サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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35話 おかえりと、私には聞こえるのです

 

 

 お嫁さんができましたー!!

 

 喜びのあまり意識が天に旅立った瞬間「小娘ぇえええ!!」と叩き起こされゲンさんにがっくんがっくん揺さぶられても、幸せすぎて「きゃー♪」と喜びの声をあげてしまう。

 

(こんな私にお嫁さんができるなんてー!!)

 

 奇跡だ! 何がどうしてどうやって受け入れられたのか、ナミさんとノジコがオーケーしてくれた! 私のお嫁さんになってくれた!! ふられる可能性しか無かったし平手を覚悟していたのに!! だってお嫁さんですよお嫁さん!! 私の特別なんです私が愛していい人なんです!!

 

「……ッ。相変わらず、強烈ね」

「成程ね。……ナミが浮気を咎めつつ本気で止めなかった理由が、よおく分かったわ」

「ノジコ。身に染みて分かったでしょうけど、あの子の感情は伝染するわ。……今なら無かった事にできるわよ?」

「冗談でしょう。ナミの方こそ、押しつぶされない内に身を引いた方が良いよ」

「……ふうん?」

「……ふふん?」

 

 ああ麗しいなぁ!

 ナミさんとノジコはにこにこ微笑みあっていて、お嫁さん2人が並んでいるだけでテンションが上がりすぎてたまらない!!

 今すぐお2人を愛したい!! 全力で愛情を注ぎたい!! でも我慢!! 愛したいけどまだ”2人”だからダメだ。

 

 もし、もしも、本気で愛して―――幸せそうに絶命したあの子達の様に―――死んでしまったら困る。

 

(ありえないとしても、妄想だとしても、現実になってしまう可能性が怖いから、我慢しよう!!)

 

 大丈夫、我慢は得意だから! 脳裏に、私が殺したかもしれない小動物達の事を思い出して、私を中心に広がっていく小さな命達に古傷を抉られながら、溢れそうな愛情をぐぐぐっと抑え込む。

 

「……本っ当に、手を引いてもいいのよ? いざとなったら私が死ぬ気で面倒見るわ」

「……くどいね、引く気はないよ。……けど、あの子には早めにお嫁さんを増やして貰わないと、普通の夫婦生活も難しいのは分かった」

 

 真面目な顔をしているナミさんとノジコが可愛くて、表情筋がゆるっゆるになってしまう。ゲンさんにぶらぶらされながら、えへえへと顔をおさえていると足が地面につく。そしてゲンさんはずんずんと先を歩いて、苛立った様に振り返る。

 

「ナミ、ノジコ。……そして小娘ぇ!! さっさと行くぞ!!」

「はへ?」

「ゲンさんったら素直じゃないわね。ナナ、行きましょう」

「え? ナミさん?」

「そうね。ベルメールさんにナナを紹介しないと。きっと驚くわ」

「……あ」

 

 ゲンさんがぷんすかと歩いていくと、両の手がナミさんとノジコに握られて、どこに向かうのか分かってしまい、心臓が大きく跳ねた。

 

「……はい!」

 

 大きく踏み出すと、ゲンさんはフンと鼻を鳴らし、ナミさんとノジコも満足そうな笑顔で、ゆったりと歩き出す。背後からの喧騒に背を向けて、4人で歩いて行った先は、人目を忍ぶ様に崖上に建てられたお墓だった。

 

 

「……終わったよベルメールさん」

 

 

 ナミさんが、そっとお墓に触れて、8年分の想いを込めて静かに撫でる。

 ゲンさんがナミさんの肩に手を置くと、途中で摘んできたお花を彼女のお墓に添える。ノジコは、私に寄り添ってくれた。

 

(……ベルメールさん。はじめましてもできなかった貴女。……どうか安らかに)

 

 静かに目を閉じて黙祷する。

 胸にせまる寂寥感に息が詰まりそうになりながら、物に宿った記憶でしか知らない、彼女の事を反芻して、ふられる事もできない恋に心臓がジクジクする。

 そんな私の頭を、ノジコが優しく撫でてくれる。暫し、各々がもういない彼女に想いを馳せていると、ふと座り込んでいたナミさんが顔をあげる。

 

