サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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21話 コックさんに出会いました

 

 

「心配してくれて、ありがと」

 

 

 一瞬だけ見えた、ほんの少しの泣きそうな顔。

 すぐに魅力的なウインクで誤魔化され「でも、大丈夫よ。気にしないで」と、ナミさんは私の上からどいてしまう。

 

(……! 追いかけなくちゃ)

 

 慌てて身を起こすと、ナミさんは悪戯っぽく笑い「あら。ご褒美のおかわり?」と、今度は左のほっぺにチュッと―――

 

 意識飛ぶよねこんなの!? 数秒で我に返っただけ偉いよね!?

 

 気づけばパタンと音をたてて戸は閉められ、1人ベッドにとり残されている私。

 頬に残される温もりと感触を反芻し、どれぐらいの時間固まっていたのか自分でも分からない。ほっぺに手をあて微動だにできずにいた私は、泣きそうな気持ちで心に鞭打って動き出す。

 

(……ナミさん、ずるいっ!!)

 

 ときめきとつれなさと愛おしさに心臓止められそうっ。

 

 くふぅ……変な声が出る。ふらふらしながら、鼻から愛が溢れそうなのを必死に我慢して、正気に戻れと理性を繋ぎ合わせる。

 私のバカ! 様子がおかしいナミさんからいきなり目を離してるじゃないか! 目を離さないって決めた矢先に逃げられてどうする! ふらつきながら甲板への戸を開けて、ナミさんを探そうとした途端背後からむにゅ、っと。

 

「遅かったわね。このバカどもの治療は私がするから、ルフィの様子でも見てきて」

「―――――!?」

 

 後ろから、ぎゅう! ってされた。

 

 ちょお、背中がふにって、ふにってぇ!?

 あ、ダメです。そんな抱え方されたら足が浮いちゃいます! つまり余計にお胸の感触がむにぃ!! って背中を幸せにしちゃうんですっ!!

 

「聞いてる? ナナ」

「わ、わわ分かりましたぁ!?」

 

 これわざとだ! 絶対にナミさんこれ故意にやってますよね!?

 

 ヨサクさんとジョニーさんの生温かい視線と空気が教えてくれてますもん! ナミさんの傍にひっついていようと思ったのに、こんな方法で指示を出されたら断れる訳がないッ!!

 

「良い子ね」

「…………ぅうっ」

 

 トン、と降ろされて、これ絶対に弄ばれてるって泣きそう。

 背中の感触を反芻する自分を止められないし思考ができないっ。考える事がこんなに難しくなるなんて……ナミさんの指示の裏を読みたくても、背中のむにむにを刻む事に脳の大部分を使ってしまう。

 

「くっ。ナナのお嬢さん。なんて羨ましいんだ……っ!!」

「ああ……おれ達も、紙一重でさえなければ……っ!!」

「無いから。ほら、とっとと消毒するわよ」

「「ぎゃあああー!!??」」

「大げさすぎんでしょあんた達!!」

 

 ああ、容赦なく消毒液をぶっかけるナミさんも絵画の様だ。

 

 でも、今はナミさんの横顔に見惚れるのも難しい。ナミさんが「え?」とこちらを見る前にバッと顔ごと逸らしてしまう。……ちょっと、今はそのお顔を見られない。見たいのに見るとやばい。

 うっかり顔を見たら、さっきのとかさっきのを思い出して身動きが取れなくなる。愛の告白がぽろっと発射されたらナミさんを困らせる! おちつけ、おちつけ。

 

(……でも、急にナミさんが近すぎて、心臓がもたない……! 今もドキドキしすぎて、何も考えられないっ)

 

 これは重傷だ。両頬をおさえてぽわぽわっとした気持ちから抜け出せないまま、レストランに向かう。

 緩みそうな頬をおさえて、何とか頭を切り替えようと努力する。ルフィさんがあの後どうなったのか確認してからナミさん可愛い。じゃない、弁償ですめば良いな。いやあの太ももにはお金を払うべきでは? くっ、ルフィさんの様子がでもナミさんお嫁さんになって欲し―――ドゴォ!!

 

(って、なんで暴力の音するのぉ!? ここレストランですよねぇ!?)

 

 一瞬にして色々目が覚めた。現実がビビリに酷すぎる!!

 

 慌てて中を覗き込むと、広い店内にはテーブルと椅子が並び、お客さんも多数で、机の上には色とりどりの美味しそうな料理が並んでいる。そして現在何より目をひく床には、弱りきった男性が転がっていて……な、何があったんだろう?

 

 

「さーどうぞ『お客様』ども!! 食事をお続け下さーい!!」

 

 

 恐らくコックさんと、歓声に沸く店内で、ぐるるるる……とお腹を鳴らす音がして「!」それが、倒れている男性から発している事に気づいたら、もう彼から目を離せなかった。

 その顔色、やつれ方、肌の干からび具合に、分かってしまった。

 気づけば、男性は先程のコックさんに雑に引きずられて、外に放り出されようとしている。

 

「…………」

 

 事情は、さっぱりだけど。これは信条的に見過ごせない。

 

 ナミさんごめんなさい。ルフィさんの様子を聞く前に……過去の経験から放置できない問題を解決して来ます。ちょっとだけ予定を変更。

 

