サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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23話 賑やかすぎるレストランだと思います

 

 ギンさんと別れてすぐ、ルフィさんは仕事があるとサンジさんに引きずられて行ってしまい、気づけばポツンと1人になっている。

 

「……」

 

 さっきまで賑やかだったのに、今は波の音しか聞こえない。

 別れの余韻もあって全身の温度が下がり指先が震えてくる。……まるで、世界に1人ぼっちだと勘違いしそうで「……っ」誰かを求めて、足を絡めながら駆けだす。

 心の中の冷静な私が、ああまたやっていると、1人ぼっちになると誰かを見つけるまで止まれない己の病気に呆れている。

 

「……っ」

 

 きっと、そこになら誰かがいるとレストランに向かって「――ぁ」入り口で、恐らく私を待っていたのだろう、ナミさんを見つける。

 その横顔を、オレンジの髪が風で揺れているのを目にした瞬間。なんだか心がぐわーってダメになって、衝動のままに抱き着いてしまった。

 

「きゃ! びっくりした!」

 

 ……ッ、ナミさ……――――ん!?

 ナミさんに会えた喜びと温もりに、先程の衝動が掻き消えた私は青ざめる……何してるの私ぃ!?

 

「……ちょっと、驚かさないでよ」

「あ、あの、これは違うんです……!」

「……違う?」

 

 ムッとするナミさんに、ひえっと喉が鳴る。

 叱られてしまうと腰がひけるけど、どうしてか私の身体は言う事を聞いてくれない。足だけは一歩下がれたのに、手だけはナミさんの手首にすがりついて離したくない。

 

(……ど、どうしよう。……お別れと1人ぼっちが同時に来たから、ナミさんの顔を見て衝動的に、なんて子供みたいな事言いたくない)

 

 それに、なんで抱きつくなんて大胆すぎる行動をしてしまったのか分からない!

 下手したらちゅうしちゃいそうな、顔がくっつきそうな感じに強引だったし!!

 

(いつもなら、ちゃんと我慢できるのに……! これ、相当ナミさんの事が好きになってるっ)

 

 自覚してしまえば、ひたすらに顔が熱い。そのまま、思考を真っ白にあわあわしていると、無言のナミさんに手をとられて「……ほら、ちゃんと握ってなさい」って、振り払われると思ったのに、ナミさんの腕に抱きつく様な形になって、まるで恋人や仲の良いお友達みたいな体勢に現実が高速すぎて心が追いつかない。

 

「……はえ?」

「甘えたいなら、素直に甘えなさい」

「……ひゃい」

 

 ふわっと微笑むナミさんの笑顔に、息が止まりかけた。

 むり。舌がまわらない。好きすぎて意識が遠のきそうになる。

 

(――――手とか、握ったりはいっぱいあるけど、こんな風に腕を組むみたいなの初めてで、許されるなんて思ってなくて、言語を失いそう、ダ)

 

 ふらふらと、ナミさんが進むままに足が動いて、気づけばレストランの中に移動している。

 

「お前達、ようやく来たのかよ!」

「先にやってるぞ」

 

 ……あ、ウソップさんとゾロさんの声。お2人の声にふわふわしたまま顔をあげる。「どうかしたのか?」心配そうに顔を覗き込んでくるウソップさんと「何かあったのか?」眉を顰めるゾロさんに、これって、夢じゃ無さそうだなぁって現実が染み込んでくる。

 

「気にしなくていいわ。いつものよ」

「「何だ、そうか」」

 

 いや、何を納得したんですか……?

 

 突っ込んだら、ますます頭が覚醒してくれる。

 ……あ、ウソップさんもゾロさんも、飲み物しか注文してない。……もしかして、私達が来るのを待っていてくれたんですか? 一緒にご飯を、食べる為に。……んっもうなんですか、2人とも大好きです、友情的な意味でー!! ナミさんは愛情的な意味でお嫁さんにしたいです好きぃー!!

