サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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29話 応援なら任せて下さい

 

 

 はい。アーロンパークに招かれて早々にナミさんと別れ、冷静になってしまった私です。

 

(あ、あわわ、あわわわわわわ……!?)

 

 死ぬほど怖いんですけど!?

 ガクガクと、大きなプール前で膝を抱えながら左を見ても魚人、右を見ても魚人の空間で心細くて震えている。怖すぎて命の危機しか感じられない。

 

(な、ナミさんは、アーロンの仲間とお金を数えるから、それまで待機って言ってたけど……)

 

 待ち時間の間に”事故”で生死不明になったりしないかと、本気で不安になってしまう。

 それに、さっきからじろじろと視線を感じて胃がキュッとする。足元からそわそわして居心地も悪い。自分が先程まで何をして何を考えてどんな態度をとっていたのか思い返して……特に、ナミさんの故郷の村で馬鹿みたいに転んで鼻を打ってハンカチを汚した辺りに本日最高ダメージを受けている。

 

(心が痛い!! このまま水に沈んでしまいたい!!)

 

 恥の大盤振る舞いすぎて、ナミさんの目にどう映ったのかと考えるだけで羞恥にゴロゴロしたくなる。

 

「…………」

 

 っていうか、私を招いたアーロンは何故か椅子に座って奇妙な物でも見るみたいに私を観察している。絶対に目を合わせない様に背中を向けているけど、視線がビシビシ背中に刺さるのだ。

 

(無視です無視!)

 

 いえ、本音ではめちゃくちゃ怖いです。でも私は、脳内で一度でも”敵"だと認識してしまうと、その相手に対して無謀な振舞いをやめられない悪癖があるのだ。

 

(我ながら、早死にしそうな習性だよなぁ……)

 

 どうして、無駄に意地を張ってしまうんだろう?

 昔とは違い、今の私にはメリーという家もあるし、ルフィさん達というお友達(そう呼んでいいよね?)もいる。長生きしたいのになぁ。それにお嫁さんは絶対に欲しい。だから、ナミさんの真意はどうあれ、私を旦那と呼んでくれた以上は全身全霊で、いつもより大胆に2歩ぐらい踏み込んで巻き込まれにいったけど。

 

(結局、いまだにナミさんの事情が分からないんだよなぁ……)

 

 やっぱり信用されてないのかな?

 落ち込みながらゆらゆら揺れるプールの水を見つめていると、すいーっと何かが泳いで来るのが見えた。……なんだろ? いや魚人だろうけども。

 

「よー」

「……やー」

 

 とぷんっと静かに顔を出したのは、タコの魚人の様だった。挨拶されたので力無く返事を返すと、よいしょっとばかりに私の隣に座る。

 

「お前、ナミの事なーんにも知らねェんだな」

「……えぇ? 何でそんなデリケートな問題を知ってるんですか……?」

「そりゃあお前ェ、おれがはっちゃんだからさ! 『ハチ』とそう呼んでくれ!」

「分かりました、ハチさん……」

「……元気ねェなぁ、ナミの事教えてやろうか?」

 

 え!? つい反応すると「おいハチ。客人に余計な知恵をつけるんじゃねェ」というアーロンの声に、あ、じゃあいいです! と無駄な意地をはりたくなる。

 

「結構です! ご親切ありがとうございます! ナミさんの口から直接聞きます!」

「そうかぁ、そういやお前は誰だ?」

「ナナです。ナミさんがつけてくれました」

 

 ほうほうと、そのままハチさんはプールをすいすいと泳いで行ってしまう。……そのつかみどころのない感触にちょっと肩の力が抜ける。……変に悪意の無い魚人さんだなぁ。

 アーロンとか、ここらにいる魚人達からは何かしら嫌ぁな濁った感じを受けているので、余計に心を許しそうで危うい。

 

(……此処は敵陣だし、しっかりしないと。……ナミさん、まだかなぁ)

 

 心がすでに限界で、もう今すぐにでも会いたくて寂しい。

 まだ数え終わらないのかな? 渡したお金は確実に足りているし、早く戻って来て欲しい。……もしかして、お釣りの精査に時間をかけてるのかな?