「……ねえ、ゲンさん、ノジコ」

「「え?」」

「ベルメールさんがもし生きてたら、私が海賊になること止めたと思う?」

 

 ナミさんの言葉に、静かに墓を見つめる。

 

「そりゃお前、大切な娘が海賊なんぞにな」

「止めないね!! 止めればあんたが言うこときくの?」

 

 慌てるゲンさんに被せる様に、ノジコが私をぎゅっとしながら笑う。ナミさんは子供の様に舌をだす。

 

「べ!! 絶対きかないっ!!」

 

 かわいい! その悪戯っ子みたいな表情にギュンっと心が元気になる。すごく可愛い! そして、唖然としているゲンさんが、帽子を深く被って、少しだけ笑う顔に嬉しくなる。カラカラと回る風車が、私たちに優しい風を感じさせた。

 

「ナナ」

「はい」

 

 静かに、ベルメールさんと向き合うナミさんが私を呼ぶので、そっと近づく。ノジコが優しく背中を撫でてくれる。

 

「暫く、一緒にいて」

「暫くと言わず、いつまでも! ……でも、終わったらお医者さんの所に行きましょうね」

「……うん」

 

 ナミさんの隣で膝を抱えて座ると、ぽすっとナミさんの頭が肩に触れて、ドキッと心臓が跳ねる。

 

「……それじゃあゲンさん。私達は戻りましょうか」

「お、おい、ノジコ」

「ナミ! 今日だけよ? ナナは私の旦那でもあるんだからね!」

「……勝手に言ってなさい」

 

 ナミさんはちょっとだけムッとした顔で、べーっとノジコに舌をだして、私の腕に腕を絡めてくる。んぐうっ!? と体温が一気に上がるのを自覚しながら、ぎくしゃくとナミさんの匂いを感じる。

 

(血と海の匂いがする。……今日は、とってもおつかれさまでした、ナミさん)

 

 少しだけ勇気をだして、去っていく2人の言い合いを聞きながら。自分から、すりっとナミさんの髪に頬をすりつける。甘えているみたいな動作に、ナミさんが驚いた気配。

 

「……ねえ、ナナ」

「はい」

「……なんで、ノジコを呼び捨てにしてるのよ?」

 

 はい? ……ええと、脈絡が無さすぎて思考が止まる。それに、なんだかトゲトゲした声色な気がして戸惑いながら口を開く。

 

「……『さん』はいらないよって、言われたからですね」

「ふぅん。……他には? ノジコと2人きりで何かあった?」

 

 ナミさんの瞳が覗き込んできて、どぎまぎしながら、ちょっとだけ言い辛いなぁとノジコとのやりとりや、みかん畑での事を思い出して目を伏せる。

 

「……♪」

 

 言葉を濁したのに、不思議とナミさんは上機嫌になっていく。目を細めて「そっか……」って、私に体重を預けてくる。

 

「それで? 私の事は呼び捨てにしないの?」

「うえ!? ……し、します!」

「じゃあ、してよ。ほら」

 

 甘える様な、猫が毛並みを押し付けてくる様な絶妙な力加減に思考がぶれていく。でも、ちゃんと呼ぼうとナミさんの目を見て、口を開く。

 

「―――にゃみ!!」

「……」

「……」

「にゃみよ」

「忘れて下さいぃ!!」

 

 ああああああやってしまったぁあ!!

 

 顔を覆いたくもナミさんに防がれてしまい、ご機嫌なナミさんにニヤニヤ見られてしまった。恥ずかしすぎる!! どうしてここで格好良く名前を呼べないんだ私って奴はァ!!

 

「ほら、もう一回」

「うぐぐ。……んんっ」

 

 深呼吸をする。そして、ナミさんの目をまっすぐに見つめようとして、その瞳に吸い込まれそうだと目を泳がせてしまう。

 

「……ナミ!! ……しゃん」

「ちょっと?」

 

 あ、あれ? 自分でもびっくりだけど。なんか言えそうにないよ?

 ノジコは、出会ったばかりだからまだ修正がきいたのだろうけど。ナミさんはなんか難しい。というか、呼び捨てしようとすると、妙にそわそわして気恥ずかしくなる。

 

(い、意識しすぎているのかな……?)

