サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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33話 裏ナナの引きこもり成果です

 

 

 ノジコに背負われながら、意識が沈んでいく感覚に襲われる。

 誰かにおんぶされるのは初めてだと、状況も忘れてふわふわと眠くなってしまったのだ。

 

(いや、いやいやいや……!!)

 

 それは無いでしょう私? ノジコの背中が温かくて良い匂いがして柔らかくて最高だからって、ここで眠くなるとか空気読まないにも程があるでしょう……?

 これからアーロンパークでアーロンとその一味がルフィさん達に倒されていくのを見に行かなくちゃなのに、ここで寝る訳にはいかない。

 

(……でも、異常に眠い。さっきの頭痛のせいかな……?)

 

 全身が気だるくて力が入らない。頬に感じるノジコの髪の感触にうっとりして気づけば眠りそうになる。慌てて舌をガリッと噛んだけど痛みが遠い。血の味がするだけでふわっと意識が飛んでしまう。

 

(ちょっと、これはまずい……っ)

 

 今までに感じたこともない尋常じゃない眠気に焦りだす。ノジコの背中でこれ以上の自傷行為もできず、とりあえずこっそり爪を、

 

「……ねえ」

「はい!?」

 

 ビクリ! と、ノジコが急に怖い声を出すので全身が跳ねる。

 

「……アーロンパークについたら起こしてあげるから、寝てなさい」

「へえ!?」

 

 変な声が出た。でもまさか見透かされているとか思わなくて、恥ずかしさで顔面が熱くなる。

 

「い、いえ!? あの……ぜ、全然、眠くないですし……!?」

「いいから寝る! 背中越しに熱すぎるわよ! 熱がでてるんじゃない?」

 

 熱!? いえ、これは恐らくダメな方の熱だから放っておいてあげて!?

 動揺と眠気に慌てて首を振ってしまうと、ノジコの後頭部がぐりぐりって鼻を押しつぶしてくる。なにそれ可愛い! やめて眠気が勝っちゃうッ。

 

「ほら、我慢してないで寝な!」

「……で、でも」

「今寝たら、おはようのキスぐらいはしてあげるわよ?」

「寝ます!」

 

 ―――しまった!?

 巧妙すぎる心理トラップに引っかかってしまった。愕然とするも、ノジコが楽しそうに吹きだしていて顔が熱い。即答してしまった以上、今から無しだというのも決まりが悪すぎる。

 

「……んぐ。……じ、じゃあ、ちょっとだけ」

「ええ、おやすみ」

「……起こして下さいね?」

「勿論。一番盛り上がるところで起こしてあげる」

 

 ノジコの言葉に、渋々と頷いて少しだけ体勢を変える。

 ノジコは少しだけ速度を落として小走りになるけど、その優しさを指摘するのはマナー違反だろう。そっと感謝しながら目を閉じて、ノジコの背中を意識する。

 

(……安心する)

 

 口元が緩んでしまう。温かくて不思議な心地良さがある。

 もう少しだけ、この何ともいえない幸福感を味わっていたいと眠気に抗ってみるも、ストンと、まるで意識を切り落とされる様に落ちていく。

 

 夢は、きっと見ないと知っていた。

 

 

 

 

 ――――そして、眠ったナナに代わり裏ナナはパチリと目を開ける。

 

 

 

 

(……勘弁して下さい)

 

 嘆く。今はナナを深く休ませる為とはいえ、心底から表に出るのは好きじゃない。

 

 ナナの中で幸せに引きこもっていたい。その状態で、ナナとその他の安全だけを案じて生きていたい。……けれど、今回に関してはナナが無茶をするからしょうがない。

 

(お願いだから()()()()のは今回限りにして欲しい……)

 

 漏れかけた溜息を、揺れるノジコの背中で飲み込む。

 裏ナナは内心を外に発していないので、ノジコに起きている事はばれないだろう。

 

(全く、ナナはしょうがないですね。そこが可愛いけれど)

 

 共感に同調に同情にと大忙しだ。懐が広く、死者にすら恋ができる異常者なのはよく知っているけど、もう少しぐらい考えて行動して欲しい。

 

(わざわざ、物の記憶を第三者視点で”視せて”いる理由を伝えられないのは、不便ですね……)

