サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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26話 ナミさんのお姉さんに出会いました

 

 

 おかしいな、幸せな夢からいまだ目覚めない。

 

 自分の頬をギリギリと抓ると「やめなさい」と優しく止められてなでなでされて、心臓が止められそうになった。

 ぐぎぎと筋肉を軋ませながらナミさんを見れば、にっこりとご機嫌な笑顔。……こんな天使みたいな子に、さっき「お嫁さんになってあげる♡」みたいなこと言われたんですよ私。幻覚キめすぎてますね?

 

(心からお待ちなさい私)

 

 多分聞き間違いだと思うけど、そうじゃないとおかしいけど、ナミさんが私のおおおおお嫁さんになるのは、色々と脈絡が無さすぎますよね? 何より、私は自らの欲望をこれでもかと押し隠しているので、私が女好きでハーレムを目指す最低浮気女だとばれている訳がなくて……つまり起きながら現実と妄想の区別がつかなくなるって今すぐ入院案件でナミさんお胸があたっていますよ!!??

 

「~♪」

 

 あ、すりすりは、すりすりはダメです理性が飛びます。状況に納得がいけば今すぐ抱きしめて大人の階段を昇りたいので本当におやめくださいッ。

 くっ。混乱して膝を抱えている私によりべったりくっついてお胸をふにふにさせてくるナミさんの可愛さに心臓が溶けそうッ。今まで肩に籠っていた力が全部抜けてしまった様な、ふにゃふにゃお顔がすんごく良いです好きッ!!

 

(って、だから、そうじゃなくて……!)

 

 冷静になれ私! 都合が良すぎるというか、まずなんでナミさんの口から『お嫁さん♡』というワードがでてくるのか謎すぎますよね!? いくら独り言が多い(らしい)私でも、そればっかりは口を滑らせる訳がない!!

 

(……そうだ、ナミさんは凄く可愛い違う冷静になれ私)

 

 お嫁さんにしたい、なんて毎日呼吸する様に思っているけど、全て本気でありポロッと口から出る訳がないのだ。声に出す時はプロポーズをする時であり、記念日であり、愛を確かめあう時だけである。日常的に軽々しく愛の言葉を投げかけて未来のお嫁さんに飽きられたら大変ではないか。

 

(……だからこそ、ナミさんが分からない。ミステリアスなのも魅力的だし悪ぶってるのも素敵だしこうやって家猫みたいに警戒心0なのも可愛すぎるけど、どこまで分かっていてそんな事言うのか全く見破れない。まさかとは思うが、ナミさんは人の心が読めるのか?)

 

 もしそうなら、私が現状に迷い悩み苦しむほど「んふふ♪」とか「……ふふっ!」と笑っているのは気のせいじゃない事になり、それならちょっと不機嫌な顔をしても許されるのではないだろうか? ナミさんのお胸の感触で顔がだらしないので無理だろうなと思いつつ、阿呆な事を考えてないと何を口走るか分かったものじゃない。

 

「ん、そろそろね」

「へあ?」

 

 悶々としていると、ナミさんが私の肩で休ませていた頭をあげる。

 慌てて、くらげみたいにふよふよした脳みそを引き締める。ナミさんに手を引かれるまま立ち上がると、遠くに島が見えた。

 

「……この方向をまっすぐに行けば、私の家よ」

「ナミさんの家!」

 

 幼いナミさんが過ごしていた家がある。想像して興奮を隠しきれなくなりながらも、多大な感情を押し殺す様に、熱い眼差しで島を見つめるナミさんの横顔に(……うん)改めてギンさんに感謝する。

 

(おバカとか言ってすみませんでした。ナミさんが、最初と違って心から笑ってくれるんです。次に会った時、ドン・クリークさんも一緒にご飯を食べましょうね!)

 

 ギンさんへの返しきれない恩をしっかりと心に刻んで、ナミさんの故郷を見つめる。……好きな人の故郷だと思うと、自然と見入ってしまう。

 

「……」

「!?」

 

 えっ、急に満更でもなさそうなナミさんにぴとっと隙間なく寄り添われて、あの、えと、腕も組んだままでとてもお近くてありがとうございます!?