 踵を返して、全速力でメリー号に走って戻ると「ナナ?」ナミさん達に軽く挨拶してキッチンに飛び込み、お皿を鞄にいれて、良い感じに煮込まれているスープのお鍋を持って駆けだす。

 

「?」

 

 ナミさんが始終不思議そうにしていたけど、今は説明する時間が惜しいので申し訳ないけど事後説明させて下さい! とにかく急いで男性を探して、倒れ伏した男性が視界に入るやいなや傍に行くと「「あ」」料理を持った見知らぬ男性と鉢合わせする。

 

 

「……」

「……」

 

 

 えーと。……お互い、倒れた彼を挟んでびっくりと目を丸くしている。

 金髪で、左眼を伸ばした髪で隠している。フォーマルな黒スーツと甘めな印象も相まって女性にとてももてそうだ。

 

 ……ぐるるるるる。

 ハッ。聞こえてきた腹の虫に、今は何よりも優先すべきことがある。急いで鍋を置いて男性の背をゆさゆさと揺する。

 

「……?」

 

 頑張って引っ張り起こして、座らせる。

 

「あの、お腹どれぐらいすいてますか? これ、スープともいえない代物なんですが、栄養はあると思うので、まずはこれを飲んで下さい!」

「……こちらのレディに感謝しな。スープで胃を労わったら、こっちだ」

 

 コトン、と男性の前に置かれるお料理に、目を奪われる。うわ! すごく美味しそう!

 

 海鮮チャーハンかな? ……そっか。この人の為に急いで作ってくれたんだ。……う。香りとパラパラ具合からプロの仕事だ。わ、私の勿体ない精神で生み出されたスープ未満とは雲泥の差だけど。え、栄養はとれるし、胃には優しい、よね? ……は、恥ずかしいな。余計な事したかも。

 取り下げるつもりもないけど、捨てられても文句言えないなぁと、スープ皿を持つ手が下がり、途端にガッと奪われる。

 

「……! 面目ねェ!」

 

 わわ。彼は一気に飲み干して、そしてガツガツとチャーハンを食べはじめる。

 急いで追加のスープを注ぐと、それもごくんと飲んでくれる。良い食べっぷりだ。

 

 でも、大丈夫かな?

 そんなに勢いよく食べて、美味しいのは分かるけど、具合は悪くない? それとも鍛えている人は違う? ……私は、餓死の直前に町人に発見されて、渡されたご飯にがっついて……うん。まさか低栄養状態の人がいきなり栄養を摂取するとああなるなんて、知らなかった……死ぬかと思った。

 

「……君は」

「はい?」

「……いや、何でもない」

 

 よく分からないけど、コックさんは誤魔化す様に新しい煙草に火をつける。

 首を傾げつつ、彼の食べっぷりに心配無さそうだとホッとする。このコックさんは、その辺りも念頭に作ってくれたのだろう。彼の顔色はめきめき良くなっている。

 

「っ……こんなにうめェメシ食ったのは……おれは、はじめてだ……!!」

 

 ぼろっと零れる彼の涙に、静かにスープのおかわりを注ぐ。……いっぱい、お腹がすいていたんですね。

 

 わかります。……辛いですよね。ひたすらに苦しかったですよね。どうしたってしんどくて、何もできないからやってられなくて、何かに当たりたいのにどうしようもなくて、もう”死ぬ”未来しか見えないから絶望して……だけど、最後に水の一滴でも、何かを口にいれて死にたいと”生”を望んでしまう。……ほんとうに、良かったですね。

 

 貴方は、もう大丈夫です。

 だって、美味しいご飯を食べているんですから。

 

 

「……ッ!! 面目ねェ、面目ねェ!! 死ぬかと思った……!! もう、ダメかと思った……!!」

 

 

 良かった。貴方が生きていて、死ななくて良かった。

 

 ご飯、美味しいですよね。

 だって、貴方の為のお料理です。すごく美味しそうです。本当に食べられて良かった。

 スープのおかわりもどうぞ。落ち着いて食べて下さいね。此処はレストランですもの。お腹いっぱい食べていいんですよ。

 

(……私がもうちょっと早く来れていたら一緒にテーブルにつけたのに。……色呆けしててすみませんでしたっ)

 

 気づいたら、泣きながらもよく噛んで味わって飲みこんでいる。その様子に、優しいコックさんは満足げに笑う。

 

「クソうめェだろ」

 

 好ましい人だと思った。

 あ、お兄さんは食べながら泣きすぎですよ、お水もちゃんと飲んで下さい。スープもありますからね。

 

(うん。きっともう、彼は大丈夫。お腹はすいていない。心もいっぱいだ)

 

 過去の自分の体験が頭をよぎって、だからこそ心から安堵する。

 

 この人が、このレストランに辿りつけて良かった。

 お腹いっぱいに食べられて良かった。

 

 あの時の、延々と続く”飢え”を思い出して、目を閉じる。

 

 

(どうか、どうか、お兄さんがもう飢えませんように)

 

 

 これからも、たくさん食べられますように。

 

 祈る事しかできない私は、せめてとスープのお代わりをそそいでお兄さんのお腹を潤す事にする。そして顔をあげると、何故か更に大泣きしているお兄さんにぎょっとして、これじゃあ料理がしょっぱくなっちゃうとハンカチをあてつつ、そんなに美味しいご飯なんだなぁと、コックさんの腕前に感心した。

 

 コックさんは、少し困った顔をした後に、ニッと得意げに微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

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