 

 今日の一件は、本当に危うかった。

 

 無自覚に、ナナはベルメールさんへの好意を暴走させて、彼女の視点で深く潜り込みかけていた。それはいけない。それだけは絶対に許さない。

 

(そんな事をしたら、ナナにベルメールさんが()()()()しまう)

 

 無駄に容量が広いとはいえ、そんな事はナナが望んでも裏ナナは望まない。

 

 ソコは、ナナと裏ナナだけのもの。それ以外は認めない。そしてその領域は裏ナナの管轄なのだ。いくらナナでも縄張りを犯すのは許さない。

 

(でも、ちょっと強く拒絶しすぎましたね……)

 

 諦めないから、ついついナナに負担をかけすぎてしまった。

 こうして眠りを余儀なくさせてしまうぐらい、心身を傷つけてしまった。……これに関しては反省している。

 

(でも、考えてみればそれもこれも、全部あの魚人が悪いですよね?)

 

 ナナは、きっと自分の未熟さこそが悪いと言うでしょうが、裏ナナはそうは思いません。絶対にナミさん達にちょっかいをかけてきた魚人が悪いんです。そのせいで、裏ナナはナナを傷つけてしまった。

 

(……ちょっとぐらい、八つ当たりしましょう)

 

 そうと決まれば、ナナが寝ている間にすませてしまおうと、寝たふりを継続する。

 

 

「! ノジコ、戻って来たのか。この小娘は……」

「寝ちゃったわ。……ナミと、ベルメールさんの事がショックだったみたい」

「……そうか」

 

 わいわいがやがやうるさい。

 アーロンパークに近づくにつれてうるさいのは覚悟していたが、予想以上の盛り上がりに舌打ちを堪える。あまりに人が溢れすぎて、本当に島中から人が集まっているらしい。今もこちらに走ってくる気配が多数ある。

 

 ノジコ達の会話を右から左に聞き流し、どうやって魚人に八つ当たりしようか考える。

 

 慎重にならなくてはいけない。ここで起きている事がばれると、心が読まれない事で裏ナナの存在が明るみに出る可能性がある。ナナは最初から全方向に心を開いているので、たまに裏ナナが表に出る時は苦労してしまう。そんなところも愛しいけれど、生涯引きこもりたい裏ナナとしてはできる限りばれる事は避けたい。

 

(さて、戦況は……なるほど。ルフィさん達優先ですね。今はアーロンと一騎打ち中ですか)

 

 じゃあ、アーロンが負けた後にでも、こっそり奴の股間を殴打しよう。

 それで溜飲を下げる裏ナナの優しさに感謝が欲しいと思いながら、意識をプールにむける。

 

(……それはそうと、不穏な気配がしますね。……これは、確かモームとか言う不思議魚ですね)

 

 ナナは早々に意識から外していたっけ。

 記憶を探ってみれば、ナナの意識の外でモームはアーロンの脅しに怯えながらもルフィさん達が怖くて逃げだしていた。負け犬ならぬ負け魚だ。

 

(……ですがこの気配。逃げた後で冷静になって、びびりながら戻って来た感じですね)

 

 恐怖と自棄が入り混じった、覚悟を定めた気配。

 

 感じる限りでは、ゾロさんもサンジさんもリタイア中。咄嗟には動けそうにない。ウソップさんに即断即決は状況が噛み合わないと期待できないし……ナミさんは、ルフィさんとアーロンの戦いを食い入る様に見つめている。

 つまり現在。モームとやらの不意打ち姿勢に気づいているのは裏ナナだけ。

 

(……言い訳は、任せますねナナ)

 

 やれやれと、急遽八つ当たり先をモームへと変更する。

 

 そして、サトサトの実の能力を使用して、微かな殺気をモームへと伝える。ナナは、悪魔の実を食べた事すら知らないので扱えませんが、この実の能力は特定の生物に絞って言葉や感情を伝えることもできる。そして、身体を介さない直接的な殺気は臆病な魚に我を忘れさせるには十分だろう。

 

 ルフィさんとアーロンが気づけば建物内で戦っているのもあって、殺気の主である裏ナナに直接向かってくる可能性は高い。

 

 