 

(でも、ちょっと勿体ないな)

 

 即物的に売らずに、下調べしてちゃんと収集しているお金持ちさんと交渉すれば、大抵の品なら最低100万ベリーでいけそうなのに。

 頭の中で、紙幣以外のお宝を思い出しながらプールの水を見つめる。……そういえば、あの金のカップは”西の海”で欲しがってるおじさんがいたな。贋作だけど、金でできてるから価値はあるみたいだし、どちらかといえば贋作者のファンになった変わり者。

 色々視すぎてごっちゃになってるけど、お手紙でも書いたらどうかな? ……いや、いいか。アーロンが儲かるとか素直に腹立たしいし、黙っていよう。

 

「……分かってるな? 調べてこい」

「へい!!」

 

 ああ、ナミさんに会いたい。

 正直に言って、男性しかいないこの空間はときめきが足り無くて息が詰まりそうだ。女性がいないとか正気を疑ってもいる。アーロンパークに居座りたくない理由の9割がこれだ。

 

「多いな! そうだ、女と言えばアーロンさんには妹がいるぜぇ」

「……えっ!? 聞きたいような聞きたくない様な……!?」

 

 突然、ぬうっと出てきたハチさんが「シャーリーっていうんだけどなァ、美人だぞォ」とか教えてくれるから凄く興味を引かれてしまった。……いや、しかし、アーロンをお義兄さんとか呼びたくないな!! 

 

「……シャーリー! そうか。このガキ、あいつの”同類”か!!」

 

 ん? アーロンの視線というか威圧感が更に鋭くなった気がしたけど、無視を継続する。

 

「……アーロンさん、同類とは?」

「あいつの特技は知っているな? ……このガキからは、あいつと似た匂いがする」

「――え!? 妹さんを紹介してくれるんですか!?」

「言ってねェだろ!! こ、このガキ、どんな都合の良い耳してやがる!?」

「さっきまで無視してたろ!? アーロンさん、このガキの顎を外しときますか!?」

 

 何故か騒がしい魚人達を横目に、ようやくアーロンと目を合わせると、アーロンは真顔で私を見下している。

 

「……。ああ、会わせてやってもいいぜ。……どうやら、お前にはおれが思っている以上の”価値”がありそうだ」

 

 何言ってんだこの魚人。

 でも、妹さん……どんな魚人さんなんだろう? お嫁さんになってくれないかなぁ。……アーロンの女バージョン。こうかな? ふむ、鋭利な鼻が実に清楚だ。

 

「…………」

「「「「ぶっほお!!??」」」」

 

 突然うるさい魚人達を背後に、むふむふと頬を緩ませる。

 うんうん、血の繋がりに罪はないものね。何故か血管を浮かせて目が血走っているアーロンは嫌いだけど、妹さんに罪は無い。性別も種族も年齢も立場も運命も、愛の前にはしょうがないものです。

 

「こ、こいつ、アーロンさんでなんておもしろ、いや失礼な想像を!?」

「しかも、イけるだと!? どれだけ業が深いんだ……!?」

「チュ♡ ……見た目以上にやばい人間だな」

「くっ。度し難いにも程があるぞ!!」

「……。何で、魚人の方に常識がある様に見えるのよ」

 

 ハァ、というナミさんの悩ましい溜息と声にハッと顔をあげると、可愛らしく額をおさえながら、待ち望んだナミさんが部屋から出て来るところだった。

 

「ナミさん!」

 

 数十分ぶりだけど恋しすぎて綺麗すぎる! ナミさんしかもう見えない。

 

「……やはり悪女か」

「聞こえてるわよ!! ったく。アーロン、数え終わったわ。きっちり1億ベリーよ。あっちは私とナナのね」

「……早かったな」

 

