サトラレ少女はお嫁さん募集中です   作:百合好きの雑食

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37話 もうすでに会いたくてしょうがないのです

 

 

 出会ってからたった半日で、心を掻っ攫われてしまった。

 

 

(……落ち着く)

 

 ぎゅうぎゅうと、子供みたいに抱きついてくるこの子に身を預ける。

 あの日、妹が連れ帰って来た女の子。どちらかと言えば誘拐してきた様にしか見えず、こちらの事情を何も把握していなかったお人好しな少女は、蓋を開けてみれば爆弾の詰まったびっくり箱みたいな女の子だった。

 ドカン! と島中を巻き込む大爆発を起こした癖に、彼女自身がまき散らしたのは無害な色とりどりの紙吹雪。

 

「ふぁ……」

 

 真っ赤な顔が可愛い。彼女の体温と心音にホッとしてしまう。私から誘って淡い口付けを交わせば、とろんとした瞳が零れ落ちてしまいそう。

 ああ、このまま何もしないなんて冗談でしょう? 心底から昂っているのに、それでもこの子がへたれるなら、このまま何もしないで眠るのも悪くないと思ってしまう。

 今にも倒れてしまいそうなナナに笑って、自分で思っている以上にこの子が欲しいと頬ずりする。

 

『”んんぅう!! ノジコのほっぺが柔らかいぃ!! も、もうこれは間違いなく誘われている誘われているよね誘われていると信じよう!! 勘違いだとしてもノジコに恥をかかすぐらいなら私がかく!! んっあー!! ノジコのすりすりは破壊力がダメです猫っぽさが流石ナミさんのお姉様でいや今はノジコの事だけを考えろこういう時にお嫁さんとはいえナミさんの事を考えるとか処刑ものでノジコしかもう見えない!!”』

 

 そのぷるぷると震える様子に、駆け引きのしがいがないと噴き出しそうになる。

 私を欲しいと隠さないナナが可愛くて、愛おしくて、否が応でも心が満たされていく。私への愛情を疑わせないまっすぐな瞳に完敗で、余裕ぶった微笑みの内で期待と緊張を意識する。

 

『”うあああああ、ノジコがかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい!! 私の理性が風前の灯火っていうかむしろここでがっつかないのは失礼なのでは!? 大人の階段を今こそ駆け抜けいやしかし嫌がられたら即土下座しようそうしよう勇気を出せ私あと鼻血は堪えるんだ私!!”』

 

 一秒にも満たない隙間で彼女の『声』が何度も何度も通り抜けていく。そんなに興奮されると女冥利に尽きると口付けを贈る。

 この子の思考はとても速くて温かい。今も明け透けな優しい心が熱をもって内側に流れ込んでくる。あの時も、たった数秒でナミとどんな冒険を繰り広げてきたのか村の皆が一瞬で理解させられた。その場に居合わせた全員が驚いて呆気にとられたものだ。

 お陰様で、あの子の仲間が良い奴だと出会う前から知っていた。そのせいで最初は警戒されちゃったけど、ナナの名前を出せばあっさり信用してくれた。

 

(この子の心は、きっと”知らない”からこそなのよね)

 

 もしも、この子が自分の思考が外に漏れている事を自覚したら……優しいからこそ心を閉ざしてしまうかもしれない。……それは嫌だし困る。今更この子の声が聞こえないなんて、寂しくてしょうがない。

 

(不思議な子……)

 

 私なんかを可愛いなんて、本心から思っている。

 もう、小さな子供でもないのに、ナナが本気だと分かるからこそ苦笑する。私に触れる指先は繊細で、まるで宝物に触れる様に優しいから色々な意味でくすぐったくてしょうがない。それに、私のお尻の下にはこの子の上着が敷いてある。

 

(……別に、地べたの上で良かったのにねぇ)

 

 私が身体を痛めない様に、汚れない様にと、事に及ぶかも分からない段階でそうしてくれた。そんな積み重ねが愛を感じさせて、私の心は甘ったれになっていく。

 今もそう。外だと私が身体を痛めるかもしれないと、誰かに視られるのはもっとダメだと、今すぐにでも私に触れたいという激しい欲求を笑顔で押し隠して、屋内に入る事を提案しようと四苦八苦している。

 

「あ、あの、ノジコは、家に戻りたかったり」

「ないわね」

「そ、そそそうですか!?」

 

 え? いいの? お外でいいの? ってオロオロドキドキしているナナに微笑む。

 

(……だって、旅に出るあんたは、室内より星を見上げてスる事の方が多そうだしね?)

