サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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30話 今を捨てて知る事を選びます

 

 

 スタスタと、迷いなく歩いて来るルフィさんにぶんぶんと手を振って、泣いているナミさんの背をそっと押して道を開ける。ここは危ないから離れましょうね!

 

「……アーロンってのァ、おれの名だが……?」

「おれはルフィ」

 

 肌にぴりぴりくる感じに少し緊張する。暴力の気配を背に砕けた門前を目指して歩く。

 

「そうかルフィ……てめェは何だ」

「海賊」

 

 チラと見れば「おい待てよてめェ」と、進行を塞ぐ様に魚人が割り込んでいて(危ない)と口に出す間もなく「どけ」と一撃であしらわれていた。

 

(い、痛そう……)

 

 肩を震わせながら、魚人達にちょっとだけ同情の視線をおくる。

 これからルフィさんにボコボコにされるのだと思えば、彼らの母やいるかもしれない姉と妹の事を想い、少しばかりの憐れみを覚えてしまう。

 

(見た目にだまされるでしょうが、ルフィさんは凄い人なんです)

 

 だってゴム人間だ。

 キャプテン・クロの戦いを視た時は驚いたものだ。だって、”ゴム”に脳みそと筋肉があるんですよ? あの様子だと内臓も血管も全てがゴム仕様です。破壊力を考えるだけでゾッとするでしょう? まあ、教えてあげる義理もないので言いませんが。

 

(でも、良かった。ルフィさんのおかげで、ナミさんが安心して泣いてる)

 

 さっきまで、私を守ろうと頑張っていて、ずっと緊張しっぱなしだった。

 だから、凄く良かったと涙が止まらなくなっているナミさんの、気恥ずかしそうな視線に微笑みをかえす。

 それから、少し迷いながらも手袋を外して素手でその涙に触れる。

 

(……温かい)

 

 そして、熱い。

 私の指を受け入れてくれる指先が、そっと閉じる瞼から零れる新しい涙が、綺麗で、ジワリと火傷する様に熱く感じる。

 全身に熱が広がり、だからこそ許せない。こんな涙を流させたアーロン達に怒りを、そしてルフィさんに多大なる感謝を抱いて、口を開く。

 

 

「……やっちゃえ、ルフィさん」

 

 

 小さな声は、きっと聞こえない筈だった。なのに、酷くタイミング良くルフィさんの拳がドゴォン!! とアーロンの頬をぶん殴る。

 

 

「「「「うわああ!! ア!! アーロンさん!!??」」」」

 

 

 驚く魚人達の叫びを無視して、ルフィさんはフンー……!! と鼻息を漏らして、アーロンという敵をまっすぐに見据えている。

 

「てめェは一体……」

「うちの航海士を泣かすなよ!!!!」

 

 ――ふふ! 思わず、ふにゃっと声が漏れてしまう。隣のナミさんが「ぇ」とか細く喉を鳴らして、慌ててぐしぐしと涙を拭って「な、泣いてないわよ!!」とルフィさんに強がる。可愛い。

 

「ウソつけ」

「ウソじゃなわよ!! だ、大体ね、あんた何しに来たのよ!?」

 

 調子が戻ってきたナミさんに、ルフィさんがはあ? と首を曲げる。

 

「バカだなぁお前。お前らを迎えに来たに決まってるだろ?」

「…………っ!!」

 

 ナミさんの顔が真っ赤になる。凄く可愛い。

 

 何とも言えない絶妙な呆れ顔を見せて、ルフィさんは腕をぐるぐるしながらアーロンに視線を戻す。

 ナミさんは嬉しさを押し殺す様に「あ、っそ!! 余計なお世話をありがとう!!」とそっぽを向き、ルフィさんは「おう」とだけ答えた。

 

(……こういうやりとりが、見ているだけで良いんだよなぁ)

 

 それに、ルフィさんは通常運転だけど、照れてるナミさんははちゃめちゃに可愛い、っていたいいたいいたい手がギリギリ握りしめられてるけど、ルフィさんへの照れ隠しかな? 私に八つ当たりしてもしょうがないですよ? とりあえず、ルフィさんの攻撃範囲を考えるともう少し距離が欲しいし、やっぱり外に出よう。今なら魚人達はルフィさんしか見えない状態なのでその隙に「雑魚はクソ引っ込んでろ!!」――――って、え?

 

 ドゴゴゴゴゴォって、ルフィさんに群がりだしていた魚人達があっけなく蹴散らされていく。

 

 それを軽々とやってのけたのは、まさかの親子喧嘩が微笑ましいコックさんで、そう、サンジさんだ! なんで此処に……あと足技凄いですね!? もしかして、海上レストランって出張サービスもしてるのかな?