 

「……ナミ、本当に問題は無ェんだな?」

「ええ、頭はすこぶる元気よ」

「じゃあ大丈夫だな! ……んで、ルフィはどうしたんだ?」

「それが――――」

 

 ウソップさんが椅子を引いてくれて、ナミさんにくっついたまま座る。

 柔い力で抱き着いているから、簡単に振りほどけてしまうだろうけど、ナミさんはそのままでいてくれるから甘える様にきゅーってしがみつく。

 

(どうしよう……こんなに幸せだと、ここから離れ辛くなる……)

 

 でも、ナミさん達は海賊で、いずれどんどん仲間も増えていく。

 きっと、メリー号だけじゃ手狭になる時が来る。その時になったら……私とメリーも、彼らの旅の途上でばいばいしなくちゃいけないって……密かな覚悟をしてるのに。その時になったら我が儘を言ってしまわないか、自信が無くなってきた。

 

(……そういう曖昧なのが怖くて、嫌だから、私はお嫁さんが欲しい)

 

 どこに行っても、また会おうと身勝手な約束をして、実際に行動しても許される。

 特別な関係になれる。深い約束ができる。それでいて、離婚(別れ)が許される。

 愛されるのが嫌なら、私から逃げてくれる。私が全力で愛しても良い、永遠を約束してくれる、家族になってくれる、離れていても、赤い糸で繋がっていてくれる。

 

 ナミさんと、結婚したいなぁ……っ。

 

 

「……ナナ、あーん」

 

 ふあ?

 突然、口の中に、赤ワインで煮込まれた子牛の味が広がり、爽やかなトマトの味と一緒にほろりとくずれていく。ビーフシチューだ。

 

「……美味しい?」

「んむ」

 

 頷いて、あれ、と思う。どうしてナミさん、そんな顔してるんですか……? 気づけばテーブルの上に出来立てのお料理がいっぱい並んでいる。

 

「ナナの分も頼んどいたぞ! まあ、何が食べたいのか分からないから、適当だけどな!」

「……食える時にしっかり食っとけ」

 

 ポカン、としていたら。お腹がぐぅっとなる。

 あ、そっか。お腹すいてたんだって「はい」美味しそうなお料理を前に、温かい人達を前に、頬が緩んでとまらない。

 

 ……うん。いつかの別れを惜しんで、今を喜べないのはダメだと。ちゃんと切り替える。

 

 というか、ナミさんにあーんして貰った喜びを今更に噛みしめて味わう。あーんってまるで恋人みたいじゃないですか! 今も肩と肩が触れているからナミさん食べづらくないですか? 心配になるけど気にしてない様子に甘えてしまう。あ、ポタージュもある! 甘いといいなぁ。

 

 気づけば、一口食べる度に料理の美味しさに魅せられて、ついつい色々な料理を食べては美味しいなぁとスプーンが止まってしまう。この味付けも美味しい! さっぱりしているけど甘い? どうしたらこうなるんだろ? うーん。……やっぱり料理って奥深い。ちょっとずるして調理過程を視てもいいかな? 手袋をチラッと見て……いやいやそういうのはダメだと自戒する。

 

 

「お前ら、おれをさしおいてこんなうまいモン食うとはひでェじゃねェか!!」

 

 

 あ、ルフィさんだ。元気なお声に頬が緩む。

 ぷりぷりして大股に歩いてくる姿に「お仕事お疲れ様です」と声をかけながらお皿を差し出す。

 

「ルフィさん、これ食べかけですが、よければどうぞ」

「お! ありがとう!」

 

 早速手づかみでむしゃっと食べるルフィさん。ワイルドだなぁ。ウソップさん達が多めに頼んでいてくれたおかげでルフィさんの機嫌が直って良かった。ゾロさんに「甘やかすな」って怒られたけど、頑張ってるんだしこれぐらいは良いと思う。

 

(あ、そうだ。店主さんに直談判したかったんだ)

 

 少しはお腹も満たされたし、ルフィさんに店主さんの「ああ海よ今日という日の出逢いをありがとう!」どうしたのコックさん!?