 

 これからの長い旅路で、他の子と良い感じになったとしても……最中にチラっとでも私の事を思い出せば僥倖だとにんまり笑う。未来のナナと相手へ向けたちょっと趣味の悪い嫌がらせだ。

 草木と夜露に女の香りが混ざって、そのまま私の匂いを忘れなければ良いと、我ながら嫉妬深い事を考えている。

 

『”つまりいいんですね!? うああああああ興奮しすぎて心臓が痛くて感覚すら遠くなってきた!! 落ち着け私!! 初めてだからとか言い訳は通じないぞ!! ノジコに無体な事をしない様に理性よ勝ちにいけ!! 本能に負けて今すぐぎゅーってしてすりすりしてよしよししたくて、それで、なんか、その……え、エッチな姿とかいっぱい見たいと欲張っちゃダメだぞ!? いや、見てもいい筈なんだけどがっついたら体目当てとか思われかねないぞ!?”』

 

 うーん、可愛い。

 欲望が明け透けな割に、性欲が強いのか薄いかよく分からない。いまだに事に及んでいないのは、私に魅力が足りないのでは無くこの子の我慢強さが異常なのだ。

 

「ねえ、ナナ。脱がしてくれないの?」

「―――ひゃい!?」

 

 裏返った声で慌てる姿が微笑ましい。

 深みのある青い瞳が大きく見開かれて、気づけば視線が吸い寄せられていく。

 

「ダメ?」

「!? ――いいえ!! わ、わたしがんばりましゅ!!」

「ええ、期待してるわ」

 

 カチコチになりながら、覚悟を決めて私を見上げるナナにぷっと噴き出す。

 色気も何もあったものじゃないのに、心が温かくてずっと満たされている。……あまりに心地良くて、はやくと誘う様に彼女の頬を撫でると、意に反して強張った顔がふにゃふにゃになってしまう。

 

(……私の事が、好きすぎでしょう? そういう顔も猫っぽくて良いけどさ)

 

 ああもう、と額に口付ける。本当にどうかしている。どうしてそんなに、出会ったばかりの私を好きで好きでしょうがないって感じに愛してくれるんだろう?

 最初は、あのナミが懐いているって理由で驚いたけど、それ以上の関係だったことに度肝を抜かれた。あの誰にも懐かない野良猫みたいだったナミが、この子に完全に心を預けている事が信じられなかった。

 

(どんな魔法を使ったんだって思ったけど……これは、ほだされるわけだ)

 

 春みたいな女の子。傍にいるだけで強制的に陽だまりを浴びせられて、身が凍りそうな人間ほど彼女から離れがたくなるだろう。

 

「……脱がしてくれないの?」

「―――!!??」

 

 これから出会うだろう、彼女が好きになる女性達に嫉妬を覚えて煽れば、案の定面白いぐらい大げさな反応をしてくれる。髪をわしゃわしゃしてあげたくなるけど、雰囲気が壊れそうだし我慢する。

 

『”ふ、服を脱が、せせせ……こ、ここここうでいいんだよね!? う、上着を、あー!! 目に眩しいすんごく艶めかしいお胸が大きい腰ほっそい色っぽすぎて世界が死ぬ心臓が壊れそうで目が幸せを訴えてくるぅう!! ああああ女体をこんな間近で見るの初めてで興奮が止まらなくてノジコが可愛いくて私のお嫁さんなんだと叫びたくてそして今から初夜ってうあああああ夢なら覚めるな!!??”』

 

 うん。やる気はある様で何よりね。死にそうなぐらい焦ってるけど。

 ちゃんと進みたいと思っているのは私だけじゃないんだと、嬉しくてつい頬に口付けるとあわあわと更に混乱していく。

 

(……さて? 本来なら、私からリードするべきなんでしょうけど)

 

 年下だし。自分より小さな子に抱かれる趣味も無い。今まで同性を相手にするなんて考えたことも無かったけど、この子にはちゃんと欲情できる。むしろ、ナナの方がその気にならないかもって不安だったぐらいだ。だから、手っ取り早く私から手を出しても良かったんだけど……

 

(……この子は、どちらかといえば私を”愛したい”子なのよね?)