 

「……ナナ」

「はい!?」

「……あの島に、ノジコが、私の姉が1人で住んでいるの」

「! ナミさんのお姉さん」

 

 それは、さぞかしお美しいお姉さんなんだろうな、と想いを馳せつつ(1人……)と、ナミさんの事情が更に気になってしまう。

 ……いいや、話してくれるまで私から問うのはやめるべきだ。思いつく限りの疑問はあるけれど、問うに足る理由なんて無い。今のナミさんは、ギンさんのお宝のおかげで心から笑えている。

 

(なら、それで良い。ナミさんが話したくなる時まで、私が待っていれば良いだけだ)

 

 そして、私に話したくないというなら、それでも良い。

 

 話せるなら、それができるならとっくにルフィさん達に語っていた筈だ。思い出せば笑顔が一番に出てくる素敵な人達。あんなに頼りがいがあって、まっすぐで、気が良くて面白くて、ナミさんを怒らせて笑わせて、信用できる楽しい人達に、頼れないぐらいの”事情”だと薄々察している。

 

 だから、話を聞けても聞けなくても、私は勝手にナミさんの”事情”に巻き込まれると決めた。

 嘘でも冗談でも、私の”お嫁さん”になってくれると言ってくれた女性に、命がけの深入りをする資格はあると思うから。

 

「……ん。……もうすぐ着くわ」

 

 考え込んでいる内に、メリー号は随分と陸地に近づいていた。

 ……目を凝らして見つめれば、あれは、みかん畑でしょうか? 瑞々しくて美味しそうだと少しの空腹を覚えつつ、みかんの料理って何があるか考えてしまう。そうやってしげしげと見つめている内にナミさんに促されて上陸の準備を始める。今は2人だから少し忙しなくメリー号を停泊させて、久方ぶりの陸へとお宝を背負って足を降ろす。――――揺れないって素晴らしい!!

 

「……船酔い、早く治るといいわね」

「はい!」

 

 あー。全身を覆っていた気持ち悪さが遠のいていく。

 硬い地面の感触にジーンとしていると、ナミさんが手頃なみかんをもいで、早速一口食べている「はい」「!?」そして、不意打ちで私の口にいれてくれる。甘くて美味でナミさんのあーんもあって至高の味がする。

 

(それにしても……)

 

 土と木とみかんの香りが心地良い。

 ここが、ナミさんの家の周りの匂いなのか。……うん。ゆったりと周りを見渡して、この光景や香りを堪能しつつ、瑞々しいみかんの葉に触れると「あ」小さな、残留思念の様なものを感じる。

 

「ナナ?」

「な、なんでもないです」

 

 あぶない。慌てて、手袋をしていて良かったと日常的な安堵を感じながらお宝を背負い直す。……油断すると人様のプライバシーを損害する己に苦笑しながら、誤魔化せた事にホッとする。

 

「……ナナ、気になる事があるなら「ナミ?」―――ノジコ!」

 

 もご!? 手にしていたみかんを皮ごと口に突っ込まれた。

 ちょ、無理です! 私はルフィさんじゃないので入らないです! お宝を降ろ――すわけないでしょう畑が傷ついたらどうするんですか意地で食べろ私ッ!!

 

「ごめん」

「ぷはっ!」

「……今のって」

「しー!!」

 

 ナミさんが、私に背を向けてノジコさん? を威嚇している。

 美女だ。目の前に現れた美しい人は、水色の艶やかな髪が涼し気で、唇がぷるっとしているのが最高に色っぽい。流石ナミさんのお姉さん、知っていたけど目が喜んでいる! ときめきながらもナミさんの突然の行動が可愛い更にときめく『しー!!』ってどういう挨拶ですかここもまた楽園だ。

 

「……。あー。随分と……愉快な子ね。もしかして、ナミの友達?」

「ううん、旦那」

「そう――旦那ぁ!!??」

 

 旦那ぁ!!??

 

「って、なんで一緒に驚いてるのよ!! まったく……」

 

 ぺしっとナミさんに叩かれたけど、いえでもまってそれつまり本当にナミさんが私のおおおおおお嫁さんになってくれるっていうか――――プロポーズもしてないのに!!??

 

「……説明して! 流石に意味が分からないから!」

 

 ノジコさんが、額を抑えながら手の平をむけて、真剣にお願いしている。いいですもっと言ってあげて下さい!

