サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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2話 声なき声が流れてきます

 

 

 昔、不思議な実を食べた事がある。

 

 飢えに飢えて、死にかけの身体で見つけた不思議な実が、私の命を今日まで繋いでくれた。

 涙を流しながら食べたそれは、空腹のスパイスも誤魔化せない程にまずかったけれど、だからこそこの味を絶対に忘れないと誓った。

 

 その日から、私は物の記憶が分かる様になった。

 

 おかげ様で、瓦礫の下に隠されたお金を見つけられた。それを持ち主に届けての金一封を糧に、細々と路地裏で生きていける様になった。

 

 物に触れると、過去の記憶が流れてくる。

 

 他人のプライバシーを侵害している様で、普段は手袋をしているのだけど、強い想いはそれ越しにでも頭に流れ込んでくる。

 今日の様に、ペットフード屋に込められた、シュシュを案じる意志なき声が、私には届いたのだ。

 

 誰かの歩みの軌跡が、人生の輝きの一幕が、不意に感じられる私にとって、この光景は到底許せないものだった。

 

 ガラガラと、一瞬にして崩れていく建物を見ながら、その悪意に唇をギリリと噛む。

 この町が、そこに住む人達の文字通り血と汗と涙で作られていることが分かるからこそ、無意味に壊されていくのが辛かった。

 意志なき意志が伝わるだけの、何もできない自分が情けなくて悔しい。

 

 目の前で、バキバキと砕かれた建物の記憶。痛みと悲鳴に頭の奥を揺さぶられながら目を逸らせない。

 

 

『ここに、俺達の国をつくろう!』

 

 

 あの老人の面影がある若者が、一からのスタートを始めている。

 

『海賊にやられた古い町のことは忘れて……』

 

 その時の彼の顔をこの町は覚えている。その裏で一人零された、理不尽に失った過去への悔し涙すら、この大地は覚えている。

 

 彼の元に集った人達が畑を耕している。喧嘩をしている。意見の相違がある。お酒を手に笑っている。男性が女性に微笑ましいプロポーズをしている。赤ちゃんが生まれて、徐々に人が増えていく。平地が町になっていく。そんな光景がゆっくりと流れて、だけど時間にしては1秒もないのだろう刹那の幻。ツンと鼻の奥が痛む。

 

 古い町は、忘れさられたのではなく、新しく生まれ変わったのだ。そんな新しい町まで無慈悲に壊されていく様は『知って』いるからこそ悔しくて、パラパラ崩れていく砂埃さえ眼球の裏に刻み付ける。

 

(私は、忘れない……!)

 

 声なき痛みを、奪われてしまった無念を、私はちゃんと覚えていく。

 

 この町がどんなに素晴らしい町なのか、住人達の息づかいすら響いてくるからこそ、震える呼気を吐き出す。

 

(なんてことをするんだ……!! 道化のバギー……!!)

 

 そうやって無力に、ただ壊れた町の残骸を見ているしかない私の隣で、ゆっくりとお爺さんが立ち上がる。彼は目に涙をためて、くしゃりと私の頭を撫でる。

 

「……ありがとう、娘さん」

 

 え……?

 

「……なに。……あんたの目を見れば分かるさ。この町の気持ちをくんでくれて、ありがとう。お陰様で、懐かしい夢が見れたよ」

「おじい、さん?」

 

 皺を優しく歪ませて、名も知らない老人は「うぉおおー!!」突然叫び出す。……び、びっくりした。

 

「こんな事が許されてたまるか!! 二度も潰されてたまるか!! 突然現れた馬の骨に私らの40年を消し飛ばす権利は無い!!」

 

 その叫びと同時に、頭の奥がまたぐわんぐわんする。

 ああ、町が悲しんでいる。町に愛されている彼の怒りに町が泣いている。

 

(お爺さんは町を愛しているけれど、町だってお爺さんを愛している)

 

 その事を、当の老人に伝えたくて、その覚悟が分かるからこそ下手な事は言えなくて、どう伝えれば良いのだと歯噛みしていると、お爺さんが私を見る。ルフィさん達と話していた時とは嘘の様に、穏やかな顔で笑って、意を決した様に「待っておれ、道化のバギー!!」と走って行ってしまう。

 

 ……………ッッ!!

