「この村を攻めようと考えているならやめておけ!! このおれの8千万の部下共が黙っちゃいないからだ!!」
「うそでしょ」
「ゲッ!! ばれた!!」
ナミさんの鋭い突っ込みに、ガーンとショックを受けるキャプテン・ウソップ。大げさなのか優しいのか分からないけど、彼は心から狼狽えている。
「ほら、ばれたって言った」
「ばれたって言っちまったァ~!? おのれ策士め!!」
今度は全身で身体をひねって動揺を露わにする彼に、おかしくて思わず頬が緩んでしまう。傍にいるだけで明るくなれる人だ。
「はっはっはっはっは!! お前、面白ェなーっ!!」
「おい、てめェおれをコケにするな!!」
ルフィさんにも大うけだ。ノリが良くてリアクションも大げさで、へんてこに真面目。良い人だ。
「おれは誇り高き男なんだ!! その誇りの高さゆえ人がおれを”ホコリのウソップ”と呼ぶ程にな!!」
そして、ホコリのウソップはその後もルフィさん達と会話を試みて白熱し、結果。
「何!? 仲間を!?」
気づけば、村の食事処で一緒にご飯を食べる程に意気投合していた。
「仲間とでかい船か!」
「ああ、そうなんだ」
「はーっ、そりゃ大冒険だな!!」
予想通りといえば予想通りである。
(ルフィさんもウソップさんも、人とすぐ仲良くなれるタイプだから、こうなるのは自然ですよね)
楽しそうに笑う2人が、あそこで喧嘩にならなくて良かった。
ほっとして、それから久しぶりの温かいご飯が胃に染みる、ほくほくと温かい気持ちでお魚をほぐす。
(美味しい。こんなに美味しいご飯はいつぶりかなぁ。こんなお店がご近所さんにあって、この村の人達は幸せだ。特にこのお魚のタレの配合具合、最高すぎる)
夢中で食べていたら、お店のおばさんがドン! と目の前に臓物の煮物を置いてくれる。
「はいよお嬢ちゃん! これはサービスだよ!」
「ええ!? ありがとうございます!!」
なんて気の良い女将さんなんだ! 若い頃は、いいや、きっと現在ももてもてに違いない! そんな彼女に感謝して煮物を受け取る。
「なに!? ナナだけずるいぞ!!」
「半分こしましょうルフィさん! きっとおばさんの自信作ですよ!」
さっそく一口頂いて、その美味しさをくぅっと噛みしめる。
すごくおいしい! ピリッとした香辛料が臓物の旨みと友情を結んでいる! この味の深みは一度食べたら病みつきになる事間違いなし!
そしてこの香りにつられたのか、お店のお客さん達もこぞって臓物の煮物を頼んでいる。うんうんわかるわかる、これ凄く美味しいもんね。
「おばさん! この煮物おかわり! あと肉も!」
「あいよ! 今度は金貰うよ!」
はあ、幸せ。
おいしいおいしいとよく噛んで味わっていると、ウソップさんと目が合う。
「……海は広いんだなぁ」
「?」
視線を不思議に思いつつ、ようやくお腹が満足して「ごちそうさま!」と一息つくと、ナミさんが「ん」とまるでダンスに誘う様に手を差し出すので、自然と指先を乗せてしまう。
(……は、恥ずかしいな)
嬉しいけど、顔が熱くなる。
食事の前も、なんだか怖い顔をしてゆっくりと手を離していたから、何かあるのではと心配していたけど。もしかして子供が迷子にならない様にって、ナミさんなりの優しさなのかもしれない。
(……それなら、ちょっとだけ甘えて、手を握っても許されるよね?)
そんな事を考えていると、ナミさんの指がするっと指と指の間に潜り込んで、絡まる様に深く繋がれる。
(……――――なんかエッチな繋ぎ方された!?)