 

「説明も何も、見ての通りよ? この子はナナ。私にべた惚れで絶対服従な良い子よ♪」

 

 ! つまり恋の奴隷という事ですか。なるほど……? まあ確かに、べた惚れですし絶対服従も……割と頻繁にしかねないですし間違ってないですね。

 

「ね、面白い子でしょ?」

「……いや、それは認めるけど。ゲンさんが黙ってないよ?」

「ん。……そうかな? ……そうね! ゲンさんにもナナを紹介しないとね♡」

「……まったく。好きにしなさい」

 

 溜息をついて、投げやりに言いながらも優しくナミさんを見つめるノジコさんは、改めて私を観察している。その視線にドギマギしながらも、ふと、ノジコさんの名前を出した時のナミさんを思い出す。目元が和らいでいて声もちょっと弾んでいた。複雑な事情を感じつつも、シンプルにノジコさんの事が好きなんだなぁと思ったのだ。

 

「へー……?」

「……そのニヤついた顔、やめてくれない?」

「はいはい」

 

 ナミさんと何やら軽口をたたき合いながらも、ノジコさんの私を見る目はほとんど笑っていない。私の事を凄く警戒している。ナミさんが詐欺にあっていないか警戒している、というより、そんな訳が無いと信用しながらも心配せずにはいられないと言わんばかりの視線から、揺るがないナミさんへの信頼と親愛が見えた気がして、単純にナミさんの事が大好きなんだなと嬉しくなる。

 

「ふーん……?」

「ナミ、歯ァ食いしばりな」

「あら、大好きな私の可愛い顔を殴る気?」

 

 目の保養だ。突然目の前でじゃれつきあう2人に微笑ましくなる。邪魔をしない様に視界から外れながら、とりあえず肩が外れそうなので荷物を置きたい。どこに置けばいいかときょろきょろすると「――ん」”そこ”かと、この畑には不釣り合いのふわふわに足を向けて、ナミさんに上着を引っ張られる。

 

「……私が運ぶから、ナナは休んでて」

「え、手伝いますよ?」

「いいの。だって、今から掘り出すんだもの。……これだけは自分でやるわ」

 

 ナミさんは、私から大事そうに荷物を受け取り、興奮を滲ませながら畑の一角を見て、ふうーっと静かに感じ入る様に瞳を閉じる。

 

「! ……ナミ、それって」

「ええ」

 

 声を震わせるノジコさんに、ナミさんも抑えきれない感情を滲ませて、笑う。

 

「貯まったのよ、1億ベリー……!! 今すぐゲンさんに伝えてきて!! 私は、今日中にこの村をアーロンから買い取るわ!! 皆で、このお金をアーロンに付きつけに行きましょう!!」

 

 ……。

 1億ベリー、ゲンさん、アーロン、買い取る。

 

 うっすらとだけど事情が見えてきたと整理していると「え」ノジコさんの驚愕の瞳と目が合う。その、信じられない、と言わんばかりの表情に戸惑う。な、なにかありました?

 

「待って、ナミ……! まさか、何も知らないこの子を、あんたは旦那とか言って連れてきたの!?」

「ええ」

「……その子から、お金をだまし取った? この子、海賊じゃないだろう!?」

「……」

 

 ナミさんは、戸惑う私をチラリと見て、まっすぐにノジコさんを見つめて、力が抜けたようにふにゃっと笑う。

 

「それがさ、騙そうか迷っている隙に、譲渡されちゃった」

「!」

「この子、なーんにも知らないのに、そういう事するのよ。まいっちゃうわよね」

「……! 分かった、ゲンさんに知らせてくる!」

 

 ノジコさんは、僅かばかりじゃ無く潤んだ瞳を隠す様に、背を向けて勢いよく駆けだす。

 

「……ッ!!」

 

 けれど、数歩で足を止めて、自然と震えてしまう腕をぎゅっと抑える様にして勢いよくナミさんを振り返る。

 

「おめでとう、ナミ……!! やったね……!!」

「ッ。うん……!! ありがとう、ノジコ!!」

 

 

 ―――ああ。

 

 私は、このお2人に何があったのかなんにも知らない。

 

 だけど、きっと、積み重ねた2人の努力が実を結んだのだと悟った。

 だから、そんな弾けそうな感情に呼応する様に、この畑に染みついた残留思念が、手袋越しにでも伝わった。畑に焼き付いた誰かの記憶が、私の脳みそにある瞳が、不思議な女性を視せる。

 

 独特の髪型をしたその女性は、ナミさんとノジコさんを見ると得意げに腰に手をあててニッと笑う。

 

 

「「――――――!!??」」

 

 

 すごく綺麗な人で――ってまたそういうの勝手に視ちゃったッ!?