 

「――ったく、おめェは1人でつっ走りやがって」

「別におれ負けねェもんよ!!」

「バーカ。おれがいつてめェの身ィ心配したよ!!」

 

 んお? ぽすっと肩に手が置かれて、そのままゾロさんが私とナミさんを追い越していく。その後を、ガクガクと足を震わせたウソップさんが「よ、よお!」と私達に挨拶だけして頑張ってついていく。……おお!

 

「獲物を独り占めすんなっつってんだ」

「そうか」

「お……おれは別に構わねェぞルフィ」

「……たいした根性だよお前は……」

 

 眩しい、と感じる。とても頼りになる背中が揃っている。

 

 ああ……知っていたし、信じていたけど、それでもちゃんと来てくれたのが嬉しい! ナミさんも感極まったのかまたぐすっと鼻を鳴らしている。私だって視界が歪んでいる。

 

「……フン! つまりてめェらの狙いは、こいつらって事か」

 

 アーロンは、私とナミさんをチラと見てから、ルフィさん達を小バカにする様に笑い出す。

 

「シャハハハハ!! たった4人の下等種族に何ができる!!」

 

 凝り固まりすぎた偏見か、人間を見下しすぎているアーロンは己の勝利を固く信じて油断しきっている。それに、ナミさんは覚悟を決めた顔つきになり、アーロンを睨んだまま私の手を引く。

 

「ナナ、行くわよ!」

「はい!」

 

 ナミさんの横顔には、彼らと一緒にいる時の笑みが戻っている。

 

 ガッツポーズしたいぐらい嬉しくて、鼻歌を漏らしそうになる。アーロンは私達を気にするそぶりも無く(まあ、この島から逃げられるとは思いませんよね)目の前のルフィさん達をニヤニヤと見下している。一触即発だと思っていると、突然のラッパ? 音。

 

 

「バカヤロォお前らなんかアーロンさんが相手にするかァエサにしてやる!!!! 出て来い巨大なる戦闘員よ!!!!」

 

 

 え? 凄い。タコの魚人ってそんな音だせるんですか!?

 

 ハチさんの驚きの特技に目を丸くする。初めて魚人を見た時よりびっくりした。ゴオオオオって海面が盛り上がっているけど、その特技の詳細の方が気になる。

 

 

「出て来いモーム!!!!」

 

 

 ザバァアアア!! と巨体による威圧感を纏って出てきたのは、牛!? ……いえ、魚!?

 お肉の味はどっちなんだろう……? そしてなんですでにボコボコにされてるの!? ルフィさん達も「「「「あ」」」」って凄く顔見知りですみたいな空気出してて、まさか道中で狩ってたの!?

 

「ナナ! 笑わせないで! いいからちゃんと逃げる!!」

「えっ、ご、ごめんなさい!?」

 

 また口に出てた!? 顔を熱くしながら走って、壊れた門を通れば「え?」人がいっぱいいた。

 

「ナミの姉貴!! ナナのお嬢さんも!!」

「2人とも、よくぞ御無事で!!」

「ジョニーさん!? ヨサクさんも!?」

 

 どうして此処に!?

 たくさんの人に目を奪われていた真横に、見知った2人がいて驚く。

 

 もしかして、ルフィさん達と一緒に迎えに来てくれたのかと嬉しくなるけど、少し様子がおかしい。2人は何故か剣を抜いて、アーロンパークに集まった人々が中に入らない様にガードしている。ジョニーさんとヨサクさんの表情は真剣で、何故かお互いの頬をお互いでぶん殴った様に腫れている。色々と聞きたい事はあるけれど、今は疑問を飲み込むことにする。

 

「ナミ!!」

「ノジコ!? それに、ゲンさんも、皆も……なんで此処に!?」

「当たり前でしょう!? 隣村の奴らもいるし、他にも島中から集まって来るわ!! もう限界だって、皆が分かってる!!」

「そ、そんな……」

 

 え……予想以上に燃え広がっている現状に「ひえ……っ」と声が漏れる。ナミさんの顔も強張るけれど、その肩に力強い手が伸びる。

 

「ナミ」

「ゲ、ゲンさん……」

「今まで、すまなかった……!」

 

 血を吐く様な、今までに聞いたことのない声だった。

 

「……っ」

「よく、ここまで戦ってくれた……!! だが、もういいんだ。今日のあいつらを見て分かった。あいつらは、どんな約束も守りはしない……!!」

 

 

 力強く、ナミさんがゲンさんに抱きしめられている。

 

 その抱擁が信じられない、とばかりに抱きしめられるナミさんを見ていると、胸が軋んでくる。私の視点から見ても悲壮さが消えない”親子”のやりとりに、酷く感情を揺さぶられる。

 

(どうして、この光景をこんなにも苦しく感じるのだろう?)

