「できたぞ!! 海賊旗!!」
カヤへ、海の上から見る青空は一段と綺麗です。
船酔いに苦しみながら、新しいお家であるメリー号を掃除していると、はっはっはっとルフィさんの楽しそうな声が響いてきます。
「ちゃんと考えてあったんだおれたちのマーク!」
「お、おれたちの……」
賑やかだなぁと思いながら、自称トレジャーハンターで海賊になれない私は彼らの輪に混ざる訳にもいかず、せっせとお掃除を続ける。絞った雑巾で手すりを拭いていると”ふわふわ”って感じるのだ。……そっかぁ、気持ちいいのかぁ、良かったねぇメリー。
(んふふっ! カヤから貰ったメリー号、命に代えても大事にするぞ!)
本当は全部屋ピカピカにしたいのだけど『男部屋は立ち入り禁止な!』とウソップさんに言われてしまい断念。ナミさんも『女部屋は男子禁制よ』と言っていたから、そういうものなんだろう。……男部屋のお掃除、お願いしますねウソップさん! ルフィさんとゾロさんは力加減がまだ苦手なので、頼れるのは貴方だけです!
(……でも、そっかぁ。……それだと、私は今夜からナミさんと同じ部屋で寝るのかぁ)
想像する。あのナミさんと密室で2人きり……よし無理! 私は見張り台で寝よう! 見張り台が私の部屋だ!
まさかのナミさんも、何を隠そうこの私が貴女を狙う凶悪な狼だとは思うまい。
しかし、ここで欲望のままナミさんに襲いかかっては積み重なっている気がする信頼は地に堕ちる。……って、ルフィさんってば甲板にペンキ零してる。
(楽しそうに海賊旗描いてましたもんね。……うーん。微笑ましくて注意なんてできませんし、私が綺麗にすればいっか!)
「ごめんなさい!」
「次、気をつけなさい」
「……何でお前が偉そうなんだよ」
「よし、描けた!!」
「「マーク変わってんじゃねェか」」
ゴゴン! と、音に振り返るとウソップさんが殴られている。
あ、海賊旗上手に描けてるなぁ。ルフィさんのは可愛いけど、ウソップさんのはシュッとしてる。やっぱり器用だよなぁ。羨ましい。
(さて、メリーのペイントに関してはお任せですし、次は中の掃除をするぞ!)
いっぱいピカピカにしてあげるね、メリー。
鼻歌交じりに掃除を続けていると、指先に少しだけふわりとした温かいものを感じて、ふふふふっと笑ってしまう。分かっているよと、壁を撫でる。
(カヤがくれた私の船。そして、初めてできた私の家)
そうだね。仲良くしようね、メリー。
そして、ルフィさん達を色々なところに運んであげてね。私は、お宝を見つけられたらそれで良いし、元々目的地も無かったので、行き先は船長であるルフィさんにお任せだ。
(……船の持ち主は私なのに、船長はルフィさんって複雑だけど面白いなぁ)
頬が緩む。カヤがくれた、私が彼らと一緒にいられる理由。
ねえ、メリー。君のおかげで私……なんだか彼らの仲間みたいだよ。ありがとう。
さあて、メリーの事も良く分かったし、明日からの掃除のルーチンを計画し”ドウン!!”なにごと!? えっ、大砲の練習? ……そっか、ありがとうメリー。
え? ウソップさんも撃つの? ……そっか、狙いぴったりだったんだね。
でも、大砲ってうるさいんだね。あ、そういえば撃った後はやっぱりお掃除が必要だよね!? 慌てて、バケツの中に雑巾をいれて立ち上がる。
パタパタと煤もありそうだと道具を足して外に出ると、船室に戻る途中らしいルフィさんと目が合う。
「どうしたんだナナ?」
「あ、ルフィさん。使用後の大砲を掃除しようと思って!」
「「あ」」
「……ナナは休んでなさい。使った人が後片付けすべきなんだから。……分かってるわね?」
「「はい」」
微塵も考えていなかった。という顔で、すぐに反省してお掃除しようとしてくれるのは嬉しいけど……ごめんなさい、ウソップさんはともかくルフィさんに繊細な作業は……お掃除中に大きな魚影が見えたり島を見つけて大興奮した挙句力加減を誤って砲身が歪んだり詰まったりするのが想像できてしまう。二次被害で大砲を主に使うであろうウソップさんが怪我をしたら怖い。どうやって優しく断ろう? ルフィさんは悪くない。人には得手不得手があるだけだ。……あ、そうだ。
「ルフィさんは船長ですし。お掃除は私みたいなお客さんで家主にお任せ下さい!」
「……言われてるわよ、船長」
「んー! 頼んだ! おれも汚さない様にする!」
「わあ、ありがとうございます!」
さすがは船長。船を大事にする発言に嬉しくなる! でもなんか喉に小骨がひっかかった様な顔してますね? 元々心配はしていなかったけれど、ルフィさんは口に出した以上ちゃんとする人だ。良かったねメリー。君が運ぶ人たちは優しいよ。
「……マジで大切にしなさいよ?」
「「「はい」」」
念押ししてくれるナミさんと頷く男性陣に、ありがとうございますと頭を下げて、いそいそとお外にでる。あ、ちょっぴり火薬の匂いがする。
うーん。少し気持ち悪い。……お掃除に集中して我慢しているとはいえ、やっぱり揺れる船の上は全身が重くなる。
(でも、これからメリーと一緒に暮らすんだから、頑張って慣れるぞ!)