 

 愛されるより、愛したい。

 彼女は1の愛を貰えれば100の愛を返す子だと思う。それが痛い程に伝わってくるから、最初ぐらいは譲ってあげようと思うのだ。

 

(この子は、私を欲しがっている)

 

 ナミの予想通り、この子はベッドの上でも愛されるより愛して愛して愛して、とにかく愛情を注ぎたくてしょうがない困った子なのだ。

 

「……ナナ、好きにしていいよ」

 

 だから、今だけはこの子の好きにさせてあげる。

 ビクリと震えながらも、その瞳が、心が、熱が、痛いぐらいこの先を望んでいる。私が微笑んで頷いてあげると「……っ!!」と感激に打ち震えながら逃げ腰だった姿勢をかえて、片方だけつけたままの手袋を噛んで外す。

 

(……あ、その顔はいいわね)

 

 ちょっと、野性味を感じてドキリとした。

 まだ、ナナと出会ったばかりの私はこの子のそういう仕草を知らなくて、だからこそ昂る。

 外した手袋を横に、素手で私に触れてくる熱っぽい感触が心地良い。彼女の心は私への想いに溢れて、内側から炙られていく。

 

(……これで、まだ”我慢”しているっていうんだから、恐れ入るわ)

 

 この子の本気は、どれぐらい心を掻き乱すのだろう? 少しゾクリとしながらナナの「さ、さわります!」宣言に頷く。まず、心の声のままにぎゅうっと抱きしめてくるのをくすくす笑いながら受けいれて、その背中に腕を回す。

 

(この子の服も、脱がせてあげないとね)

 

 自分だけ服を着たままなんてマナーがなっていない。後で教えてあげないととほくそ笑みながら、彼女のボタンに指をかけてくすくすと笑みが止まらない。

 

(しょうがない子。……私を抱きしめているだけで”死にそう”だなんて、まだ始まったばかりでしょう?)

 

 可愛くて、よしよしと頭を撫でてあげれば満ち満ちていく充足感にうっとりと目を閉じる。

 この子とは、触れ合っているだけで気持ちが良い。自分をどこまでも受け入れて受け止めて離さないでいてくれる。枯れ果てないだろう大海の如き愛情が、麻薬の様に身体と心に浸透していく。そんなものを間髪入れず延々と注がれてしまえば、誰だって参ってしまう。

 

(……まずいわね。……ちょっとドキドキしすぎて、この子の事を笑えなくなってきたかも)

 

 顔がどんどん熱くなっていく。こんなにもまっすぐに無性の愛を感じてしまえば、平静も次第に崩れていく。あの当時の冷え切っていたナミでさえ、この子の前では無理だったのだ。私なんてたった半日でダメにされたんだから、むしろナミが凄かったんだろう。

 この子は私たちを好きすぎて、異常なぐらい温かくて……どうしようもなく底が知れない恐ろしさを併せ持っている。

 

(……あのモームでさえ一撃なんて、腕っぷしまであるとかずるすぎるでしょ)

 

 あの時、私とナミだけが気づいていた。

 モームを弾き飛ばしたナナの口元が、うっすらと酷薄に笑んだのを。

 

「……っ!」

 

 思い出してゾクンと体が熱くなっていく。……二面性って奴なのか、当の本人はすぐにすやすやと寝てしまい、何も覚えていない様だったけど。そういう面もあるのだと知ってしまえばますます深みに嵌ってしまう。

 アーロン達に発していた殺気とすらいえない敵意すら、圧倒的だった。

 明らかに弱そうなのに、それが擬態だと疑うしか無いぐらい、ナナの内には何かがある。弱者には絶対に発せない威圧感に、あのアーロン達すら暴力での解決を避けた女の子。

 