 

 色々と、ナミさんは私の初めての人だから、自分でも良く分からない感情で、もう少し時間が欲しいと全身が熱い。今、名前で呼んだらおかしくなりそう。

 

「……しょうがないわね」

「ふびゃ」

 

 鼻を摘ままれて、でもナミさんは言う程には怒っていなくて、その様子にホッとする。そしてナミさんはお墓を見て、笑う。

 

「ベルメールさん。これが私の旦那」

「! よ、よろしくお願いします」

 

 ぴんっと背筋がのびる。

 

「見ての通り、同性で年下でへたれな子。ノジコまでお嫁さんにして、まだまだお嫁さんを増やすつもりの浮気性だけど、見ての通りバカみたいに優しくて、自分よりお嫁さんの事を考えられる、嘘がつけない人」

「は、はい! ナミさんとノジコには、いっぱい笑って貰える様に頑張りたいです!」

 

 何故か、私の最低な本性がばれていたショックで落ち込みつつ、しっかりと返事をする。ナミさんはくすくす笑って、私の肩に額を擦りつけながら、今までにない声色で目を閉じる。

 

 

「ベルメールさん。私もノジコも、幸せになったよ」

 

 

 開いた唇を、ゆっくりと閉じる。

 

「ありがとう、ベルメールさん」

「…………」

 

 言葉は不要だと、そっとナミさんの腰に手を回して、ベルメールさんのお墓を見つめる。

 悲しみと優しさの気配がする、そのお墓に静かに頭を下げて。ナミさんとノジコを、幸せにする為に最大限の努力をすると誓った。

 

「……ん」

 

 ナミさんが、そっと甘える様に顔を寄せてきて、少しだけ変な声がでそうになったけど、ベルメールさんに今だけ目を瞑って下さいとお願いしながら、そっとナミさんに顔を寄せる。

 

 私からの、初めてのキスだった。

 

 ナミさんの唇はがさついて、鼻孔に海の香りが霞めた。微かな血の味が口の中にひろがり、ざらりと少しだけ砂っぽい、そんな魅力的な感触が愛おしい。

 

 このまま、もっとナミさんに触れたいと欲望が溢れたけど、ナミさんの左肩を見て、その手をとる。

 

「……ナナ」

「お医者さんのところ、行きましょう。ベルメールさんも、早く行きなさい! って怒っちゃいますよ」

「……しょうがないわね」

 

 ナミさんは、惜しむ様に笑って、私と一緒に立ち上がる。

 

「じゃあね、ベルメールさん。また来るわ」

「私も、また来ますね!」

 

 2人で、少し名残惜し気にベルメールさんのお墓を見て、歩き出す。暫くして、ナミさんが楽しそうに私の手を引く。

 

「ナナ。私ね、やりたい事がいっぱいあるの!」

「いいですね! 全部やりましょう!」

「そうだ! メリー号にみかんの木を置いても良い?」

「勿論です! 念の為に土を多めにいただけないかノジコに聞きましょう!」

「私、自分の目で見た”世界地図”を作るのが夢なの!」

「なるほど! ルフィさんが目指すものと同じぐらい壮大な夢ですね! 膨大な時間がかかるでしょうが、私達ならきっと叶えられます!」

「……ねえ、ナナ」

「はい!」

「愛しているわ」

「ぴゃ!? ……わ、わたしもでふ!! あいしてます!!」

 

 見上げるナミさんの顔は、今までにない青空みたいな素敵な笑顔で「ん!」と、嬉しそうな表情に見惚れて心を撃ち抜かれる。

 足取りが怪しくなりながら、ふわふわしながら歩いていると、ナミさんの家が見えてきて、ノジコとゲンさんが手を振っている。

 

「――――ただいま!!」

 

 2人に、ナミさんは私と繋いだ手をあげて、腹から声を出して、全速力で駆け出す。

 私は足がもつれそうになりながら一緒に駆け抜けて、その勢いのまま「ちょっと!?」「おい!?」ノジコとゲンさんに飛びついた。

 

 ああ。

 

 私は今日、ナミさんが本当の意味で”お家”に帰って来れたのだと気づいて、心が弾んで一緒にはしゃいだ。

 

 手袋越しに視えたベルメールさんが、倒れ込んだ私たちを見て笑っているのが、本当に嬉しかった。

 

 

 

 

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