寄生獣 ~第2部~   作:aimo0314

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第4話 秘密

 

「おかえりなさい! パパ」

 

 新一が家に帰ると陽菜が元気な声で新一を迎えた。

 

「ああ、ただいま、陽菜」

 

新一はそういうと陽菜を抱きかかえた。玄関先まで出てきた陽菜を抱きかかえるのは2人の間での約束事になっていた。

 

「パパ、ハルナ今日ね、コウヘイおにいさんに遊んでもらったんだ」

 

 靴を脱ぎ、廊下を歩きはじめると陽菜は嬉しそうに新一に言った。喜多が新一の家に来てから既に3日が過ぎていた。

 

「へえー、そうかー。よかったなー陽菜。でもコウヘイおにいさんはまだ身体の調子が良くないんだから無理なお願いをしちゃだめだぞ」

 

「違うよ、パパ。おにーちゃんの方から遊んでくれたんだよ」

 

「へー、そうだったのかー」

 

 新一がリビングに入ると喜多がソファーに腰を下ろしていた。今しがたまで陽菜と一緒に遊んでいたのであろうか。人形やおもちゃがカーペットの上に広げられていた。

 

「よう」

 

 新一の姿を見ると喜多はじっとりとした笑みを浮かべ声を発した。

 

「随分良くなったみたいだな」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

「パパ、おにーちゃんすごく優しいんだ。ハルナ、帰ってきてからずっと遊んでもらっていたの」

 

「へー、そうだったのかー」

 

 新一はそういうと陽菜を下した。陽菜は下りるとすぐさま喜多の元へと駆け寄って行った。陽菜は今、絵を描いている途中のようだった。新一は楽しそうな陽菜の表情を見ていた。

 

「意外だな」

 

 喜多は声を発した新一の方を見た。

 

「なにがだ?」

 

「お前が子供をあやすなんて考えてもみなかったぜ」

 

 新一はネクタイを取りながらそう言った。喜多は陽菜を一度みやった。

 

「子供はいい。善悪の区別がない所がな」

 

 喜多の瞳はいつものように得体の知れない鋭さを含んでいたものの、どこか暖かさも感じさせる様にも見えた。

 

「大人になってしまうと失ってしまうものが多くある。嘘をつくことを知らない子供はこの世界にあって正しさを持っている数少ない存在だ」

 

「ふーん、お前って結構小難しいことを考えているんだな」

 

 新一はそう言うと外したネクタイを右手に掴み、ワイシャツの第一ボタンを外した。その時、里美がリビングの中に入ってきた。

 

「あ、パパ、お帰り。ごはんはキッチンにあるからね」

 

「ああ」

 

「陽菜ー、お風呂に入るよ」

 

「はーい」

 

 里美に呼ばれると陽菜は絵を描いていた手を止め、里美の下に駆け寄り、部屋から出て行った。新一も脇に置いてあったカバンを持ち上げ、部屋を出ようとした時だった。喜多が新一に声を掛けた。

 

「お前の娘、人懐っこくてかわいいな」

 

「あ? ああ」

 

「だが、危険だ」

 

「うん? 誘拐とか心配してくれてんのか?」

 

 新一がそう問いかけると喜多は新一をチラリと見やった。

 

「いや、そうじゃない」

 

「じゃあ何だよ」

 

「いずれ分かる」

 

 喜多はそう言うと意味深な笑みを浮かべ新一を見た。新一は怪訝そうな目つきで喜多を見ていたがやがて部屋から出て行った。

 

 

********************

 

 

 2日後の土曜日、新一は車を出して喜多と共に宇田の家へ向かった。電話越しでは十分な話し合いができないというのと、久しぶりに会いたいということで新一と宇田の間で話していたからだった。車中で新一は喜多のことや敵のことについて喜多から情報を聞き出そうと何度も試みたが喜多はあまり参考になるような情報は提供していなかった。

 早朝に家を出たため、昼頃には既に宇田の家に到着していた。アパートの一室のインターホンを押すと宇田が出迎えた。

 

「やあ、新一君、久しぶり」

 

「よお、元気にしていたか?」

 

 宇田のことを制するかの様にジョーが顔を出し、新一を迎えた。ジョーはそのまま喜多に視線を移した。

 

「確かに、こいつからは信号が感じられないな」

 

「ああ、そうだ」

 

 ミギーが瞳を覗かせるとジョーに対して答えた。

 

「まあ、立ち話もなんだから狭い部屋だけどとりあえず中に入ってよ」

 

 宇田はそう言うと新一と喜多を部屋の中にいざなった。2DKの間取りで意外と広々としている部屋だった。

 

「へえー、広々としていていいですね」

 

 新一は部屋の中に入るとそう感想を言った。

 

「ははっ、まあ、一人暮らしをしている分には広すぎるんだけどね。この辺りは家賃も安いからさ。さあ、とりあえず座ってよ」

 

 宇田にそう言われると新一は居間のテーブルの前に腰を下ろした。喜多は窓際に身を寄せている。

 