「ノジコ……あ、あの……い、いっぱい触ります!!」

「ええ、どうぞ」

 

 本当に、不思議な子。その感触を受け止めながら、脱がされていく度に寒くないか心配する心に温かくなる。

 触れる唇が気持ち良くて、だけど物足りない。……この子に愛された後は、年上のお姉さんとしてしっかり”教育”してあげましょうと、拙い旦那様に自ら舌を差し込んだ。

 

 長い夜は、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 …………ああ、ノジコとの幸せな時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。

 

 どれだけ願っても時は止まらず、旅立ちの朝がきてしまった。

 狭い港に入りきらない様に、島中の人達がぎゅうぎゅうに集まってココヤシ村からたくさんの人達がはみ出て、わいわいがやがやと賑やかだ。

 

(……ノジコ)

 

 だけども、その賑やかさが余計に辛い。ノジコと別れてしまうと考えるだけで悲しくて寂しくて無言でノジコの腰に抱きつく私を、ノジコは優しく撫でてくれる。あと、髪も梳いてくれるしなんならチュウもしてくれる。……もうやだぁここに住むぅノジコと一緒にいるぅ何で別れるのか意味わからないぃ。

 

「……おいルフィ。いざとなれば引きはがせ」

「分かった」

「おい手前ェら!! 野暮な真似すんじゃねェよ……可哀想だろうが!!」

「いやいやいやいや、あいつマジで残ろうとするからな?」

 

 ノジコと過ごした日々が幸せだったからこそどんどん離れがたくなる。っていうか離れたくないぃ。可愛いノジコともっともっと一緒にいたいぃ。今夜もいっぱい頑張って可愛い声で「――そうだ。ナミがあのお金は置いて行くって言ってたよ」むぎゅーっと突然ほっぺ抓られて痛いけど可愛いぃ。

 

「何!? 金を()()置いてく!? あの一億ベリーをか?」

「ナナから貰った分以外はね。あのお金はナナに返すってさ」

「当然だが……()()()はナミが命をはって……」

「また盗むからいいってさ」

 

 赤くなっているだろう頬にチュッとされて、うっひゃあという気持ちでぐりぐり抱きつく。幸せすぎて一生ここにいたい……

 

「ばかめ……まだ礼をし足りんのは、我々の方だというのに……!!」

 

 ぁ。ゲンさんの苦渋が滲んだ声にハッと顔をあげると、ノジコに「ん?」と唇にキスされる。違うそうじゃいやそうだったきっとキスしたかったんだ私は!! 蕩けそうな気持ちで見つめあうと「そこー!! いちゃいちゃしすぎない!!」とナミさんの声。そして「船を出して!!」と指示。

 

 え? え? ノジコともう一回と背伸びした途端だったから本当にびっくりして「ん?」「ナッちゃん!?」とぎゅうぎゅう詰めになっている島の人達も驚いている。

 

 そして、ナミさんが凄い勢いで走り出す。

 

「走り出したぞ!? なんのつもりだ!?」

「船を出せってよ……とにかく出すか」

 

 うええ!? 本当にメリーが港から離れはじめて、心の準備ができずに全身が硬直する。

 

「まさかあいつ……我々に礼も言わせず、別れも言わずに行こうというのか!?」

「そんな……!!」

 

 島の人達の焦りと困惑も混ざって、あわあわしていると「ナナ」ノジコの優しい声。

 

「止まれナッちゃん!! 礼ぐらいゆっくり言わせてくれ!!」

「あ……あいつら船を出しやがった!! 君らにもまだあらためて礼を……」

「出航ー!!」

 

 周りの喧騒が遠ざかって、ノジコと静かに見つめあう。……ああ。

 その表情は、凪の様に静かだった。

 

「ナミ待て!! そんな勝手な別れは許さんぞ!!」

 

 怒声と懇願の叫びが響くなか、震える身体をおさえつける。私よりずっと大人で、ずっと強くて、ずっと素敵なノジコと、いってきますの口付けを交わす。

 

