本日は快晴につき素晴らしいお掃除日和。
ノジコのいない寂しさを引きずりながら、いつか訪れる再会の日を夢見て頑張ります……!
よし! と気合をいれながら、日課のお掃除ノルマをこなしていく。
船酔いは辛いけど、お掃除をしていると気持ち悪いのも遠のいていくし、その間にノジコやカヤさんの事を思い出して幸せになれる。そんな女々しい私は、今夜もナミさんに癒して貰うんだろう。同衾を許してくれるナミさんが優しくて、少し気恥ずかしいけど、嬉しいし寂しさを忘れられる。
旦那さんとしては格好悪いけど、ナミさんは嫌な顔一つしないで受け入れてくれるから甘えてしまう。大好きで温かくて愛おしくて、一生幸せにするしか無い。
(ナミさんがいてくれて良かった……)
鼻を擦る。今でも、お嫁さんになってくれたノジコとの別れが辛すぎて胸の奥がぐじゅぐじゅだけど、傍にいてくれるナミさんのおかげで今日も立っていられる。
出会いがあれば別れがあるのは必然なのに、分かっているのに寂しくてしょうがない。……だからこそ再会を夢見て踏ん張るしかないのだと、そんな当たり前の事をようやく飲み込めてきた。
そんな少しだけ成長した私は、メリーをピカピカにしながら、その合間にノジコに会いに行く計画(妄想ともいう)をあれこれたてていたりする。
(……うん。旅とは何が起こるか分からないものだから、チャンスがきた時の為にイメージトレーニングはかかせないんです。再会の挨拶も考えておかないとですし!)
ふんすっと鼻息を荒くして、ノジコとの再会の第一声を格好良くしたいなぁと手すりを磨いていく。そして、そんな夢みたいな時がきたなら絶対にカヤさんにも会いに行く! つまりウソップさんを引っ張っていくのは必須になるし、当然ナミさんも一緒だ。
「……また値上がりしたの? ちょっと高いんじゃない? あんたんとこ」
と。ナミさんの声に顔をあげる。新聞が届いたみたいだといそいそと掃除の手を止めて用意していた石鹸で手を洗う。……新鮮な情報が見れる! 新聞屋さん今日もありがとう! お菓子をどうぞ。
「クー!」
「……はあ。こんど上げたらもう買わないからね」
新聞屋をしている鳥さんが美味しそうにクッキーを食べてくれて可愛い。……動物さんの仕草ってどうしてこうも癒しをくれるんだろう? ほっこりしている横でナミさんが不機嫌顔でお金をチャリンと払い、ウソップさんは呆れている。
「なにを新聞の一部や二部で」
「毎日買ってるとバカになんないのよ!」
「お前、もう金集めは済んだんだろ?」
飛び立っていく姿に手を振って、そわそわっとナミさんの隣に行く。ナミさんは笑って「ほら」腕を絡めてくれる。そのまま2人で開いた新聞を覗き込めば、良い匂いがして心地良い。
ちなみに、ナミさんが支払うだろう新聞代その他も私が出します! お嫁さんですし! と言ったのだけど、ナミさん曰く、身内になった自分はともかく、所属する海賊一味や船長であるルフィさんを無料でメリーに乗せている以上、船の持ち主である私からこれ以上貸し借りするのはダメらしい。私にはよく分からないけど、海賊は自由なだけじゃないんだと少し驚いた。
「バカ言ってるわ。あの一件が済んだからこそ。今度は私は私のために稼ぐのよ。ビンボー海賊なんてやだもん」
「おい騒ぐな!! 俺は今、必殺“タバスコ星”を開発中なのだ!! これを目に受けた敵はひとたまりもなく…「さわるなぁ!!!!」「うわぁ!!」ぎいやあああああ!!??」
うーん。メリー号がますます賑やかになったなぁ。
ふわり、メリーも嬉しそうにしているのを感じながら、頬を緩めて新聞の文字を追っていく。……さて。アーロン達が捕まった事でノジコ……ううん。ココヤシ村……いや、コノミ諸島全域がその後どうなったか、少しでも追加情報は無いかと真剣に読み進めていく。
「何だよいいじゃねェか一コぐらい!!」
「ダメだ!! ここはナミさんのみかん畑!! このおれが指一本触れさせねェ。ナミさん♡ 恋の警備万全です!!」
「んんっ! ありがとサンジくん♡」
「まーいいや。おれは今うれしいから」
ハッ!? 今ナミさんがサンジさんに気のある素振りをした!? ガバッと顔をあげるとナミさんが「あら」と悪戯っぽく唇を寄せて、チュッと。
「ナナ、好きよ♡」
「私もです!!」
気のせいでしたー!!