 

「ああ恋よ♡ この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい」

 

 あ、ナミさんを口説いているのか。……くっ。御目が高い!!

 

 ナミさんの肩に更に身を寄せつつ、ふとコックさんの後ろに迫力のある男性を見つけてしまう。腕を組んでジッと愛を叫ぶコックさんを見つめている。

 

「僕は君となら海賊にでも悪魔にでも成り下がれる覚悟が今できた♡ しかしなんという悲劇が!! 僕らにはあまりに大きな障害が!!」

「障害ってのァおれのことだろうサンジ」

「うっクソジジイ!!」

 

 ……お父さんかな?

 

「いい機会だ。海賊になっちまえ。お前はもうこの店には要らねェよ」

「え?」

 

 ふあ!? 突然の親子喧嘩!?

 というか、わざわざ此方でやらかすのですか!? お客さん達ざわめいていますよ!?

 

「おいクソジジイ。おれはここの副料理長だぞ。おれがこの店に要らねェとはどういうこった!!」

「客とはすぐ面倒起こす。女とみりゃすぐに鼻の穴をふくらましやがる。ろくな料理も作れやしねェし、てめェはこの店にとってお荷物なんだとそう言ったんだ」

 

 あわわ。オロオロしながらも、なんかこれに近い光景、どこかで見た事あるなって記憶に引っ掛かりを覚える。

 ええと、確かあれは……ゴミ捨て場で、手あたり次第に物を拾って視ていた頃、んん、使い古した道具から……

 

「知っての通りてめェはコックどもにケムたがられてる。海賊にでも何にでもなって早くこの店から出てっちまえ」

「なんだと、聞いてりゃ言いてえこと言ってくれんじゃねェかクソジジイ!! 他の何をさしおいてもおれの料理をけなすとは許さねェぞ!! てめェが何を言おうとおれはここでコックをやるんだ!! 文句は言わせねェ!!」

「料理長の胸ぐらをつかむとは何事だボケナス!!」

 

 ガシャーン!! という派手な音と視界の傍で何かが動いたのを感じながらうーんと悩んで、ポンっと手を叩く。

 

(思い出した! これアレです! 素直じゃないお父さんが息子さんの夢を応援するやつです!)

 

 どうりで見た事あると思った!

 

「「ん?」」

 

 これ、お父さんも息子さんにちょっと甘えているのがほっこりポイントです。いつかは分かってくれるって信じてるんです! わざわざ人前で恥をかかせて貶すのはやりすぎだと思いますけど、獅子が子供を崖から転がし落とすみたいに、男が男の旅立ちを応援するのは熱いです!

 

「な、ナナ?」

 

 あの日視た、壊れたおもちゃに焼き付いた記憶。

 お父さんには持病があり、息子さんが自分を案じて大手のスカウトに応じないのが嫌だった。……そこで不器用なお父さんは息子さんが出て行く様にしむけて、息子さんが作った自信作のおもちゃをお客さんの前で酷評して、壊して、追い出した。息子さんは怒り心頭で出て行ったから周りも同情的で、親を捨てたなんて噂もたたなかった。1人になったお父さんは少しだけ寂しそうに、だけどそれ以上に誇らしそうに、壊したおもちゃを修理して、小さなおもちゃ屋の一番高いところに飾った。

 

「ナナ、ちょっとナナ! ねえ、両手がお皿で塞がって触れないんだけど……」

「……奇遇だな。おれ達もだ」

「……料理、頼みすぎたかもな」

 

 あれは、良い記憶でした。素直じゃないお父さんの愛を感じて、寂しさと温かさを覚えました。そして、大きくなってから不服そうにお嫁さんを連れて来た息子さんは、直されているおもちゃに気づいて、お父さんと鉢合わせ。……何故か殴り合いがはじまって、お互い鼻血でるまで文句を言いあって顔がボコボコで、笑って、泣いて、お酒を飲んで、最後はお孫さんを抱き上げて、とても幸せそうで……

 

(……そんな思い出のおもちゃ、どうして捨てられてたんでしょう……?)