 アーロンはニヤリと笑って、パンっと手を叩くと椅子から立ち上がる。……うぅ。やっぱり大きくて威圧的だな。足がガクガクしてきた。

 

「ナナ、おいで」

「はい!」

 

 あ、今の良い。優しい声で呼ばれた事にときめきながら近づくと、自然と手を繋がれて魂が天に昇りそう。

 

 

「……! 静かになった」

「フン。聞いていた通りという事か」

「……というか、本当に脅威なのか? あのガキは」

「見た目で判断するな。あの威圧はマジ死ぬかと思ったぜ」

「……油断するな」

 

 

 ナミさんの手の感触に浸っていると、アーロンが「それで?」と簡潔に話をもっていく。もっと極上の手触りを楽しんでいたかったけど、しかたないですね。

 

「”どちら”を選ぶのか、もう決まったのか?」

「……ええ」

 

 まあ、私も分かってます。ナミさんは……ちょっとだけ不器用な人ですから。

 苦笑すると、ナミさんが驚いた様に私を見る。

 

「え?」

「……おい、ナミ。今は商談中だ、そのガキと距離をとれ」

 

 ぐっ。ちょっと正論で悔しくなる。アーロンの癖に……! ナミさんの瞳をもっと見ていたけど、今はしょうがないと距離をとる。

 

「……ちょっと、勝手な事言わないで!」

「おいおい、フェアに行こうぜ? ……どうやら、そこそこに脳みそは詰まっているみたいだしな」

 

 相変わらず嫌な笑い方だ。

 ナミさんを仲間だと言いながら、本心で見下しているのが良く分かる目をしている。

 

「……フン。……それで? どちらを選んだか聞かせてくれ」

 

 二択の問題。”自由”か”島”かって、聞いておきながらどちらを選んでもアーロンに損が無いのがずるくて嫌な感じだ。

 それが分かっているからこそ、ナミさんとって答えは決まっている。

 

 

「――――島よ!! 私は1億ベリーで、この島を買うわ!」

 

 

 ほらね。

 ナミさんは、ちょっとだけ不器用な優しい人だから。

 

 そちらを選ぶのは最初から分かっていた。でも、もしかしたら”自由”をとって、後々に後悔する可能性もあったから、少しだけ安堵する。

 これに関しては、取引相手が悪いからナミさんは悪くない。

 

「……なるほどな。歓迎するぜナミ、お前は俺達の仲間だ!」

「……ッ。結果的にそうなるだけよ」

 

 悔しそうに俯くナミさんを見ていると、アーロンという男は本当にふざけていると目を細める。

 ちょっと苛々してきたな。……結局、島をナミさんが手に入れたところで、ナミさんがアーロンから離れられないなら意味がないのだ。色々と”便宜”を図らせられるに決まっている。

 

「……なんだ、気づいていたのか」

「……黙って」

 

 恐らく、アーロンはこの島を支配している。この件でその支配を”若干”緩める事はできても、それもアーロンの気まぐれ次第。島が名実共にナミさんの物になったところで、力による支配の本質は変わらない。

 

(ナミさんも、それに気づいている。というか、当初の予定通りに村を買えたところで……その村に”不幸”が訪れても、それがアーロンの企てだと立証するのは大変だろう)

 

 もしも人が住めない土地になったら……住人はそこを離れて別の村に移動するしかないのだ。

 そう。反則技は無数にあり、約束は守ってもその後の『保証』なんて絶対にこの男はしない。金のやり取り”だけ”信用できても、口約束以上の効力は無い。

 

「……ッ」

「おいおい、そんな目で睨むなよ。……俺がそんなえげつない真似する様に見えるか? あそこのお嬢ちゃんの頭がいかれてるだけだろう?」

 

 それに、この後はナミさんの解放を条件に、更なる金額をふっかけてくるつもりだろう。

 

「……ほう?」

 

 まったく、分かりやすくて浅すぎる男だ。

 思考が読みやすくて、事情はさっぱりなのに予測をつけやすい。こういう浅薄な男のやりそうな事は大体三流なのだ。どうせ島中からお金をむしり取って、楽に稼いで調子に乗っていたに決まっている!