 

 モヤモヤする。何も知らない癖に、色々な感情が渦巻いてカッと喉が熱くなっていく。この日が、この時が来るまで、彼らはどれだけ耐え忍んでいたのか”私だけ”何も知らないからこそ、冷たい焦燥感で元凶をきつく睨むのを止められない。

 

 

(アーロン、貴方の最大の間違いは”人間”から目を逸らしすぎた事だ……!)

 

 

 だから、こんな事になってしまう。どれだけ節穴なんだと不規則な呼吸を整えて、きつく結ばれたナミさんの手をゆっくりと離す。

 

(中途半端なんですよ)

 

 ルフィさん達と向き合いながら余裕ぶる姿に鼻を鳴らして、可愛い彼女から距離を取る。

 もう”両手”で、ゲンさんに、大人にすがりついても良いのだと、その背を少しだけ押すと、時間をおかずにゲンさんの背中に腕がまわり、溜まっていたものを全部押し流す様にえぐづいている。カラカラ、カラカラと回る風車の音が、優しく耳に届く。

 

 そんな2人を目に焼き付けて、想像する。

 きっとあの魚人の目には、この光景すら路傍の石と同程度の価値なのだろう。

 

(……度し難いですね)

 

 胸に、今まで感じたことのない、言葉にできない冷たいものを感じながら押し殺す。

 

(……ですが現状、アーロンは総合的に見てルフィさんより強いです。種族差も込みで海賊としての経験値も、今のルフィさんでは敵わない)

 

 ルフィさんが「なに!?」って顔でこっち見た気がするけど、集中しなさい。こっちにはヨサクさんやジョニーさん。村人さん達がいるんだから心配しなくて大丈夫です。

 

 大体、アーロンの強みは”それ”だけだ。それしかないなら問題ない。

 

(その程度なら、ルフィさんに”今日”越えられない筈がない)

 

 ニィ、っと遠くのルフィさんが満足げに笑って、元気よく腕を伸ばしている。

 

 アーロンは、人間を下等種族と見下しながら、客観的に見れば警戒しすぎている。

 本当は人間を恐れている? そんな穿った見方をしてしまう程度の小さな違和感。実は、人間が自分達の脅威になると認めている? もしくは知っている? 今までのアーロンの不愉快な言動を思い出して、情報が少なすぎる私だからこそ、彼らの透明な違和感がうっすらと浮いて見える。

 

(……まあ、どっちでもいいです。下等種族と見下しながらもしっかりと警戒して、根回しを欠かさなかった努力も今日、水泡に帰すんです)

 

 人間はしぶとい。

 きっかけさえあれば、くすぶっていた心に火がついてしまえば、冷えた心身を動かさずにはいられない生き物なのだ。

 

 チラと見れば、此処にいる人々は各々武器を持って、本気の瞳をしている。

 命を失う覚悟で此処に立っている。まだまだ遠くから此方に走ってくる人達も見えるし、これからどんどん膨らんでいくだろう。

 

(……熱気が凄くて、心臓が痛い)

 

 ドキドキしすぎて、全身がブルッと震えてしまう。

 こんな空気は初めてだ。守るべきものの為に立ち上がる人々の”熱”というものに、アドレナリンが溢れるのを感じる。

 

 気づけば、ルフィさん達は主力メンバーと相対している。(あれ? モームさんどこ行きました?)余興は終わり、これからこの”島"を、いいや、ナミさんをかけた本気の戦いが始まるのだ。

 

(アーロン、あまり人間を舐めないで下さい)

 

 種族差程度で、この衝動を止められると思うな。

 

 そう、昂る心のままにアーロンを睨むと「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」」と、びっくりした!? ええ!? 集まった村人さん達が雄たけびをあげている。

 

(え? 落ちついて!? 今はルフィさん達の番ですからね!?)

 

 いやいや、ジョニーさんとヨサクさんが慌てて止めているけど、ダメですよ。なんで急にそんなテンションマックスになってるんですか!?