「新一君の家からだと結構時間が掛かって大変だったんじゃないかい?」

 

 宇田は麦茶を運んでくるとそう言った。

 

「はい、そうですね」

 

「確か、新一君は仕事で車の運転はしているんだったよね?」

 

「はい、まあ一応」

 

 新一は宇田が運んできた麦茶を口にした。喜多は特に何もしゃべらずにただ窓の外を眺めている。

 

「喜多君、だったよね? 傷の方はもう大丈夫なのかい?」

 

 宇田は喜多に話しかけた。喜多はゆっくりと宇田に視線を移した。

 

「ああ」

 

「そうか、そりゃ良かった。新一君から聞いたんだけど、僕たちの命を狙っている敵にやられたんだよね。もし良かったらその敵のことについて詳しく教えてくれないかな?」

 

 宇田の問いかけに喜多は何も答えなかった。うっすらと笑みを浮かべてぼんやりと遠くを見ている。

 

「おい、何か話せよ。てめーの命も狙われているんだろ?」

 

 ジョーがたまらずに話しに割って入ってきた。宇田が必死にジョーを宥めようとしている。新一は喜多の方に向き直った。

 

「喜多、お前の知っていることを話してくれないか? 俺達が協力し合えば何かできるかも知れないだろう?」

 

 喜多は嘲笑するような瞳で新一を見た。

 

「一体何をするって言うんだ? あいつらを倒すとでも言うのか?」

 

「ああ」

 

「止めとけ。あいつらに勝つことは決してできない」

 

「何でだよ」

 

 新一はそう問い詰めたが喜多は答えを返さなかった。喜多は窓に視線を向けると外の様子を見つめていた。風が吹き始めているのであろうか。風鈴の鳴っている音が微かに聞こえてくる。

 

「喜多」

 

 新一が喜多にそう呼びかけた時だった。喜多がおもむろに口を開いた。

 

「487……」

 

 喜多は新一に視線を向けた。

 

「なんだよ、それ」

 

「これは現存する『キラーチルドレン』の数だ」

 

「キラーチルドレン?」

 

 新一は喜多に対して聞き返した。

 

「ああ。ファーザーはお前達の事をキラーチルドレンと呼んでいた」

 

 喜多はそう言うとミギーとジョーを見た。

 

「ファーザーとは誰だ?」

 

 今度はミギーが口を開いて喜多に問いかけた。

 

「ボスの愛称だ。名前は樫木洋介」

 

「人間なのか?」

 

「ああ、もちろん」

 

 喜多は何か意味ありげな笑みを浮かべてミギーに答えた。

 

「樫木洋介という男がわたし達を生み出したのか?」

 

「いや、それは違う。お前達……キラーチルドレンを生み出したのは広川剛志という男だ」

 

「広川だあ?」

 

 新一は思わず声を上げた。

 

「広川剛志って確か市長だった男だよね?」

 

 宇田が新一に尋ねた。

 

「はい、そうです。後藤達と一緒に市議会に立てこもって射殺された男です」

 

 そう言うと新一は喜多を見た。

 

「本当に広川がジョーやミギーを生み出したっていうのか?」

 

「そうだ」

 

 喜多が新一に対して答えた。

 

「何で広川はジョーやミギー達を生み出したんだよ?」

 

「さあな。だが、詰まるところ奴はおもちゃが欲しかったんだろう」

 

「おもちゃ?」

 

 喜多の発言に新一が問い返した。

 

「ああ」

 

「おもちゃって一体どういう意味だよ」

 

「簡単に言えば創造主になることを望んでいたということだ。キラーチルドレンを司る創造主となり、そして人間世界の支配者となることを望んでいたのかも知れないな」

 

「なんでそんなことを……」

 

 喜多は新一のことをチラリと見やった。

 

「自らの存在意義をこの世界という枠組みの中で確立したかったんだろう。自分が何のために生まれてきて、そして何者であるのかを確かめるために」

 

 喜多の表情は新一や宇田の位置からはうかがい知ることはできなかった。しかし、その口調からはそれまでのようなとげとげしさが消えているように感じられた。

 

「広川はお前たちとどの様な関係にあったのだ?」

 

 ミギーが口を開いた。

 

「元々は一緒に行動していた。しかし、ある時、広川は俺たちから離れて行った。丁度今の俺の様にな」

 

「お前の仲間はどのくらいいるのだ?」

 

「全部で5人だ」

 

「なんだ、思ったより小規模なんだな」

 

 新一はそう感想を漏らした。ミギーは新一に構わず続ける。

 

「お前達が持っている力は一体どういうものだ?」

 

「力か……お前達と変わりゃしないさ。身体の肢体を伸縮させ硬質化させる力。お前と同じさ」

 

「能力は同じかも知れない。しかし、力の絶対量は違うだろう」

 

「力の絶対量?」

 

 新一が逆にミギーに聞いた。

 

