神楽舞   作:天海つづみ

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天国と地獄

「ん?」

 目覚めた影

 朝飯…どうしようか…な…

 

 暫し布団の中でモゾモゾする

 

 天音はまだ来ない

 

まだ時雨だった時に恋話をしてしまった

事を思い出す、名前を覚えてるか聞いてきた

 

 あいつ試してたんだな…

 

 もう一度会いたいって…本人の前で…

 

 本人の前であんな話 !

 恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!

「うぐおがぁーっ!!」

 

 布団を巻き込みゴロゴロ転がる思春期

 

 黒歴史じゃねぇか!!…ん?

 

そういえば天音はどうやって入って来るんだ?

 

 鍵は掛けていないが…関係無く入るよな…

 

「よっ…と」

布団から立ち上がり見回す、

窓には格子、入り口には引き戸に

つっかえ棒(今は掛けていない)

 

 まさか天井?

 見上げる、何もなさそうだ

 

 

 

「…ゴソ……ザリ……」

 

「ん?」

 

考えていると家の裏から何やら音がする、

音を辿ると床の間の辺りからだ

 

「?」

 

誰だ?タタラ場の壁と家の壁の間だろう

掛け軸の前に立つと

 

「ギィィッ…」

 何?!

 壁が回転扉の様にゆっくり回ると…

 

「「あ!」」

 

 

 

 天音…

 

 

 

 目が合う……

 

 

 

 手には草履…

 

 

 

 

 間

 

 

「………」

「………」

 

 

 

 

「ギィィッ…」

 天音は目を逸らすと回転扉を回す

 

「ガシッ!!」

「天音!どういう事だ?!」

 閉まる直前、扉の縁に指を掛ける

 

「何で気付くのよぉっ!」

 往生際悪く扉を閉めようとする天音

 

「お前ここから来てたのか!」

 両手で引っ張る

 

「ちょっと!しつこい!」

 

 バレたのになんだよこの態度!

「ここ俺ん家だぞ!」

 

「うぎぃぃぃっ!!」

 本気で抵抗する天音

 

「こおんのぉぉ!」

 全力で力を込める影

 

「もおっ!しつこいってばぁ!」

「もうバレただろ!お前こそしつこい!!」

 

「おらぁっ!」

「きゃあっ!」

 全力で引っ張ると反動で

「ドカッ!!」

 

 

 

 

 

「いってぇ…」

 鼻が…コレ鼻血出てない?

 

 

「いったぁ…」

 額に何かがぶつかった

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 

固まる二人、気が付けば倒れた影の上に

天音が覆い被さる形に

 

「ガラッ!」

「「えっ?!」」

 

 入り口に立つハモン

 

「……」

「……」

「……」

 

 

暫し影と天音を交互に見る、と表情を変えずに

 

 

 

「………邪魔したな…」

 ピシャッと戸を閉めて行く

 

「ハモンさん!、違うんです!」

「ちょっと!動かないでよ影!」

 

 

 

 

 

 

「ハモンさん!あれは違うんです!」

「そう!事故です事故!」

 ハモンの工房で必死に弁明する二人

 

「あのな、お前達は親もおらんだろう?

同棲しようが誰も文句あるまい?」

「……チッ」

 どこからか舌打ちも聞こえる

 

「だからハモンさん違うんですって!」

「あれは偶然…」

 

「向こうまで聞こえてるわよ?」

 ヒノエ様!

「ハモンさん、お風呂の件ですが」

「その話をしに行ったらな、影と天音が…」

 

「だから違うんですって!」

「そう事故よ事故!」

 

 

 

 …………

 

 

 

 

団子屋で風月、セキエンと合流して

 

「どうかしたのか?」

「うむ、影はともかく天音が暗いのはイカン」

 

「朝から疲れる事があってな…」

「どうやって誤解を…」

「お前のせいだぞ?」

「影がしつこいからだよ!」

「大体お前があんな!」

 

「夫婦喧嘩しなーい!!」

 ヨモギが笑いながら呼び掛けてくる

 

「…チッ」

「…チッ」

「…チッ」

なんか舌打ちがそこら中から聞こえるぞ?

 

 

ギルドでクエストを選んでいると

 

「ミノト!ティガあるか!?」

 影達の後ろからデカイ声

 ティガ一式にティガのハンマー

 

「ヤクシさん!お怪我はもう

よろしいんですか?」

 

「おぉ!ヤクシさん復帰かよ!」

「もっと休んでても良いんだぜ?