気合をいれなおし、振り返って帆を見上げれば大きな海賊マーク。……おお! 感動しながら楽しい気分で大砲に触れる。……ええと、お掃除方法。ちょっと手袋を外して失礼。……んー。なるほど、こうするのか。……過去のお掃除風景を視る+船酔いでかなり気持ち悪くなってきたけど、それじゃあ早速。というところで――――メリーの声なき呼びかけ。
(え? 誰か来たの?)
お客さん? 海の上なのに? 驚きつつ、立ち上がって教えられた位置で身を乗り出し、よいしょっと船の下を見る。
「あ?」
「へ? い、いらっしゃいませ。……!? どうしたんですか、泣いているんですか!?」
そこには、サングラスの、頬に”海”の刺青? をした男性が、怖い形相でこちらを睨みあげていた。今からメリーに乗り込むところだったらしい。
(男の人が泣くなんて……きっと彼にはすごく悲しい事があったんだ……!)
こういう時にずかずかと事情を聞いてはいけない。もてなして、彼から話してくれるのを待とう。それに、お家にお客さんを招待するのって、初めてだし。
あ、いけない。不謹慎にちょっと嬉しくなるのはいけない。
反省して、笑顔を心がけて縄梯子をおろす。
「あの。コーヒーをお出しできます! お酒もあります! メリー、じゃなくて、この船には立派なキッチンもあって、お菓子も作りたいなって思っていて、だから、あの……ご招待します!」
「………………よし。分かった!」
へ? 彼は返事をする前にメリー号にあがってきて、そしてガシっと私の肩を掴んで背に隠す様にするとスウッ、と大きく息を吸う。
「出て来い海賊どもォー!! てめェら全員ブッ殺してやる!! こんないたいけな子供まで人質にしやがってェ!!」
んんー?
耳キーンにくらくらしながらも、ちょっとお兄さんの言っている意味が分からない!? 慌ててルフィさんが飛び出してくる。
「おい!! 誰だお前!!」
「誰だも、クソも、あるかァ!!」
け、けけけ剣抜いちゃった!? なんで!? る、ルフィさん何をしたんですか!? あああああ待って喧嘩待って、説明が必要ですまずは話し合いをして下さいぃ!!
背中にしがみついてんーんー唸っていると「くっ、卑怯だぞ手前ェら!!」「なにがだよ!?」「ちょっとルフィ!! ナナは無事なんでしょうね!?」みたいに人が増えてくる。
「ん? お前……! ジョニーじゃねェか……!!」
「え……ゾ、ゾロのアニキ!!??」
ふああ!?
びっくりしている内に、ナミさんに引き寄せられて庇われている。「平気?」「は、はい」短い言葉の応酬がなんか嬉しい……じゃないゾロさんのお知り合いだったんですか!?
「どうした! ヨサクは一緒じゃねェのか」
彼、ジョニーさんは、剣を握りしめて怒りに震えながら「それが……!! ヨサクの奴……!!」と語りだす。
そして、その語りに私は……ふっと意識を失った。
「―――は!? ……あ、あれ、なんで……?」
目が覚めたら、ナミさんに膝枕されていた。
「お前、海賊に向いてねェにも程があるだろ」
「……知ってたけどね。ナナは客観視には耐えられても、当事者になるのはおすすめしないわ」
はい? え、ここが天国? じゃない!
さっきまで泣いたり怒ったりしていたジョニーさんがめちゃくちゃ笑ってるし、見知らぬ人もいる。……えーと。
楽しく会話しているのに水を差すのもアレだし。そっと手袋を外して、メリーに触れる。
『病気!?』
『この船から砲弾が……!!』
『バッカじゃないの!?』
『ライム……?』
『壊血病よ。手遅れでなきゃほんの数日で治るわ』
『そんなに早く治るかっ!!』
『申し遅れました。おれの名はジョニー!!』
『あっしはヨサク!!』
ふむ。……そんな事が。
海の病気って、怖いなぁ。あと、私って痛そうな話を聞くのダメなんだな。……知らなかった。
手袋を付け直していると、ジョニーさんとヨサクさんにギョッとした顔で見られていて、ギョッとしかえしてしまう。
「マジ話だったんすね!! これからよろしくお願いします、ナナのお嬢さん!!」
「お嬢さん!?」
「……びっくりしてるところ悪いけど、次の船の行き先が決まったわ」
「え?」
目を丸くすると、ナミさんが経緯を説明してくれる。
長い航海を生き抜く為、次の行き先は海上レストラン『バラティエ』
海のコックさんを引き抜こうと、航路を少々北に曲げたとの事。
(レストラン……! 行った事ないなぁ。あ、でもお金……)
いくら残ってたかな?
慌てて、背負ったままの鞄を降ろして、中から財布を取り出して(財布も新しいのになってる!?)ちょっとびっくりしながら、大きめというかパンパンな財布を開くとみっちりとベリーが詰まっている。
ヒュッ。
突然の大金に、私はまた意識を手放した。
???「ちなみに、気絶癖は"私"が私を守るために必要な措置ですのであしからず」