「ああそうだ。後藤を思い出してみろ。奴の能力はわたし達と同じだったかも知れないが力は奴の方が数段上だったろう?」

 

「確かにそうだな」

 

「だから確かめておきたいんだ」

 

 ミギーはそう言うと促すように喜多に視線を送った。新一もつられて喜多を見た。喜多は笑みを浮かべた。

 

「お前たちが今聞こうとしていることは死刑宣告に近いことだ。それでも聞くか?」

 

「ああ、お前が話す内容がどんなものであろうと関係ない。聞こうが聞くまいが死ぬときは死ぬ」

 

 ミギーは感情のない声で喜多に言った。喜多は小さく笑うと続けた。

 

「そうか。なら教えてやろう。確かに、お前の言うとおり俺達の力の絶対量はお前達にはるかに勝っている。ボクシングで言えばヘビー級とミニマム級位の差があるだろう。……いや、それ以上か。いずれにしてもまともにやりあったらお前達は確実にノックアウトだ」

 

「一体何がそんなに違うんだよ」

 

 ジョーが突っかかるように喜多に聞いた。喜多はジョーを見た。

 

「細胞のつくりが根本的に違う。例えば細胞を硬質化させて刃を生成する時、お前達が必要とする細胞の5分の1の量で俺達はまったく同じものを作ることができる」

 

 喜多はそう言うと自らの右手をおもむろに上げると人差し指を刃に変形させた。ミギーらのものと同じようなものにも見えたが、その質感にはどこか異質なものが感じられた。

 

「そして、硬度も違う。例えばお前の作り出す刃の硬度が鉄くらいの固さを持つものであるとするならば俺の刃はダイヤモンドの固さを持っている」

 

「つまり、わたし達が束になって掛かってもお前一人で十分にわたし達を撃退することができるということだな?」

 

「ああ、ご明察だ」

 

 ミギーの冷静な問いかけに喜多も静かに答えた。ミギーは瞳をねじる様に少し動かした。

 

「そうか。それは厄介な話だな。ちなみにお前の仲間は全員が同等の力を持っていると考えていいんだな?」

 

「ああ、そうだな……いや、一人だけ違う。一人だけ異質な力を持った男がいる」

 

「異質な力?」

 

 新一が喜多の言葉を反復した。

 

「そうだ。その男が持っている力は桁が違う」

 

「ひょっとして、お前の傷も奴にやられたものなのか?」

 

 新一に聞かれると喜多は自らの腹部に視線を送った。

 

「ああ、酷くやられたもんだ。うまく逃げ切ることができたのは運が良かったな」

 

「そいつの名前は?」

 

「……エイジだ」

 

「その、エイジって奴とは仲は良かったのか?」

 

「……なぜそんなことを聞く?」

 

 喜多は打って変わって鋭い視線を新一に送った。

 

「大した意味はないけど、何となくな」

 

 喜多は何かを思い出すように沈黙したが少しすると口を開いた。

 

「俺達は全員家族みたいなものだ。仲がいいとか悪いとかそういう尺度で表現できる関係ではない」

 

「そうか……奴は今もお前のことを探しているのか?」

 

「ああ、だが寄り道もしているようだ」

 

「寄り道?」

 

 新一は喜多に聞き返した。喜多は新一を見た。

 

「そう、奴は今お前達の仲間を殺っている」

 

 喜多の声には聞くものに対して恐怖を与える様なそんな響きがあった。ミギーは喜多への質問を続けた。

 

「お前は奴のことは探知できるのだな?」

 

「ああ、そうだ。俺達は皆、お互いがお互いの場所を探知することができる。例えお互い同士がどれ程離れていようともな」

 

「ってことは、そのエイジって奴が今どこにいるのかも分かるっていうのか?」

 

 新一は喜多に聞いた。

 

「ああ、もちろん」

 

「今どこにいるんだよ」

 

 新一の問いかけに喜多は薄ら笑みを見せた。

 

「安心しろ。今奴はずっと離れた場所にいる」

 

「はー、そうかい。せめて奴が近づいて来た時は事前に教えてくれよな」

 

 新一は安堵の表情を見せてそう言ったがそれを制する様にミギーが続けた。

 

「分からないな。エイジという奴がお前の居場所を特定できていたのだとしたらなぜお前が手負っているときに襲撃してこなかったのだ? 裏切り者を泳がしておくような真似をなぜ奴はしたのだ?」

 

 喜多は相変わらず微かな笑みを浮かべている。

 

「いつでも殺せると思っているからだ。奴は……俺のことを」

 

 喜多はそういうとゆっくりと視線をミギーから遠ざけ窓の外に向けた。空では厚い雲が太陽を覆い、日が翳っていた。

 

「俺とやつの関係は特別だ。磁石の様にお互いがお互いを引き合う。例えどれ程離れていようともやがて俺と奴は対峙することとなるだろう。そして、奴もそのことをよく分かっている」

 

 喜多は茫洋として空を眺めながらそう言った。

 

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