 

「ああもう、自覚無しなんだから! ――ノジコ、お願い!!」

「……! 分かったわ」

 

 あ、魚人達も、その雄たけびにギョッとしながらビクッとしている。……? 怒りではなく咄嗟に怯えを見せるあたり、やはり深いところで何かあるのかと考えていると、急に腕を引かれる。驚くと、目の前に美女。

 

「の、ノジコさん?」

「そうだよ! ナミ、しっかりね! ほら、行くわよ!」

「はい!? ちょ、どちらに!?」

「……フン。その小娘を頼んだぞ、ノジコ!!」

「分かってる!!」

 

 ど、どういうこと!?

 

 駆け出すノジコさんに無理矢理引っ張られてオロオロしながら追いかけると、ノジコさんは足を止めないまま振り返る。

 

「ナミは見届けなくちゃダメだろ? そして、ナミの旦那であるあんたは、全てを知る権利がある!!」

「え、えと、ノジコさん? でも、今はそれより……戦いの行方を」

「関係ない!!」

 

 力強い声に、ビクリと肩が跳ねる。

 

「……この戦いで勝っても負けても、あんた達は海に出るんだ! あの子を連れて! ……その為にも、この島で何が起こっているのか、聞いて欲しい」

 

 気づけば、足が抵抗する様に止まりかけて、半ば引きずられる様に腕を引かれる。

 

「で、でも」

「ダメだよ。あんたはナミとこの島の恩人だ……ナミがどっちを選択するかなんて、皆分かってる。だから、島中の奴も我慢できなくなったんだ。どんな約束も反故にするって、あいつら自身で証明したんだから!!」

 

 足は止まらない。どんどん喧騒が遠くなっていくのが恐ろしくて、強くノジコさんの手を握るも、止まってくれない。

 

「……ナミの左肩を見たことはある?」

「ないです。肩を露出する服を着なかったと思うので」

「……そう。じゃあやっぱり、あんたを戦場から引きはがして良かったよ」

 

 それはどういう? 混乱する私を見て、ノジコさんは楽し気に笑う。

 

「ナミは、あんたにだから見せたくないんだよ」

「…………」

 

 止まりかけた足は、その笑顔に止まれなくなり、後ろ髪を引かれながらも機械的に動く。

 

「……ッ、教えて下さい。ナミさんの話」

「もちろん」

「でも……ですね」

 

 内心の発生した悔しさを押し殺して、”また”戦いの場から遠ざけられる情けなさを噛み潰して。顔をあげる。

 

「私は、聞いていいんでしょうか? ……ナミさんは、チャンスがあっても頑なに教えてくれなかったんです」

「……ナミはね、もう自分の口からあんたには語れないよ。……あんたにべた惚れだからね」

 

 ボソッと、後半にからかいを含んだ何かを囁いて、ノジコさんはくすくすと笑う。

 

「だから、この島とナミの事をあんたに教えるのは、姉である私の役目なんだ。……聞いてやってよ。ナミはさ、自分じゃ言えない癖にあんたには絶対に知って欲しいみたいな、乙女な事になってるんだから」

 

 冗談を言って笑うノジコさんは、この青空の様にすっきりとしている。

 

 ……本当は、ノジコさんだってナミさんの傍にいたいだろうに。

 戦いの結末だって、きちんと見届けたい筈だ。それでも、彼女は”今”この時だから話すと言っている。後でもいいだろうと言いたい。……だけど、奇妙な確信がある。

 

 

(ここを逃したら一生、大げさじゃ無く本当に、もう知れないんだろうな)

 

 

 ナミさんもノジコさんも、この島の人達はこの時でなければ何があっても口を割らず、事情を知っているだろうルフィさん達も教えてくれなくなると、分かってしまう。

 

 だから、私も迷いを消して選択する。

 

 今すぐ戦いの場に戻る事を諦めて、この時間にしか知ることができない、ナミさんの過去に手を伸ばす。

 それは、今を犠牲にするには十分すぎる価値だと、走るのをやめて大きく歩き出す。

 

「ん。……あんたの性別が逆だったら、完璧だったね。悔しいぐらい良い女だわ」

「えっ。あ、ありがとうございます? ……あの、やっぱり、女同士だと、ご家族の方的には」

「大丈夫だよ。頭の固いゲンさんも、とっくに認めてるしね」

 

 意味深に笑って、ノジコさんは私と腕を組む様にして並んで歩き出す。

 

 数秒、ノジコさんは「何から話そうか?」と心地良さそうに目を閉じる。

 それから、ゆっくりと唇を開くと、ひどく大切そうに、まるで幼い頃に戻った様な口ぶりで、出会ったばかりの赤ちゃんの話を始めた。

 

 

 

 

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