「いいじゃんか!! なあ、仲間になってくれよナナシィ!!」
「……ご、ごめんなさい。私、船酔いするんです。……うぷ」
「致命的じゃねぇか」
船の上の不規則な揺れに、すでにやられながら白状する。それに、どれだけ練習しても泳げないんです……
「……それに、私には海賊になれない理由もあって……熱心にお誘い頂いて、言葉にできないほど嬉しいんですけど、私は」
「おいナミ!! こういう時はどうすればいいんだよ!?」
「知らないわよ。食客でいいんじゃない?」
「よし分かった。今日からナナシは食客な!」
「ええ!!??」
気づいたら、そんな流れで私はルフィさんのお仲間になっていた。
い、いいのだろうか?
まさか、あの後は全力ダッシュするルフィさんに、お祝いの言葉を言う間もなく攫われるとは思ってもいなかった。シュシュは町の人達に吠えて足止めをしていたし、何があったんだろう? ……そして彼らは、いったい私の何をそんなに気に入ってくれたのだろう? ルフィさんが宝を捨てたとナミさんが怒り、当のルフィさんはあっけらかんと笑っているのを見つめながら、小さな不安が胸をすくっていく。
(……いや、仲間じゃないよね? 食客ってお客さんの事だよね。……うん。いずれ仲間と呼んで貰える様に、お客さんとして、掃除とか洗濯とか雑用係を頑張ろう)
改めて気合を入れるも、やはり不規則な波は強敵だった。
すぐに気分が悪くなって考えがまとまらない。隣の小船でナミさんがチクチクと麦わら帽子を縫う横顔に見惚れる。
(どうして、人は船酔いをするのだろう……?)
こんなだから、できる限り陸路を歩こうとして、あの町に入ってしまったのだけど……いや、そこでルフィさん達に会えたのは嬉しい事だし。……覚悟を決めよう。この先の船旅は、意地で慣れるしかない。
こみ上げるものを堪えながら、ぐっと起き上がる。
とりあえずは緑髪の剣士、ゾロさんの許可をとって、お腹の傷を手当てする事にする。
(酔っていても、これぐらいはできそう……)
ああ、気持ち悪い。背負っていたリュックから、いざという時の為にまとめていた医療用の糸を取り出す。トレジャーハンターを目指している以上。いつ怪我するか分からないから多めに持っていたのだ。他の用途にも使えるし。病院をこっそり覗いて勉強もしたから最低限は大丈夫。お医者様の独り言が大きかったおかげでコツもギリギリ分かる。
「器用だなぁ、ナナシは」
「ありがとう! ……うぷ」
縫い針をアルコールランプで加熱したお湯に入れて、ぐつぐつと消毒完了。痛みを与えない様に、患部をアルコールで消毒しながら傷を縫っていく。
ルフィさんは、修理された麦わら帽子をご機嫌に被りながら「ナミもゾロを縫えるのか?」と聞いているが、人と布を一緒にしてはいけない。
「……無茶言うんじゃないわよ。あと、ルフィもいい加減この子をちゃんと呼びなさい! ナナシはないでしょうがナナシは!」
「ぐがー…」
「って、なんで寝れるのよあんたは!?」
いびきをかき出したゾロさんに、ナミさんが突っ込む。そういえば今日は良い天気だし、お疲れ様だからしょうがないよね。……1人じゃない旅って、こんなに賑やかになるんだなぁ。
「ちょっと、聞いてるの?」
「! いえいえ、私には本当に名前が無くて、呼びやすさ優先のナナシでいいですよ!?」
いけない、一瞬何を話していたか忘れそうになった。
(それもこれも、ナミさんが綺麗だから、気を緩めると見惚れちゃうのがいけない。気をしっかりもて私!)
密かに焦りながら自戒する。訳ありっぽいナミさんをそういう目で見るのはダメなのに。いくら見目麗しくて、それ以上ににじみ出る性格の良さと心の強さに愛の告白をしたくなっても、そんな事をしては芽生えかけの信頼を損ねてしまう。
(そういうのは、もっと深い仲になってから……できるといいなぁ)
壁は高くて厚い。
夢の為にならいくらでも頑張れるけど、やっぱり仲間は駄目かもしれぬと悩ましい。ゾロさんの肌をちくちく縫いながら、チラチラナミさんを見てしまう。……それにしても、脇腹の傷が酷すぎるな。ゾロさんはすぐ無茶苦茶して動きそうだし、ちゃんと縫えているか心配になる。……医学書欲しいな。
「……ハア。……そういう訳にもいかないでしょ。……ちゃんとした名前は後でもいいけど、とりあえず、今はナナって呼んでも良い?」
「!! ……も、もちろんです」
ナナ。……ナナ!
い、いや、仮の名前だ。
でも、ナミさんがつけてくれた。……あ、だめだ。さっき抑えようと思ったばかりなの。
(嬉しいっ。嬉しすぎて、抑えがきかないかも。ナナって仮名を貰えた! ナミさんを愛したいっ。お嫁さんになって欲しい! 絶対に幸せにするなんて言えないけれど、絶対にずっと死んでも愛し続けると誓えます……!! ああああ、こんな急に告白なんて、軽く見られるだろう!? 落ち着いてクールにお礼を言うんだ私!!)
「呼びやすい仮名をありがとうございます!」
「え、ええ……どういたしまして」
必死に、顔に出さない様に、治療中の指がぶれない様に気持ちを抑え込む。
(好きだな。うん、好きだぁ。嬉しいなぁ。仮名をつけてくれた。優しいなぁ)
ほっくほくしながらゾロさんの傷口を縫い終える。……それにしてもゾロさん。ほぼ初対面の私に傷口を縫われているのに、どうして爆睡できるんだろう? 怖くないのかな。
「あっはっは!! ナナはナミが好きだなぁ!!」
「はい! ……うえ!?」
なんで!?
「ルフィ!! あー……なんでもないのよ、なんでも」
「は、はい? そ、そうですか」
び、びっくりした。ばれたのかと思った。
(……やっぱり、ルフィさんは凄い人だな。この気持ちは頑張って蓋をしないと……! ばれたら、せっかく少しだけ仲良くなれたのに、壁ができてしまう。……私の夢は、たくさんのお嫁さんを愛する事なんだから)
落ち着こうと密かに深呼吸していると、ルフィさんが「おい!!」と嬉しそうな声をあげる。
「島だ!!」
「……ああ、あれはダメね。無人島よ。行くだけムダ、進路はこのまま……待て!!」
「仲間になってくれる奴いるかなァ」
「て、手伝います、ルフィさん! ゾロさんは寝かせてあげて下さい!」
ぎーこぎーこと、ナミさんには申し訳ないが、船長が行きたいと言うなら指針は決まったものだし、こうするべきだろうとオールをこぐ手伝いをする。
あと、揺れない陸の上に立ちたい……!
目標にまっすぐなルフィさんと、大胆不敵にくかーと眠るゾロさん、苛立ちながらついてきてくれる面倒見の良いナミさん。
私から見ても、この一味のバランスは悪くないんじゃないかと、私は船酔いを堪えながら思うのだ。
ちなみに、陸についたら「このバカちん! あんたも止めなさいよ!」とナミさんに拳骨を貰った。……この船では、船長より航海士の指示が重いらしいと、私は悲しみを背負いながら胸に刻んだ。
よし! 私は陸が大好きなので、今後は消極的に止めるぞ!