私の夢は、たくさんのお嫁さんを愛することです! なんて……堂々と言える訳がない。簡単に叶えられるものでもないしね)

 

 苦笑いで誤魔化すと、ルフィさんは良く分からないって顔で首を傾げ、綺麗な人は更に一歩離れ、こちらに戻って来たご老人は何とも気まずそうに咳払いしている。……あ。

 

(そうか。今は戦時中の様なものだし、こんなところでおしゃべりしてちゃダメだよね。ご老人に気をつかわせてしまった。戦闘の邪魔にしかならない私は、この家の周りにトラップでもしかけて大人しくしておこう)

 

 ピタゴラスは得意なので、迂遠に攻撃して何としてでもこの家を守ろうとつらつら考えていると、ズボンをシュシュに噛まれる。長い前髪ごしに見えるシュシュが、ずりずりと私を引っ張る。

 

「ど、どうしたのシュシュ」

「……貴女を心配してるのよ」

「え? ど、どうしてですか? 私はこのまま、この町を離れて安全な所に行くつもりだし、シュシュが心配する事は何もないよ」

 

 笑ってそう言っても、シュシュは私を引きずる力を弱めない。ベルトが無かったら脱げていたかもしれない力に、牙は大丈夫かオロオロしてしまう。

 何とか説得しようとすると、目の前に麦わら帽子がぬっと飛び出してくる。

 

「なあ、お前の夢は叶えるのが難しいのか?」

 

 心底よく分からん、という顔をする彼に、目をパチパチ。オレンジ色の彼女が言う通り本能で生きているんだなぁと微笑ましくなりながら、頷く。

 

「うん、私の夢はとても難しいと思うよ」

 

 だって。

 

(――私は、とにかく愛したい人間だから)

 

 シュシュをどうどうと宥めながら、目を伏せる。

 

(1人は寂しいから、人を、誰かを愛したくてしょうがない)

 

 物心がついた時から1人だった。

 

(……だというのに、恋とか愛とか、本来向けるべき異性に湧き上がらない。この気持ちは同性にしか向けられない故障っぷり。当の私は美人でも可愛いわけでもない、地味で低身長の青二才で芋女)

 

 ああ、落ち込みながらシュシュの毛並みに心を癒して貰う。

 

(……何より、たった1人だけを愛せない浮気性の屑女。……ううん、本当は唯一の人を見つけたい。その人だけを愛する特別に憧れている。いや、いいや、それはダメだ。1人ではいけない)

 

 シュシュの毛を、かきまわす。

 

(――たくさん。とにかく愛したい誰かを、女性を、心の底から愛したくて止まれない。愛をそそぎたい。返してくれなくてもいい。全力で愛したい。……不吉な私は、たった1人を全身全霊で愛したい。違う、愛したらいけないんだから……!!)

 

 思い出す。

 

 友達だと思っていた小さな命。

 若く生に溢れたどぶ鼠が、野良犬が、鴉が、私が愛したいと求めて、手を伸ばし、触れた瞬間。……『幸せそうに絶命した記憶』を。

 

「……ッ」

「……」

「ぐ、……この娘は、いったい」

 

(……たった1人に向けたら、死んでしまうかもしれないから。たくさん愛させて欲しい)

 

 溢れる気持ちが、全身から溢れてしまいそうだ。

 ペロリ、シュシュに手の平を舐められて、ハッとして優しくその頭を撫でる。その時だった。

 

 ――――ぶおん!!

 

 大きく風をきる音がして、目の前で町が砕かれていく。無慈悲に破壊の限りを尽くされる。

 

(……ッ)

 

 吹き飛ばされ、思考が驚愕で白く染まる中。砕かれていく町の『悲鳴』が、私の頭にぐわんぐわんと響き渡る。

 

 私は、町の『記憶』を見ていた。

 

 

 

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