謹慎だろ先輩!」

 

「ヤクシさん!」

春香が走って来る

「夜行の時はありがとうございます!」

深々と頭を下げる

 

 

 小声で

「おい影、姐さんが頭下げてるぞ?」

「あの御仁は何者だ?」

 

「ベテランのヤクシさんだ、

百竜夜行で怪我したんだ」

 

 

「脱臼ってのは厄介だな!

骨折より痛みが長ぇし、可動範囲が

狭くなったぜ!」

 肩を回すヤクシ

「リハビリにティガやるぞ!」

 笑っているが

 

 

え?今何て?

 

リハビリとは?!

 

 

「ヤクシ!ちょうど良いゲコ!影達を

見てやってくれんか?」

 

「冗談だろゴコク様?またガキの

お守りしろってかぁ?」

 

「お前の目で一度見てやって欲しいゲコ、

皆影に優しいからなぁ」

 

「ウツシさんの仕事じゃねぇかよ」

 

「ウツシは得意を伸ばすが…

欠点をハッキリ言えない質ゲコ」

 

「五人以上は縁起悪いぜ?」

「リハビリならよかろ?」

 

 

 

 ……………

 

 

 

 拝啓 親父殿

トガシは変わりないでしょうか

 

カムラに来てから早半月になります

 

俺は今砂原でカムラのベテランの

リハビリに付き合っています

 

リハビリとは病人が復帰するための

準備だったと思ってました

 

 

 

 思ってたのと違う!!

 

 

 

倒れているティガレックスを呆然と眺める四人

 

「あんだよ、無事な牙少ねぇな…」

力尽きたティガレックスの血塗れの

口を開けるヤクシ

「おっ?この辺無事だな」

「ガチャン!!」

 

ガチャんっ?!

ガラスが割れるような音を立てて四人の

足元に血だらけの牙が数本転がる

 

ヤクシがハンマーで叩いたのだ

「欲しかったら持ってけ!」

 

剥ぎ取りとは?!

 

凄い早さで首を振る四人

 

ティガが瀕死になってから影パーティーに

任された、しかし何も出来なかった

 

危うくクエスト失敗しそうになって

ヤクシに助けられた

 

四人掛かりでヤクシ一人に及ばない、

ヤクシ一人なら10分と掛からなかったろう

 

「ダメだなお前ら!」

ティガの前足に座るヤクシの前に立たされた四人

兜を取ると日に焼けた顔に白髪混じりの短髪、

里長と同じタイプの迫力がある

「ティガに勝てねぇ事じゃねぇぞ?

まるで基本が成ってねぇ!」

 こんがり肉を齧る

 

いやティガレックスだよ?初めてだよ?

仕方ないじゃん?本来行かせて貰えないよ?

 

「おいゴボウ!!(多分風月)」

「はい…」

「テメェは足の速さだけだ、

体捌きが出来てねぇ、武器が使えてねぇのを

足でカバーしてるだけだ!」

 

「そんでダイコン!(セキエン)」

「はい…」

「テメェは自分が何を出来るか分かってねぇ!

足が遅ェ!」

「ではどうしたら…」

「簡単だ!走り込め!」

 

「で影!…ニンジンかテメェは?」

 立ち上がり赤い頭をワシワシ掴む

「双剣と練習したせいか上半身の動きは

出来てる、だが全身の連動が出来てねぇ!」

「はい!」

 

「そんで…天音?だっけか?」

「はい、元時雨です…」

 (何度言っても覚えない人だわ)

「お前だけは全部出来てる、お前はガルクを

連れて行っても良い、

後は全員走れ!虫も禁止だ!」

 

「何で私だけ?」

「研ぐ回数がどうしても多いからな、

話は終わりだ!」

 キャンプに向かう

 

 うしろを付いて歩きながら小声で

「体の連動って何だ天音?」

「私に解る訳ないじゃない」

「走り込み…苦手だ」

「武器が使えていない…とは何なのだ?」

 

 

 

 ギルド

「どうゲコ?あの四人は?」

 

「天音は問題無いしトガシの倅は何とかなる、

だが影とニシノのバカは教わる才能が無ぇ」

 

「どのへんゲコ?」

 

「素直にハイハイ言うだけで、何で言われて

何をするべきか分かってねぇよ」

 

「やれやれ、もう少し詳しく

教えてやれんゲコ?お前には引退したら…

教官の資質があるんだが」

 

「面倒クセェよ…教官なんざ…」

 

 

 

 ……………

 

 

 

 午後 大社跡 採取

 

「準備出来たな?あ?」

結局ゴコクに押しきられ、一回だけ

指導する事になった

 

 恐い顔で睨むヤクシ

 

「はい…」

 マジか?