でれっでれになっていたら、色っぽく笑うナミさんに手を引かれて、そのまま一緒にデッキチェアに座る。
「……いいように使われてんな、あいつら」
「ぎいいやあああああああ」
「あーいよいよ“偉大なる航路”だ!!」
ナミさんの膝上に座らせて貰いながら、くっつくのが嬉しくてでれでれしていたらキラリ、ナミさんの手首に光る金色の腕輪が目に入る。(あ……)そこに、確かなノジコの気配を感じてふにゃりと笑う。
ナミさんは何も言わないけど、この腕輪はノジコに貰ったんだろうな。
……私も、何かノジコに強請れば良かったかな。ノジコは私の手袋を片方だけ欲しがって、それ以上はいらないと笑っていた。……予備がまだあるとはいえ、なんで片方だけなんだろう? もっと欲を出してくれても良かったのに。せっかくだから、もう片方の手袋は大事にしまっている。
「……鈍感」
「え?」
「なんでもなーい。……しかし、世の中も荒れてるわ。ヴィラでまたクーデターですって」
っ。クーデター……不穏すぎる内容に眉を顰めて、恐る恐る読もうと新聞の端っこを握ると、ヒラッと新聞から何かが零れ落ちる。
「「ん?」」
「ちらし」
それは、
「「あ……」」
「あ!」
「ぐー」
「お」
「……手配書?」
見慣れ過ぎたルフィさんの笑顔がでてきて「「「「ああああああーっ!!!」」」」私と皆の声が合わさり、驚愕の悲鳴が響き渡る。
―――え。―――ええ!? て、ててて手配書? 本当に!?
ど、どうしよう!? い、今の私たちは“偉大なる航路”へ向かっていて、つまり、それは……あわわわわっ!?
「なっはっはっはっ!! おれ達は“お尋ね者”になったぞ!! 3千万ベリーだってよ!!」
こ、こここここの“手配書”の意味が、深刻な危険度を伴って現実味を帯びてくるという事でナミさんとメリーが危ないと、喉奥から悲鳴が漏れて全身がガクブルと震える。
「……あんたら、ナナ以外見事に事の深刻さがわかってないのね。これは命を狙われるってことなのよ!? この額ならきっと“本部”も動くし、強い賞金首稼ぎにも狙われるし……」
「みろっ!! 世界中におれの姿が!! モテモテかも」
「後頭部じゃねェかよ自慢になるか」
――――は?
ウソップさんはバカじゃないですか? 故郷にカヤさんという美人でお金持ちで心優しい天使みたいなお嬢様が待っている身でありながら何言ってんですか? ……って、違うそうじゃない、頭の中のカヤさんに見惚れつつ、浮気宣言ととられかねないウソップさんの発言にも憤ったけど手配書ですよ手配書!
「……おいウソップ。ちょっと面貸せや」
「ななななななんだよ急に怖ェよ!?」
「……これは“東の海”でのんびりやってる場合じゃないわね」
「はりきって“偉大なる航路”行くぞっ!! ヤローどもっ!!」
「……カヤちゃんって美人は本当に実在するのか!? どうなんだ!?」
「じじじじ実在するよ何なんだよバカヤロー!?」
あれ? 気づいたらサンジさんとウソップさんがめちゃくちゃ険悪になっている。というかサンジさんが嫉妬の炎で焦げ付きそうになっているけど、何があったんだろう? 首を傾げていると「……ナナ、ちょっとこっちに来なさい」とルフィさん達に忠告していたナミさんに腕を引かれて抱きしめられる。
「……少し手を離しただけでこれだもの。目が離せないわね」
「え? え? よく分かんないけど、いっぱい好きです」
「……おい。何でもいいが、島が見えるぞ?」
「私もよ。……ああ、見えたか。あの島が見えたってことは、いよいよ“偉大なる航路”が近づいてきたってこと!」
その台詞に、二重の意味でドキリとした。
旅の仲間というよりは、メリー号の付属品でしかない私でも“偉大なる航路”には感じ入るものがある。ナミさんが急にほっぺ抓ってきて痛いけど、その島から目を離せない。
「……ったく。あそこには有名な町があるの。『ローグタウン』別名“始まりと終わりの町”かつての海賊王ゴールド・ロジャーが生まれ……そして処刑された町」
「海賊王が死んだ町……!!」
「行く?」
ナミさんの問いへの返事は、聞くまでもない様だった。
その様子に、思わずナミさんの手首にすがりつく。
(……皆は、怖くないのかな)
手配書があるのに、新しい町に入るのは心配にならないのかと……彼らの事が少しだけ分からない。どうして怖くないのだろうと目を伏せた時、ふわり、メリーが“皆をどこまでも運んでいくよ”って、怯える私をどう受け止めたのか、そんな気持ちが伝わってきて……うん。
私も、見習って勇気を出そうと怯える心をおさえつける。
……よし! ナミさんにぎゅっと抱き着いて勇気を貰い、放置していた掃除道具を片付けながら港に寄る為の準備をする。
(どうか、何事もなく平穏無事に過ごせます様に……!)