「……っ。のじこ、いって、きますっ!」

「ええ。いってらっしゃい。お土産よろしくね」

「いっぱい、持って帰りますっ。……ッ。ノジコが好きです……大好きです……離れたくないです」

「ありがとう。実は私も……ついていきたいぐらい、ナナが好きなの」

「……ノジコぉ」

「ほら、ナミが来た。……風邪、ひいちゃだめよ?」

「――――ッ!! あ゛い!!」

 

 もうよく見えない目でノジコに何度も何度も頷いて、無理矢理目を擦って走り出す。そして、走るナミさんの隣に行けば、ぐいっと腕を掴まれる。

 

 

「……行くわよ!」

「……あい!!」

 

 

 そのまま、たんっ……! と大きくジャンプして港から離れたメリー号に着地する。 

 私は無様にゴロゴロと転がったけど、ナミさんはしっかりと立ったまま、徐に上着に手をかけて。

 

 ドサドサドサドサ……更にドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ……さ、財布が落ちて行く。……うわぁ。

 

「あ!? あれ!? 財布がないぞ!?」

「おれもだ!」

「わしのも!!」

「私も!!」

「おれのも!!」

 

 島中から人が集まり密集した中を、猫の様にスルスルと駆け抜けたナミさんは、それはもう大量すぎる財布をスっていた。そしてナミさんはにんまりと笑ってみせる。

 

 

「みんな元気でね♡」

 

 

 それはそれは良い笑顔のナミさんに「「「「やりやがったあのガキャー!!!!」」」」と、島中の人達の怒声が響き渡った。

 私は転がったままその光景を見て「……っ」私をずっと見ていてくれるノジコと遠目に目があって、気づいたから笑おうとして失敗した。

 

「おい、変わってねェぞコイツ」

「またいつ裏切ることか」

「ナミさんグーッ!!」

「だっはっはっは!」

『――――』

 

 ……メリーも、おかえりなさいって言ってくれるんだね。うん、ありがとう。きっとナミさんに伝わったよ。

 甲板で起き上がりながら、私はノジコを一心に見つめる。

 

 

「この泥棒ネコがァー!!」

「戻って来ォい!!」

「サイフ返せェ!!」

「この悪ガキィーっ!!」

「……」

 

 ノジコが手を振っている。その頬を涙で濡らしてくれる。

 我慢していたんだって分かるその表情に、心臓が磨り潰されそうで、気づけば大きく手を振っていて。

 

 

「いつでも帰ってこいコラァ!!

「元気でやれよ!!」

「お前ら感謝してるぞォ!!」

 

 

 私は、ノジコみたいに上手に我慢できなくて、ぐしゃぐしゃの情けない顔を晒してしまう。

 

 そんな私を見かねて、ノジコは泣きながら笑ってくれる。そして、

 

 

「ナナー!! ナミが嫌になったらいつでも帰ってきなよー!!」

「―――って、ふっざけんじゃないわよ!! この子は私のでもあるんだから、ちょっと先こしたぐらいで正妻面すんじゃないわよ!!」

 

 

 おおう!? 返事する間もなくナミさんが叫んで、その勢いにしてやったりとノジコが笑って、ナミさんはムッとした顔からすぐに笑顔になって、大きく深呼吸。

 

 

「じゃあねみんな!! 行って来る!!」

 

 

 そして、ノジコにだけ個別に悪戯っぽくんべーっと舌を出して、ナミさんは満足そうに笑う。ノジコはやれやれって顔で腰に手をあてている。

 私は、そんな2人が可愛くてキュウンとしながら、ふぎゅう、っとついに限界がきすぎて泣いているのに更にボロボロと泣いて、足腰が溶けた様に力が入らなくてへたり込み、別れが辛くて悲しいのに、温かくて。心が混乱しながらおいおいとノジコに手を振って延々と泣き濡れた。

 

 そして、ようやく島が見えなくなって、感覚が無くなっていた腕を降ろした時……寄り添ってくれていたナミさんが、しょうがないわね、って感じでぎゅっとしてくれる。

 

 それだけで、寂しさが少しだけ薄れて、ありがたくて、がむしゃらに抱き着いた。

 

 ナミさんは優しく微笑んで、そんな私の顔をハンカチで拭ってくれる。……みかんの香りがして、余計に泣いた。

 

 

 

 

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