三人はアイアンハンマーを持たされた、

まさかハンマーやらされるのか?重すぎる…

 

「よし、外周5回走れ」

 

 一瞬思考が停止する

 

は?冗談じゃ…外周?凄い距離だよ?

崖とか滝もあるよ?

翔虫も禁止で?!

 

「ズルすんなよ?俺のフクズクが見てるぜ?

もしも手ェ抜いたら…」

拳を握り

「一般的な殴る蹴るの暴行を加えるぜ?」

 

「あの、私は何を?」

「天音は俺とケンカだ」

 

「えっ?!」

 影が動揺するが

「おら行け!」

 

 

 

 ……………

 

 

 

「待ってくれい!!」

外周を走り始めると予想外の事が起きる、

遅れ始めたのは風月

 

「な…何で風月が…」

「喋るな影…疲れるぞ…」

体型的にもセキエンが遅れそうだが

影と同じ様に走る

 

 森を駆け崖を登り、滝を飛び降り川を走る

 ハンマー捨てたい!

 防具脱ぎたい!

 

 

 

「ご…5周…」

川原に倒れる影、ハンマーが重いしジャマ、

もう走ると言うより歩くのもやっとの状態

 

「ぐおお、脇腹と腰が…」

2位は風月、走る度にハンマーを留めた

ベルトが食い込んで痛かった様だ

 

「オロロロロ…」

歩きながら吐いているセキエンが到着、

川辺に倒れる

 

「自分に足りねぇモンが見えたか?」

ヤクシが降りてきて聞くがそれどころではない

 

「影、大丈夫?」

倒れている影に駆け寄る天音

 

俺達の心配は?!

セキエンと風月

 

「やれやれ、天音はよくお前らと組んでるぜ、

全然レベルが違うぜ?」

 

 倒れた三人の前で岩に座ると

 

「ゴボウ、何を思った?」

 

「…も、…もしかしたら…

自分は足が遅いのでは…」

 ぜぇぜぇ言いながら答える

 

「そうだ、体一つならお前は早い、だが重い

武器装備した途端に並み以下だ、それが

どこかで解ってるから軽い武器しか選べねぇ」

 

 

 

「ダイコン、お前は?」

 

「…風月と…逆に…装備…を付けても動ける…

けど…スタミナが…」

もう吐くものは残ってないのに気持ち悪い

 

「解ってるな、それが弱点だ」

 

 

「影、お前は?」

 

「…ええと…」

 

「ダメだ鈍いな…」

 

お前らに足りないのは装備の練度だ、

武器防具を装備した状態での動きだ

「大体がよ、こんな重てぇモン持って

同じ走り方で良いはず無ぇだろ」

ハンマーを持ち上げる

「あとな、全身の筋肉を連動させなきゃ

上手く動かねぇ」

 

「私はそれが出来てるんですか?」

 天音は自分でも分からない

 

「単純だが一番デカイ差がある、天音、

お前今までイズチ何匹殺してきた?」

 

「解りませんけど…1000匹位かな?

教官の下働き四年もやったし」

 

「!!!」

 三人の表情が変わる

 

「お前らボンクラでもちったぁ理解したか?

同じレイア狩れるから同じ強さじゃねぇんだよ、

弱いモンスターでも数多く狩ってりゃ体力、

対応力、武器の操作、体捌き、先読み、

全部が段違いになるんだ」

 立ち上がると

「影、雑魚で良い、数をこなせ」

 

後は自分で考えろ、そう言うと帰ってしまった

 

 

 …………

 

 

 ギルドに帰って来たがヘロヘロの三人

「おぉ!良い感じに仕上がってるゲコ」

 

「ゴコク様…」

 もう喋るのもイヤな影

 

「ヤクシに言われた事を愚直にやれるゲコ?」

 

「愚直に…とにかく何でもいいから数を…」

「うむ、…俺はハンマーを持って走るか…」

「俺も吐かない位にならないとな…」

 

「じゃ私は何しよ?」

「天音は舞の練習よ?」

「またあの槍持つの?!」

 

 

 

 

 


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