 

「……あ?」

 

 ナミさんに”条件”という一方的な借金を背負わせ、ナミさんに島のお金を集めさせるつもりだ。絶対にそうする筈だ。そうしない筈がない。効率を求めるあまりに効率を落とす系の管理がずさんで下手な奴だ。その割に妙なところで取引上手でたまに有能だから部下が勘違いするんだ。どちらかというとアーロンは運に助けられているだけの力自慢だ。

 

「……そろそろ、調子に乗るなと教えてやるべきじゃないか? ナミ」

 

 なんで突然苛々してるんだこの魚人? カルシウムが足りてないな。

 

「……あら? アーロンもあの子には教えない事を”選択”したんでしょう? 私に言うのは筋違いね」

「チッ!!」

「言っとくけど、間違ってもあの子を制御しようなんて思わないでよ? 藪から蛇どころか鬼が出かねないわ」

 

 今度は、ナミさんと分かり合った風に話しているアーロンにムカムカする。早くナミさんを旦那さんである私に返せ……! 間男って呼んでいやだ絶対に呼ばないナミさんに間男なんていない!

 ぎりぎりしながらアーロンを睨んでいると、アーロンが真顔で私を見据えて不意に獰猛に笑う。……な、なんですか。

 

「……認めるぜ、ナミ。アレは面倒臭ェが、磨けば最高級に使える”道具”になる。気が変わった。おめでとうナミ。今日この瞬間、この島から条件によっては完全に手を引いてやる」

「……!? 何のつもり」

「なぁに。お前とそこのガキが手に入れば、お釣りが来ると言ってるんだ」

 

 アーロンの気持ち悪い視線を鬱陶しく感じていると、怖い顔のナミさんに強い力で抱きしめられて心臓が飛び出しそうになる。

 

「断るわ!!」

「……おいおい。金も無しで、おれと対等に取引できると思ってるのか?」

 

 アーロンが、さてどう料理しようか? とばかりに威圧してくるのにムッとする。

 もうそろそろで、お前の天下が崩れる事が分からないとは、実に可哀想だと心の中で舌を出す。まあ、それは私とナミさんしか知らない事だけど。

 

「……え?」

 

 言っておくが、ナミさんはもうすぐお前の仲間じゃなくなる。

 

「ナナ?」

 

 だって、私はちゃんと書いておいたのだ。あの日、海に落とした手紙に。

 だから、きっと、恐らくだけど、ルフィさん達に届いた筈なのだ。なら、もう時間の問題だ。

 

 

『ルフィさん達へ。

 

 レストランの件が片付いたら、皆で私とナミさんを迎えに来てあげて下さい。

 

 あと、ナミさんの事はあんまり怒らないであげて下さい。なにか事情があるみたいです。

 

                                    ナナより』

 

 

 短いけど、ちゃんと”迎えに来て”って手紙でお願いしたんだから、あの人達が来ない筈がない。

 

 そして、幸運にもナミさんの故郷の村には、ルフィさん達に事情を詳しく説明してくれる人がいる。だから、寄り道しがちな彼らでも迷いなくまっすぐに此処に来てくれるだろう。もしかしたら――――

 

 

 ドゴオオオオオン!!!!!

 

 

 今すぐにでも。

 

 

「あ……」

 

 

 ポロリ、と涙を流すナミさんを見上げて、流石すぎるタイミングの良さに、眩しいぐらい格好良いと笑みが浮かぶ。

 

 激しい衝撃で砕かれた、元は門があった瓦礫の間をルフィさんはスタスタと歩いて、私達を見つけると嬉しそうに「よっ!」と笑ってから、魚人達をぐるっと見渡して、指を鳴らす。

 

 

「アーロンっての、どいつだ」

 

 

 さあ、反撃の狼煙はあげられた。ふんぞり返る時間は終わりだぞ、アーロン。

 

 ルフィさんがんばれー!!

 

 

 

 

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