そんな事を祈りながら、手を合わせるのだった。
そして立ち寄った町、ローグタウンは、予想以上に大きい町だった。
溢れかえる知らない人、人、人に、不安も忘れて興奮してしまう。
「ウーッ!! でっけー町だー」
「ここから海賊時代は始まったのか」
「よし!! おれは処刑台を見てくる!!」
「ここはいい食材が手に入りそうだ」
「おれは装備集めに行くか」
「おれも買いてェモンがある」
「貸すわよ。利子3倍ね」
「……ナナ、金を貸してくれ」
「え、はい」
(あれ? ナミさんじゃなくていいのかな?)
突然ゾロさんに肩を握られて、ちょっと驚く。……おかしいな。ナミさんからの利子3倍とかご褒美ですよね? つまり払い終わるまでナミさんに取り立てられて迫られるなんて羨ましすぎるシチュエーション。……そうか! ゾロさんは私の為に遠慮してくれているんですね! ナミさんに迫られるゾロさんとか見たら嫉妬に狂いますもの!
「はい! 勿論お貸しします! お金は返せる時に返してくれれば大丈夫です!」
「「……この差だよ」」
「何が言いたいのよ!!」
何故か重なるゾロさんとウソップさんの声に、ガーッ!! と怒る可愛いナミさんがひたすらに可愛い。ルフィさんはすでに背中しか見えず、相当に死刑台が見たいらしい。
そのまま、各々が自由に行動していく。……その気構えのない振る舞いに、やっぱり慣れない私はドギマギする。……初めて来た大きな町で迷うかも、とか全然考えていない堂々とした足取りには尊敬の念すら湧きあがる。
(私も、もうちょっとしっかりしなくちゃ!)
むんっと気合をいれる。少しでも皆と一緒にいて見劣りしない自分になりたいと願いつつ、でもこの場合はゾロさんと一緒に行動するべきですよね? と、ゾロさんに近づいていく。
「え?」
「ん?」
(……本当はナミさんと一緒にいたいけど、ゾロさん一文無しみたいだし、財布役が近くにいた方がいいですよね。……ナミさんとデートはしたいけど……っ。すごく、したいけど……ッ!)
最近のナミさんの様子を思い出して、ぐぐぐっと我慢する。
(……航海士としての買い物もあるだろうし、最近は私がべったりなせいで1人の時間を過ごせてないし……お嫁さんには旦那さんから離れて過ごすリラックスタイムも必要だって“視た”事もあるし……ここは、我慢だ私ッ!!!!)
ノジコとの別れが辛すぎて、ほぼずーっとナミさんにべったりだったからこそ……自重しなくてはいけない。だってナミさんは1人でふらっと歩いたり買い物するのが好きだって知ってるからこそ、笑顔をつくる。
「わ、私はゾロさんと行動しますね!」
「……。……ハァ。……そういう事なら、ゾロ。ナナを任せるわ。絶対にナナの手を離さないでよ? 離したらしばくわよ」
「……おう」
ナミさんは少しだけ歯痒そうな顔をして、ゾロさんは面倒臭そうな顔をしている。
軽い注意をゾロさんに吹き込んだナミさんが、去り際に私の頬にキスをしてくれる。「じゃあ、いってくるわ」そう言って微笑んで、愛らしい背中を見せて去っていくのをぼーっと見送る。「……行くぞ」と、ゾロさんに腕を掴まれて歩き出し、そして、五秒後。
(……あ、ダメ。……さみしい)
ナミさんがいない事にテンションが下がっていく。
「早ェよ!!」
「……え? あ、バレバレでしたか? すみません」
でも、無理ですダメです凄く寂しいです。
ゾロさんには申し訳ないけど、お嫁さんがいない孤独感が、心臓を直にギリギリと握りしめていくんです。
「……ったく。金だけ渡して、素直にナミについけば良かっただろうが」
「……それは……そう、なんですけど」
いつの間にか、ゾロさんに引きずられる様に歩いている。
(……でも、やっぱり……最近のナミさん、様子がおかしいし……リフレッシュして欲しいもの)
「……あ?」
(……夜はずっと落ち着かないみたいだし……ぎゅっとして寝てる時も妙にそわそわしてるし……もしかして1人じゃないと眠れないのかな? って出て行こうとすると怒るし。目が覚めて、どんなに爽やかな朝でもなんか不機嫌? というか不満そうだし。……何か、悩みでもあるのかなぁ)
「……」
ゾロさんは、何やらすごく嫌そうな顔をしている。いっそ相談してみようかと、ゾロさんに「あの」と口を開いたところで「オウ!! 今日はあの
「ウチの頭はてめェらのせいで監獄行きよ。どうしてくれるノーっ!!」
おっと!?