 

 危ない、無謀だと、慌てて立ち上がろうとすると、ぐっと肩に手が乗せられる。

 

「大丈夫。俺はあのおっさん好きだ! 絶対死なせない!!」

「ルフィ、さん」

「……何だか、盛り上がってきてるみてェだな」

 

 ふあ!?

 

「しししし! そうなんだ」

「笑っている場合かっ!!」

 

 新しい声に振り返ると、緑髪の剣士が腕を組んで胡坐をかいている。い、いつからそこに? びっくりしたけど、ルフィさんとオレンジの彼女のお知り合いらしい。

 

「っていうか、あんたあっちで潰れてたんじゃないの?」

「あ? この女がうるせェから、とっくに起きてたよ」

「……う、うるさい? あの、どなたさまですか……?」

「ロロノア・ゾロ。お前さんは?」

「な、名前は無いです。だけど、よくナナシって呼ばれています」

 

 初対面の人にうるさいって言われてしまった……。やっぱり独り言が出ているのだろうか? 自覚はないけど、本当に出ていたら恥ずかしい。

 両手で口を抑えていると、迷いのない声が聞こえてきてハッと顔をあげる。

 

「――俺達が目指すのは"偉大なる航路"。これからその海図をもう一度奪いに行く! 仲間になってくれ! 海図いるんだろ? 宝も」

「! ……私は海賊にはならないわ! "手を組む"って言ってくれる? お互いの目的の為に!!」

 

 私が思考を逸らしている間に、彼らの話はまとまったらしい。

 

 私が先程の大砲で尻餅をついたままなのに反して、彼らは堂々と立っている。

 戦う力なんて無い私は、彼らの後に続きたい気持ちをぐっと抑え込みながら、当初の目的を叶えるためにこのペットフード屋の前に立つ。シュシュもまだ此処にいる。……立派だけど、人のいる所に逃げて欲しいなぁ。

 

「あんたも行くの? お腹のキズは「治った」治るかっ!!」

 

(この人達、凄いなぁ……)

 

 こんな危機的状況で堂々と歩いていく彼らの背中は頼もしくて、私には眩しすぎる。

 

(……仲間って、あんな感じなんだな)

 

 羨ましくて見つめていると、くるりとルフィさんが振り返って、大きく手を振る。

 

「ナナシー! すぐ帰ってくるから、そこで待ってろよー!! そんで一緒に冒険に行こうぜー!!」

「……え?」

「うちの船長のご指名だ。諦めるんだな」

「……っ」

「あーあ。こんなのに目をつけられちゃって、可哀想に……」

 

 同じく振り向いて、彼らが笑っている。

 

 一緒に歩めない私に、何故彼らが笑ってくれるのか分からない。

 けれど、胸に熱いものがこみ上げる。ああ、嬉しい。弱い自分が悔しい。あの人達が好ましい。――――なんて、愛すべき人達なんだろう!!

 

 ぶわり。

 

 そんな溢れる気持ちで、私は大きく3人に手を振る。

 

 驚いた顔で振り向く3人に、笑顔を見せる。本当は、ルフィさんが私を迎えに来てくれるなんて信じていない。

 だけど、3人の無事を祈る為の約束を貰えたのだと。シュシュと一緒に、彼らを信じてこの場で待つ。

 

「いってらっしゃい! みなさん!」

「ワン! ワンワン! ワンワン!」

 

 シュシュと一緒に彼らの背が見えなくなるまで見送った。

 

 そして、大砲の音にいちいちびくつき、激しい破壊音に怯えて、ぴいぴい情けなく泣いてしまう私を、シュシュはおすわりしながらずっと「ワン!」と慰めてくれていた。

 

 ぐわんぐわんと、何かが壊されたりするたびに、彼らの死闘が建物を通して頭に入ってくるのが地味に辛かった。

 ずっとハラハラしていたけれど。最後の最後にルフィさんが道化のバギーを吹っ飛ばした時、シュシュを抱っこしておもいっきり喜んでしまった。

 

 ルフィさんは凄い人だと。私は彼の凄さに心底痺れてしまった。

 

 

 

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