 

 慌てて手袋を確認するもやはりしっかりとつけている。つまりそれぐらい、この畑は、あの女性の心が焼き付いているのだと気づいて「……」少し、しみじみした気持ちになる。

 

(……こんなに、はっきり視えるって事は、あの女性は……)

 

 すでに……亡くなってるんだろうな。

 

 物に焼き付く、誰かの最期の記憶に年月はあまり関係ない。

 あの素敵な女性の記憶は、この畑にしっかりと残っている。そして、その焼き付いた記憶がほんのり熱を発したという事……それが、あの女性が2人を心から愛していた証拠とも言える。……シュシュの時と同じ様に。

 

(死んだら終わり、なんて言うけど。……物の記憶が視える私には、そうは思えない)

 

 手袋越しで視えるぐらいの強い感情。私の目に視える女性は笑っているけど……すでに、そこに彼女の意志は無い。……条件反射の様なものだ。

 

 でも、そんな不確かなものだからこそ、刻まれた”愛”をはっきりと感じられる。

 

 手袋をちょっとだけ外す。

 

 

『なーに? うっさいわね』

 

『あらナミ、お帰りっ』

 

 

 ああ、そうか。

 最初に感じた感覚。この記憶は、ナミさんに”お帰り”って言っていたのか。

 そして、今揃っている2人には。

 

 

『ノジコ!! ナミ!! 誰にも負けるな!!』

 

 

 女性の激励だった。

 その声は、とても力強くて、眩しくて、優しい。

 

 

『女の子だって強くなくちゃいけない!!』

 

 

 ……。そうか。

 

 もしかしなくても、この女性はここで亡くなったのだろう。

 これは、この人の走馬燈だ。……この女性は死ぬ間際に、このみかん畑に染み込むほどに、彼女たちを案じて、心配して、愛して、恨みも辛みもあっただろうに、そんなつまらないものは知らないとばかりにひたすらに愛を抱いた。だからこそ、強烈に優しい記憶だけが刻まれた。

 

(……勝手に見ておいて、勝手に泣きそうとか、無いな)

 

 グスッと鼻を鳴らして、手袋をぎゅうっと付け直す。

 この女性の事が知りたくて、後で聞いてみようと……改めてナミさんとノジコさんを見れば2人は、蹲って泣いていた……――――なんで!!??

 

 子供みたいに、童心にかえったかのように抱き合って、声を押し殺す様にボロボロと涙をこぼしていた。私が慌てて近づくと、2人は一瞬だけ私を見て「「……―――――うわああああああん!!!!」」声を出して泣きだして―――えっ、あの、ちょ、だだだだ誰かー!!??

 

 近づいてオロオロするだけの私は、この泣き方に酷く胸を締め付けられて、抱きしめたくて、だけどこれは2人だけの涙だと、拳を握りしめる。

 

 大きな2人が、幼い子供の姿に視えてしまった。

 

 ッ、分かってしまう。本当の本当に、2人は頑張って、何かに耐えて、1億ベリーなんて大金を貯めたのだ。そして、ようやく”今日”が来た事と”何か”がきっかけで堰き止めていたものが溢れてしまった。……私は動揺しながらも、ゆっくりとこの場を離れる事を決意する。

 

 

(ナミさんとノジコさんの、やっとできたこの時間を、邪魔したらいけない……!!)

 

 

 いっぱい泣いて、もっと子供になれば良い。

 

 私にできる事を考えて、ゲンさんという人を探そうと、その人に会うために心苦しくも一歩踏み出そうとして、ぐいっと。

 

(……え?)

 

 ナミさんが、私の上着の裾をぎゅっと握っていた。

 ちょ。そりゃもう、しっかりと握って皺になるぐらいのがむしゃらな力だった。ノジコさんと抱き合いながら、抱き合うのに邪魔だろうに、ちっとも離す気が無かった。

 

(……はい)

 

 私は、2人の美女が泣きやむまで、雑草並みに気配を消して傍にいる事にした。

 せめて泣き顔を見ない様にと膝を抱えながら背中を向けて、ひたすら静かに待つことにする。

 

 途中で、何故か手袋をとられそうになったり(やめよう?)抱きつかれたり(ありがとうございます!?)ベルメールさんという女性の話を聞いたり(あの女性でしょうか?)とにかく、普段はしっかりと地に足をつけている様な女性2人が、無理をして大人になった様な2人が、今日という日に子供に戻れたのは、少しだけ喜ばしくて……私は何故か八つ当たりされる様にげしげしぼこぼこ叩かれたり蹴られたりして、そんな子供みたいな2人にボロボロにされながら、くすくすと笑ってしまった。

 

 これでは、ナミさん達が会いたがっているゲンさんを呼びに行くのは、もうちょっとだけ遅れそうだ。

 

 

 

 

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