 

 ぅ、胃が痛い。……そうか。考えるだけで鬱になりそうな”その後”を想像するのが嫌で、この記憶を忘れていたんですね。……辛い。

 少し寂しいオチがつきましたが、ああいうのを見て、職人気質のお父さんと息子さんって特に複雑なんだなぁって覚えたんですよね。

 

「……あの、ナナ、そろそろ……」

「むごいな……」

 

 ソレを参考にすると、先程までの光景も理解できる。料理長さんは、恐らく自分の為に出て行こうとしない息子さんに”此処に縛られずやりたい事をやれ!”って背中を押してるんだろうなぁ。

 

 もしかして、ルフィさんがコックさんを勧誘してるの見てたのかな? コックさんの反応だと、あんな風に”要らねェ”なんて言ったの初めてみたいだし。……タイミング的に、お互いに素直になれないからこそ発展した愛のある大喧嘩なんですね! ただの予想で妄想だけど、これはそう外れていないと見ました!

 

「……。ルフィ、これ食べて。あとお皿も持って」

「分かった!」

 

 あ、気づけば仁王立ちして睨みあって一触即発の料理長さんの耳が赤い。……コックさんは、俯いているけど耳どころか顔が「ナナ」あ、ナミさん。

 

「船に、戻るわよ。……あの、私達の事は気にせず、ごゆっくり!」

「え? 私はちょっと店主さん、いえ料理長さんにお話が」

「ナナ……今日は何を言っても火に油よ。話は明日にしましょう。……ね?」

「は、はい?」

 

 なんだろう。ナミさんがいつになく慈愛と哀れみの混じった表情をしている。

 首を傾げながら外に出ると、ガシャーン、ドカーン、グワシャーって凄い音がして「口で言えやクソジジイ!!」「うるせェボケナス!!」「えらい恥かいたわくたばれクソジジイ!!」「こっちの台詞だとっとと出て行けボケナスァ!!」って聞こえてきた。

 

 でも、さっきまでの険悪な空気じゃ無くて、なんかとにかく暴れて発散したいみたいな感じ。……あんな口喧嘩の後なのに、やっぱり仲が良いんだなぁ。

 

 

「……まさか、ここまで取り扱い注意なんて、予想外すぎるでしょ」

 

 

 え? ナミさんは、何やらぶつぶつ言ってから、チラッと私を見る。

 それから、肩をすくめて「ま、事故だししゃーない!」と、私と向かい合う。

 

「……そうね。図らずも2人きりになったし、ちょっとナナにお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「おねがい? ……分かりました! 何でも言って下さい!」

 

 ナミさんからのお願い。身を乗り出して頷くと「ありがとう!」と、ナミさんは私の手を両手で握りしめる。

 

 

「私を、実家に送ってちょうだい。あいつらには内緒で。……ちょっと、忘れ物しちゃったの♡」

 

 

 その表情は(……!)今までに見たどんなナミさんの笑顔より”空っぽ”だった。

 だから気づいた。これは多分、悪い事だ。ナミさんは何か、ルフィさん達が困る事をしようとしている。

 私に、嘘と本当が五分五分のお願いをしていて、だまされているかもしれなくて、巻き込まれる可能性があって、ナミさんの様子がおかしいナニかがその”お願い”にはあるのだと気づいた。

 

 ナミさんは()()()()そうしようとしている。

 

 

「分かりました!」

 

 

 だから私は、二つ返事で頷いた。好きな人の、ナミさんの共犯者になる事を決めて、ルフィさん達に恨まれて殴られるかもしれない覚悟を決めた。

 

 ああ、良かった……! ナミさんが1人ぼっちで何かをしたら、気づけなかったと思う。

 だから、私に声をかけてくれて本当に良かったと、深い安堵を覚えてナミさんの変わらない笑顔に笑みを返した。

 

 

 

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