飲んでいたお水を噴き出すかと思った。
密着力が幸せすぎる繋ぎ方に、あわあわしていると「あ、静かになった」とウソップさんが驚いた顔をしている。
「ああ、誰かが触ったら、もうそいつにしか聞こえないんだ。内緒だぞー!!」
「おう、分かった!」
「内緒にする気あんのかあんたら!?」
「おーい。こっち酒くれ」
うーん。賑やか。
おかげ様で邪な想いが僅かに浄化される。よし。この幸せを噛みしめながら、真顔を維持するぞ! 気づけば話も進んでいるみたいだし。
「まァ、大帆船ってわけにゃいかねェが船があるとすりゃ、この村で持ってんのはあそこしかねェな」
「あそこって?」
「この村に場違いな大富豪の屋敷が一件たってる。その主だ」
……っ!?
にぎにぎって、ナミさんが手を何故かにぎにぎって感じに刺激してくる!
だ、駄目だ話が頭に入ってこない! くっ。ダメだ私、ちゃんと話を聞け私! お客さんであり雑用係の私が細かい事を覚えていなくてどうする! ルフィさんやゾロさんはその辺が豪胆だから細かい事はすぐ星の彼方で、こういう事でお役に立ってナミさんの負担を減らすんだ私!
「だが、主といってもまだいたいけな少女だがな。病弱で……寝たきりの娘さ……!」
え。
病弱な少女、という放っておけない台詞に、雑念が消えて一瞬で話に集中する。
「どうして、そんな娘がでっかいお屋敷の主なの?」
「……もう1年くらい前になるかな。かわいそうに病気で両親を失っちまったのさ。残されたのは莫大な遺産とでかい屋敷と十数人の執事達……!」
ウソップさんの声と態度で、その子の事を心から案じているのが伝わって来る。
「どんなに金があって贅沢できようと、こんなに不幸な状況はねェよ」
…………うん。
そんな、不幸な話は無い。気づけばすがりつく様に、ナミさんの手を握り返している。
(……良い人だな、ウソップさん。その女の子に……ウソップさんみたいな友達がいて良かった。でも、病弱って大丈夫なのかな……? 悪い病気じゃないといいけど)
ご両親を病気で亡くすなんて、どれほどお辛かっただろう……。いけない。私が沈んでもしょうがない。……でも、この村にいる間だけでも、その子とお友達になりたい。まだ、旅に出て数週間だけど、ルフィさん達と出会ったのを筆頭に、その子が気にいる面白い話もあるかもしれない。
「……ねえ、ナナ」
「えっ」
「会ってみたいんでしょう? その子に」
「うっ」
ナミさんにニッと笑われて、どぎまぎしながら頷く。
「と、友達になりたい、です。……迷惑じゃなければ」
「そ。じゃあ、行ってらっしゃい」
パッと繋いでいた手が離されて、その解放に背中を押された気分になる。
よ、よし! 今からお嬢様に会いに行くなら、やっぱりお見舞いの花束やフルーツが必要だろうか? とにかく何かしら準備をしようと立ち上がる。
「……おい、ナミ。お前わざとだろ」
「あら、何の事かしら?」
「いよっし! ナナ、カヤの屋敷に案内してやるよ!」
急に、嬉しそうに立ち上がったウソップさんが、ぐいっと私の手を掴む。
「へっ?」
「……ちょっと!? 手を繋いでいいとは言ってないわよ!!」
わ、怒った顔のナミさん可愛い。いや、そうじゃなくて何を怒っているのだろう?
「おお!? ……なるほどなァ。……うへー、心がお日様の下で昼寝したみてぇにぽかぽかする」
「だろー!!」
「ちょっと!!」
心? 言っている意味はよく分からないけど、ウソップさんは改めて私の手を離して手首を握ると「こっちだ!」と駆けていく。
それに転ばない様に追いかけながら、お嬢様と仲良くなる為の色々を考える。
(とりあえず、おままごととかどうかな……? うん、良いかも)
病弱なら、かくれんぼも鬼ごっこもできないし、まずはそこからだろう。
ウキウキしながらまだ見ぬお嬢様(推定5歳ぐらい?)と遊ぶことを楽しみにしていると「おい」ウソップさんが走りながら振り返る。
「言っておくが、カヤはおれと同じぐらいの年だぞ」
「え」
…………うん? うん!? それはつまり、病弱で深窓の令嬢!?
ちょ、ま、心の準備をくれませんか!? せめて身形をもう少し、あ、ああああー!?