この感じはいちゃもんをつける方の自業自得案件ですね!? ビビリのせいで咄嗟にゾロさんの腰にしがみついてぎゅっと目を閉じてしまう。
「……まだ懲りないのなら、私がお相手しますけど」
ってぇ!? 若い女性の素敵な声!?
ハッと顔をあげれば、視界には2人の巨漢に絡まれた女性がおり、これはいけないと飛び出し「おい!?」っとゾロさんに頭を握られる。ちょおおお!? 離してゾロさん1人の女性が男2人に絡まれているとかもうダメじゃないですか!! ほら、あの人達「オウ!? おめーがおれ達の相手をしてくれるってか!?」「してもらおうじゃねェノーっ!!」ってめちゃくちゃ臨戦態勢ですせめて盾にならなきゃ!!
「死んであの
「おれ達ァあいつのせいで“偉大なる航路”へ入る夢も断たれちまったんだっつーノーっ!!」
――――え?
ゾロさんを振りほどこうとして、目を見開く。ゆっくりと動く世界で女性が刀を抜くのを視認する。
「……ぁ」
ズバンッ!! と、瞬間、耳にどこまでも一音に近づいた二つの斬撃音が届く。
驚くべきことに、黒髪の女性は圧倒的な実力差で2人の荒くれ者を切り伏せてしまった。――――ドクン!! と、心臓が大きく跳ねる。
(わ。わわ―――――うっわああああっっっっ!!)
ときめきにぶわわっと熱があがっていくのを感じながら、綺麗な黒髪の女性に見惚れていると「あ……と、と」女性はよろけだして、転びそうになっている。「危ない!」咄嗟に手を伸ばして支えて、零れ落ちそうになった眼鏡もキャッチする。
や、やわらかいっ。
「わっはっはっはっはっは!!」
「強ェなねーちゃん!!」
―――肩に乗る彼女の手の大きさや、鼻先を掠った前髪の感触に全身が熱をもっていく。
野次馬達の安堵が混じった囃し音を聞きながら、眼鏡越しじゃない露わになった彼女の素顔から目を離せない。……か、かわいい。
「……え……」
転ばなかった事を不思議がっているのか、女性はきょろきょろして、私をまっすぐに見つめる。
綺麗な瞳にとんでもなくドキドキしながら「ど、どうぞ」眼鏡を差し出す。……んぐぅ、大人しそうな容姿であの腕前とか、キュンキュンして真顔を保つのが辛い! 可愛い! 好き! お嫁さんになって欲しいっ!!
「え……あの、え……っ」
「だ、大丈夫ですか? 見えてますか? 眼鏡は此方です」
「……っ、え、ええ。……ご……ごめんなさい。……ありがとうございます」
くっ。照れた様な表情もすごく可愛いですこれはいけない!!
キュンとして、これ以上は本当に我慢できなくなりそうだと、女性がしっかりと立ったのを確認していそいそと距離をとる。
(危ない。このままでは段階を踏まずにプロポーズしてしまう。ゾロさんという男体を意識して興奮をおさめよう……!!)
いそいそとゾロさんの隣に戻って腹巻を指先で摘まんで深呼吸。顔をあげれば「……」彼は呆然としていた。
「? ど、どうしたんですか、お腹痛いですか?」
「……」
「あの、もし。……今の“声”は。……貴女なんですか?」
はい?
眼鏡をかけた女性は、何だか困惑と驚きが混ざった顔でゾロさん、ではなく、私を見ている。……え゛。もしやまた独り言が漏れてた!?
ぎょっとして慌てだす私と、呆然としたままのゾロさん、何故か気恥ずかしそうに押し黙ってしまう女性。
……数分ぐらい硬直していた私達は、野次馬さん達の疑問の声にようやく我に返って、とりあえず歩きながら話そうと、ぎくしゃくしながらその場を後にするのでした。