「モ゛ォォオオオォォオオオオ!!!!!」

 

 

 ザパアアン!! と、気配が急速に近づいて来る。これは海から一気に飛び込んできた様だ。

 

「え!?」

「なに!?」

「ぎゃー!!??」

「あれはさっきの……!?」

 

 目を瞑ったまま、本能全開でこちらに飛び込んでくるモームの存在にホッとする。上手くコントロールできたと満足しながら準備する。

 

「!? ノジコ、ナナ、何で此処に」

 

 ナミさんの声が聞こえるけど、裏ナナは目を開けられない。だってナナは寝ているのだ。つまりこれは、寝ぼけているだけ。

 

 ナナの内に引きこもってから、ナナ越しに世界を見つめて過ごしていた裏ナナは、気づけばナナよりも世界がくっきりと見える様になっていた。

 

 海の下で準備していたモームの気配と感情が、周りに集まっている人間達の1人1人の強さや癖すら分かる程度には、裏ナナにとって世界は遠くて近い。もしかしたら、実の能力で人の心さえ読めるかもしれない。鬱陶しいから絶対に試みる気はないが……

 

 つまり。

 

(顎下!)

 

 目を閉じたままで支障はない。

 

 ノジコがナナを抱きしめて庇おうとするのを、駆け寄ってきたナミさんが裏ナナを抱きしめようとするのを、そっと避ける。

 ゾロさんが刀を抜きかけ、サンジさんが裸足のまま中腰で、ウソップさんが何もできず悲鳴をあげているのを感じながら、くぐり抜ける様に腰を曲げて進み、右手を持ち上げる。

 

 

(――――掌底打ち、だっけ?)

 

 

 パアァン!!!! と、酷く派手な音がして、衝撃を地面に流しながらモームが壁にぶち当たったかの様に弾かれるのを感じる。

 

 

「は……?」

「え……?」

 

 

 目を閉じているから、お2人がどんな顔をしているのか分からないが、驚愕しているのは伝わった。ナミさんとノジコの声を聞きながら(……あ、寝ぼけてるんだった)と設定を思い出して、ふらっと背中から倒れると、2人に受け止められる。

 

「「ナナ!?」」

 

 同時に抱きしめられる(ナミさん濡れてる?)そして、頬を淡くぺちぺちされてくすぐったい。……頭上で慌てた様な会話が飛び交うのを聞き流しつつ、居心地が悪い。

 甲斐甲斐しいお2人には申し訳ないが、裏ナナはナナではない。そして、裏ナナにとってこの労わりは心地良いものでもなく、むしろ避けたいものだ。……うん。危険は去ったし八つ当たりもできたので、もうナナに代わろう。

 

(アーロンの事だけは気がかりでしたけど……モームへの咄嗟の動きを見るに、仮にアーロンがルフィさんを退けても、ゾロさんとサンジさんが根性見せてくれそうです)

 

 後は、ナナの自然な目覚めと成り行きに任せよう。

 引きこもりの誘惑に身を委ねて、主人格をナナに明け渡す。途端「ふにゃ……」と可愛い声が漏れて、ナミさんとノジコが呆気にとられている。

 

 

(……ふああ、やっぱりここが一番落ち着く)

 

 

 精神の充足感に身を委ねて、ナナに感知されない深いところに沈んでいく。

 

 思えば、もっと深く沈んでいきたい欲求に従った結果、こんなにも世界を身近に感じる様になった気がする。

 

 それはそうと、ルフィさんは苦戦中の様だ。けれど闘志はいささかも衰えていない。この先は――って、なんで突然室内で暴れ出してアーロンを無視してるんですか?

 

 いえ、まあアーロン一味との戦いはすでに終盤でしょうし、ルフィさんの行動は無茶苦茶な様で8割ぐらい意味がありそうなのは裏ナナにも分かっている。

 

 

(……ナナもそろそろ目覚めそうですし、裏ナナは変わらずナナを守るだけです)

 

 

 それではナナ。いつか裏ナナに気づいた折には、この時の事も思い出して、どうか裏ナナに惚れて下さい。

 

 そして願わくば、裏ナナが表にでる機会がもうありません様にと、一緒に祈って下さいね。

 

 

 

 

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